第117話
レーションに大興奮! の巻です。
「この形、この仕組み……どう見ても自販機だよな」
機械の方は見慣れたものだ。代わり映えしない、というべきか。
古代文明に見慣れたものがあるなんて、そのことの方がよっぽどすごいとは思うんだが。
まあ、松花堂弁当がある時点で納得するがな。
「ショーカ…ドゥ? とはなんじゃ?」
「あ~……オレの元の世界にあるものとよく似てたから、思わず、な。それにしても動かないってのは惜しいよな。どうなってるんだか」
機械の周りをまわって確かめる。どこかにエネルギー源を取り込むナニカがあるはずだ。オレは迷わず『鑑定』をかけた。すると。
レーション(ベントー)自動作成・販売機
作成者 カルラ・ノウントラ
原案者 ミスズ・イツナ
※ レーション(ベントー)の種類変更不可。
現在は魔力不足につき休眠中。
起動の際には10万魔素もしくは殲滅級の魔法術式を
注入してください。
赤表示が点灯したら100魔素の補充をお願いします。
補充に際しては前面に手を当てること。
また『カルラ・ノウントラ』が出てきた。しかも原案者なんてのも。
これ、確実に元の世界の誰かが関わってるよな。
さしずめ、『ミスズ・イツナ』が一番それに近い。大昔にも居たんだな日本人。にしても10万魔素か殲滅級の術式注入って、古代文明人はどんだけ魔力が多かったんだよ。
(論より証拠、物は試しだ。やってみるか)
オレは前面に手を当てて、『門』の術式魔力を提示して魔力を流した。10万とか殲滅級とか言われてもさっぱりわからん。
押しなべて古代文明の遺物は、古代魔法の提示をすることでうまくいくからな。
ヴオォーン・・・
かすかなうなり音と振動の後、上部の透明な窓に明かりが点いた。同時に、その下にあるボタンも稼働できるようになった。
「おお、動いたのか! 思った通りじゃ、さすが規格外じゃのうケイン!」
喜色満面で機械を見つめる爺さんに、
「それ、褒めてるのか? 貶してるのか?」
「褒めとるに決まっとるじゃろうが」
「そう聞こえないから訊いてるんだろうが……」
「何をつべこべと言うておるんじゃ。それより、じゃな! これはどうやったら食べられるのかのう。出してくれんかケイン」
オレの苦情など一切耳を貸さず、ワクワクと窓の見本を眺める爺さん。やれやれ。
オレは適当に3つ選んでボタンを押す。低い稼働音が3分ほど続いた後、下にある取出し口にどさどさっと物が落ちてきた。お約束通り過ぎないか、これ……
「おおっ、これか! た、食べてもいいかなケイン!」
「どーぞお好きなように」
いそいそと座り込んで蓋を取る爺さん。中から湯気とともに立ち上るのは日本人になじみ深いだしの香り。
「ううむ、何とも言えん香りじゃのう。む、この白い粒は何かな? 三角に成形されているが……おまけに黒い紙が貼りついておるぞ?」
「それはおにぎりだ。手に取って食べられるから便利だぞ」
米はあってもただ炊くだけだし、あまり普及してないんだよな。だから物足りなかったんだが、ここにきてようやくありつける。
爺さんが戸惑っているのをしり目に、オレは遠慮なくかぶりついた。
「うん、まさしくコメ、それも新米の香りがする! うんまいぞおぉっ!」
一気にテンションが沸騰したオレのがっつきに、爺さんが引いている。構うことない、これぞ日本人の元気の素だ!
レーションの器についている箸でおかずをつまむ。定番のだし巻き卵と芋の煮っころがし、カボチャの煮物が舌にしみる。その隣にあるのは魚(?)の塩焼きだ。
本物かどうかは定かじゃないが、味はまさにその通り。鮭の切り身が定番だが、そこはまあ見逃しておく。
がつがつ食べながら3つ目のレーションをオレの横に並べてふたを開ける。
「オーリィ、メシだぞおい」
「キュゥ……? キュキュ~!(まだ眠い……? あ、飯だっちゃ~!)」
まだ寝ぼけ眼だったのが一気に大きくなって、目の前のレーションに飛びつく。ほどほどの熱さだったから火傷はしないだろ。ちなみに中身はお子様ランチだ。
そのまま見ていたら……あれ、いつもと違うんじゃ?
おにぎりを一口かじってはしっかり噛んで飲み込む。そのまま二口目も同じ。そしてかじりかけのおにぎりを置いてだし巻き卵を口にする。端からかじってはモグモグゴクン。次のタコさんウインナーもまたしかり。そうして最初のおにぎりに戻って……モグモグゴクンを繰り返している。
大きなエサ袋にこれでもかと詰め込んで、一気に飲み込んでいくのがこいつの食事風景だったはずだが。まさか、口に合わない……?
「まずいのか? それ」
恐る恐る聞いてみれば、
「キュルッ? キュ~……キュゥ(美味しいっちゃよ? でもな~……これって)」
なんだなんだ、そんなに言いにくいってことかぁ?
「キュウゥキュキュ!(普通のものと違う、魔力の塊だっちゃ!)」
「ま、魔力の塊ぃ? このベントーが?」
「キュ~!(そうだっちゃ~!)」
「魔力の塊だとアーミンが言うとるのかな、うん?」
それまで黙って食べていたグィード爺さんが口を開いた。
「当然じゃな。あの機械は魔力で動いとる。中の物もそうじゃろう。だから普通とは違うのじゃな。さっきからやたらに力が湧いてくるのは魔力が補充されておるからか! うむっ、やる気が出てきたぞい!」
ベントーを抱え込んでむさぼる爺さんの図……まるでガキ、いや、お子ちゃま仕様?
「なぁにを考えとるんじゃお前さんは!」
ぼぉっと見ていたらベントーのふたで殴られた。なんて理不尽!
……痛くはなかったけどね。
「キュルルル~~♪(このご飯うまいっちゃ~~♪)」
オーリィはご機嫌で顔を突っ込んでいる。こいつも結構な魔力持ちだから美味しいんだろう。普通の食事だと魔力が少ないから大食いなのかもしれない。
いや、こいつの場合はもとから大食いなんだろう。魔力補充のことは別にしても。
…………じゃ、オレの場合はどうなんだ。
「お前さんはもう限界突破しとるんじゃ、それ以上変わりようがなかろう?」
器用に箸を使いながら爺さんが笑う。やっぱりバグかぁ~。
「キュルキュキュルル!(もう何でも有りの人だっちゃ!)」
お前にまで言われたくないわいっ!
ワイワイと騒ぎながら食べ終わり、器の箱を機械横の引き戸へ落とし込む。これもまた分解して別のものに使われるんだろう。まったくエコに出来てるよな。
テーブルに飲み物を置いて勧める。これはなんと、部屋の中央にある柱が機能を持っていた。当然、オレの『門』の術式魔力で一発解決、動かしちまった。
「一家にひとり、ケインじゃな。ほっほっほ」
なんちゅうことをのほほんと言いつつ、出してきたカフェオレを味わっている。そう、ここの機械には緑茶や番茶なんてものもあるんだよ。ほんと、日本人の凝り性な面が出てるよな~。
「キュル~♪(この飲み物甘いっちゃよ~~♪)」
オーリィに出したのはココア。カップじゃなくて皿に入れてあるから冷めるのも早いし……って言ってるそばからもう空になっている!?
「キュ~ルゥ~~(もう飲めない、限界だっちゃ~~)」
あ~あ、テーブルの上でひっくり返っちゃったよ。おま、どんだけ食ったんだ?
まあ、幸せそうだからほっとくか。
「で、だ。爺さん、昨日の話の続きなんだが」
「……世界地図、の事じゃの?」
カップを置いたグィード爺さん。その顔は凄腕の錬金術師そのものだ。
オレは頷き、じいさんの横に移動して『門』を起動した。
「爺さん、これが『世界地図』だ。知ってるか?」
「!? お、おおっ、これが、この世界のすべてかっっ! すばらしいっ! この大陸だけで完結しているとは思いたくなかったが、これほどに広いとは予想をはるかにぶっちぎっておるわっっ!!」
うおぉっ、このテンションはなんだぁっ? 爺さんがこれほど興奮するとは思わなかったぜ。
続きを話そうにも、グィード爺さんは興奮しっぱなしで『世界地図』に夢中だ。もう少し後にするか。
レーションが魔力の塊でした。まあそうなるわな。
高魔力の爺さまとオーリィには大うけでした。
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
体調も徐々に元へと戻りつつあります。
でも、無理は禁物!と駄目だしされました。
ゆっくり更新していきますので、気長にお待ち
ください。




