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第116話

 グィード爺さんの隠れ処拝見!


 ぐるりと周りを見渡せば、そこが普通の場所とは違うことがわかる。何しろその部屋は丸いのだから。


 いや、正確に言うとドーム状だな。お椀を伏せた形の。そのてっぺんにある水晶球が、部屋全体に柔らかな光を投げかけている。目に優しく、さりとて眩しすぎない乳白色の光だ。


 棚の下にあるのはベンチだと思ったが、どうもそうではなくて物入れのようだ。それがいくつも連なって置いてある。

 近くにあるものをのぞき込んでみると、上部がふた?なのかな。前面にある四角い金具でロックされているようで、鍵穴がない。何か別のものが必要なんだろう。


 いやにメタリックな輝きをしている物入れが珍しくて触ってみるが、触感が金属の冷たさじゃない。一体何でできてるんだ?


「そいつはの、ようわからん代物なんじゃよ。ここを見つけた時から有るんじゃが、何としても開けられん。錬金術師としての自信を木っ端微塵にしてくれた奴で、の」


 もっともそれで奮起して腕を磨いたんじゃがの、という独り言が続いた。


 天井を見上げ、周囲を見回して入ってきた通路を見、最後に爺さんへ視線を戻す。

 どや顔してる爺さんにため息ひとつ落としてから、聞く。


「で、ここで寝ていいか、爺さん」

「寝るとは何じゃ寝るとは! ここは問い詰めるところじゃろうが!」


「……あのな。

 帰ってきてすぐにメシの用意して、ギルマスに頭下げられて、おまけに訳のわからん人間どもに押しかけられたんだ。挙句の果てにとんでもない隠れ家へ転移して、どうしろってんだよ。

 オレは疲れたんだ、寝る!」


 訊きたいこと言いたいことは山ほどあるが、もう気力がない。『ストレージ』から毛布を引っ張り出してごろ寝しようとしたが、


「待て待て、寝るならこっちへ来んか。よう寝られるぞい」


 大釜の右横にある細い亀裂部分に爺さんが手を当てると、音もなく横にスライドして入り口が開く。

 中に入ると、そこここに丸い大きなクッションが転がっていた。前の部屋と同じ乳白色の灯りだが、こちらはもう少し暗い、かな?


「これでどう寝ろ、と?」

 すが目で爺さんを見やれば。


「論より証拠じゃ。ケイン、どれでもいいから乗っかってみい」

 面白そうに顎をしゃくって見せる爺さん。ふむ?


 突っ立っていても仕方ないので、手近なクッションに腰を下ろす、と。


「うおっ!?」


 重みがかかった瞬間、クッションが形を変えた。

 丸いフォルムがビヨ~ンといった感じで上下と横に広がり、倒れ掛かったオレの上半身をしっかり受け止める。足の部分にも伸びて柔らかく包み込み、まるで安楽椅子に寄り掛かるような態勢へと体を整えてくれた。


「じ、爺さん、なんだよこりゃぁ!」

「ほっほっほ、びっくりしたかの?」


 悪戯が成功した顔で爺さんが笑う。笑いたくなる気持ちはわかるが説明してくれ!


「儂にも原理はわからんがの、ここは大人数で休む部屋だと思うぞい。


 そのクッションは圧がかかると、乗っかったものに対して最適な形に変形しよる。そのまま頭を下に押し付けると横になれるからの、ぐっすり休むとええ。灯りは自動で暗くなるから心配いらん。儂はもう少しこっちを片付けるからの。


 お休みケイン、よい夢を」


「お、お休み爺さん……」


 部屋から爺さんが出ていき、入り口が閉まる。オレはそっと首を伸ばして室内を見回すが、特に不審なものも見当たらない。

 爺さんの様子から見ても、ここに結構長くいたようだ。それで何もなかったのなら問題はないだろう。


「キュルキュ~……(ここ気持ちいいだっちゃ~)」

 肩に現れたオーリィが眠そうに目をしばしばしている。


「姿を出したまま寝るなんて珍しいな?」

「キュルルルキュル~~(この感触、癖になるっちゃよ~~)」


 クッションにすりすりしながら半分夢うつつのようだ。オレも眠くなってきた。


 爺さんに言われたとおり頭を押し付けると、椅子の形からベッドへと変わった。しかも、クッションの一部が薄くなってオレの体にかけられる。上等な羽根布団のように重さを感じないが、体温で徐々に暖かくなって目を開けているのが辛くなってくる。オーリィはすでに夢の中だ。


(駄目だ、この誘惑には勝てそうもない。爺さんに訊くのは後だ、あと)


 固すぎず柔らかすぎないマットに全身を預け、オレは睡魔に身をゆだねた。






 チリリ、チリリッ…………ピュイ……ピュイィィ……


(ああ、朝かぁ……朝鳴き鳥の声が聞こえる……ここは……?)

 深い眠りの中、届いた音に反応して意識が浮かび上がる。ゆっくりと目を開けると。


「えっ…どこだここは?」


 見慣れない天井がそこにあった。暗すぎず、さりとて眠りの邪魔をしない適度な光度が球体の灯りから降り注ぐ。

 オレの体を包んでいるのは薄い毛布、か? だが、野営に使っているものより暖かく、オレをまた眠りの世界へと誘い込む。ふんわりと、でも硬くないマットが揺りかごのごとく揺れて…………?


「赤ん坊扱いかっ!!」


 憤然として飛び起きてみれば、そこは昨日休んだ場所だった。

 体を起こしたことで天井の水晶球が光度を上げ、周りの様子がよく見えるようになった。気が付けば、体を覆っていた毛布状のものはクッションの一部となり、今は椅子に腰かけている状態だ。


「起きたかのケイン。ゆっくり休めたじゃろう?」


 横を見ると、爺さんが同じ姿勢でくつろいでいる。確かに体はどこも痛くない。野営だとどうしても節々が固まってしまい、体操でほぐさないと動くこともままならないんだが、今日は滑らかに動く。

 宿屋で寝るよりも快適って信じられないが、な。


「キュルキュルル~(う~ん、よく寝たっちゃよ~)」

 肩からぽてっと膝に落ちてきたオーリィが大きく伸びをする。ず、随分不用心だなお前。


「まさかあのまま寝てたのか? 影に戻らずに?」

「キュルッ! キュキュルル~(当然だっちゃ! あの感触くせになるっちゃよ~)」


 身づくろいをしながら、とろけた目つきで答えてくるオーリィ。おい。野生動物の警戒心はどこ行った!?


 せっせとひげをなでているオーリィを見下ろし、これ以上は無駄だと諦めた。定位置の肩に乗せて爺さんに向き直る。


「そういえば、朝飯どうするんだ?」

「うむ、上の草原に行って作るかのう」

「え、この中じゃダメなのか?」


 大人数の宿泊所なら、食堂か厨房がついていると思うんだが。


「それらしきものはあるんじゃが、儂には使えないんじゃ……おおそうじゃ、お前さんなら大丈夫かもしれん。ついてきておくれ」


 その断定はどっからくるんだ? 

 どうも昨日からオレに対する爺さんの認識がおかしくなってる気がする。

 早いうちに訂正した方がいいと思うけど、爺さんこれで頑固だからな~。


 などと考えながら爺さんの後についていくと、昨日休んだ場所のすぐ右横の亀裂が開き、もう一つの部屋が現れた。


 中に入ると、丸いテーブルがいくつかある。小さなテーブルと椅子が2脚、それがセットであちこちに置かれ、窓がなくても落ち着いた食事ができるように配意されていた。これだけ見ると食堂だね、まさしく。


「こっちじゃケイン」

 片隅に立つ爺さんの横に、何やら見覚えのある機械があった。身長より高い位置に透明な窓があり、四角い箱が並んでいる。その中身が……


「これ、どう見ても松花堂弁当、だよな?」


 日本人なら誰でも知ってる松花堂弁当。細かく仕切られた箱に彩りよく詰め込まれた数々の素材が視覚を直撃してきて目移りすること甚だしい。


 しかも5つ並ぶ箱がどれも同じじゃない。魚あり、肉あり、野菜のみで出来たものやらお子様ランチに近いものまで。一番端のものに至っては、中華系でまとめてある。これだけ揃っていると嫌が上にも食欲がそそられる、んだが。


 その前に大いなる疑問がひとつ。


 どうしてここにこんなものがあるんだろう???





 隠れ処がまさかの古代遺跡。ケインもびっくりです。

来ていただいてありがとうございます。

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