第114話
グィード爺さんにお土産とくれば……?
オーリィの意外な弱点発覚!
「……すまん、あまりにも予想外でな……痛たっ」
「オレもごめん。大丈夫、じゃないよな……腰は」
アーミンを見たことで興奮し、オレを問い詰めたグィード爺さん。オレに投げられて腰を打ち、今はベッドでうなっている。
「もともと腰を痛めておったんじゃ、再発しただけのこと……つうっ」
そうはいっても、なぁ……あ、そうだ。
オレは爺さんの腰に手を当て、『ハイ・ヒール』を唱えた。キラキラした光がオレの手から降り注ぎ、爺さんの痛い部分に吸い込まれていく。
「お? おお? 急に痛みがなくなったぞい。何やったんじゃお前さん?」
「『ハイ・ヒール』かけただけだよ。動けるんならあっちへ行こうか。ちょっと話したいこととかあるから、さ」
「うん? ええぞ、そうするか。それにしても、『ハイ・ヒール』でこの効き目とはな……魔力が多いと回復量が増加するのかのう。ふむ、興味深い」
動く椅子に座りつつも何やらぶつぶつとつぶやく爺さんとともに、部屋に戻ると。
「あ~あ、あいつ、食べ散らかしていったな」
テーブルの上は見るも無残な有様になっていた。ナベは空っぽになっていたが、パンくずはあちこちに落ちているし、おまけに木の実の殻が混じりこんでいる。
ナベの汁が飛び散っているのは、顔でも突っ込んでいたんだろうか。あり得るな。
布切れでテーブルを拭き清め、洗い物はまとめてナベに放り込む。話しがすむまでおいておこう。
厨房での用事を済ませて戻ると、爺さんが新しいコーヒーを用意していてくれた。香りだけでも楽しめる飲み物っていいよな。
「キュッ!(御馳走さまだっちゃ!)」
オーリィが肩先に上ってきて身づくろいを始める。
「おまえ、なんか匂うぞ」
「キュルッ? キュキュル~(そ、そぉう? なんでかな~ちゃ)」
「さては飛び込んだな? 顔を突っ込みすぎたんだろ。やりすぎだ!」
言いざま、オーリィの首根っこを押さえる。
「キュキュキュ!(わっ、放してっちゃ!)」
「い~や許さん。『洗浄』! そのあとに『温風』と『乾燥』!」
細かい水の粒がオーリィの体に降りかかり、気持ちの良い温風がそのあとに続く。残った湿り気も程よく乾燥させると……
「やれやれ、やっと元通りだな」
「キュルィ~…キュウゥゥ……(酷いっちゃよ~…アチシ水浴び嫌いだっちゃ……)」
そう、こいつは体を洗うことが苦手な奴なんだ。だからこそこうして強制的に丸洗いしているんだけど、それも気に入らなくて、さんざん文句を垂れてくる。でも、今日の惨状はいただけないからな。
「料理の匂いをまき散らしてると見つかるかもしれないぞ。それこそウルフあたりにパクッとやられるかも?」
「キュキュ~~!!(ギャ~~っ!! 嫌だっちゃ!!)」
「だろ? 諦めるんだな」
「……キュゥゥゥ……(……仕方ないだっちゃ……)」
良しっ、言質をとったぞ! これで定期的に丸洗い決定だ。獣臭いとかではないが、やっぱり清潔なのが一番だろ?
「ケイン、もしかしてお前さん、アーミンと話せるのかの?」
あきれたように話しかけてきたのはグィード爺さん。
「最初は全く理解できなかったんだけどな。まあいろいろとあってね」
「もとから規格外だとは思っておったが、ついに人外となり果てたのか……やはりな」
「やめてくれよ爺さん。オレもなりたくてなったんじゃない!」
爺さん、口調こそアレだけど、オレの事を揶揄ってるんだ。なにせ目が笑ってるから。
ため息をひとつつき、オレは口を開く。
「そんなことより爺さんに聞いてほしいことがあるんだ」
「ふむ。お前さんが戻ってきた理由だな?」
「ああ。オレの考えすぎかもしれんが」
オレはダッカム草原で出会ったタケル・マティスのことを伝えた。
「ほう、ガルマン帝国、とな」
「魔道具製作省筆頭チーフだと言っていた。実際、かなりの技量を持っていたよ」
古代魔法を読み解ける転生者。ただし魔力量が伴わないために不遇を強いられていて、鬱屈した不満をため込んでいる、いささか危ない男ではあるな。
「なるほどのう。あの帝国はもとから力を貴ぶところがあるからの、そういう話を聞いても驚かんが……今の帝国を動かして居る貴族どもが、そんな輩を見逃すと思えんがのう」
「貴族院とかいう制度、できてから100年たってるんだよな。人の作ったきまりならそろそろ箍が緩んできてもおかしくないと思う」
元の世界だと作った早々から穴だらけだったからな。
「お前さんの言うことももっともじゃな。どの国も帝国への監視が緩んできておるし、の」
そうだろうなぁ。
「そのタケル・マティスが古代魔法を読み解いてるんだ」
「な、な、なんじゃと!?」
「いろいろ事情が重なっててね。ただ、幸か不幸か魔力量が足りないようで」
「……そういう言い方をするとは、お前さん、その男とやりあったな?」
さすがはグィード爺さん、事情を察したな。
「まさか。あいつの申し出を断ったらケンカを売られたんだ」
「それを揉めたと言うとるんじゃ」
「えぇ~、オレ何にもしてないんだぞ?」
断っただけで宇宙空間に放り出されたんだから。
「だって、あいつ、帝国に仕えろって言ったんだぞ? そんなのにホイホイ乗れるかってんだ。戦争の道具を造らされるだけだっての」
旧神聖エリシオ教国の光の大神官が持っていた魔人の杖。古代魔法『結合』で生み出された、周辺の人間を隷属させてしまうような物騒な杖を造る手伝いなんかごめんだね。
オレがぶちぶち垂れ流す文句を聞き、爺さんはため息をついた。
「要するにお前さんが手に入らないのなら殺してしまえ、と思ったんじゃろ、その男は」
「それだけの理由で殺意を向けられるのは理不尽だ!」
「世の中には結構多いんじゃ、そういう事が」
その言葉に実感が込められていた。そうか、爺さんも覚えがあるんだ。
そりゃ、ベイレスト共和国の元筆頭錬金術師長なんて肩書持ってるんだもんな。すったもんだの騒動が『理不尽』であったとしてもおかしくない。
…………もっとも、それを好機として逃げ出した可能性もあるな、この爺さんなら。
「ん? お前さん、なんぞ良くない事を考えておらんか?」
「邪推だぞ爺さん。年取ってきて疑い深くなったか?」
「失礼な! 儂はまだ現役バリバリの錬金術師じゃ、耄碌なんぞしておらんわい!」
何とか疑いをそらすのに成功したが……これだけ元気なら大丈夫だな。
「そんな現役の爺さんにお土産だ。びっくりするぞ~」
「ほっほっほ。大きく出たのう。何を持ってきたんじゃ?」
「これだ」
オレは『ストレージ』からあるモノを取り出して、グィード爺さんの前に置いた。
「ほぉう、これは何かのう」
小さな布切れにくるまれた、ちっぽけとも言えるそれ。
伸ばそうとした手を止め、爺さんは錬金術の道具を置いた机から手袋とトレー、ピンセットを持ち出して準備を整え、慎重に布切れをトレーに移す。
「ふむぅ、匂いはないな。かなり小さい……丸い、かの? 重さも……んん?」
ピンセットで剝がした布の中から出てきたそれ……黒い丸薬。
しかめっ面が徐々に驚愕へと変わる過程を、オレはにやけながら見つめている。
まず、眉間のしわがなくなり、次に瞼が持ち上げる。持ち上がった分眼が大きくなって、前に飛び出してきたかと思うと小鼻が広がり、口の両脇が伸びて…最後に顎がガクンと落ちた。
しばしというにはちと長い沈黙の後、顎が落ちたままの顔で爺さんの目がオレを捉える。
顎を戻し、何度も唾を飲み込んでは口を開け閉めし……かすれた声で訊いてくる。
「ケイン……まさかと思うが…これは……?」
「当たり。爺さんの言っていた『熊の肝』だ」
「っ……なっ、なん、だとぉ…………っ!!」
かすれて裏返った声なんて初めて聴いたな。それにしても、まだにらんでるよ。
「それ、獣人国で手に入れたんだ。作れる条件が厳しすぎて外へは流出しないって」
「……そ、そんな貴重な、モノを、お前さん……」
「なんだか獣人国の偉いさんに気に入られてな、お礼として提供されたんだ。ひとつは使ったんだが、もう大丈夫なんで爺さんへの土産とした。どうだ、驚いたか!」
『鑑定』『看破』で読み取った情報をオレはどや顔で伝えた。爺さん、声もなく聞き入っていたよ。
「……なるほどのう。それほど希少なタイミングでしか作られぬとあっては、市場へ出回るはずがなかろう。それを儂にくれると言うのか?」
「爺さんに拾われた時、オレはもうこの世界に絶望していたんだ。それをここまで立ち直らせてくれた礼だよ、当然だろ。受け取ってくれよな」
「……うむ……ありがたく頂戴しよう、か……うれしいぞい…………」
語尾が震えて湿っぽくなっているのはスルーだ。
ちっさくてもドデカいお土産でした(笑)
……獣人国からの伏線、ようやく回収です。
来ていただいてありがとうございます。




