第113話
ケインと世間の認識が大きくズレてます(笑)
しばらくの後、満足そうに腹をなでる二人の前に紅茶と口直しのおつまみを並べる。あれから3回肉と野菜を追加し、二人の残りをオレがかっ込んでようやく終わったんだが……イケメン、まだ腰据えてるんだよな。
「で、爺さん? 何か話があるんだろ?」
「ん、おお。さっきの飯はうまかったぞい。久しぶりに満腹じゃわ」
「そいつはさっき聞いた。それ以外でだ」
「旅に出てから腕を上げたのう。準備もそう時間をかけとらんかったのに、手際がいいし。どこか料理店で修業でもしたんかの、ん?」
「こんな短期間で修業もへったくれもあるか。話そらすなよ」
「これだけのものが作れるなら、いっそのこと店でも……」
「爺さんっ!」
思わず知らず、拳でテーブルを叩く。茶器やら皿やらがカチャカチャと音を立て、テーブルにシミを残した。
「ごまかすのもいい加減にしてくれ。オレが戻ってくるなんて予想できたはずがないのに、なんでギルドマスターがいるんだ? 爺さんが呼んだんだろ、ここに」
その言葉にきまり悪そうな顔をするイケメン。グィード爺さんは堪えた様子もない。
「なんじゃわかっておったんなら話が早い。アレクス殿がお前さんと話したいそうでのう。ちょうどよいから伝えたんじゃよ」
飯も食えて一石二鳥じゃしのう、ほっほっほ。と穏やかに言ってるが…………
爺さん、あんたの目、笑ってないよな? 何企んでるんだ?
じっとりとグィード爺さんを睨んでいたら。
「ケイン、殿。この件に関しては私がグィード殿に頼んでいたのだ。連絡があったのなら教えてほしい、と。気に障ったのなら私がその責を取ろう」
なんと、イケメンがその場で頭を下げたんだ。真正面にいたオレは、ギルドマスターの頭のてっぺんと向かい合うことになってしまった。
「はい? え、なんで?」
あ、この人、つむじがふたつあるな。元の世界だと天才か乱暴者の2択だったっけ。
髪の毛が逆立ってる、まとめるの大変だろうに。とかなんとか半ば現実逃避に近いことをぼんやり考えていると。
「まずは、我がギルド職員の不始末についての謝罪を。
受付での不用心な発言で、ケイン殿が被られた不利益は計り知れない。冒険者の個人情報は漏らすべきではないのだが、キャシー……いやあの受付嬢にその規則が徹底されていなかった事、さらに、同じ冒険者たちに長期間搾取されている状況に気づかなかったこと、この2点はギルドマスターたる私の失態だ。
そのことをきっちりと謝罪したくて、お願いしていたのだ。今更とは思われるだろうが、私のけじめとして受け取ってほしい。すまなかった!」
「…………すでに文書で受け取っているが、ギルドマスターの状況は了解した。この件に関してはもう十分だ」
「感謝する」
言葉とともに深く下げていた頭を上げた。
「それともうひとつ、ベイレスト共和国議会の会頭から、ケイン殿に面会したいとの依頼を預かってきているんだが」
「そちらは遠慮させてもらう。なにせオレは半人前の冒険者だからな」
嫌味で言っているんじゃない。冒険者としてまだ未熟だと考えているんだ、が。
「それは謙遜しすぎではないか?」
ギルマスはそう思っていないようだ。
「新生エリシオ教国の樹立に関与し、フォルカイス王国の軍隊と「勇者」たちを打ち負かした男が半人前とは……」
「光の大神官様を潰した功績もあるのう。ふぉっふぉっふぉっ」
爺さんが横からさらに付け加えてくる。
「いや、あれは成り行きというか、たまたま有効な手段を知っていただけなんで……」
「その時その場所で必要とされるものを手にしているのは、案外と難しいのじゃぞ?」
何その実感こもった言いようは~!
オレのINT(知性)が優秀なのも、MGP(魔法攻撃力)とMGR(魔法防御力)がMAXで古代魔法が使えるのも、巻き込まれてバグっちまっただけなんだってば~!!
そう、声高に叫べたらどんなに楽なことか。
創成神ってのはやっぱどこか捻くれてるんじゃなかろうか。
重いため息をついたオレをギルマスが不思議そうに眺める傍らで、グィード爺さんは笑いをこらえつつひげをしごいている。
「ま、まあ、私の用件は以上だ。会頭には断られたと伝えておこう。ケイン殿、美味い飯だった、ありがとう。それでは失礼する」
「そうそう、ギザートに併せて伝えてくれんか。強要すると安全は保障しかねる、とな」
「グ、グィード!? それはっ!」
ギルマスの慌てように首をかしげたが……ギザートって会頭の名前じゃなかったっけ?
「なあに、それくらいでちょうど良いんじゃ。しつこいからのうあ奴は。頼んだぞい」
「は、はあ……では」
ちょっと顔色を悪くしたまま、イケメンが退出する。その見送りに行っていた爺さんがもどってくると、オレの前にカップを置いた。
「お前さんに教えてもらったこぉひぃじゃ。あれから淹れ方を工夫しての、結構いけると思うんじゃが」
「へえ…………うん、うまいな、これ」
最初に飲んだ時とは違うくらいに香りや味が立っている。ほんのり混ざる苦みと青臭さに、ふと、元の世界にあったお気に入りのカフェが重なった。
(そういえばあそこも同じ香りのような。そうか、あれはタンポポコーヒーだったんだ)
不意打ち気味に浮かび上がった思い出がオレの心を温めた。もう戻れないとわかってはいても、どこかで求めていたんだろう。この味があればオレはまだオレでいられるような、そんな気がしてきた。
「うん、これであと半年は戦えるな。爺さん、この淹れ方教えてくれよ」
「随分と気に入ったんじゃのう。よしよし、わしが考案した魔道具を持っていくがいい」
「え、爺さんドリップマシン作ったの!?」
「ど、どりっぷ? ようわからんが、こぉひぃを入れる機械ぞい。それなら大体同じ味になるようになっとる」
「すごいなそれ! ぜひ頼む!」
オレ的に盛り上がっていたところへ。
「キュ~ィィ……(腹、減った~ちゃ……)」
情けない声とともに、オーリィが肩先に乗っかってきた。
「お、悪い。忘れてたわけじゃないけど、遅くなっちまったな」
「キュルィ~……(酷いっちゃ~……)」
「ごめんごめん。ほれ、お前の分だ、十分に食えよ」
「キュキュキュ~~!!(飯だ~~っ! ちゃ!!)」
準備しているときにオーリィ用に作っておいたナベをだしてやると、目を輝かせて顔を突っ込んでいく。そうなるだろうと予測して冷ましてあったんだが、正解だったな。
「そうがっつくなよ。ここにパンと木の実も出しておくからさ」
「キュル~~♪(待てないっちゃ~~♪)」
肉を引っ張って口に詰め、ついでとばかりにパンも一緒にほおばる。リスの頬袋より膨らんだほっぺたが2、3度上下すると見る見るうちに小さくなり、次の肉を詰め込み始める。一体どんだけ入るんだ、こいつの胃は。
ふと正面を見ると、グィード爺さんが固まっている。目線はオーリィ1択で。
「爺さん? グィード爺さん、どうしたんだ。しっかりしろよ」
見開いた眼と落ちた顎にこっちがびっくりする。こんなに驚いた爺さん、見たことなかったな。
肩に手を置いて揺さぶると、ギギギと音をさせて(?)こっちを見る。
「ケイン……あれは、もしかして……アーミン、か?」
「ああ、そうだ、がっ!?」
答えた瞬間、がっちりと両肩をつかまれて揺さぶられる。おい爺さん、あんた、歩けるのかっ!?
「なんとっ! やはりそうかっ! あの、如何にしても見つからぬ幻の魔獣とまで言われたアーミンがっ!! どうしてお前さんと一緒に居るんじゃああぁぁっ!!」
「ちょ、まっ、爺さっ……や、やめ……っ」
ぐるぐる、ゆさゆさ。目、目が回る~っ。
「どうやった、何をしたっ!? はっ、まさか、有り余る魔力で脅して従わせたとかっ!? 吐け、きりきり吐かんかあぁっ!」
「んなことするかあっ!」
気分も悪くなってきたし、我慢も限界! 力任せに肩の手を振り切り、いつも使っている裏口へ向けて爺さんを放り出していたオレだった。
ここでもアーミンは希少生物ですね~。
グィード爺さんが壊れました(笑)
更新が少し遅くなりましたが、
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