第111話
古代文明の施設に突入です。
オレは石の中の通路に向かい、まずは中を窺った。何も無いとは思うが、用心はしないとね。
通路の壁や天井、床、とも同じ材質で出来ているようだ。
意を決し、オレはその通路へ足を踏み出した。
すると、入口と同じ灯りが次々と点灯し、奥の方が明るくなる。なるほど、自動感知式の照明か。古代文明は本当に進んでいたんだな。
入り口から下りの階段になっている。ふむ、本体は地下にあるのかもしれない。
明かりに導かれて2、3歩進むと、後ろで入口が閉まった。戻って両脇を見ると、右側に何らかの機器がある。そっと手を触れると入口がまた開いた。
「なるほど、認証型のロックキーか。魔力認識の段階でここも登録されるんだな」
「キュルキュ~。キュキュルル(凄いだっちゃ~。良く判るっちゃね)」
「オレの元の世界でも似たような機械があったからね。でも、古代文明の方が発達してたと思うよ」
「キュル~(そうかな~)」
「ああ。入り口の仕掛けなんて絶対にできないぞ」
オーリィと話しながら通路を進む。10数段の階段を降りるとそのまま長い廊下へ。しかも徐々に下ってきてるな。
廊下の突き当りにあるドアにも入口と同じ機器があった。手を触れて解除すると、ランプがついてドアが開いた。中は小さな小部屋だ。
踏み込んで振り返れば。
「やっぱり地下にあるんだな」
ドアの横にあるのは上下表示のボタンがあるのみ。その「下」を押せば、ドアが閉まって。
ゴウゥゥ~~ンン…………
機械音と共に軽い浮遊感が身体にかかる。
「キュルッ? キュルキュル~?(あれっ? これは下に下がってるだっちゃ?)」
「昇降機だな。地下へ行くための移動手段だよ」
「キュキュ~!(詳しいっちゃ~!)」
「これも元の世界じゃよくあった方法だからね」
などと話しているうちに浮遊感が無くなった。音も静かだし、かなりの性能だよな。
シュウゥゥ~~…………
目の前の扉が開く。そこにあったのは。
「おお~、壮観だな~」
「キュルルル~!(広いし、明るいっちゃ~~!)」
どこからの光源かと見回すがわからない。
どうやら天井全体で発光しているようだ。しかも目に優しい昼白色だから眩しすぎず暗くなりすぎない。部屋はちょっとしたコンサート会場並みの広さになっている。
その中に適度な間隔をあけてテーブル?と椅子?が置かれている。
パッと見は学校の理科室にある作業台と水屋がくっついた実験も可能な机。でも近寄ってみたら、
「これ、保育器に近いんじゃないか?」
低出生体重児が周りの環境に耐えられるまで入るアレに似ている。
作業台全体を覆うようにドームがかけられ、あちこちに手袋付きの穴が設けられている。魔力やら魔石やら、そのほかにもいろいろ怪しげなものが使われるから、被害が他へ波及しないようになってるんだろう。
足元にはいくつものラインがあり、その1本が明るく表示されている。そのラインに沿って進んでいくと、中ほどにある保育器もどきに着いた。どうやらそこが魔力提供した人の固定場所だったようだ。
ドーム越しに中を見ると、何やら造りかけの部品が転がっている。こうして見てもさっぱり分からんな。オレにモノ作りは無理だ。
その場所から離れてあちこちのドームを覗く。どこも作りかけの部品やら道具やらが転がっていて、やりかけの仕事を放り出していったように見えた。
「まるでマリー・セレスト号だな」
そう呟く。
「キュル…? キュウキュキュ…?(マリー・セレ…? 誰の事だっちゃ…?)」
「人じゃないよ。元の世界の不思議なできごとさ。
海の上で漂っている船を調べたら、湯気が立ちそうな食事が用意されていて、実際に食べていたみたいなのに、見つけた時には誰も居なかった、そんな状況があってね」
「キュキュ~~!!(そんな馬鹿な~~!!)」
「そうさ、立ち会った者はみんなそう思ったんだよ。でも、実際に船に乗っていた人間は見つからなかったんだ。どれだけ探しても、ね」
「キュルキュ~?(魔獣にやられただっちゃ~?)」
「元の世界には魔獣とか魔法がないんだよ。あるならそれで解決するんだろうけどね」
オーリィに説明しながら、オレは古代王朝が消滅した時の話を思い出していた。
あの時、他の研究所や工場でも同様の事が起こったんじゃなかろうか。王都は全てが灰燼に帰したけど、こちらはヒトだけが消えた。だから今の状況になっているのかも。
考えを巡らしつつふらふらと歩いていたら、壁際に何かが並んでいる。飾りかと思っていたが、近寄ってみたらそれは。
「……道具、かな? 用途が解らないから手が出せない」
様々な形のモノが置いてあった。それもきれいにではなくごちゃっ、と。
「用途別、いや、種類別なのかな? 基準が分からん」
手の折れ曲ったモノ、あちこち飛び出しているとげ状のモノ、ねばねばしたゼリーにおおわれているモノ。それ自体で完成しているのかすら判別が難しい。
「う~ん……ん? これはポーチか? あれ、『アイテムボックス』の魔法陣がある」
すぐさま『鑑定』してみると、
アイテムボックス(小) 7個
10×10の個別区画を持つ。時間経過あり。重さ軽減あり。
アイテムボックス(中) 5個
20×20の個別区画を持つ。時間経過無し。重さ軽減あり。
アイテムボックス(中) 4個
30×30の個別区画を持つ。時間経過無し。重さ軽減あり。
アイテムボックス(中) 3個
50×50の個別区画を持つ。時間経過無し。重さ軽減あり。
アイテムボックス(大) 2個
100×100の個別区画を持つ。時間経過無し。重さ軽減あり。
「うわぁ、お宝だぁ! ダンジョンでもこんなには見つからないぞ」
ついでとばかりに『鑑定』をかけまくった。折れ曲った手は義手でとげ状のモノは壁を上る際のピッケルみたいなモノらしい。ねばねばゼリーは接着剤と出た。
「なんだか玉石混淆だな。本当に研究するための所だったんだ」
「キュルキュルキュル~(良く分からないモノがあるだっちゃ~)」
呆れた口調のオーリィと見て回ったが、半分近くは『鑑定』でも分からなかった。当時なら使い道があったんだろうが、今となっては不要としか言いようがない。
「アイテムボックスのポーチは持って帰りたいけど、大丈夫かな?」
置いてある場所をじっくり見ると、手前に四角いパネルがある。ちょっと考えてそこに掌を押し付けると、保護フードが開いて取り出せるようになった。
「おお、ラッキー!」
アイテムボックスを『ストレージ』にいれ、ちょっと考えて接着剤と一番右にあった細い棒を束ねた塊も一緒に持ち出した。見るべきものは見たし、そろそろ出るとしようか。
再び昇降機に乗って今度は上のボタンを押す。またしても軽い浮遊感を伴って上昇していった。
「ここ、結構深い所だと思うんだが」
「キュルキュル~(そうだと思うけどわからないっちゃ~)」
「ああ。認識阻害の魔法がかけられているのかもしれないな」
長い廊下を戻り、入口の表示に手をかざすと、前と同じように入口が開いた。そこをくぐって外に出ると、機械音声が響いた。
『マタノゴ利用ヲオ待チシテイマス。』
振り返ってみると、石の中央付近に集音機とマイクのようなものが埋め込まれていることに気が付いた。よし、訊いてみるか。
「研究所の門番に問いただす。ここの開閉を個人認証に切り替えることは可能か?」
ややあって答えが返った。
『可能デス。タダ、ソノヨウニ変更スルト他ノ魔力ヲ認識出来ナクナリ
マスガ、ソレデモヨロシイデスカ?』
「それでいい。オレの魔力以外では開かなくしてくれ」
『承知シマシタ。シバシオ待チヲ。…………変更ガ完了シマシタ。今カラ
コノ開閉ハ、個人認証ニナリマシタ。』
「ありがとう。ここは大事な場所だ。これからも番を頼む」
『……過分ナルオ言葉ヲ頂戴シマシタ。魔器開発研究所前ノ門番ORT
138QZP、新タナ使命ニ全力デ取組ミマス。』
「お、おう、任せる。頼んだぞ」
『オ任セヲ、我ガマスター。』
……オレはいつマスターになったんだ?
「キュルルキュルルキュルル~♪(人だけじゃなくって機械までたらし込んだっちゃ~♪)」
「人聞きの悪いこと言うな!」
「キュキュ!(いよっ、男前!だっちゃ!)」
「…………」
駄目だ、何を言っても聞いちゃいないな、こいつ。
今夜の晩飯抜きにしてやろうか。
施設内の説明が拙いかもしれませんが、ご容赦を。
研究所ならこんな感じかな~? と思いながら書いたので。
『人たらし』ならぬ『機械たらし』……あるあるですね。
来ていただいてありがとうございます!




