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第108話

 古代文明のあれこれがちらほらと。

ようやく帰れそうです。

 また魔法陣が入れ替わって浮かんでくる。今度もふたつだが、大きさが違う。右側は普通だけど、左側のはその倍以上ある。


(右が『アイテムボックス』で左が『ストレージ』……『ストレージ』だって?)


 そうか、考えてみればそうだよな。内部の広さや時間停止なんかを思えば、これくらい複雑にはなるよな。


(あれ? でも、『アイテムボックス』って普通にあったよな?)


 たまにダンジョンで出てくるって聞いたけど。


『なにかあったかえ? ああ、『アイテムボックス』は危険ではないが、『ストレージ』にいささか問題がある故に、の』


「問題、というと?」

 オレの問いに、


『ふたつとも『虚空(ヴォイド)』の下位魔法なので組み立てがやや特殊でな、誤ったまま発動するとその周囲に多大な影響が出るのだ。まあ『アイテムボックス』は安定しておるので問題ない』

 そう、ゴルディマーラが答えてきた。


『古代王朝では個人のスキルとしてほとんどのものが『ストレージ』を会得しておったんじゃが、稀に得ておらぬものが居て、の』

『その者のためだけに開発されたようなものだ。止めさせるべきだったか』

『あ奴が王の要請に応えてしもうたじゃわえ。ほんに魔術バカであったわいな』


 なるほど、王からの希望で『カルラ・ノウントラ』が作ったんだ。ある意味、天才だったんだろう。


『どうせ作るのなら、もっと安定した陣を組み立てるべきなのを、あのバカ王が急がせおってからに!』

『うむ。容量やら時間停止やらの組み込みは慎重にして当然であるが、試作品で王が満足して発動しおった』


 ええ~っ。それってマズいんでは?


『あのバカ王は魔力が大きいから成功したのじゃわいな。その証拠に、他のものでは起動もせんかった』

『可愛がっていたおなごのためだったが……あの頃から崩壊が始まっていたのやも知れんな』


 あららら、何やらきな臭いお話になりそうだ。


 でも、そうか。『アイテムボックス』も『ストレージ』も『虚空(ヴォイド)』の下位魔法だったんだ。あの広がりから思えば納得だな、うん。


 その時、手にあったモニターならぬマギボードが光った。


「お、うわっ!」


 思わず目をつぶったが、薄目を開けてみてみると、マギボードが端の方からきらきらと光を発しつつ崩れていくところだった。


 あれほど存在感のあったものが細かい光の欠片となって消えていく様は、夜空に咲く花火の儚さを思わせた。


 光は手からこぼれ、地に落ちる前に消えていく。僅かな時間で、オレの手からマギボードはなくなっていた。


「無くなっちまったぞ、ジェイルニークス。いいのか?」

 異世界鳳凰に尋ねると、


『良いのじゃわ。マギボードに封じた古代魔法はいずれも危険視されたものばかり。とうの昔に消去されておるべきじゃったのえ』


『それをこのように保管などすべきではないのだが……古代文明へのよすがを少しでも残しておきたいと思う我らが独断で持っておったのだからな』


『あれらも……元から悪気があったわけではないぞえ。ちと探求心が過ぎたのだとわらわは思うておる』

『それもヒトとして持ちうる特性ではあるしな……止めきれなかった我らにも咎はあろうよ』

『そうよのう』


 聖獣が二体とも落ち込むとは。古代王朝の消滅ってよほどの出来事なんだな。


 けど、突っ込むのは止めよう。

 それより、願ったものが手に入ったんだからここに居る必要は無いよね。


 オレはさっそく『(ゲート)』を試してみることにした。始点と終点が必要なんだけど、そこはそれ、オレの有り余るイメージでカバーしてやろうじゃないか!


 出現場所は洞穴の前。入り口のすぐわきを思い描く。そこへ『(ゲート)』の魔法陣を乗せて……発動っ!


 オレの目の前に真っ暗ならせん状の渦ができる。ぎゅいん、という擬音をつけたくなるような現れ方だ。


 そしてその中心に洞穴前の風景が小さく映った。うん、成功だな。


『ほうほう、1発で成功させおったな、ヌシ。流石はわらわの見込んだ男じゃわいな』

『うむ、いささか心配であったが無用であったか。見事』

 聖獣が驚き半分に声をかけてくる。


「じゃ、オレは失礼するよ。ふたりとも元気でな」

『ヌ、ヌシ、このまま帰ってしまうのかえ? つれないのう。この地に居着く気はないかえ?』


「前にも言ったろ、勘弁してくれ。ここが嫌って訳じゃないけど、向こうの大陸に未練がありすぎるんだ」


 それに、何やら不穏な気配もするしな。あいつ、なんか危ないことをやらかしそうだから。


「向こうが治まったらまた来るよ。時期は約束できないけどな」


『お、おお、そう言ってくれるかえ。待っておるぞ』

『お主と話せて楽しい時間であった。また来るがよいぞ』

「ああ、そうさせてもらうよ。じゃあな」


 ぐっすり寝込んでいる子供たちを担ぎ上げ(ググッ、重いぃぃ~~っ)『(ゲート)』の中へ進む。


 入った瞬間、周りの空間が圧縮された感じがしたものの、そのまま2歩目を踏み出したら、そこは洞穴の前だった。目の前にはたまげた表情の族長そのほかの大人がいる。


 オレが3歩目を踏み出すと、後ろの『(ゲート)』は用が済んだとばかりに消えていた。





 その後の事は予想していた通りだ。


 熟睡している子供たちを引き渡して洞穴の異変は終了したと伝えると、割れるような歓声が起こった。

 雷光石はここでの生活に必要不可欠であり、他の場所からは採取できないんだとか。巨人族の他の集落からも催促の連絡があるくらいだからな。


 安堵した族長が泣かんばかりに手を握って離さないから、オレの手、倍以上に膨れ上がっちまったよ。すぐに治したけどなっ。


 まずは集落へ帰還して一同を集め、事の経緯を説明していく。流石は族長、その中でヘイラスとその取り巻き達を今までの役目から外すという事もやってのけた。


「ヘイラスとその追従者に申し渡す! 今までは魔獣討伐要員として日々の役務を免除していたが、今回の騒動で役目相当の働きが出来ないと判明した。それ故、今後は農業管理者として配置し直す! 前任者からの引継ぎを受け次第、東の森にある畑への赴任を命ずる!」


「は、畑……っ!」

「俺たちが農業をやるのかっ!?」


 「「嘘だろっ!?」」


 「「「「「やったーっ!! さすがは族長様だーっっ!!」」」」」


 取り巻き連中から驚愕と抗議の悲鳴が上がったものの、周りの歓声にかき消されて聞こえない。それだけ嫌われていたって事なんだろうけど、当の本人が自覚してない、よ、な?


「横暴だっ! 族長の権限を振り回して我らを害するとは族長に相応しくないっ!!」


 顔を真っ赤にして叫んだけど、あんた、周りが見えてないよ?


「何言ってんの、ホントの事でしょ」

「お前さんたち、何の役にも立ってないじゃないか」

「日がな一日訓練と称して武器振り回した挙句、酒飲むだけじゃん」

「うちの用事すらやってないしね」


  「「「「ほんと役立たずだよ、このごく潰し」」」」


 因みに今の発言は全部奥様方。それもジト目、白目、すが目付きで。


 ここまで内情をばらされたら反論もできない。出来る要素が何ひとつないよな。

 うん、奥様方の完全勝利だ。


 しかもこれを聞いていた他の人たちの目つきが凄い。


「やっぱりそうなんだ」

「あの人たち、昼間っから酒飲んでたね」

「それも武器を片手にさ……注意したら『魔獣退治をしているのは俺たちだぞ!』って睨まれたよ」


「うちの子なんか、持ってたおもちゃを壊されて泣いちまったんだ」

「大体、子供がいるところで武器振り回すなよな~」

「それそれ。やるんなら訓練場でやってくれってんだ」


  「「「「「「いらねーよ、あんたたち」」」」」」


「なっ、そっ、それは……っ」

 周りからの総スカンに本人たちは赤くなったり青くなったりと忙しい。


 その様子に、族長が目配せをする。すぐに親衛隊が彼らを取り囲み、武装を解除して拘束した。


「引継ぎを行う前に反省をしてもらう。そ奴らを地下の独房へ連れていけ!」


  「「「「「はっ!」」」」」


 大声で騒ぎながらも、引きずられるようにしてこの場から退場させられる男たちと、それを見てやんややんやとはやし立てる一同。カオスだな~。


 ひとしきり騒いでガス抜きをしたところで、族長は次の話に移る。

 これまでの経緯に加え、他種族との関係修復をすることへの理解を求めたのだ。


「我ら巨人族は力に優れ、強い者に惹かれ尊ぶ傾向にあるのは、成り立ちから言っても当然のことだと思い、今までは特に注意もしなかった。


 だが、果たしてそれでいいのだろうか?

 思い出してほしい。


 この集落を立ち上げた際、建物や畑の造作は我らが担当した。だが、それ以外の内装、日々の細やかな仕事や集落の維持に関する様々な事務を担当したのは誰だったか?


 力では我らに勝るモノは無い。しかしながら力だけでは叶えられないことも多々あるのだ。


 聖獣様が受け入れ、見守ってくださったのだ。そのような愚かな振る舞いは許されない。

 我ら巨人族、もう一度原点にたち返り、生かされていることの意義をかみしめてこれからの日々を紡いでいこうではないか!!」


  「「「「「「「「おおーっっっ」」」」」」」」


 全員が立ち上がって右手を胸に当て、左手の拳を高々と上げる。巨人族の誓いの時にする所作なのだと言う。


 誰もかれもが瞳を輝かせ、顔をほてらせながら何度も拳を突き上げては聖獣の名を唱え讃えている。この世界での聖獣は神と同格なんだろう。


 オレはその様子を見つつ、近いうちに戻ろうと心の中で決めていた。






 この章もこれで完結です。

あと、閑話をはさんでから新章に入る予定…です。


 蛇足ながらマギボードの扱いについてですが。

元々は術式を保管して、必要な相手に覚えさせる魔道具です。

それがダンジョンコアに吸収された時点で変質してしまい、

壊れるまでの時間が半日になってしまいました。

本来は覚えた段階で消えるものとして設定してあります。

……作者の拘りでした(笑)。 


今日も読んでくださってありがとうございます。


2022/5/3 誤りがあったので訂正しました。

  魔虹石 ⇒ 雷光石

 この後に出てくる言葉と混同してしまいました。

 お詫び申し上げます。

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