第106話
ジェイルニークス再登場!
……え、そこから?
『その保管しておるのが、じゃな……儂の下、なのだよ』
「は? あんたの、下ぁ??」
「下」って、それ、マグマの中って事かぁぁっっ!!?
驚き過ぎて声も出せないオレを見つめ、石の顔はきまり悪そうに頷く。
『最初に話を持ち掛けられた時には断ったんだが、何度もジェイルにせがまれて、な』
「そりゃ、確かに特殊な環境、ではあるよな。安全ちゃ安全、だけど」
ちょっと突飛過ぎませんかね、異世界鳳凰さんよ?
「じゃ、今ジェイルニークスはその、永劫の焔の流れの中に居るって事か?」
『そうだ。あやつにとっては、あの程度の熱など苦にもならん。通常の空を飛ぶより楽であろう』
「あの程度」って。溶けたマグマの中でへーきとは。確か700度から1300度、組成物によるともっと高温になるって言うのに……が、頑丈なんだな、聖獣って。
『ただのう……あの中では時間の流れが狂う。落とし込んだマギボードも時間の流れの中をバラバラに彷徨うておるのだ』
わぁ、それはまた大変なことになってるな。
『普通なら時間の流れを泳ぐだけで力尽きるのだが、あやつはそれもまた楽しんでおる。たぶん、お主と別れてからずっと潜っておるに違いない。いろいろ困ったことになると言うのに』
ひぃえぇぇぇ~~……。パネェな、異世界鳳凰。
オレの引きつった顔に苦笑いを浮かべるゴルディマーラ。と、その時。
『む? ……これは……っ……!』
石の顔が歪む。片方の眉が跳ね上がり、口がへの字に曲がった。
「お、おい、どうした、何があった?」
オレの呼びかけた声に何かを感じたのだろう、子供たちも傍に寄ってきた。
『うむ……お主、ちと力を貸してくれぬか? 台座を動かしてほしいんだが』
「台座? これの事か?」
オレは目の前の四角い板状の石を軽く小突く。コンコンと硬い感触が伝わってきた。
『お主の居るところを、前にまっすぐ動かしてもらいたい。もう片方が固定されているから、全部が動くことにはならん。そうさな、前の位置から見て90度くらいまでに動かせば問題なかろう』
成程、コンパスの様なものか。でもこの石、結構重たそうだが。
『なに、たかが10トン程度じゃからな。ほっほっほ』
……この石、案外腹黒かも。
良いだろう、その腹黒に乗っかってやろうじゃないか。
まずは石に『無重力浮遊』をかけて、自分に『身体強化』『筋力増強』をかける。これで何とかなるか。
腕まくりして石に手をかけると、その横へ二組の手がかかる。
「おいらも手伝う!」
「ワッチも!」
見ればガッシュとルーシルも参戦する気満々だ。
「おおいいとも。いいか、いくぞ。…せぇのっ!」
グッと力を入れる。子供たちも顔を真っ赤にして力んでくれている。
ゴ、ゴッ……
「おしっ、少し動いたぞ! もう少し頑張れ!」
「「んッ!」」
ゴゴッ……ゴゴゴゴ……ゴゴゴゴゴゴゴゴ…………
一度動き出すと弾みがついてくる。『無重力浮遊』がいい具合に仕事をしている。オレと子供たちでそのまま押し続けていった。
『おお、よくやった。もうそれでよかろう。ほれ、そこに在るのが「永劫の焔の流れ」だ』
言われて振り向けば、台座の中央付近に穴が開いている。それほど大きくはない。直径が台座の幅の約半分程度、でもその穴から立ち上る陽炎に、背後の景色が歪んで見える。
「あれが「永劫の焔の流れ」に開いた「熱地獄」……」
ルーシルが額の汗を抑えながら口を戦慄かせる。
「「熱地獄」?」
「あの穴があるから、「永劫の焔の流れ」を監視できるの。あまりに増え過ぎたらここで噴出させて調節もできる。ゴルディマーラ様はその役目を負っているのよ」
「言い伝えは本当だったんだな。おいら、疑ってたけどこれからは信じるよ」
ふたりとも流れ出る汗をぬぐいもしないで穴を注視している。
結構離れているが、ここまで熱の波動が届くとは。オレは『バリア』で熱を防ぎながら近寄ってみた。
中は……まさに灼熱地獄だった。元の世界のドキュメンタリー番組とそっくりな、赤黒い流れがゆったりととぐろを巻いている。ところどころで金色の焔が噴きあがり、真っ赤な塊をまき散らすが、すぐにそれも流れに呑まれて見えなくなっていく。
こんな中をあの異世界鳳凰は飛び回っているのか。それも楽しんで。
この世界の神秘な部分がまた一つ見られたな。少なくとも元の世界ではお目にかかれないだろう。
そう思いながら覗いていると、視界の隅に違和感があった。
「ん、なんだ?」
視線をずらした先、赤黒い流れが一部分真っ赤になってきている。それも呼吸するように点滅を繰り返し、その間隔が徐々に縮まっていく。心が騒めくような危機感に囚われ、オレは急いで元の位置まで下がる。
「ケイン兄さま?」
「兄貴?」
「お前たちも下がれ! 様子がおかしい!」
ふたりを抱えて台座の裏へ廻った。そこなら何か起きても対処できるだろう。子供たちに頭を下げさせ、オレは台座の影からそっと首を伸ばした。
その瞬間、「熱地獄」から金色の奔流が空へと高く伸びた。一緒に噴き上がったマグマの塊が辺り一面に撒き散らされる。
ピュイイィィィィ~~……
高らかに啼き声をあげて上昇していった奔流が形を変える。赤々と燃え盛る焔を纏い、金色の光を振りまく、まさに火の鳥だ。
「「ジェイルニークス様……」」
子供たちの声がその名を呼ぶ。空を舞う様子は、誇り高き焔の女王の威容を披露してなお、余すところなく詳らかにして見せた。
高々とそのまま舞い踊り、数分して地上へと軌道を向ける。真っ逆さまに突き刺さる勢いで落下してきた火の矢は急速にしぼみ、地上に達した時にはヒトに似た姿となっていた。
『助かったえ、ゴルディ。出口を探しておった故な』
『前もそうだったな、ジェイル? ちょっと遊びが過ぎるのではないか?』
『そうは言うがの、時流の流れに迷うマギボードは厄介なんえ。力加減を間違えばそこで消滅してしまう故にな』
『ふむ。で?』
『で? とは何ぞや?』
『幾つ壊したのだ? と訊いたのだ』
ゴルディマーラの問いかけに、ビクッと肩を揺らすジェイルニークス。
え? あれ壊せるの? 物騒な古代魔法を封印したマギボードを?
その続きを聞こうと身を乗り出しかけたが……
「暑、い、な……」
「うん……ワッチ、もう駄目……っ」
「ルーシル…うっ」
横でか細い声が交差し……とさっ、と音がして。
見ると、子供たちが倒れていた。
「お、おいっ、ふたりともどうしたっ……!?」
慌てて抱え上げようとして、オレも異変に気付いた。
からだが、暑い。
今まで感じたことのない暑さが、オレの身内からあふれ出てくる。あの、馴染みのある紅い点滅灯が目の前でぐるぐると回っている幻影が見えるようだ。
急いで『状態異常解除』を自分にかけると、熱が引いていく。が。また元に戻る。
次に範囲指定で『バリア』をかけ、再度『状態異常解除』を起動、今度はうまく行ったようだ。子供たちの呼吸も楽になっている。
原因は、あの「穴」、だろうな。
ならば、やることはひとつ。
『バリア』をそのままに残し、オレは台座に手をかけると、全力で押し出した。
ゴゴゴゴ……ゴゴゴ…………
「くっ!」
『バリア』の圏外へ出た途端、身体の熱が上昇する。それは「穴」へ近づくほどに暑くなり、額から汗が地面へとしたたり落ち、痕を付けて行く。けど、この石を戻すくらいまでなら持ちこたえて見せるさ!
ゴゴゴゴゴゴ…………ゴゴゴ…………ガクンッ
「うわっ! (ゴンッ)痛ってぇぇ~~!」
台座が急に沈み込んだせいでオレの手がすべり、頭と台座がぶつかった。盛大な音と共に星が飛び散り、そのまま頭を抱えてうずくまる。
しばらくは痛みで何も考えられなかったが、気が付けば異常な熱が引いていた。
とすれば、さっきの音は「穴」をふさいだって意味かな?
異世界鳳凰のドッキリでした。
期せずして聖獣が2体揃いましたね。
読んでいただいてありがとうございます。




