第105話
巨人族の裏側事情が判明します。
ガッシュのへこみ具合が大きい……
あまりにもぶっ飛んだ話に、ガッシュは固まっている。ルーシルの方が動揺は少ない。同世代であっても、精神年齢は女の子の方が高いんだな、こっちの世界でも。
「じゃ、じゃ、おいらたち、ここから出ていけないんだ……?」
夢を一気に壊された感じなんだろうな、ガッシュにとっては。
でも、それは違うぞ。
「なに馬鹿なこと言ってるんだお前は」
「だって、亀裂の海を渡れないんじゃ」
「今のお前には無理だろ、ここですら動けないんだから」
「っ!……」
指摘してやると、ようやく思い至ったらしい。
「まずは、集落から出ること、そして隣の集落まで楽に行き来できるようになる。そこから始めないとな」
「そうか。……そうだな」
「この大陸全部を回るのだって大変だぞ? 何があるか分からないんだし。いろんな知識を蓄えて、腕を磨いて、経験を積まないと生き抜けないからな?」
「わかった。これから頑張る!」
そう言ってガッシュは両手を握りしめる。うん、良い顔をしている。ようやく吹っ切れたようだ。これでひと安心かな。
話が終わるのを待っていたゴルディマーラが声をかけてくる。
『落ち着いたようだな。で、そこの人族。ちと話を聞かせてくれんか?』
「ん? 何か用でもあるのか?」
『ふむ。確かに、の。この香りならば、ジェイルニークスが執着するのも無理はないのう』
やれやれ。オレの「聖獣ホイホイ」はいまだ健在のようだ。
『お主、相当苦労しとるようだの。魂の年齢が肉体よりも成熟しておるとは、儂も初めて見たぞ』
何だその、魂の年齢って。
『普通は肉体と共に魂も成長していくんだが、ごく稀に、魂が肉体よりもずっと成熟しておる生き物が居る。そのような者には大抵神の加護がついて、しかも』
「しかも?」
『その香りが何とも言われぬ良いものでの、聖獣を引き付けおるんじゃ』
じゃ、何か? オレの「聖獣ホイホイ」は魂の所為だっていうのか!?
あの、世界を渡る際の猛烈な苦しみが魂を成長させたって言いたいのかぁ!?
絶対、ずぇったい、神に直訴してやるうぅぅっっ!
『ふふ、何やら思う所があるようだな?』
「……大ありだ。けどまあ、今の面倒事には関わりないからな」
向こうに帰って落ち着いたら考えよう。すぐに片づけられる問題じゃないしな。
深呼吸して心を鎮める。まずは目の前の事からだ。
オレは石の顔を見上げる。
「ところでジェイルニークスがどこにいるか知らないか? 実は大陸を渡るための方法を探してもらっているんだが、音沙汰がなくてな」
『……なるほど。それであ奴は……』
「ん? どうかしたか?」
その返答、何か含んでいるような……。
『大陸を渡るには『門』でしか出来ぬことを知っておろうな?』
「ジェイルニークスにそう教えてもらったんだが、違うのか?」
『いや、そうではない。その『門』は『虚空』の下位魔法じゃ。おぬしに扱えるのか?』
あ、そっちの心配か。
「多分大丈夫だと思う。オレのステータス、ちょっと異常だから」
『……まあ、神の加護を持つ者じゃからな、普通ではない、と思うが』
そこまで話していたら、横からがばりっ、と抱き着かれる。
おいおい、一体何だってんだ?
見るとルーシルが目を輝かせ、ではなく、爛々と光らせてオレに迫ってきている。こらっ、だからやめなさいって!
「ケイン兄さま! 加護を持ってるの!? キャー凄い!!」
あまりの歓声にオレは軽く引いたが、お構いなしにルーシルが質問を浴びせてくる。
「どうして言わなかったの、どなたの加護なの! ねえ、ねえってば!」
「いや、その、たまたま、だな」
「加護なんてたまたまつくもんじゃないの! それだけの功績があるからなの! どんな事したらもらえたの、教えてよ!」
獲物を狙う魔獣の如く、狂気に近い熱をはらんでぐいぐい迫ってくるルーシルに、オレはほとほと困り果てた。
何せ、年に似合わぬ色気のある子だ。思わずフラッと来そうになったが。
(待て待てオレ、相手は10歳、『お巡りさんここです!』をやられたいのか!)
定番のネタを心で唱え、ぐっと踏みとどまった。
そんなルーシルの暴走を抑えたのは。
『これ巨人族の娘。いくら興味があろうとも、他の者のステータスを無理やり聞き出すのは感心せぬ行為じゃぞ。落ち着くがよい』
低い声で諫められ、ハッと我に返ったルーシルが真っ赤になって後じさる。
「あ、ワ、ワッチったらなんてはしたない事を……! ごめんなさい、ケイン兄さま! 加護を持ってるなんて初めてだから興奮しちゃって!」
「ああ、分かってる。やっぱり珍しいからな、うっかり話すとマズいみたいだから黙っていたんだ」
「そうなの、珍しい事なの! ワッチたちの集落でも、族長様がお持ちなだけで、他にはいないのよ。ヘイラスおじさんはそれが悔しくていろいろ文句を言うけれど、勝てないのよ」
あ、やっぱりな。あの時の言い合いでも変に強がってたのは、そう言うコンプレックスがあったんだ。
「ルーシル、それ本当か? おいら、ヘイラス伯父貴の方が強いのに加護持ちだから族長を取られたって聞いたけど」
不思議そうにガッシュが訊いてくる。
「ガッシュは知らなかったのね。どうしてヘイラスおじさんの言うことを聞くのかと思ってたんだけど、このことは大抵の人が知ってるの。それでも、ヘイラスおじさんが族長になると都合のいい人たちが、味方に付いているのよ。でも、あの人たち、仕事がいい加減だから、おばさんたちがみんな怒ってるわ」
今明かされる真実に、ますますガッシュの口が開きっぱなしになった。ま、まあ、男ってのはそういううわさ話に興味ないもんな。
「なんだ、伯父貴はただ自慢話がしたかっただけなのか……」
「そうよ。あの人の話って、3回聞くと飽きちゃうのよ。おんなじことしか言ってないんだもん。ガッシュが良く飽きないなって、みんな思ってたよ?」
あけすけなルーシルの言葉にガッシュは赤くなったり青くなったりと忙しい。
「そういじめるなよルーシル。男の子は英雄譚に憧れるんだから」
あまりに気の毒で助けに入ったんだが、
「でもマドルもビクトも聞き飽きたって言ってたし、ウーディスなんかは完全に馬鹿にしてたわよ、ヘイラス伯父さんを。『フォレストボアを何匹倒してるんだあの人。あの勢いだと、もうこの森に居ないはずだよなぁ』って言ってたもん」
あちゃあ、援護が援護になってなかったか。許せガッシュ。
「そ、そうなんだ……伯父貴、馬鹿にされてたんだ…………」
両手を地面につけてうなだれるガッシュ。おいおい、リアルorzじゃないか。
さすがに気の毒になったのか、ルーシルが傍にしゃがんで慰めてる。そっちはそれでやっててくれ。
「で、何だってんだ、ゴルディマーラ。『虚空』がどうかしたか?」
『うむ。『虚空』は禁忌魔法としてマギボードに写し、ばらまいた後にまた集めおった。何度も手間を掛けさせる奴でのう』
それ、『カルラ・ノウントラ』の事だよな。
『それに付き合うジェイルもジェイルじゃ。自分から面倒事を抱えよって』
うんうん、それはオレもそう思う。
「その回収したマギボードの中に『虚空』がないかと思ってるんだが」
『そうよの。ジェイルはそれを確認しておるんじゃが……』
「なんでも特殊な環境?で保管してるって言ってたけど、そこがどこか聞いていないんだ。ゴルディマーラはどこか知らないか?」
軽く聞いたんだけど、どこか口ごもっているのはなんで?
『その保管しておるのが、じゃな……儂の下、なのだよ』
読んでいただき、感謝です。




