第104話
またまたお説教回です。
「う……でも、でも! あそこから出るなって、なんだよそれ! おいら、もっと広い世界を見たいんだよ!」
「旅人とか冒険者になりたいって事か?」
「そ、そうだよ! おいら、いろいろ見たいんだ!」
やっと本音が出てきたみたいだ。これはあれだな、男の子がかかる「空を飛びたい症候群」かな。オレもなった事がある。でも、まずは確認からだ。
「なら質問だ。お前、今何やってる? 家の手伝いとか」
「水汲みは毎日やってる。それと剣術の手ほどきも! 1000回振りも出来るんだぞ!」
「そのほかは?」
「他にはって……なにかやることあるのか?」
あ、これ駄目な奴だ。遠くにばかり目が行って足元がおろそかになるタイプだ。
「じゃ、次。あの集落からどれだけ離れられるんだ?」
「川までは毎日楽勝だ。それから裏手の森も中心までいけるんだぞ」
どや顔で自慢してるんだろうが。
「お話にならんな」
「なっ!」
鼻で笑うと、また顔を真っ赤にする。だけど、こういうのははっきり言ってやらんとな。
「隣の集落と言うならまだしも、森も横断できないなら無理だ。外は広い、ここの何千倍もな」
「だ、だから見てみたいとっ!」
「見るだけで済むと思ってるのか?」
そう言ってやると悔し気に黙る。その辺は分かるのか。
なら、別の方面から切り込んでやる。
「ガッシュは薬草とかの知識、あるのか?」
「薬草って、それは薬師の仕事だろ」
「地域の気候や風土、特色を知っているのか?」
「ここの気候は変わらないからな、覚える必要もないよ」
「魔獣の種類、特徴、弱点は?」
「……いくつか知ってる、けど。戦わせてくれないから……あとは知らない」
不貞腐れて答える子供にため息が出る。
もう、甘えとしか思えない。
「冒険者をなめるんじゃない」
思ったより低い声になってしまった。その響きにガッシュの肩が跳ね上がる。
「お前、冒険者を何だと思ってるんだ。そんなんじゃあっという間に死ぬぞ」
「死ぬって、どうしてだよ!」
「冒険者は基本、自分ひとりでやっていくんだ。自分で行き先を決めて旅をして、その中で戦い、自給自足で生きていく。怪我しようが毒を受けようが自分で何とかするしかない。動けなくなったら最後なんだからな。そのためにはいろんなものが必要になる。体力だけじゃ乗り切れないんだ」
「だ、だったら! 仲間を作って動けばいいんだ! なら大丈夫だろう!」
「お前は友達も殺すつもりか?」
「なっ、殺すなんて!」
「この集落でお前が一番強いと聞いた。それより下の奴を巻き込んで出てみろ、どうなるか分かってるのか?」
「っ……!」
「魔獣を狩って生きていこうというのに、相手の事を良く知らない。薬草の知識もない、土地の特性も風土も分かっていない、ないない尽くしの若造を仲間にする程冒険者は甘くないんだ」
「…………」
「ガッシュ。冒険者の仕事は命懸けだ。自分の背中を預け、命を懸けて共に戦い抜ける相手じゃなきゃ仲間にならない。初めてだからと仲間に入れてもらっても、お前がその価値無しとなったらすぐに放り出されるだろう。そうしないと、自分たちも危険にさらされるんだからな」
「でも! 魔獣と戦わせてくれないんだったら強くなれない!」
「甘ったれるな!!」
思わず怒鳴りつけていた。
「戦わないと強くなれないだと!? やることをやらないでいい気になるな! たかだか素振り1000回で魔獣とやれるって? お前の頭には花でも咲いてるのか!」
「な、なっ……!」
「魔獣と戦うことは冒険者にとって当たり前の事、けれど、もっと大事なことがある」
荒ぶる気持ちを抑え、オレはガッシュの眼をしっかりと見つめる。
「『冒険者は力を持つ。だから、持たない者を守らなければならない』」
ガッシュが大きく目を見開いた。
「『冒険者は時に強大な力を得る。だがそれを振るうのは外敵に対してだけ。力を持たない民に向けるならば、それはただの犯罪者となる』」
「……」
「『力を過信することなく、破壊の衝動に負けることなく、心を鍛え、自らを律し、精進せよ。冒険者としての矜持を心に掲げ続けよ』」
「……それ、は?」
「冒険者となるときに教えられる最初の項目だ」
ギルドに加入するとき、必ず行われる『入会の誓い』。その第一条がこれだ。
誰もがこれを復唱し、守ることを誓うんだが……脱落する奴が居ることも事実。もっと悪いのは、冒険者同士の争いはこれに含まれない。ベイレスト共和国でピートたちに絡まれていた時に、誰も無関心だったのがいい例だ。もっともあれは度が過ぎていたと思うんだが。
「ガッシュ。お前が外を見たいという気持ち、わからんでもない。だが、今のままだとあの世へ一直線だ」
「…………」
「それにだな。お前は自分のルーツ……生まれを知っているのか? 古代王朝時代のゴーレムだって事を」
「知ってる。散々聞かされたんだ、いやというほどに! だから何だってんだ、馬鹿にしてるのかっ!」
「オレがいつ馬鹿にしたんだ?」
「ゴーレムだから駄目だって言いたいんだろ、そうだろっ! 岩の出来損ないだって!」
あらら、こいつ、何か間違って教えられてないか?
「何をまた。ゴーレムだから頑丈なんだろ。それはそれでひとつの長所さ、間違いなくね」
「え……?」
「問題はそこじゃない。巨人族がゴーレムの生まれだからこそ、他から狙われるんだ」
「ねら、われる……?」
意味が分からないようだ。そうだな、これは他の大陸に居たオレだからわかることかもしれない。
その時。
『ほっほっほ。そこまで知っておるとは、おぬし、なかなかやるのう』
悪代官みたいな言い方するんじゃない。オレに越後屋やれってのか!?
「オレはここの大陸の者じゃないからな。それに、小人族や巨人族から聞いた話をつなぎ合わせると、どうにも物騒な未来予測になる」
亀裂の海がなかったなら、とうの昔にこの大陸へ人族が押し寄せていただろう。そして、巨人族や小人族を種族とみなすことなく、魔獣のひとつとして駆逐していたかもしれない。
いや、それよりも研究材料で捕獲する可能性が高かった、か。
『そうよのう。知識を希求する欲に限りなどないからの』
ため息のようなゴルディマーラの声。昔にあった出来事を思い出しているようだ。
確かに、知識欲ってのは始末が悪い。元の世界でだってあったことだ。途中で止めるって事は難しいよな。
「知りたいことに上限はないよな。それがどれほど禁忌とされていたとしても」
「禁忌、って、いったい何がいけないんだ?」
「ゴーレムからどうして巨人族になったのか、その秘密を知りたいってのが居るんだ」
「秘密と言っても、巨人族だって分からないぞ……?」
頭に疑問符を乱立させたガッシュが首をひねる。その横でルーシルも、
「ワッチたちの記憶でも、そんな情報なかったと思うけど」
ほほに指をあてて上目遣いにオレを見つめる。
こら、そんな仕草をするな、色っぽ過ぎる!
『なくて当然だ。それを成したのは古代王朝の者どもじゃからな。だが、そうとわかっておっても自分ならば手が届くと思い込む輩はどこにでもいるのだ』
振り仰いだ石の顔はどこか苦々しく歪んでいる。
『魂に関する事柄は神の領域。我ら聖獣も踏み込むことが許されぬ禁止事項であるというのに、あの馬鹿どもは……!』
……ひょっとして古代文明が滅びた原因に、禁忌の技があったのかもしれないな。
「? 古代王朝とおいらたちに関係があるのか?」
「え……ワッチたちって、珍しいの?」
まだ良く判っていないガッシュと、何かに思い当たったルーシル。
「ルーシル、分かるんならおいらに教えてくれ」
「ん……あのね、つまり、このまま外の大陸に行くと」
「行くと?」
「ワッチたち、実験動物にされかねないの……」
「! 実験動物って! おいらたちは巨人族だろ!?」
「そうだね、でも、ほら、元はゴーレム、でしょ、ワッチたちって。だから」
『ゴーレムに命を宿そうという馬鹿な奴らの実験材料にされる可能性が高いのだ、巨人族の子よ』
「動かざる者」が後を締めくくる。
『そう言う意味でも、亀裂の海がある。お前たちは護られているのだよ、神に』
荒っぽい言い方になって申し訳ないです。
でも、これくらい言わないと子供って暴走しますよね。
思い込みが激しいし……。
これがブレーキになるといいんですが。
読んでくださりありがとうございます。




