第103話
新しい聖獣(?)様の登場です。
「あれは何なの?」
ルーシルがつぶやく。
「ああ、何なんだろうな、あれ」
ガッシュが答える。あっけにとられたのかその口調から棘が抜け落ちていた。
出てきた場所からそこまでは少し遠かったが、巨人族の体力は子供と言えど相当なもののようだ。息切れひとつしていない。
なるほど、あの最奥の洞穴の中で生き延びてきただけの事はあるな。
オレたちが目指した「それ」はこの平原の中にひとつきり、ポツンと在った。
実際、近くに寄ってみるとすごく不思議だ。遠目で見て「アレ?」と思うほど変わった形状なのだから。
小一時間ほど移動して、「それ」の元にたどり着いた今、オレたちは改めてその異様さに首をかしげている。
まず、地表の上に平たい長方形の石?岩?がある。この大きさは、オレとガッシュとルーシルが両手を一杯に広げて立つと、ようやくその長い一辺と同じ長さになる。短いのはオレとガッシュ半分くらいか。
その中央に不思議な物体がそびえている。その素材は岩、だろうな。
要するにどでかい岩が直立している。いるのだが。
その形状が、揺らぐ焔に見えるんだ。
これを見てオレが真っ先に思い出したのは。
(これ、〇十郎じゃねぇ?)
だった。
ブラック企業に籍を置いていたとはいえ、何年かに一度、ある程度の休みを取ることが出来る。その点、あの会社は他のブラックと違って社員を動かすことが旨かったんだろう。
オレは去年その恩恵にあやかり、10日の休みをもぎ取った。1週間は伯父貴の家へお盆休みで行くことにしていたが、残りの3日間は好きに過ごそうと決めていた。
そんななか、インターネットであちこち見ていたオレは、ある美術館で『〇島〇十郎』の巡回展が抽選で見られることを知り、駄目で元々と応募した、ら。何故か大当りを引き当ててしまったんだ。
1日くらいなら出歩くのもいいな、と軽い気持ちで行ったんだが、そこで見た『蝋燭』の絵に衝撃を受けた。
このヒト、偏執狂(失礼!)かと疑いたくなるほどに、目の前のモデルを見つめ続け、丁寧に細部の色合いや形状、陰影を描いている。小さな作品で、他のと比べればインパクトはないのかもしれない。
だが、オレにとってこの作品はカルチャーショックだった。
一見しただけではなんてことはない。だが、注視しているとあたりの風景が消え、その絵の中に取り込まれていくようなんだ。
その焔の先端が揺らいでいるような、ジジッと芯が燃える音が聞こえるような、蝋の解ける匂いがしてくるような、そんな世界にひとり放り込まれる。オレの視線が画家の見ているものと重なり、一体化する。そんな不思議な体験をした。
(焔が大地から燃え盛っている!)
第一印象がこれだ。すぐにそうではないと分かったものの、その時は驚き過ぎて心臓が痛くなったほどだ。
見知らぬ大地に屹立している「それ」は、まさしく『蝋燭』に酷似していた。それも色までそっくりに。
ちょっと違うな、と思うのは、上下の比率ではなく横幅だ。
絵では上下に細長く、しかし闇を照らす光源としての色遣いと存在をスリムな形状でアピールしていた。「それ」はもう少し横に広くて、あの存在感と共に安定感が増している。
それにしても、何故にこんなものがここに在る?
その前に…………ここは、ど・こ・だ?
『ほお。ここまで来る生き物は皆無だと思うておったが、考え違いであったのう』
それに続くのは、重低音の含み笑い。おいおい、この感じはアレかぁ!?
上を見上げれば、焔のど真ん中にヒトの顔が浮き出ていた。眉、目、鼻、口。それと口の周りの笑いじわも一緒に。壮年の男の顔だった。
声をかける前に、子供たちの頭が視界から消えた。下を見ると、ふたりともへたり込んでいる。そうだな、そうなるよな。いきなり聖獣(?)と出くわせば。
「なああんた、聖獣かい? いきなりあんたの領域に来てしまったのは申し訳ない。避けられない災害にあって、よんどころなく選んだ「穴」がここに通じていたんだ。ここに居るのがマズいなら早々に退散するから、巨人族の居る場所への道を教えてもらえないだろうか?」
「ケ、ケイン兄さま、聖獣様にそのような言葉遣いは……!」
「そ、そうだ! 無礼者と怒られるぞ!」
ふたりが蒼い顔ですがってくるが。
「何言ってるんだ。聖獣だって種のひとつ、生命のスパンが長いだけの存在だ。同じ存在同士、どうして遠慮しなきゃいけないんだ?」
「お、同じ……!」
「遠慮、しない……!?」
子供ふたりは大口開けて固まってしまった。あれ、オレ、変なこと言ったか?
首をひねっていると、低い地鳴りが聞こえてきた。目を細め、口角をあげて石の顔が笑っている。
『くくく……。同じ存在とな。そのように言われる日が来るとは思わなんだぞ』
「そうか? あ、名乗ってなかったな、済まん。オレはケイン、この子たちは巨人族のガッシュとルーシルだ。面倒事の最中だが、よろしく頼む」
『くくく。確かに面倒事ではあるがの。儂はゴルディマーラ、「動かざる者」だ』
「「っ!!」」
名前を聞いて子供たちの緊張が一層高まったのに気づく。
「お前ら、このヒト、いや聖獣のこと知ってるのか?」
「知ってるも何も……」
何度かつばを飲み込んでガッシュが声を出す。
「おいらたち、この大陸の聖獣の事を必ず教えられるんだ。ジェイルニークス様はもちろん、ゴルディマーラ様の事も知ってるよ。この地の底で、永劫の焔の流れを見守り鎮める「動かざる者」。そう聞かされている」
『ほっほっほ。それは誉めすぎであるな。儂はここでじっとしておるだけの事だ』
「いえっ、それが凄いと思うの!」
ほほを赤くさせてルーシルが叫ぶ。
「そうしてくださっているから、ワッチ、いえあの、わたし、たちが暮らしていけるんだと、そう、大祖母様に教わったの!」
『それはありがたいの。そう見てもらえるだけで、儂がここに居ることの意義があるな』
「あります、十分にあるんですっ!」
両手を握りしめてルーシルが熱弁を振るう。よほど思い入れがあるのだろう、さっきのへたり具合は何だったんだ?
一生懸命に言葉を紡ぐ少女に、「動かざる者」が微笑んだ。瞳がルーシルを見つめ、口元が柔らかく緩む。
『ようわかった。それほどまでに慕うてくれておるとはの。儂の寿命も延びるのう』
「ルーシルは聖獣様の話となると止まらないからな」
ぼそっとつぶやくガッシュ。なるほど、この暴走は予測できてたんだ。
それより、答えたガッシュの声の沈んだ調子に引っ掛かる。
「お前はどう思うんだ?」
「おいら? おいらはどうなんだろう。聖獣様の話は聞いてるけど、実際に見たことなくて。だから本気にできなくて……こんなところがあるのも、聖獣様が本当にいるのも今、知ったんだ」
「そうか。ならガッシュもほかのみんなに自慢できるな」
何気なく言った言葉だが、ガッシュの顔色が変わる。おろ?
「自慢? 何がだよ! 聖獣様に会ったことかよ!」
「会うだけでも大変だろ、聖獣って。それでいいんじゃないか?」
「はん! 聖獣が居て、おいらたちが生かされてきたなんて! おいら、そんなの信じない! おいら、もっと、もっと自由に生きたいんだ!」
あ~ららら、この子、反抗期なのか。でもな、それは逆だぞ?
「ガッシュ、ジェイルニークスがお前たちを助けてこの大陸に住まわせたのは事実だ。そうだろ」
いろんな恩恵も与えたと思うんだが、確証がないから言えないな。
「でもって、お前たちは今の集落を築き上げた。それが現実だ。認めるよな?」
そう言ってやると、否定できないことにいら立ちを覚えたんだろう。顔を真っ赤にして怒鳴ってきた。
「う……でも、でも! あそこから出るなって、なんだよそれ! おいら、もっと広い世界を見たいんだよ!」
更新が途絶えて申し訳ありません。
何とか復調してきましたが、まあだ油断は禁物!だそうです(トホホ)
不定期更新となりますが、それでもよろしければお待ちください。
読んでいただいた方すべてに心からの感謝を!




