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血色の世界  作者: 蛹
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灰色の血/4話 勇者

 なんとなくわかっていた。

 セレメの様子がなんか変だったから。

 セレメが悪夢なんだろうなって、わかっていた。

 セレメにだけ変な親近感を覚えていたから。


 セレメが死んでからもう何年たっただろうか。

 今でもセレメのことを考えてしまう。

 僕が殺してしまったセレメ。

 僕にあてて書いてくれたセレメの手紙には、悪夢の目的や悪夢の能力についてなどが、詳細に書かれていた。

 それだけじゃなく僕の心をケアするように「俺は自殺するためにサーデルを利用しただけだから」なんていう言葉も書かれていた。

 何度も何度も繰り返し読んでしまう。

 少ししか彼とは過ごしていないけど、とってもいい人だった。

 勇者なんて肩書きのついた僕なんかとは、比べ物にならないくらい。

 なんて言ったら、セレメはそんなことないって言ってくれるんだろうな。

 そんな感じがする。


「サーデルぅ。お客さんだよぉ」


 仕事中の僕は慌てて手紙を机に入れてから返事をする。

 チェルシーがお客さんを手招きして部屋に入れた。

 お客さんにそんな態度で……と思わなくもないけどチェルシーもそんなことわかっている。

 お偉いさん相手ならいつもの口調をやめて真面目にやってくれるし。


「よう。勇者様」


 コリアスさんが片手を上げて部屋に入ってきた。

 その後ろには見慣れた人たち。

 アキさん、レイダさん、メーナさん。

 彼らは族長さんが病で倒れたあと、弱った族長さんの言葉に従いながら、魔人が人間として国に住めるようにいろいろ頑張ってくれているんだ。

 僕も頑張ってはいるけど、なかなか上手くはいかない。

 最初に比べたらだいぶマシではあるんだ。

 最初は本当に大変だった。

 僕も教会に殺されかけたし。

 でも女神ラシディーリンが各地の教会に現れて「魔人は悪夢の奴隷だっただけ。今回の勇者がその奴隷の呪いを解いてくれた」とかそんな感じのことを言ったので僕は死を免れた。

 それでもやっぱり魔人の迫害は続いていて、魔人を見つけたらすぐに殺すなんてことはなくなったけど、石を投げられたりはするみたいだ。

 これからはそれを、少しづつなくしていく。

 セレメはなんていうかな。

 もっと頑張れっていうかな。

 それともよくやってるというかな。

 魔人のために悪名を背負って死んだセレメだ。

 セレメなら死ぬ気で迫害をなくしていくんだろう。

 だから僕もそうする。

 セレメの意思を受け継ぐ。


 意思を受け継ぐといえばもう一人いたね。

 悪夢モルゼット。

 最初は驚いたよ。

 悪夢モルゼットが生きてるなんて考えなかったし。

 でもセレメの魔法のお師匠様なんだって。

 だからセレメは闇以外の魔法も自由自在に操れていたんだ。

 僕も教わっているけどなかなか上手く行かない。

 セレメは一年でほとんどの魔法を習得したらしいのに。

 セレメの魔法の才能に嫉妬してしまうよ。

 それに僕が命懸けで悪夢になったセレメと戦ってたときも、実はセレメは手加減してたんだって知っちゃったし。

 本当にずるいよ。


 コリアスさんたちの報告を聞いていると、レイダさんが僕に絵本を持ってきた。

 何だろう? この本。

 タイトルは『寛容なる勇者のお話』か。

 ……寛容なる勇者って僕のあだ名みたいなもので、それをそのまんまタイトルにしてる。

 もうちょっと捻っても良かったんじゃない?

 つい苦笑いしながらもぱらぱらと読んでみる。

 セレメは完全に悪役で描かれていて、僕はものすごく聖人として描かれているね。

 なんかこれ嫌だなー。

 そんな風にいったらレイダさんがセレメの願いの為に我慢しろという。

 まあセレメがやったことと比べたら、このくらいへっちゃらだけど。

 セレメのほうが聖人だと僕は思うな。

 釈然としない僕を見て、レイダさんも他の魔人の皆もにやにやと笑いながらもう一つの本を僕に見せてくれた。

 どうやらこれは裏話で魔人限定で配るものみたい。

 セレメのあだ名みたいなもので『全ての敵(かたき)』というタイトルの本。

 やっぱりそのまんまかーって思いながら読んでみる。

 中身はとっても納得のいく本だった。

 この本はセレメの優しさがよくわかる。

 この本にセレメがくれた手紙の書きうつしを挟んで、禁書を補完してある場所に放り込んでおこうかな。

 未来の悪夢と勇者がみれるように。

 これをみてどう思うかはわからない。

 でも知らないよりはましだと思うから。


 これからも僕たちは魔人のために、セレメの夢のために、頑張っていくだろう。

 いつか魔人が幸せに生きるときが来るまで、僕は死んでも頑張るつもりだ。

 ねえセレメ。

 今どこにいる?

 輪廻を巡って何に生まれたのかな。

 傍で見てみてくれたら嬉しいな、なんてね。

 窓からそよ風が一吹き。

 冬の冷たさと微かな春の匂いを運んでくれる。

 その風の中になんとなくセレメの声が聞こえた気がした。

 そんなはずはないんだけど、なんだか嬉しくなって、僕は仕事を頑張ろうと張り切った。

 セレメ。これからもっといい世界にしていくから、君はその世界を自由に生きてね。

今日はエピローグ(?)も投稿する予定です

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