37話 思い出
「セレメ。こっちもよろしく」
「わかった、アキ」
パーティーの準備でアキとメーナと俺で料理を作っている。
レイダは不器用で料理ができないので、外で鍛錬し始めていた。
最初は手伝ってくれてたけど、溢したり焦がしたり落としたり燃やしたり割ったり曲げたりといろいろしたから、ちょっと外に出てもらったんだ。
人には得意なものと苦手なものがあるからな。
レイダは不機嫌そうだったけど。
俺はいつもと同じだ。
食べにくくて美味しい料理をモットーに作っている。
まだ昼前の時間で食べにくい料理作るとか新鮮だ。
いつもは夜だし。
「完成だね! 私、レイダちゃん呼んでくる!」
テーブルに並んだ料理を見てメーナがいう。
すぐにレイダがやってきて皆で料理を食べることにした。
丁度、昼だからな。
俺が椅子に座ると素早くレイダが俺の隣の椅子に座った。
そんなレイダをみたアキは悲しそうだ。
アキも俺の隣が良かったのかな。
なんだかそれがアキらしくて苦笑いしてしまいそうになる。
アキが俺の前、メーナがアキの横に座った。
「では食べようか」
アキの言葉を合図に俺以外の三人はお祈りする。
「「「女神ルーダ様に感謝を、この命に感謝を」」」
俺はその言葉を聞き終えたあとに小さく「いただきます」と呟いて皆で食事を始めた。
明日には俺たちは村を出発して戦地に向かわなければならない。
だから皆でのんびり出来るのは、これで最後だろう。
コリアスに作戦というか、作戦にもならないような予定は伝えたし、レイダにもコリアスと連絡ができる魔法道具も作って渡した。
知り合いに手紙も書いてレイダに預けたし、もう準備は出来ただろう。
あとは、悪夢になって、殺すだけ。
「セレメ。今日は楽しいわね」
レイダが嬉しそうに笑って俺を見つめる。
そうだな。
今はこんなこと考えずに、皆で楽しく食事して遊んで過ごさないともったいない。
俺はレイダに笑い返す。
「ああ。楽しいな」
「セレメくんの料理やっぱり可笑しいよ! この白いのびよびよ伸びるし!」
それはアキが買ってきた米を潰して練ったものだ。
作ってみて意外と美味しかったから出してみた。
「あれ? セレメは餅の作り方を知っていたのか?」
「モチって何?」
「知らずに作ったのか……。似たような食べ物があるってことだ」
へえ。アキは物知りだな。
「よく噛んで食べなさい。喉に詰まって死ぬなんて無様なまねしないようにな」
アキの言葉に頷いてよく噛む。
モチに蜂蜜や砂糖を練りこんだりしたものもあるんだけど、それなくても思ったよりお腹いっぱいになるな。
今日の夕飯分まで作ったから問題ないか。
それに体を動かせばお腹も空く。
お腹いっぱいになれば鍛錬をすればいいだけなんだ。
アキとメーナの普通の料理も食べていく。
メーナはパンを作るのが上手だ。
中に果物が入ったパンをよく作ってる。
美味しいんだよな。
そのパンで野菜をはさんでサンドイッチにするのも良かった。
ちょっと贅沢な感じがするけど今日はいいよな。
最後だから。
「アキさんの料理は不思議ですよね! 人間の街の料理を研究したんですか?」
メーナが楽しそうにアキが作った煮物を食べている。
「んー。まあ、そんなところかな」
誤魔化すようなアキの言い方に少し引っかかった。
昔のことに絡んでるのかな。
俺には教えてくれないけど。
「……戦争になって死んでしまうかもしれないから、私の秘密でも聞くか?」
アキがちょっと笑いながらいう。
アキの秘密。すっげぇ知りたい。
興味深々で俺たち三人がアキを見ると、アキは遠い目をしながら話し始める。
「私にはな、魔王が来た世界、異界の記憶があるんだよ」
「異界の記憶が?」
「ああ。私はアキという名前で生まれて死んだ。そしてこの世界に転生をしたんだ。記憶を持って。この世界に生まれて名前を付けられ、しばらくは大切に育てられた。まあ、魔人と知られてここに来たんだがな」
異界から来た黒い血の人間っていうと魔王が頭に浮かぶ。
昔、アキが自分が悪夢かもと言っていたのは、魔王と自分を重ね合わせたから、というわけか。
「私の人間としての名前はセレメ・アクアルト。セレメの名前の由来は私の名前からとったんだ」
「おい、待て。俺の名前って女につける名前なのか?」
「知らないがそうなのかもな。私は女だから」
……なんか、悲しいこと聞かされたんだけど。
この名前、気に入ってたのに、なんか気に入っていて良いのかわからなくなってきた。
でも皆は違和感なく俺の名前を読んでたし問題ないのか?
……人生の終わりが近いのにこんな話聞きたくなかった。
というか俺ってアキと同じ名前ってことになるのか。
自分の名前を子供につけるとか意味わからん。
「まあ私は今後もアキと名乗るからセレメはセレメと名乗ってくれて構わない」
あれ。とっても重大なことに気が付いたんだが。
アキの本名がセレメ・アクアルトっていうんだろ?
俺はセレメじゃん。悪夢じゃん。
悪夢セレメって今後呼ばれるだろ?
……いいのかこれ。
いや、どうしようもないけど。
これからやることも変わらないけど。
やっぱり聞きたくなかったな。
はああ、と深いため息が漏れる。
アキには悪いけど、セレメという名は不名誉な名前として世界に知られることになる。
俺以外にもセレメという名前の人には悪いな。
でももうやるしかないし。
もう、俺は悪夢だ。
人も殺した。
これからも殺す。
って、ああ。また、悪夢について考えてるよ。
今はそれを忘れて楽しもうって思うのにな。
気になって仕方ない。
つい笑ってしまった。
ダメだな。
もっと上手くやんないと。
直前まで悪夢と気づかれないように。
特にアキには。
「俺はセレメって名前な。その名前つけたこと後悔すんなよ? 今更だけど」
俺はそう笑う。
でもアキの目は見れなくて、かわりに料理を見つめて手を伸ばした。
アキは俺に名前を付けたことを後悔しないと思うけど、きっと悲しむだろうな。
コリアスとかレイダとかがフォローしてくれるといいな、なんて楽観視してみる。
死んでも輪廻で魂が巡るだけ。
またどこかで生きるからどっちでもいいのかな。
こんな考えになってきて、ますます俺は悪夢らしくなってる気がする。
ついこの間までは、人を殺したくないって思ってたのに、今では殺してもどうせまた別の生が待ってるからいいや、なんて。
わいわい話している皆を見ながら、彼女たちが死んだ姿を想像しても、似たような感情になるから、もう戻れないんだろうな。
「そういえばモルさんはどこ行ったんだ? 折角のごちそうなのに」
アキが不思議そうに聞いてくる。
「師匠はこの村に結界を張る準備にいった。結構強力な結界を張るんだってさ」
モルゼットの結界がどれだけ強いものかはしらない。
本気で張ればドラゴンの攻撃くらい簡単に防げるだろうけど膨大な魔力が必要だ。
いくらモルゼットでも戦争が終わるまでそれを維持し続けるのは無理だろう。
でもなんとかしてくれるのかな。
ドラゴンは無理でも他の種族からの攻撃を防げるくらいの魔法なら大丈夫か。
それでも長い時間攻撃され続けたら、結界の維持も大変だろうけど。
そこは俺が攻撃してるやつを減らせばいいのか。
「モルさんも大変だな。私たちも明日から頑張ろう」
アキの言葉に皆で頷く。
必死で頑張るさ。
お腹いっぱいになったので、しばらく外で剣を振るっているとモルゼットが帰ってきた。
「あっ、モルさん。テーブルに料理作ってあるので好きなように食べてくださいね」
アキが闇の魔法で糸を作って、それで服みたいなのを織るというすっごく細かいことをしながら言っている。
アキの魔法のコントロール術は恐ろしいな。
俺も見習わなければ。
といってもこの短い時間でアキ程の技術は手に入れられるわけがないけど。
でもちょっとでも練習しておけば少しは良くなるだろう。
剣より魔法を鍛えたほうがいいかな。
今後、悪夢となるから剣は使わないし。
でもお腹を空かせるためなら剣のほうがいいんだよな。
体を動かすとお腹空くし。
「ありがとう。適当に食べます」
モルゼットは家に入っていった。
さて。やっぱり俺も魔法の練習に切り替えよう。
お腹も空いたころまた家に帰って皆で食事する。
今度はモルゼットも一緒だ。
嬉しくもあり、悲しくもある。
もう外は暗くなってきているんだ。
今日が終わる時間が近い。
つまり悪夢になる日も近くなっていく。
皆とさよならする日も近くなっていく。
いやだな。
でも仕方ないことだし。
さっさと悪夢になってしまいたい、とも思う。
皆と長くいればいるほど、別れた時の寂しさが大きくなる気がするから。
そういうのは俺の気持ちの問題なんだけど。
「私以外は魔法得意なのよね。魔法の話とかついて行けないわ」
皆で魔法について盛り上がっていたら、レイダが不機嫌になった。
レイダは昔よりかは魔法を使えるようになったけど、今でも苦手意識は持っているようだ。
「レイダちゃんも魔法使えてるよ?」
メーナがニコニコしながらレイダに言うけど、レイダはぷいっとそっぽを向く。
魔法の話についていけてないからメーナの言葉を聞いてもいまいちピンと来ないんだろう。
レイダは基本、感覚でやるからな。
メーナの教えることは直ぐに吸収するけど、レイダが人に教えるとなると俺みたいにめちゃくちゃ下手になる。
というかメーナ以外感覚でやってるよな。
メーナは一般的な魔法の教わり方をしたみたいで、この中では魔法のことに一番詳しい。
俺たちが一般的じゃないんだな。
でも一般的じゃない教わり方をした俺がなんで魔法の話についていけてるのか。
レイダはメーナからある程度の一般的な魔法の知識を教えられたはずなのに。
変だな。
でも俺は魔人のために魔法を覚えたりしたからそのときに読んだ本を丸暗記しているせいとかあるかも。
それがなかったら俺もレイダみたいに魔法の話ってチンプンカンプンなのか。
「魔法は感覚で出来るならそれでいいぞ。理屈がわかれば少しやりやすくなるがそれだけだ。自分のやりやすいやり方で出来るから、そちらのほうが強いこともあるしな」
魔法のプロのモルゼットがいうならそうなのかも。
レイダは納得していないみたいだけど。
レイダは剣が強いからそんなに気にしなくてもいいと思うんだけどな。
いつの間にか作った料理もなくなってしまい寝る時間になってしまった。
もう今日が終わってしまう。
明日、この村から出て戦場へ行く。
だからもう、この村に帰ってくることはない。
家の中を記憶に刻み付ける。
家から見える景色も刻み付ける。
……終わるって実感ないな。
でも終わらせる。
終わらせるんだ。




