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血色の世界  作者:
39/44

35話 お力を

 次の日の朝。

 まだ誰もいない教会で俺は女神と話していた。


『悪夢セレメ。貴方の願いは血の色によって魔人の命が人に奪われることがない未来。それであっているわね?』


「ああ。俺の望まない未来だったら呪うぞ」


『悪夢の言葉だから怖いわね。約束したもの。ちゃんと守るわ』


「俺は仕事を成し遂げればいいんだな?」


『ええ。出来るだけ多くの人を殺して』


「俺の多いという基準で構わないのか?」


『いいわよ。その仕事振りで叶えられる未来の形が変わるだけだもの』


「……そうかよ」


『あとは見守らせて貰うわ。頑張ってね。ちゃんと悪夢になってくれるのなら、何をしても構わないから』


 女神の言葉に俺は小さく頷く。

 まずは村の外の地下牢に向かおう。

 コリアスを仲間に引き入れるんだ。

 誰よりも俺に協力してくれることだろう。





 モルゼットと話し合い、ちゃんと作戦をたててから村の外の地下牢に来た。

 中にこっそりと入り込んで、俺はコリアスを探す。

 地下牢は少しカビ臭く、捕まった人たちは皆やつれていた。

 この人たちは何かしらの罪を犯したのだろう。

 殺人か、窃盗か、スパイか、他の罪か。

 牢屋の並んでいる通路の奥の方まで俺は歩いていく。

 そして、コリアスをみつけた。

 人が来て顔を上げたコリアスは、俺を怪訝そうに見つめる。


「……セレメ。何のようだ? 悪夢の使いを倒しにでも来たか?」


 少しやつれて周りの人と凄く馴染んでいるコリアスが苦笑いしながら言っている。


「コリアスは本当に悪夢の使いなのか?」


 女神のせいで第二の悪夢となっているコリアスに聞いてみる。

 まあコリアス自身は第二の悪夢なんて知らないし、自分が悪夢と関係ある存在になっているなんて考えもしないだろうが。


「ちげぇよ」


「だったら悪夢の使いになる気はあるか?」


「ない。悪夢に会ったらぶっ飛ばすさ」


「だろうな」


 俺は少し笑って見せながら床に座る。

 コリアスと同じ目線だ。

 コリアスは捕まってからずっとここで暮らしていたんだろう。いつ処刑されるかわからない恐怖のなかで。


「なんだ? 同情しにでもきたのか?」


「いいや。協力の要請にきた。悪夢を見つけたから倒す手伝いをしてくれ」


「み、見つけたのか!?」


「内密なんだ。他にも捕まっているやつがいるんだし、静かに」


 コリアスが入っている鉄の檻の両隣と、俺の背後の檻にいる悪夢の使いとされた奴らが、耳をすませているのが見て取れる。


「わ、悪りぃ」


 コリアスが小声で謝った。

 まあ人に聞かれても別にいいんだけどな。


「それで協力してくれるのか?」


「もちろんだ」


「裏切ったら竜の巣に放り込むからそのつもりで」


「上等だ」


 コリアスの言葉に俺は頷く。

 これで心置きなくやれるな。

 俺は深呼吸してから立ち上がった。

 わざと右手に炎を、左手に雷を纏わせる。

 そして俺たちの会話を聞いていた奴らを全て焼いた。

 初めて人を殺した。

 肉の焼ける匂いが吐き気を催す。

 気分は最悪だな。


「……セレメ?」


「コリアス。俺が悪夢だ。俺に協力しろ。逆らえば殺す」


「……お前が悪夢だったのか」


 コリアスが頭を抱えて深く長いため息を吐く。


「悪夢を倒すとかいうのは嘘なんだな?」


「嘘じゃない。誰が悪夢であろうと俺はそいつを倒す」


「……おい、それ、マジで言ってるのか?」


「ああ。昔からずっと言ってるだろ?」


「……そうだな。そうだった。お前はそういうやつだ」


 俺は炎の魔力を使って鉄の檻をぶち壊す。

 そしてコリアスを連れて森の中に逃げ込んだ。

 木の陰に隠れていれば、しばらくは問題ないだろう。

 少し気が抜けたせいか、俺は抑えていたものを抑えきれなくなって嘔吐した。

 ……人の焼ける臭いはキツイ。

 コリアスが俺の背中をさすってくれたお陰で、すぐに楽になったけど。


「大丈夫か?」


「ああ。大丈夫だ」


「人を殺して吐いたのか?」


「……まあそんなところ」


「そうか。人を殺したくないのか?」


「当たり前だろ」


「……悪夢だからって皆が皆、好んで殺しをしているわけじゃないのか」


「そうだな。俺は子供の頃まで本気で悪夢をこの手で倒す気だったし」


「生まれたころから自分が悪夢と知ってたのか?」


「知らなかったよ。知っていたら悪夢を倒すとかほざいてないから」


「そりゃそうだわな」


 俺は大きくため息を吐く。

 まだ少ししか人を殺していないのに、こんなんで大丈夫だろうか。

 もっと多くの人を殺すことになるのに。


「セレメは悪夢になるのか? ならない道もありそうなもんだけど」


「俺が悪夢にならなければ、魔人はもう助からない」


「……どういうことだ?」


 そうか。

 コリアスは牢屋に閉じ込められていたから知らないのか。


「人間の国の皇女様を連れ去ったせいで、俺たちはほぼ全ての種族から宣戦布告されてるんだ。最悪だろう? 女神が仕組んだんだろうけどな」


「……だからってどうして悪夢になる必要がある?」


「悪夢の力はコリアスの想像以上に強いものなんだ。山を更地にしてしまうことも可能なくらい。人が集まる戦争で、その力を使えば全ての種族が俺と敵対するだろう」


「それで戦力を奪って撤退させるのか」


「……まあそんなところ。勇者がいるからたぶん俺は死ぬけど」


「……サーデルに頼めば殺されずに済むんじゃ?」


「沢山の人を殺すんだ。そんなやつに生きていてほしくないだろう? それに俺は許せない。人を殺さない悪夢は見逃すつもりだったけど、もう人を殺したんだ。人を殺した悪夢を見逃すわけがない」


「そうか」


「コリアスはしばらくここで隠れて暮らしてくれ」


 俺はそういってから、昔コリアスがくれた剣を渡す。


「この剣で魔物を狩って食っといて」


「……協力してほしいっていうくらいだし、俺に何かさせてぇんだろ?」


「そう。説明は今度する。牢屋のやつら死んでるのに俺がいなかったら族長に怪しまれるし」


「わかった。頑張れよ」



 俺は普段は使わない転移の魔法で自分の家に帰る。

 アキは族長の手伝いか、戦争に参加する人たちと鍛錬だろう。


「セレメ。帰ったか」


 モルゼットがお茶を飲みながらいう。

 モルゼットには俺とずっと一緒にいたと証言してもらうことになっている。

 よそから来たモルゼットの言葉を信じてくれるかはわからないが。


「コリアスという男は仲間になってくれそうか?」


「たぶんね」


「そうか。あとは勇者だな」


「ああ」


「……セレメでも悪夢になるのなら、この先の悪夢も運命には逆らえないのかもな」


「それはどうかな。俺みたいに大切なものがないなら、追い詰められて悪夢になるなんてことにはならないんじゃないか?」


「大切なものがないなら余計に悪夢になるだろう」


「そうかな」


「女神から与えられた力だ。好き勝手にしたくなるだろう。その最たる例が魔王だ。私たちが当たり前に着ている服や使っている魔法道具はもともと魔王が考えたものだという。全ての属性を一人で扱えるから、複雑な魔法道具も一人で作れた。そうやって好き勝手した結果、私たちは魔王の発明したものを作り、日常的に使っている。彼に大切なものがあったのかは疑問だが、異界から来たのだ。何もなかったと考えるべきだろう」


 そういうもんか。

 自分のこと以外はどうでもよかったとかそんな感じなのかな。

 俺にはよくわからないけど。



 しばらくして息を切らしているアキが家に戻ってきた。


「セレメっ! コリアスが逃げ出したらしい!」


 そういったアキの後から、今にも死にそうになってふらついている族長がやってきている。

 アキがこの様子だから族長も走ってきたんだろう。

 ……大丈夫か?

 とりあえず二人に水を飲ませた。

 これで少しは落ち着いて話せるだろう。


「それでコリアスが逃げたって本当?」


 俺は二人が落ち着いたのを見計らってそう聞く。


「そうなんだ。鉄格子が溶かされていたし、他のやつらも焼かれていた。その中にコリアスがいなかったからコリアスがやったとみて間違いないだろう」


 アキが悲しそうに低めの声で、俺の言葉に答えてくれた。


「今まで逃げていなかったのに、何で今更逃げたんだ?」


 一応俺は何も知らないというふりをする。

 アキは首を横に振ってから疲れたようにドカリと椅子に座った。


「どうして今更逃げたのかはわからない。悪夢と本当に手を組んでいるのかも知れないし、牢屋の環境に耐えられなかっただけかもな」


 俺が納得するように頷いていると族長が俺に近付いてくる。


「セレメくんはずっとここにいたのかのう?」


「ああ。師匠と話してたな」


「そうかのう。……本当じゃよな?」


 族長がいうのでもう一度肯定しようと口を開きかける。

 でも怒りの表情のアキに先を越された。


「おい族長。セレメがコリアスを逃がしたと? セレメはいくら親しい相手でも魔人のためにならないなら逃すなんてしない」


 アキが俺を信頼してくれている。

 違うんだよ。俺が逃したんだ。

 それを言うわけにはいかないから、心苦しい。

 意識して感情を顔に出さないように無表情を保つ。


「……そうじゃのう。でもセレメ君は魔人のためになるなら逃がすのじゃな」


「族長。何故セレメを疑う?」


「別に疑ってるわけじゃないのじゃが。ただの確認じゃよ」


 ここまで聞いてくるってことは、族長は勘づいているのかな。

 俺がなにかしようとしてるって。


「確かに俺は魔人のためなら何でもするよ。でもコリアス一人を逃がしたところでいい事なんてないでしょ。コリアスの血は赤いし、それを見せて人間側についたら最悪だ」


 俺は悪夢の力ですぐにコリアスのもとに転移出来るけどな。

 族長もそこまでは知らないと思う。

 そんな魔法、普通は使えないから思いつくのも難しいはず。


「それもそうか。変に疑うような真似してすまんのう」


「別にいいよ。疑うのは仕方ない。こんな状況だし」


「コリアスくんを見かけたらすぐに捕まえて儂のところに連れてきてほしいのじゃ」


「了解」


 族長は少し休憩してから村の中心に戻っていった。

 アキは今夜の夕飯の材料を買いに行ってしまう。

 ……今のうちか。


「モルゼット。少し出かけてくる。アキが戻ったらコリアスを探してるって言っといて。夕飯までには戻る」


「わかった。気を付けていけ」


 俺はモルゼットの言葉に頷いてから自分の部屋に行き勇者に連絡をとるため魔法道具を起動させた。

 するとすぐに勇者と繋がった。


『セレメ。どうしたの?』


「悪夢を見つけたと言ったらどうする?」


『え……。見つけたの?』


「そう。でも俺にはどうしようも出来なそうだ」


『そんな強そうなの?』


「強いっていうか……どうやっても攻撃が当たらない感じ?」


『何それ』


 まあそういう反応になるよな。

 でもどうやっても自分を殺すほどの攻撃は、自分には当たらない。

 謎の力で遮られてしまう。

 何しても自殺は無理だ。


「それはともかく今は暇か?」


『暇ではないけど話くらいなら』


「周りに人はいないな?」


『うん』


「……今からそっち行く」


『えっ! こっち来てるの?』


「……とりあえず行くから」


 勇者の魔力をたどって俺は転移する。

 そこは広くて豪華な部屋だった。

 白を基調としている部屋。

 目の前には開放感のある窓。

 足元の絨毯は赤くフカフカしていて、壁には防音の魔法がかけられているのがわかる。

 天井には大きなシャンデリアがあり、左に視線を移せばベッドの天蓋が目に入った。

 右側に目を移せば机の上に魔法道具を置き、椅子に座って首を傾げているサーデルの姿があった。


「サーデル」


「ふぎゃっ!?」


 豚みたいな変な驚き方をしているサーデルが振り返って俺と目を合わせる。

 口をあんぐり開けて俺を指さしているな。

 どうしてここに? って感じだろうか。


「サーデル。もし悪夢と取り引きしないかっていったらどうする?」


「……いきなり言われてもちょっと」


 まあそうだろうな。

 取り引きの内容を先に言おう。


「悪夢は人を殺すから勇者は役目通り悪夢を倒してくれって」


「はあ? それなら言われなくてもやるよ」


「そうかな」


 いわないとやらない気がするけど。


「……悪夢を倒した後、どうやってでも人間に魔人を殺させないでくれよ」


 これも言っておいた。

 魔人が生き残るには皆の力が必要だ。

 俺がいなくなった後の事は、俺の信頼している人に引き継がせとかないと。

 女神だけじゃ心配だから。


「わかった。出来るだけやってみるよ。それやると僕が処刑されそうだけど。セレメも協力してね」


「もちろん。最大限魔人と多種族を協力させる。そうやって仲良くなってもらわないと」


 俺の言葉を聞いた勇者が一瞬目を伏せた後、俺の名を弱々しく呼ぶ。


「……ねえセレメ」


「なに」


「悪夢って誰?」


 やっぱり聞くよな。

 俺が悪夢だ。

 そういってしまいたくなるけど、それはダメだろうな。


「誰か知っても悪夢を倒せる?」


「……倒せないかもね」


 ほーら。やっぱり。


「だったら言わない。絶対倒して貰わないといけないから」


「……倒せるかな」


「倒せる。倒すときは魔人と協力してくれるとなお良いかな」


「わかった。悪夢はいつしかけてくるの?」


「もちろん戦争のとき。もうこれは戦争じゃなくただの蹂躙になるだろう。悪夢はそれだけの力を持っている。その悪夢と勇者の戦いが始まらなければ、普通に魔人が全滅していまうから」


「そうだね。……ごめんね。僕は何もできなかったよ。陛下に何度か考え直してっていったけど無理だったし」


「それは仕方ない。こんなのどうしようもない。死ぬ気で抗わないともう生き残れない」


「……僕も死ぬ気で魔人を守り抜かないとね。セレメは目標に向かっていつもまっすぐだから止められそうにないし」


 ……そろそろ帰ろうか。

 アキが帰ってくる。


「じゃあな。サーデル」


「もう帰るのか。……またね。セレメ」


 俺は振り返ることなくサーデルの部屋の扉から外に出る。

 ドアを閉めたらすぐに転移して家へ帰った。

次話は10月13日投稿予定です


登場人物ちょこっと紹介

アキは幼少期の記憶を鮮明に覚えている。そのため両親に魔人だからと捨てられ教会に殺されかけたこともよく覚えている。それからは両親から貰った名前は捨て、今は魔人アキと名乗る。それでも完全には両親から貰った名前を捨てることは出来なかったらしい?

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