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血色の世界  作者: 蛹
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34話 運命

 勇者と連絡しながら戦闘の準備を進めていく。

 人間の魔人全滅作戦は想像以上に大規模だった。

 そのため人間側の準備期間が長い。

 俺たち魔人はその間に隠れ住める場所を探し、移動する経路を調べた。

 一番安全なのはモルゼットがいるあの小さな島。

 でも他の魔人の村も一緒だから島に住むのは少し狭い気がする。

 その前にモルゼットと交渉になるか。


 次の候補に竜の巣。

 レジェンドドラゴンのガブロドラの住み家だ。

 でもガブロドラは女神側だから、女神になにか言われれば魔人なんて消し去るだろう。

 ここも保留。


 あとはどこかの森か、もっと別の島。

 地下という選択肢もあるけど、村ごとにばらけて隠れ住む選択肢もある。

 俺の仕事は隠れて住めるかどうかを見に行くこと。

 ロキの抜けたいつものメンバーとリーダーとして参加しているアキで調査している。


「ここも駄目だ。ここはエルフの狩場になっている」


 世界樹ある樹海のなか、アキが険しい顔で言った。

 やっぱりこの世界樹の森はエルフの監視があるようだ。

 広いから隠れ住めるかと思ったんだけど甘かった。

 何週間か隠れながらここにいたけど、住むとなると絶対見つかる。

 ここは無理だ。


「……私たちは隠れ住む場所さえないのか」


 アキが悔しそうに拳を握った。

 世界は広いんだ。

 隠れ住むくらい出来るだろう。

 ……ただ女神がまた何かしたら?

 あれでも神だ。

 何でも出来そうだよな。

 何をされるか、わからない。

 隠れ住むことが出来ないように何か仕掛けてくるかも。

 ……怖いな。


「皆、帰るぞ」


 アキが険しい顔のまま言い、着ている黒いローブをひるがえした。

 俺たちはアキの言葉に従い、影の中に潜って移動する。





 村に帰って来て族長に今回の調査の報告を皆でした。

 族長は深いため息を吐いて天井を見上げる。


「どこもかしこも駄目じゃな。まるで世界が儂らを殺そうとしているかのようじゃわい」


「それはどういうことですか?」


 アキが怪訝そうに聞いた。


「隠れ住めそうな場所はいくつかあったのじゃが、強い魔物が住み着いていたり、調査中に災害が起きて生き埋めになりかけたりするんじゃよ。いったいどうなっておるのか」


 ……。

 最悪だな、それ。


「もう、戦える者は戦うしかないんじゃろう。戦えない者は一時的にでも森の中に隠れておればいい。儂らが死んでも魔人はなんとか生き延びられるじゃろう。それでもダメなら、諦めるしかなかろう」


「……もうそこまで酷いのですか、族長。」


「そうじゃ。アキちゃん。魔族も儂らを見捨て、人間と手を組んだという情報が入った。他の種族も悪夢を倒すために魔人を殺すといっておる。もともと儂らが人を殺せばすぐにこうなることになっておったのだろう。……コリアス君は魔人ではないのだがのう」


 人間だけでも脅威なのに魔族も他の種族も手を貸すということは、もうどうしようもないじゃないか。

 助かる方法は?

 魔人が生き残る方法。

 どうすればいい?

 いや、わかってはいるさ。


「セレメ君。君の言っていた師匠はどっち側にいるんじゃ?」


 族長の言葉。

 どっち側って、人間か魔人かってことか?

 モルゼットは……どっちだろう。


「たぶんどっちでもない」


「じゃったら魔人側に協力を頼んでくれんかのう?」


「……わかった」


 モルゼットが協力してくれるかは、わからない。

 でも聞いてみよう。

 名前とか顔とか出さなければ、もしかしたら少しは手伝ってくれるかもしれない。

 皆と別れた後、俺は魔法でモルゼットに連絡を取った。


『セレメか。どうした?』


「魔人が滅びかけてるから少し力を貸してくれないか」


『人はもう殺さないぞ』


「殺さなくていい。殺されないよう魔人を守ってくれていれば問題ない」


『敵は何だ?』


「魔人以外の種族のほとんどが敵だろうな」


『……相当酷い状況になっているのだな』


「そう。だから連絡してるんだ」


『すぐそっちに行こう』


「ん。ありがとう」


『……人は殺していないな?』


「殺してないよ」


『そうか。ではまた後で』


 通信が切れた。

 族長にモルゼットの名前は伏せて、師匠が来てくれるという話をした。

 族長はモルゼットを知っているみたいだし、伏せても意味ないかもしれないけど。



 そして連絡してから半日ほどでベージュのフード付きローブを着たモルゼットがやってきた。

 ついたという連絡があったので、門のところに来てモルゼットを村に招き入れる。


「ここがセレメの育った村か」


「そう。……族長のところ行くけどいい?」


「ああ」


「族長は昔、師匠が逃げる時に手助けをしたっていっていたから知り合いかもな」


「なに? もう百年ほど昔だぞ? まだ生きていると?」


「そのとおり。長生き過ぎだよな」


「私も老けたから私の正体はわからんとは思うが……」


「それならいいんだけどさ」


 話しながら歩いていると武器を運んでいるアキに遭遇した。

 アキは俺の隣にいるモルゼットを見て首を傾げている。


「セレメ。その人は?」


 モルゼットが来てくれるっていう報告は族長にしかしてなかったな。

 俺はアキにモルゼットを紹介する。


「この人は俺の師匠だ」


「あなたがセレメの師匠……」


「初めまして。師匠のモルです」


 モルゼットはモルという名で通すようだ。

 忘れないようにしておこう。


「どうも。私はセレメの育ての親であるアキです」


「あなたがアキさんですか。セレメが話していましたよ。とてもいい母親だと」


「ちょっ、モルゼ……モル師匠!」


 危うくモルゼットというところだった。

 いきなり暴露しないでほしい。

 絶対アキも調子に乗るし!


「行方不明だった期間も私のことを忘れていなかったのだな。セレメ!」


 アキが嬉しそうに言って武器を道の隅に置いている。

 これはハグしてくる流れだ。


「師匠。走るぞ」


「なぜ?」


「アキに捕まる前に逃げるんだよ!」


 アキに拘束の魔法を使ってそのまま逃げ去る。

 今回はハグを回避できた。

 あれ恥ずかしいんだよ。

 しかも外だし。


 族長の家に避難して族長と会う。

 そしてモルゼットを紹介した。


「セレメくんの言っておったお師匠さんかのう。出来れば儂らと共に戦ってはくれんかのう?」


「間違って殺すかも知れない。だからそれは無理です。守るだけならいいですが」


「では戦えぬ者の護衛を頼みたいのじゃ」


「それならいいでしょう」


 他にも今の現状のこととかいろいろ話している。

 それを聞くたびに現状の絶望的なまでの戦力差に希望を失いかける。


「……かなり酷い状況ですね」


「そうじゃろう?」


「助かるのは無理なんじゃ……」


「それでも戦うしかない。儂らには逃げる場所もないのじゃ」


「……出来る限り、守りましょう」


「頼みますのじゃ」 二人の低い声音の会話に俺はただ聞いていることしか出来なかった。


 族長の家から出てモルゼットと共に俺の家へ向かう。

 もうすぐ夜だ。

 風が冷たくなって来た。

 暗くなり、魔法道具の明かりが灯り始める。

 人の街より発展はしていない。

 でもこの村はとても暖かい。

 ここが俺の帰る場所だ。

 ……ここがなくなるのは嫌だな。

 魔人が皆、殺されてしまうくらいならいっそのこと俺が。


「セレメ。今、何を考えていた?」


 モルゼットは、鋭いな。

 流石、悪夢って感じ。

 俺は素直に答えた。

 モルゼットには隠し事はしない。

 皆が死ぬくらいなら、希望を信じて俺が犠牲になりたいって。


「悪夢になろうかなって」


「……やはり運命からは逃れられないか」


 モルゼットは少し悲しそうに笑っている。

 モルゼットは運命の通り、悪夢となった。

 最凶とさえいわれるほどに。

 俺も不名誉な名前がつくんだろう。

 どんな名前がつけられるのか、ちょっとだけ興味あるかも。

 どんなに不名誉な名前でも、俺は受け入れよう。

 それだけのことをする。

 そしてサーデルに倒される。


「大切な人たちが死ぬくらいなら俺は大切な人のために死ぬ」


「そうだろうな。自らが悪夢と知って、すぐに死のうとするんだ。そうするだろうと思った。悪夢の力で殺せば、なんとかなるだろうしな」


 ここで生きていられるのはいつまでだろう。

 長くはないんだろうな。

 皆はどんな反応するかな。

 俺が悪夢で人を殺していったら。

 魔人が殺されない世界はどうなるのかな。

 少し楽しみだけど、殺されないだけで酷い世界なのかも。

 そういうのは女神の言ったとおり、コリアスに任せるべきかな。

 あとはアキとレイダとメーナ。

 彼女らには手紙を書いて俺の意思を受け継いで貰おうか。

 強制はしない。飽くまでお願いにしよう。


「私は止めないぞ。セレメ。お前は私とは違い、大切なもののために悪夢になるのだ。私とは違いすぎる」


「そうかな」


「そうだ。私は女神の言う通りに動くだけだった。守るために戦うセレメは、きっとカッコいいぞ」


 はは。カッコいいだって。

 俺の好きな言葉だ。

 人を殺す姿はカッコよくないだろうけど、それでも少しだけ嬉しかった。


「……俺は、人を殺せるかな」


「目を瞑って、魔力を沢山込めた魔法を無差別に放てば、簡単に殺せるぞ」


「へえ。……悪夢の力って出鱈目だな」


「今更か?」


「本気で攻撃に使ったことってないから」


「攻撃には使って来なかったのか。よくもまあ、そこまで運命に抗えたものだな」


「悪夢を倒したいと悪夢が言ったんだ。俺は矛盾だらけだから、運命も女神も焦って最終的にこんな戦争をしかけてきたんじゃないか」


「それもあるのかもな」


「でもこれから俺は、女神の望み通りに動くことになるんだろう。……モルゼットも俺が勇者に倒されたあと、魔人を導いてくれないか。せめて、魔人が殺されない世界を」


「それがセレメの願いか」


「ああ。ずっとそのために生きてきた」


 モルゼットが導いてくれるのなら、俺は安心して死ねるんだ。

 導いてくれなくても、魔人の手助けだけでもいい。


「そうか。……考えておこう」


「ありがとう」


 少し心が軽くなった。

 モルゼットが俺の目的を知っていてくれるだけでも嬉しく思う。

 ……あと少ししか生きられないから、これからは思いっきり楽しんで、後悔のないようにしないとな。

 モルゼットもこの村に来てくれたから、最高にいい思い出が出来るかも。

 こんなに楽しい気持ちになるのは、いつ以来か。

 ……ロキもいてくれれば、もっと良かったのにな。

 もしかしたら傍にいるのかもしれないけど。

 どこかでまた、生きているはずだから。

 輪廻を巡っているんだ。

 俺は輪廻の守護者だから知っている。

 この世界では魂の数が決まっていて、その魂が世界を巡っていろんな姿で生きることになると。


 俺が死んだら何になるんだろう。

 皆の傍にいられる生物に生まれたいな。

 でもそうしたら女神が魔人を殺させないようにするって願いを叶えてくれなさそうだ。

 やめとくか。

 最優先はいつだって魔人のことなんだ。


次話は10月5日投稿予定です


登場人物ちょっと紹介

最凶の悪夢モルゼットの左の眉から頰にかけての傷はモルゼットにとって大切だった人につけられたものだったりする

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