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血色の世界  作者:
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33話 皇女

 人の国から南に行った森の奥。

 馬車が隠してある場所に俺たちはやってきていた。

 救出対象の三人も無事にいたからアキのチームは戻って来ているんだろう。

 俺たちのチームのリーダーのコリアスは殺人に手を染めたし、いつも戦闘以外で皆を引っ張っていたロキもいない。

 ベテランリーダーに報告するのは俺がいいだろう。


「二人は休んでてくれ。俺が報告に行ってくるから」


 レイダとメーナにそう言ってから、俺はコリアスを連れてベテランリーダーの元へ行く。

 少し回復した闇の魔力でもう一度拘束し直しておこう。


「あの、報告いいですか」


 若干緊張しながら俺は忙しそうにしているベテランリーダーに声をかける。


「報告か? よし聞こう」


 俺は深呼吸してから、ゆっくりと口を開け、報告をする。


「チームのロキという男が犠牲になり、その直後にチームのリーダーであったコリアスが殺人を犯しました」


「……なんだと?」


 ベテランリーダーは眉間に皺を寄せて拘束されたコリアスをみる。

 コリアスの体には様々な色の血がかかっている。


「魔物の血、ではないのか?」


「違います」


 証明は出来ないけど、そう言っておく。

 ベテランリーダーもコリアスのことは知っているのか、信じられないものを見たような顔をしている。


「コリアス、本当に殺したのか?」


「ああ。殺した」


「そうか……。これよりコリアスのことは悪夢と手を組んだ悪夢の使いとする!」


 悪夢の使い、か。

 まあそうなるよな。

 もう牢屋から出れることはなくなるだろう。



 村までの帰路。

 俺は無心で魔物を狩り続けた。

 体を動かしていないと落ち着かないんだ。


「セレメ。少し休んだらどうだ?」


 アキが心配してくれているけど俺は首を横に振る。

 魔物も弱いし、もうしばらくは大丈夫だ。


「あんまり頑張り過ぎるなよ? セレメが倒れると困るから」


「わかってるよ。アキ。大丈夫だから」


「大丈夫じゃなかったら言っていいから」


 まだ大丈夫だ。

 心を守れている間は大丈夫。

 ロキは死んでいないし、コリアスも馬車のなかで寝てるだけ。

 そう自分に暗示をかける。

 村に帰るまではそうしてないと、致命的なミスをしそうだから。




 村に帰ってくると、コリアスは村の外にある地下の牢屋の中に入れられた。

 俺は見ていないけどアキが教えてくれたんだ。

 俺はしばらく自分の部屋ので今まで起きたことを振り返っていた。

 ロキが死んだ。

 暗示を解いたら心の中にぽっかり穴が空いたみたいで寒かった。

 でも涙は流れない。

 悲しいんだと思う。

 それなのに寂しくなるな、程度にしか感じない。

 どうしてだろう。

 ……なんのやる気も起きない。


 全部俺のせいなのかな。

 俺がさっさと悪夢になっていればこんなことにはならなかったのかも知れない。

 でも悪夢になんてなりたくない。

 でも俺のせいで周りがどんどん殺人を犯していったら?

 人が死んでいったら?

 そっちの方が嫌だとも思う。


『セレメ』


 あっ。俺が作った魔法道具からサーデルの声がした。

 だるい身体を動かして魔法道具を起動させる。


「なんかよう?」


『作戦上手く行った? あとロキくんからの悪夢の情報とか。連絡来ないからちょっと気になって』


「あー。作戦は成功したけど、ロキは情報を聞く前に死んだよ」


『……死んだ?』


「そう」


『……そっか』


「……なあ、勇者」


『……なに? 僕を勇者なんて呼んじゃって』


「頭の中に不思議な女の人の声が聞こえた」


『え? そ、それ女神様だよ! なんて言ってた?』


「コリアスが聞いた声なんだ。人間を殺せってさ」


『……本当に?』


「本当に。コリアスはその声に従って人を殺した」


『……なんか酷いことになってるね。見てないから実感ないけど。……ごめん』


 何故謝るのか。

 サーデルはなにも悪いことはしていないだろう。

 人間側から見れば、魔人に情報を流しているから見つかれば死刑確定だろうけど。


『女神様はどうして人を殺せなんて……』


「俺のせいかもな」


『え?』


 やっぱり俺は皆から離れて暮らすべきなのかな。

 それとも俺が近くにいなくても、俺と関わった人は俺の代わりに誰かを殺すのだろうか。

 ……どうすれば誰も人を殺さないでいられるのか。

 どうすれば誰も殺されずにいられるのか。

 俺が悪夢になってしまえば、いいんだろうけど。

 でも、嫌なんだよ……。

 一度死のうとしたときに死んでいられたらどんなに良かったか。

 今すぐにでも誰かに殺されたい。

 でもそれだと別の悪夢が生まれそうで怖いな。

 俺じゃない悪夢が魔人のことを考えずに動いたら、魔人はますます迫害される。

 そのとき魔族はどう動くだろう。

 やっぱり魔人は危ないからと、全滅しにかかるだろうか。

 そしたら魔人の居場所はどこにもなくなる。

 それだけは阻止しないと。


『セレメ? 俺のせいってセレメがなにかしたのか?』


「俺はなにもしてないよ。まだ、なにも」


『じゃあセレメのせいじゃないって』


「……勇者っていいな。俺が欲しかったものが上手くやれば全て手に入る」


『そんなことないよ。友達もいなくなるし、悪夢を倒すために命をかけないといけないし』


「悪夢を倒したかった。魔人の迫害を減らすために。人に見つかれば殺されるなんていう危ない日常を壊したかった。堂々と人と仲良くしてもいい世の中にしたかった。皆と楽しく生きたかった」


『出来るよ。セレメはずっと頑張ってるでしょ』


「出来るかな」


『出来るって!』


 そうかな。

 悪夢でも皆と楽しく生きていてもいいのかな。

 うん。頑張ろう。

 ロキも俺が悪夢にならないって信じてくれていた。

 もう少し頑張ってみよう。

 上手くいけばいいな。


『勇者様!』


『ふぇ!? な、なんでしょう!』


 魔法道具からサーデルと別の人の声が聞こえてくる。

 サーデルは慌てて魔法道具を隠してるのかゴソゴソという物の擦れる音が聞こえてくる。


『アリシア殿下が魔人によって誘拐されました!』


『え?』


『アリシア殿下を救出するため、魔族に交渉して魔人に戦争を仕掛けることが決定しています! 勇者様も出陣のご準備を!』


『あ、え、わかりました……』


 会話が終わったあと、魔法道具から聞こえる音がなくなった。

 おかしいな。

 アリシア殿下って人を攫った覚えはないんだが。


『せ、セレメ? 今の聞いてた?』


「聞いてたよ」


『アリシア殿下はこの国の第三皇女様なんだけど、そっちにいるの?』


「俺は知らないな。でも知らないだけでいるのかも。ちょっと調べてみる」


『うん。出来るだけ情報は流すから、戦争が起こる前に逃げてね』


 逃げる、か。

 どこに逃げればいい?

 魔族側がどう動くかにもよるよな。

 俺たちの敵になるのか、ただ傍観するのか、味方となるのか。

 戦争を許可したんだから、味方っていうのは考えにくいけど。


 魔族がいてもいなくても、戦争をするとなったら魔人は負ける。

 魔人の数は人間と比べると圧倒的に少ないから普通に負ける。

 どうしたもんかな。

 逃げるとしたらモルゼットのところとか?

 それだと本当に魔人が悪夢の使いみたいになるな。

 まずは生きること最優先だからそんなこといってられないのか。


 サーデルとの通信を切って族長の元へ行く。

 そしてサーデルからの情報を話した。


「戦争、じゃと?」


「そう。だからアリシアって皇女様知らない?」


「……なんてこったい。この間助けた少女がおるじゃろう? 彼女の名前がアリシアじゃ」


「ちゃんと村に来るのに同意してくれたんだよな?」


「勿論じゃ。魔人の味方である白い血の子からの情報じゃ」


 皇女が黒い血ってモルゼットと似てるな。

 モルゼットみたいに監禁されてたりしたのだろうか。

 それともなにか別の?

 本人に聞いてみるしかないな。


 族長とともにアリシアの元にやってきた。

 アリシアが皇女なら両親となっている彼らは誰だろう。

 魔人ではないのに。


「アリシアちゃん。少しいいかのう?」


「はい。なんでしょうか? 族長さん」


 同じ年の子たちと話していたアリシアを連れ出して、族長の家で話をすることにする。


「アリシアちゃん。君は帝国の皇女だったのじゃな」


 族長が確信に満ちた口調で言っている。

 まだ確証はないんだけどな。

 でもそのほうが話してくれやすいのか?

 そういうのは俺には向いてないからわからん。


「……何故、知っているのですか」


「とある協力者から仕入れた情報じゃ」


「……はい。私は現皇帝の娘、アリシアです」


「何故火あぶりされかけておったのじゃ」


「……私は黒い血の魔人として生まれました。代々帝国の皇族から魔人が生まれたらその存在を隠すようにされているそうで……。名前だけが晒され、後は部屋から出られない日々でした。でもあるとき勇者が現れてしまったんです。それは私が悪夢の可能性があるということ。悪夢モルゼットのような悲劇が繰り返される前にと私は殺されかけました。でも長年私の世話をしていたメイドと執事が命を懸けて私を助け出してくれたんです。でも結局捕まり火あぶりにされかけたところを魔人の方々に助けていただいて」


 じゃあ夫婦といっていた男女はメイドと執事で、国の人はアリシアが魔人って知らされていないんだな。

 人間たちの狙いは、アリシアがここにいるから折角だし魔人もろとも悪夢を消し去ってしまおうってことか?

 実際ここに悪夢はいるんだし、例えいなくても悪夢を見つけ出しやすくなるだけだ。


「苦労したのう。アリシアちゃん」


「いえ……ここは素晴らしい場所ですね。皆さん、とてもお優しいですし」


「そうじゃのう。……でもこの村の中に悪夢が潜んでいると思ったら怖くないかのう? 人間の恐れる気持ちも少しはわかってしまう。儂らも怖かったしのう」


 俺も少し怖かった。

 でも倒すと決めていた。

 ……俺が悪夢なんだと知るまでは。

 つい深いため息を吐く。

 悪夢が誰か知る前より、今のほうが怖い。

 誰かを殺してしまうんじゃないかという、恐怖が付きまとうんだ。


「怖くないですよ。飼われるだけの生活より、この村で生活していたいです。人間に殺されるより、悪夢に殺されるほうがましだと思ってしまいます」


 不思議な子だな。そんなことを言うなんて。

 でもアリシアを救出したことで戦争になるとか言ったら傷つけてしまいそうだ。

 でもその事実は変わらない。


「アリシアちゃんのことは儂らが守るから安心せい」


 族長がいう。

 アリシアは嬉しそうに笑っていた。




 族長はこれからのことを決めなくてはいけないから忙しくなる。

 だから俺は邪魔をしないように族長の家からでた。

 アリシアを保護者のもとまで送り届けてから俺が向かったのは教会だ。

 一番大切なことだろう。

 コリアスに殺人をさせたり、そういうことをしたのが本当に女神か。

 聞かなくてはならない。



 入りたくもない教会にまたやってきた。

 教会の椅子に座って女神に問いかける。


 コリアスに殺人をしろって言ったのはお前か?


『ふふふ。やっと来てくれたのね。待ってたわ』


 嬉しそうにいう女神。

 ぶん殴れるものなら殴ってしまいたいと思うほどイライラする声だ。


『女神様相手によく言えるものね。私はあなたの願いを叶えられるのよ。人間が魔人を殺さないようにできる』


 嘘だな。


『嘘じゃないわ。悪夢と約束してそれを破ったら私の命が危ないもの』


 例え嘘じゃないとしても悪夢にならなければ叶えないとか、そんな感じなんだろ?


『大正解。さっきの質問に答えましょう。コリアスっていう子に殺してって言ったわ。私の魔力を少し与えたから第二の悪夢とも言える存在になっているわね。あなたが悪夢にならないなら、彼になってもらうだけ』


 ……教会でしか女神と話せないってわけじゃないのか?


『いいえ。コリアスには私から話しかけることだけが出来る魔法を使ったのよ。そして傀儡の魔法でコリアスの思考を操った。操るっていっても簡単じゃないから別の子を使ってロキくんを殺したけどね。それにロキくんはあなたの秘密を知っていた。生かしておくのは危険でしょう?』


 ……最初からそうやって傀儡の魔法で悪夢を作れば良かっただろう。


『それだと神としての別の仕事ができない。そうなると簡単に世界が終わるわ。それにコリアスにあげた私の魔力は悪夢に程遠い力。そんなに多くは殺せない。でも人質としてなら普通に使えるでしょう?』


 ……それでも俺は悪夢になりたくない。


『そうよね。でも悪夢になるの。そうしないと魔人は全滅するわ。悪夢になって戦争で多くの人を殺して。魔人も何人か殺す覚悟で。そして皆で悪夢を倒すのよ。悪夢に囚われていた魔人は無事解放されて人間と暮らすの。素敵でしょう?』


 ……それは確かに素敵だ。

 でも俺が死んだらそのあとどうなるかなんてわからない。

 女神が約束を守るとも思えないから死ぬのはゴメンだ。


『あなたが死んでもあなたの意思を受け継ぐ者がいれば別じゃない? コリアスとか適任よ? あなたが悪夢になるというならコリアスにかかった傀儡の魔法はといてもいいの』


 人を殺したコリアスが魔人を守れるのか?

 人と仲良くなんて出来るのか?


『それは魔人だって同じでしょう。人間に殺されかけたり、殺されたりしているのに、人間と仲良くなれるかしら? 女神の力を頼ってみない? 仲良くまでは行かなくても魔人を殺させはしないわ』


 心が揺れ動く。

 でもダメだ。

 まだ全滅するとは決まってない。

 女神は決めつけているけど、逃げ切れる可能性もあるだろう。

 女神の話は最後の手段。

 出来るだけ俺は悪夢にならない道を探す。


『頑固ね。それはそれで貴方らしいのかも。いろんな勇者と悪夢がいて私は楽しいわ』


 楽しい? 魔人の命がかかっているのに?

 女神の言葉がものすごく気に食わなかったので俺は教会から走り去った。

次話は9月27日投稿予定です。


登頂人物たちちょこっと紹介

セレメくんは五歳の時、アキに「○○ぜ」(強いぜ、いいぜ、など)の口調はやめろと言われて以来、それを引きずり今も「ぜ」口調だけは封印している。


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