↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
血色の世界  作者: 蛹
36/44

32話 殺人

サブタイトル通りですので誰かが人を殺す、または誰かが人に殺されます

 空が暗くなり、教会の周りは月と星の明りのみとなった。

 今は魔法で影の中に隠れて、教会に忍び込んだチームを待っている。


 周りに人影はなく、しばらくすると静まり返った不気味な教会から人が出てきた。

 その人物たちは見覚えのある人たち。

 救出班のメンバーだ。

 よし。作戦通りに救出出来たか。

 俺とコリアスとロキとレイダとメーナは、影から飛び出し教会から出てきた人たちのもとへ行く。

 周りも警戒して敵の姿がないことがわかると素早く行動を開始した。

 救出対象の三人は俺たちのように訓練を受けている訳ではないので彼らに合わせて走っていく。

 出来るだけ魔法で俺たちの姿を隠しながら、闇に紛れながらだけど。

 このまま何事も起きなければと思っていたけど救出対象の少女が転んでしまい、母親が慌てて駆け寄った。

 膝から黒い血が出ているな。

 このまま走るのは少しキツイか?


「お母さん。この子は私が背負っていきますので今は走りましょう」


 教会に忍び込んで少女たちを助け出したベテラン救出班のリーダーが言っている。

 ちなみにそのチームの中にアキもいる。

 やはりアキもベテランなのだろう。

 コリアスもそうだろうけど今回は俺たちについていてくれてる。


 ベテランリーダーが少女を背負ってから皆でまた走り出す。

 人がいる場所は影移動で隠れながら移動するが出来るだけ魔法は温存した。

 なんとか街の出口まで来ることが出来たが、ここからが問題だ。

 出口である門はしまっているし、何故か今日は門番というか兵士? 騎士? が妙に沢山いる。

 ここからの脱出は無理だろう。

 別の門まで行くか、壁を登るしかない。


「そこにいるのは誰だ!」


 光の魔法で俺たちのいる方向が照らされてしまった。

 何故バレたのか?

 しかも光の魔法を扱うということは教会の関係者もいるということだ。

 これはまずい。


「戦闘準備! 全員全力で逃げろ!」


 ベテランリーダーがいう。

 救出対象の命が最優先だが、自分の命も大切だ。

 温存していた魔法も使って俺たちは戦いながら逃げた。

 ベテランリーダーのチームとははぐれてしまったけど、街の外の森に隠した馬車で待ち合わせているから合流は出来るはず。

 もし合流できなくても村に帰ればいいだけだ。


「コリアスさん! 敵の数、十二です!」


 一緒の方向に走っている別チームの男性が叫んだ。


「人数的にはこっちが不利か!」


 コリアスが苦い顔をしながら炎の進路妨害魔法を使っている。

 こちらは別チームを合わせても十人だ。

 それもこちらは敵を殺せないが相手は俺たちを殺す気でいるという状況。

 影移動をするにも敵に光の魔法使いがいるから、影の場所や形が動くたびに変わっていく。

 それでは影移動が出来ない。


「魔力に余裕のあるやついないか! 誰か一発濃い闇を放ってくれ!」


 目くらましか。

 少しでも時間があれば逃げ切れるかも知れない。

 それに俺たちは夜目が効く。

 黒い血ではないコリアスにも暗視の魔法がかけられているし。

 だから闇の中でも問題ない。

 やるか。


「俺がやる!」


「じゃあセレメ、任せた!」


 光の魔法で一瞬で消し飛ぶとかがないように魔力を沢山込めて闇の霧を周辺にばら撒く。

 これで影移動が少しの間使えるので、そのまま人間たちから逃げる。

 細い道に入り、しばらく息を殺した。



「ここがどこかわかるやつはいるか?」


 人間の気配が消えたころにコリアスが聞いている。

 逃げることに必死になり過ぎて道がわからなくなっているのか。

 俺も正直ここがどこだかわからない。

 ほかの皆もわからないらしい。

 仕方ない。

 風の魔法で街の様子を探る。

 ここがどこなのかなんとなく分かった。

 帰るための道も、覚えた。


「この近くには勇者ハイツの像がある教会がある。さっきの南の門以外なら東の門が一番近いと思うぞ」


「……あそこの教会か」


 コリアスが俺を見つめて苦笑いしている。

 近くにある教会は俺が殺されかけて、サーデルが育った場所だからな。

 コリアスは俺が殺されかけた教会だと知っているのかも知れない。

 まだ人間の国は二回目なのに、なんでこの辺に詳しいのかという言い訳にも使えそうだ。

 完全に偶然なのだけど。


「じゃあ行くぞ」


 皆で細い道から出た。

 十分に警戒していた。

 コリアスが左右を確認して物陰も見ていた。

 俺も風で確認したし、他の皆も慎重だった。

 誰が考えただろうか。

 こんな場所に人が潜んでいるなんて。


ザシュッ――


 無造作に置かれたゴミ箱の中から人が現れた。

 兵士でもない。騎士でもない。教会の者でもない。

 それは、冒険者だった。


「おっしゃあ! 一匹ゲット!」


「おい、魔人が十匹もいるぞ! こいつらの首、いくらになるかな!」


 別の道に隠れていたらしい仲間もやってきた。

 冒険者は、依頼をこなして生計を立てている。

 もう教会か、街か、国から魔人を倒せと依頼が来ているのか?

 

 ……ああ。コイツらぶっ殺したいな。

 だって。だって。今こいつらが首をかき切ったのは魔人なんだぞ。

 それも、仲のよかった数少ない俺の友人。

 ロキだ。

 そう。ロキが犠牲になっている。

 気づかれないように魔法で傷を治そうとしてるのになんで治らないのか?

 それはもう……死んでるからだ。


 唇を噛みしめながら敵に向かって魔法を使う。

 殺しはしないさ。

 殺したくなるほど怒り狂ってる自覚はあるけど、それは俺が悪夢になることを意味している。

 悪夢にはならない。

 ロキも悪夢にならないと俺を信じてくれた。

 だから、殺しはしない。

 魔力を全力で使うつもりで冒険者を拘束した。

 しばらくすれば動けるようになるだろうけど、その間に逃げればいい。


「逃げるぞ!」


 俺は叫ぶ。

 唖然としている皆より冷静だと思うから。

 本当は冷静になんてなりたくない。

 ロキが死んだことなんて理解したくない。

 でも誰よりも先に理解はしてしまったし、誰よりも冷静になってしまってる。


「で、でもロキが!」


 レイダが珍しく泣きそうだ。

 でもな、もう無理だ。

 ロキの首は半分も繋がってない。

 もう治らない。

 置いていくしか、ない。


「ロキはもう助からない!」


 レイダが俯いてロキを見た。

 レイダは頷く。

 助からないとわかったんだろう。

 そうなった場合は、置いていく。

 救出班に入った際、そう教わった。

 そうだろう?


 皆で逃げようと走り出した。

 でもコリアスがいないことに気が付く。

 コリアスのことだからすぐに追いつくだろうけど、俺は嫌な予感がして後ろを振り返った。

 振り返ってしまった。


「……え」


 どうして、コリアスは、血まみれ、なんだ?

 俺は立ち止まってありえない光景に唖然とする。

 コリアスがまた一人、俺が拘束していた冒険者の首を跳ね飛ばした。

 躊躇もなく、無表情で、淡々と殺している。

 拘束していた冒険者があっというまに殺された。

 ……なんでだ?

 なんでだよ、コリアス。

 お前、この中で一番のベテランだろう。

 仲間が死んだらどうするべきとか、魔人が人を殺しちゃいけないっていう掟とか、一番わかってたはず。

 仲間の死も、今日が初めてじゃないだろう。

 なのに、なのにどうして殺したんだ!


 皆もコリアスの行動を見て固まっている。

 メーナなんてロキの死でも我慢していたのに、コリアスの行動のせいで泣き出してしまった。

 

「……行くぞ」


 コリアスが言う。

 なんでそんなに普通なんだよ。

 人を殺したんだぞ?


「なんで殺したんだよ……」


「女の声が聞こえたと思ったらなんか殺してた」


 女の声?

 気になる言葉に詳しく聞いた。

 頭に響く、儚げなのにとても存在感がある不思議な声だという。

 ……ハハハハ。

 そんな女なんて女神ルーダ・ラシディーリンくらいだろうなあ。

 俺が悪夢にならないから、俺の周りの人に人を殺させると?

 そういうことか?

 俺の代わりに、悪夢になってもらうってわけか?

 まさかそのためにロキを殺したりしてないだろうな?

 ああああ、クッソが!

 考えるのはとりあえず後!

 俺はこれからコリアスにこれ以上人を殺させないようにしながら、皆を無事に村まで連れていく。

 この際魔力温存なんて言うのはなしだ。

 皆は貧血にならないように、魔法はあまり使わせないようにしておかないとな。

 まだいける。

 闇の魔法に見せかけて他の魔法を使うとかすれば、大丈夫だ。

 俺はそう簡単に貧血で倒れるなんてことはないから。

 俺はコリアスを拘束してから皆に声をかける。


「俺はもう魔力の温存はしない。というか出来ない。だからお前らは温存しといてくれ。俺は街で魔力を使い切るが、お前らは森で俺を守ってくれればいい」


「せ、セレメくん。どうしたの? なんか声が怖いよ」


 メーナに言われてしまう。

 怒りが漏れているか?


「ゴメンな。メーナ。魔法に集中するから話しかけないでくれ。黙ってついてきてくれればいいから」


 今、これ以上話しかけられるとどうしようもなく自分が情けなくて、色々な怒りで泣きそうになる。

 今はやるべきことがあるから、俺には泣く暇はない。


 やるべきこと。

 皆を影の中に入れてから遠くの影まで移動する。

 普通、影移動は遠くに移動するときほど魔力を使う。

 一メートルずつ影移動して同じ距離を移動したほうが魔力の消費は抑えられる。

 だから普通こんなことしないんだ。

 大通りに来て、一直線に見える東の門まで一気に影移動するなんて。


 そして門の扉まで来たら扉の隙間から外を覗き込み、また影移動をする。

 脱出は成功した。

 でも流石にこの距離を移動するのは俺の闇の魔力だけじゃ持たない。

 結構ぎりぎりだった。


 森の中に逃げ込んで、南の門近くの森まで歩いていく。

 闇の魔法は森に入ってから二回使ったあとは使えなくなった。

 魔力切れだな。

 魔物が襲ってくると俺は剣で対応するしかない。

 他の属性使うわけにはいかないし。

 ほとんど俺に届く前に皆が魔物を狩ってくれてるから俺はコリアスに集中できる。

 コリアスを拘束している闇の魔法が、どれだけの時間持つかはわからないけど。

 コリアスは抵抗はしなさそうだけどな。



「セレメは悲しくないのか? ロキ、死んだぞ」


 コリアスがうるさい。


「セレメ? 聞こえてるか? ロキは死んだんだ」


「うるせぇな」


「なんでそんな冷静なんだ? まるで人が死ぬことをなんとも思ってねぇみてぇだ」


「そんなわけないだろう!」


 つい、大きな声を出してしまった。

 慌てて口を押える。

 人間に見つかるかもしれないんだ。

 落ち着け。


「俺が冷静なのは、魔人のための最善をずっと考えてきたからだ。そのためなら例え自殺同然の目標を目指したりもする。悪夢を倒すとか、勇者と仲良くなるとか。……あとはこれ以上誰も死なせないためには冷静さが必要ってだけ」


「……セレメはなんか、人間じゃないみたいだな」


 どうしてそう思った?

 普通ではないにしても人間の思考だろう。


「あまりにも感情に左右されなさ過ぎて変だ」


 ……心が追い付いてないだけだよ。

 ロキが死んだのは頭では理解してても、心ではどうだろう。

 後ろを振り返れば、まだそこにロキがいる気がしてしまうくらいなんだ。

 だから今はロキは生きているということにしておく。

 俺の心を守るために。

 悲しんだりするのは村に帰ってからだ。

 ロキの死よりショックなのがコリアスの殺人だけど。

 誰かが死ぬかも知れないというのは、救出班に入った時点で覚悟していた。

 でも人間を殺さないという掟を破るなんて考えてなかったんだ。

 そりゃショックだよ。


「どうして簡単に人間を殺せるんだよ。コリアスこそ人間じゃないみたいだ」


「……それは言えてるかもな」


 コリアス自身もよくわかってないのか。

 俺は人を殺したくない。

 でもこのままだと俺の周りの人たちが殺人鬼になっていくかもしれない。

 俺はどうするべきなんだろうか。

 悪夢になる?

 ……絶対嫌だ。


 もう考えこんじゃ駄目だ。

 仲間との合流が先だ。

 考えるのは村に帰ってからでも遅くはない。

次話は9月19日投稿予定です。


登頂人物たちちょこっと紹介

ロキくんは村の人全てと知り合いで、現在も救出班や潜入班の知り合いを増やし続けていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。