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血色の世界  作者: 蛹
33/44

灰色の血/3話 魔人

一人称はセレメくんのものではありません。

読まなくても問題はないので読み飛ばしOKです。

 魔人が現れてから街の警備が厳しくなってしまった。

 夜に勇者ってこと隠して街をぶらぶらするのが最近の楽しみだったのに。

 勝手に城から抜け出すのは悪いことだから、これを機にやめようかな。

 暗い部屋の中、勇者に与えられた城の部屋のベッドに仰向けに寝ながら思う。

 やめるにしてもやめないにしても、今日は街に出られないな。

 このまま寝ようか。

 目を瞑ってみる。

 ……紫の髪と青い瞳の男が頭に浮かんだ。


 彼は最初ヘルマンと名乗る商人の見習いだった。

 本当はセレメという名前で黒い血をその身に流す魔人だ。

 ちょっと田舎者っぽいところもあったけど、あまりにも普通の人間で全く気づくことが出来なかった。

 セレメは答えてくれた。

 魔人をただの人間じゃなく、悪夢の使いという化け物にした悪夢を憎んでいると。

 それって普通人間のほうを憎むんじゃないだろうか。

 もう一度会ってそういう疑問とかの話が聞きたい。

 魔人は人間を憎んでいないのか。

 魔人を悪夢の使いとしたのは僕たち人間だと思うんだ。

 だって悪夢は一度も魔人を仲間だとも手下だとも言っていない。

 そんな記録は全くなかった。

 悪夢は黒い血だから、悪夢かも知れない魔人を人間が怖がって勝手に悪夢の使いと決めつけたんだ。

 勝手に決めつけられた罪のない魔人の子は直ぐに処刑されてしまう。

 ……魔人と繋がりないな。

 僕は勇者という立場だ。

 教会の情報が耳を澄ませばどんどん聞こえてくる。

 そのなかにたまに黒い血の子供が生まれたとか、今度どこどこで処刑されるんだとか、そういう情報も聞こえてくるんだ。

 僕が勇者なんだと女神様に言われてから、教会で教わったことに疑問を持ってしまっている。

 本当に悪夢も魔人も悪なのか。勇者が悪なんてことはないのか。

 そんなことばかり考えてしまう。

 でも少なくとも人間も魔人も悪夢を悪と考えているんだよな。

 女神様のお言葉を信じるなら、僕は悪夢を倒すべきなんだろう。

 セレメも勇者が希望の星なんだといってくれた。

 ……まだ何も始まってないのにこんなこと延々と考えてたって仕方ないか。


 悪夢ってどんな人だろう。






「はあ!? 魔人の住むところに行きたいだあ!?」


「しー! 声が大きいよ」


 翌日、僕の訓練を手伝ってくれているベリンダとチェルシーに魔人に会いたいから彼らの住んでいるところに行きたいと言った。

 ベリンダが凄くビックリしてしまったけど。

 僕の考えや神父様たちにも話していない悪夢が英雄という話も、二人にはしているからそんなに驚かれないと思ったのに。


「流石にそれは無理だ」


 この一年で話しやすい口調で話してくれるようになったベリンダが眉を顰めて首を横に振った。

 僕もそれは無理だろうと思っていたので頷く。

 叶わないことを口にして誰かに否定してもらうだけで、やっぱりそうだよなと僕は諦めることが出来る。

 一人で考えていたら一人で実行してしまいそうで怖いから。


「こっそり抜け出してぇ行ってみるのはいいんじゃなぁい?」


「魔人が攻撃してきたらどうするんだ」


「サーデルくんは勇者だよぉ? 強くなったから大丈夫だってぇ」


「サーデルや私たちが攻撃したら魔族の国と戦争になるかも知れないぞ?」


「心配しすぎだよぉ。サーデルくんの友達の魔人くんだっているしぃ」


「一緒に観光していた紫髪の男か? 彼の立場だって考えろ。勇者と友人と知られたら裏切り行為とみなされて処刑されるかも知れないんだぞ」


「さっきぃサーデルくんが言ってたじゃなぁい。勇者は魔人にとっても希望の星なんだってぇ。称えられるよぉ」


「魔人の中のルールもよくわからないんだぞ」


 なぜかチェルシーは魔人に会いに行くことに賛成している。

 半分冗談なんだけど……。


「私ぃ、サーデルくんのお友達とお友達になりたぁい!」


「馬鹿なのか? 行くにしても移動は徒歩になるんだぞ?」


「私の風の魔法でぇ空を飛べば良い!」


「……本気で行く気か?」


「ベリンダは行かなくてもいいよぉ? 私とサーデルくんで行くもぉん」


「わかった。行こう。いつ抜け出す? 今は警備が厳しすぎる」


「そうだねぇ。なにか別の事件起こせばぁ?」


「そうだな。それも無害なものがいい」


「ちょっと時間がかかるけどぉこういうのはどぉお?」


 僕が言い出したことなのに僕が置いてけぼりにされている。

 別に行かなくてもいいんだけど。

 でも二人は楽しそうにどこかに爆発音だけなる魔法道具を設置しようとか言う話をしている。

 せっかくだし僕も参加しよう。

 僕もセレメに会いたいし、嘘じゃないセレメを知りたい。

 なんでか知らないけど凄い親近感があるから。

 例えるならずっと昔から知っているような、親友とか幼馴染とか。

 そんなふうに感じるくらい気の合う友達だ。





~~~~





 一か月がたったころ。街で事件を起こし、それに紛れて抜け出してきた僕たち三人。

 魔人の村までチェルシーの風の魔法で空を飛ぶ。

 僕も風の魔法が扱えるはずなんだけどどう頑張っても出来なかった。

 でも火は使えたからセレメの言葉は本当なんだろう。

 頑張れば空も飛べるようになるはずだ。


 森の中に降り立つと魔物を倒しながら空から見えた村へと向かう。

 なんとなく今向かっている村にセレメがいる気がした。


 夕方には森の出口まで来たけど、明るいなか村に近付いたらすぐに捕まってしまう。

 だから僕たちはそれまで森の中で過ごすことになった。


「村にちゃんと人がいるんだろうか。人影が見えないんだが」


「ちゃんと人はいるみたいだよぉ」


 ベリンダの疑問にチェルシーが答えている。

 風の魔法で調べたのだろうか。

 チェルシーの魔法は便利だな。



 しばらくして夜が来ると身を屈めて村へと向かう。

 村に入れたらセレメを探す予定だ。

 多分近くにいる。

 勘だけど。

 魔物を静かに倒しながら進んでいると突然地面から人が現れた。

 まさか地面に穴を掘って隠れていたのか?

 でも穴が開いている様子はない。

 いや、地面から出てきている訳でもなさそうだ。

 これは……影? 影から現れた?


 黒いテープのようなもので口を塞がれ、僕とベリンダとチェルシーも一緒に影の中に沈んで行った。

 そこは不思議な空間だった。

 真っ暗な世界で何もない。

 空中に浮いているかのようだけど地面を蹴るように足を動かせば前へ進む。

 上は地上のようで草や木、空が見えていて、馬車よりも早く後ろへと風景が流れていくのが見えた。

 これは何だろうか。


 見惚れている間に、森の中まで戻されてしまった。

 テープも剥がされ、突然現れた人は僕たちから距離を置く。

 月明りで彼の顔が見えた。

 セレメだ。

 でもセレメは僕たちに剣を向ける。


「セレメ! 僕だ。サーデルだ! 覚えているか?」


 勇者という存在の僕を忘れることのほうが難しいと思うけど、一応そう聞く。


「覚えてるさ。だが何しに来たんだ?」


 セレメはそういうものの剣を下ろしてはくれない。

 人間が攻めてきたのかもしれないと思ているのかも。

 僕たちの目的を伝えよう。


「遊びに来たんだよ」


 それから帰ってとか言われたけど、何とか村に入れてもらえることになった。

 そのことにほっとする。

 今日はセレメの家に泊まることになり、セレメとセレメの義母のアキさんと楽しく話をしてから眠った。






 翌日。セレメたちの日常にお邪魔することになった。

 セレメが意外と武闘派なのには驚いた。

 悪夢と勇者について凄く詳しかったから、毎日本ばっかり読んでるような印象だったんだ。

 僕も勇者としての訓練より、本に囲まれているほうが多かったから。


 鍛練をやめ休憩の後、魔人の族長に教会の魔人の情報を流すと約束してその方法を決めた。

 セレメが泊まっていた宿屋を経営しているのは、どうやら全て魔人の関係者らしい。

 従業員に情報が書かれた手紙を渡せばいいそうだ。

 手紙を落とさないように気を付けないとね。




 族長の家から丘の上に戻ってきた。

 セレメがいないけど。

 どうやらセレメはやることがあるらしい。

 何だろう。やっぱり本を読みにとか?

 ちょっと気になるけどセレメの友達のロキくんに手合わせをお願いされたので応じることにする。

 魔法だけの鍛練をしたいそうだ。

 僕も丁度光以外の魔法を使ってみたかったんだ。

 光と火以外で今使えるのは確認しただけでも雷と闇も使えた。

 今回はロキくんをお手本に闇の魔法を扱ってみよう。


 魔法を魔法で防いで攻撃もする。

 でも流石魔人は違うな。

 自力で僕が作った闇の魔法より威力も高いしちゃんと闇の特性をわかっている感じだ。

 でもロキくんは凄く動揺しているようで狙いがブレブレ。


「なんで白い血の勇者が闇を使えるんだ!?」



「それは後で教えるよ!」


 魔人の真似をして闇の魔法を使ってみたけど全然だめだ。

 動揺しているロキくん相手でも互角に戦えない。

 結局負けたね。

 あーあ。もっと頑張って魔人にも僕が受け入れられるように練習しよう。


「サーデル。勇者の血って白だよね?」


 ロキくんが険しい顔をして聞いてくる。

 いったいどうしたのだろう?

 セレメがやっていたように腕に刃を当てて血を流して見せる。

 白色に見えるほどの薄い灰色の血が流れた。


「ほ、本当に白だ」


「僕の血は白じゃなくて灰色だよ。ちょっと白が多めだけど他の色の血も流れているんだ」


「そうなのか」


「悪夢と勇者は同じ血なんだってさ」


「は?」


「あれ? 知らないの?」


「し、知らないよ」


 魔人は悪夢を憎んでいるから皆が知っている情報だと思っていたけど、どうやらセレメが独自で仕入れた情報だったらしい。

 誰にも言わないほうがいいって言ってたから僕も話すべきじゃないよな。

 でもロキくんに話しちゃった。


「ゴメン。今の話聞かなかったことにしてくれない? セレメに怒られるから」


「……それはいいけど、答えてくれないか? その話はセレメから聞いたのか? 悪夢もサーデルと同じようにいろいろな魔法が扱えるのか?」


「セレメから聞いたよ。僕も詳しくは知らないけど、悪夢も勇者もレジェンドドラゴンのようにいろいろな魔法が扱えるはず」


「へぇ。そっか。……そっか」


 ロキくんの顔色が悪くなってしまった。

 ……まさか悪夢に心当たりでもあるのだろうか?

 聞き出そうとしたところでロキくんは大きな声で皆を呼んだ。

 昼飯にしよう! だって。

 話しかけるタイミングを逃したようだ。


 昼食を取った後もロキくんと話をしようとしたけど、ベリンダとチェルシーに邪魔される。

 魔人たちが優しくて皆いい人たちだという話をしてくれるから同意するけど、今はロキくんと話がしたいんだ。


「ちょっとセレメの様子見てくる」


「ああ。昼ごはんを食べてないようだったら食べるように言っておいてくれ」


 ロキくんとアキさんの会話が聞こえてきた。

 そのままロキくんはセレメのもとへ行ってしまう。

 ……諦めて皆と一緒にいよう。

 また話す機会もあるだろう。


 結局帰る前に話すことは出来なかったけど。


 でも一つ気になることがある。

 なんでセレメは悪夢と勇者の特殊な血について隠そうとするのだろう。

 見分けがつかない悪夢を誰も死なない方法で見つけだせるかもしれないのに。

 セレメのことだし何か考えがあるんだろう。

 僕はこれ以上深く考えることなく記憶の片隅に追いやる。

 そして僕は、帝国に戻ってきた。

次話は8月26日に投稿予定です!

投稿予定書き忘れてました。



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