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血色の世界  作者: 蛹
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29話 ロキ

 食事を終え、本をかたずけてから俺とロキは丘の上まで戻る。

 ロキは何か考え込んでいるようで、何故か俺をチラチラと見てくるが、何も話しかけてこないので放っておいている。

 暗い顔はしていないけどそんな見られるとどう反応していいかわからないんだが。


 ロキに何も聞かれることはなく丘の上までやってきた。


「あっ! ロキくん」


 サーデルがロキと話したそうにしている。

 でもロキは避けるように俺の後ろに隠れた。

 こんなあからさまにロキが人を避けることはなかったので驚いた。

 誰とでも仲良くなれるロキが人を避けるなんてサーデルは何をしたんだ?


「ロキ?」


 一応ロキを呼んでみる。


「セレメは気にしないでくれ。サーデルが嫌いなわけじゃないけど、ちょっと気持ちの整理がついてないだけだから」


「なんかされたのか?」


「何もされてないよ。ただ今は話す気分じゃないだけ。……僕はセレメの味方だよ」


 何を言い出すのか。

 ロキがやっぱり変だ。

 でも何も教えてはくれないようなので、どうすることも出来ない。

 気になることがあるなら聞いてくれたほうが嬉しいんだが。


「セレメ。鍛練だ! 剣だけでやろう!」


 ロキがサーデルを完全に無視して言っている。

 ちらりとサーデルを見るものの苦笑いしてロキから離れていく。

 こういう場合ってどうするべきなんだろう?

 俺は流れのままに剣を構えてロキと向かい合うけど、ロキとサーデルに話をさせるほうがいいのだろうか?

 そんな風に考えたけど上手く出来る気がしない。

 このまま鍛練するほうが俺には合っているな。


 ロキと鍛練していると途中からレイダが乱入してきてなかなか楽しい戦いが出来た。

 でもやっぱりロキが変だ。

 今まで見たことがないくらい真剣に鍛練に取り組んでいる。

 ちょっと怖いくらいの真顔だし。

 メーナが心配してロキに話しかけてるけど、話しているときはいつも通りだ。

 変なロキだな。






 空の色が変わる頃、いつも通り家に帰えっていつも通りの食べにくい料理を作る。

 気にかかることはあるものの、いつも通りの生活だ。

 サーデルたちがいるけど。


 夜、もう寝る時間だがサーデルと話をしていた。

 悪夢や勇者についての話だ。


「サーデルは悪夢とどう関わって行くんだ? 敵対するのか? それとも仲良くするのか?」


「うーん。悪夢次第かな。悪夢が僕と敵対するなら敵対するし、仲良くしようとするなら仲良くする。人を殺すのは受け入れられないけど、その理由も聞いてみて受け入れられそうなら仲良くしたいな」


「虐殺を受け入れられる理由があるのか?」


「ないとは思うけど絶対にないとは言い切れないから。僕が想像つかない何かがあるかも知れないし」


 そうだろうか。


「悪夢が人を殺さない可能性はあると思うか?」


 俺はそうする予定なんだがサーデルはどう思うだろう。


「どうなんだろう。今までの悪夢は人を沢山殺した。どんな理由があるかわからないから何とも言えないな。人を殺さない可能性もあってほしいとも思うけど」


「そっか」


 悪夢が人を殺す理由は女神が言っていた理由のほかに悪夢個人の理由があると思う。

 そうでないとやる気になれないし。

 モルゼットの場合は女神の言葉を信じていたからという理由だけど他はどうなんだろう。

 俺は悪夢になる理由を見つけないようにしないとな。


 そうだ。

 サーデルとの連絡用の魔法道具を渡しておこう。

 何かあったときに協力できることがあるかもしれないし、逆に協力してほしいときにも便利だろう。

 カバンの中から取るふりをして魔法道具を空間収納から取り出す。


「サーデル。これやるよ。俺に連絡したいときこれを使ってくれ」


「魔法道具? 高価なものじゃないの?」


「いいんだよ。悪夢を見つけたらすぐに知らせたいし」


「わかった。ありがたく貰っておくよ」


 これで少しは安心かな。

 少しでもサーデルが悪夢について知ったら俺に連絡してくれることだろう。

 悪夢を見つけたら連絡したいって言ったし悪夢に繋がることなら教えてくれそうだ。

 俺の正体がばれるかどうかがわかれば対処がしやすくなると思うから。


「そういえば悪夢の正体をロキくんは知っているかも知れないよ」


「……は?」


 な、なに言ってるんだ?

 ロキが知っているはずないだろう。

 悪夢だという情報をロキに流したか?

 確かに俺がいろいろな魔法を扱えることは明かした。

 でもそれが悪夢に繋がるとは気が付いていないはずだ。

 いや、待て。

 悪夢と勇者がいろいろな魔法を扱えると知っている奴がいる。

 サーデルだ。

 まさかサーデルが喋ったのか?


「サーデル。まさか話してないよな?」


「……えーっと」


 俺から目を逸らして歪な笑みを作るサーデル。

 俺の言葉の意味がわかっている反応だな。

 怪しい。もう一度聞こう。


「ロキに悪夢と勇者の特殊な血について話したのか?」


「……ゴメン。話しちゃった」


 ……なんてこった。

 そうか。

 ロキが今日、変だったのはそういうことか。

 俺をチラチラ見ていたり、サーデルを避けていたのはそういう理由か。


「今後話さないよう気を付けてな。悪夢に心当たりがあるのか俺がロキに聞いておくから」


「うん。ありがとう」


 初めて感情が表に出づらくてよかったと思った。

 そうでないと焦りや動揺がもろに出てしまっていただろう。


 ロキが俺の正体に気が付いたというのは間違いない。

 そう思って対応すべきだ。

 でも一応本当に気が付いているかの確認は必要か。

 明日だな。

 どうにかしてロキと二人になって話さないと。

 ロキが我慢できなくなって誰かに相談する前に。





 翌日、朝食を食べる前にロキの家にやってきた。

 ロキはいるだろうか。

 この時間だといつもなら起きているはずだが。

 朝早くに失礼だとは思うけど、家のドアをノックしてロキを呼びだした。


 ロキが怪訝そうにしながらも家から出てきてくれる。


「今、いいか?」


「別にいいけどどうしたんだよ? こんな朝早くに来るなんて珍しい」


「うん。ちょっと来てくれ」


 俺はそういって村の外へロキを連れ出す。

 ロキは黙ってついてきてくれた。

 村から少し離れたら周りに人がいないかを魔法で確認してからロキに向き直る。


「昨日、ロキは様子がおかしかった。何故だか教えてくれ」


「……別に何でもないよ」


「あんなロキは見たことがない。何かあっただろう」


「君に不快な思いをさせてしまうと思う。それでもいいか? 出来れば言いたくない」


「言ってくれ」


 ロキはゆっくりと深呼吸した。

 俺も心の準備をしておく。

 ロキが深く息を吐き出すと俺を悲しそうな目で見つめてくる。


「セレメは悪夢なのか?」


 やっぱりそれで悩んでいたんだな。

 嘘を吐いてもいいはずなのに、本当のことを言ってくれたのは素直に嬉しい。

 でももう少し確証がほしいんだ。


「何故そう思った?」


 そう問いかける。

 ロキは苦しそうに唇を噛んだあと、ゆっくりと話し始める。


「サーデルに聞いたんだ。悪夢と勇者はいろいろな魔法が使えるんだって。セレメもサーデルもいろいろな魔法が扱えてた。だからそうなんじゃないかって」


 俺はロキの言葉を最後まで聞き終わった後、はあ、と大きく息を吐いた。

 ……今度は俺が答える番だろう。


「そうだな。サーデルに話すべきじゃなかった。悪夢と勇者の特殊な血のことを」


 でもまさかサーデルが村まで訪ねてくるなんて思わなかったんだ。

 皆と仲良くなるとも考えてなかった。

 やっぱり俺は馬鹿なんだろうな。

 鍛練が大好きなだけの脳筋なのかも知れない。


「……セレメ? 本当に悪夢なのか?」


 ロキの問いに、俺はゆっくりと頷いて見せた。

 ロキの表情がさらに悲しげに歪んでいく。


「でも俺は悪夢になる気はないぞ。俺は人を殺したくない」


「最初から自分が悪夢と知っていて悪夢を倒すと言っていたのか?」


「違うよ。成人の日。教会で女神から神託があった。お前が悪夢だ。人を殺せってな」


「女神様が今までセレメがしていた努力を踏みにじるような真似をしたのか!?」


「生まれた時からの運命なんだろう。でも俺は運命に抗うさ。俺は悪夢にはなりたくないからな」


「……やっぱりセレメはセレメだね。安心したよ。でも神託を受けた後どこに行ったんだ?」


 一瞬答えることを躊躇する。

 でも言わないとな。

 ロキから顔を背けて口を開く。


「海に身を投げた」


「……え」


「でも死ねなかったんだ。そのあとも何度も悪夢を亡き者にしようとした。でも女神のせいかどうやっても死ぬことが出来なかった。悪夢は自分で自分を殺すことが出来ないらしい。崖から落ちても、剣を刺そうとしても、毒を飲んでも無理だった」


「……」


「そのあとは隠れ住んでいた八代目悪夢のモルゼットを師匠として一年過ごしたんだ」


「……へぇ。いろいろ聞きたいけど……。怖くなかったのか? 死のうとするなんて」


 ロキの顔色が悪い。

 やっぱり自殺しようとしたなんて思ってもみなかったんだろう。

 嘘は言わない。

 ロキの質問に素直に答える。


「怖かったさ。でも悪夢を倒したかったから」


「そっか。今後はどうするんだ? 悪夢は倒せないんだろ?」


「仕方ないから俺は生きることにしたよ。人を殺さないって誓いを立ててな」


「わかった。僕も全力でサポートする」


「もし俺が人を殺したら、すぐに俺を殺してくれよ」


「うん。いいよ。セレメなら人を殺さないと思うけどね」



 そのあともしばらくロキと過ごした。

 森で魔物を狩って食べながら話をする。

 モルゼットのこととか悪夢の力のこととか。

 実際に肉を焼いて見せたり、水を作って飲んで見せたりしたし。


「じゃあ悪夢の寿命は僕たちとは違うんだね」


「そうらしい。勇者はわからないけど」


「セレメが悪夢って知ってるのは僕とモルゼットだけなんだよね」


「族長も知ってるよ。族長はモルゼットと知り合いらしくて、悪夢のことを少し知っている。そのせいで気づかれた」


「……でもこうして生かされているってことは、セレメが人を殺さない限りは何もしないってこと?」


「そういうこと」


「よかった」


 ロキがほっとしたように笑っている。

 ロキは本当にいい奴だよ。

 俺が悪夢だと知ったのに今まで通りに接していてくれる。

 怖がることもない。

 ロキに会えてよかった。

 心の底からそう思う。

次話は8月25日投稿予定です

次話予告、影の中って不思議な感じだ

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