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血色の世界  作者: 蛹
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28話 鍛練

 翌日、アキとサーデルたちと一緒にいつもの丘の上まで来た。

 そこにはもうレイダとロキとメーナがいて、それぞれ準備運動をしているようだ。


「おはよう、セレメ! 今日も鍛練頑張ろう! ……ってなんで勇者がここに!?」


 ロキがサーデルを指さして、あんぐりと口を開けている。

 メーナも口に両手を当てて驚いているようだ。

 レイダは……驚いてないな。

 勇者? それがなに? って感じの顔してるよ。


「勇者? それがなに? 鍛練の相手には丁度いいじゃない」


 半分予想通りの言葉が聞けた。

 勇者に動じないとはレイダは凄いな。

 俺でも勇者が突然現れたら驚くのに。

 ……あれ?

 昨日勇者に驚いたっけ?

 記憶にない。

 いや、俺の記憶は信用できないからな。

 多分忘れてしまったんだろう。

 そうに違いない。


「初めまして。サーデルっていいます。正直戦いとかは苦手なほうなのでお手柔らかに」


 昨日聞いた話だとサーデルは、一年前まで剣も持ったこともなかったそうだ。

 だからそんなに強くないと本人はいっていたけど……女神が勇者になにか魔法でもかけていたら話は別だ。

 女剣士のべインダは人間の国で剣聖と呼ばれた男の一番弟子らしいのに、もうサーデルには勝てないと言っていたし。

 お互いに自己紹介し合っているとコリアスもやってきた。

 昨日は用事があったみたいで鍛練に参加はしていなかったけど。


「おはようさん。セレメの友達の勇者もいんじゃねぇか。本当に友達なんだな」


 コリアスもレイダと同じように動じていない。

 流石だ。


「……ああああ!? 勇者だぁ!? なんで勇者がここにいるんだ!? すっげぇ馴染んでたから見逃すのところだったぞ!?」


 コリアスが突然叫びだした。

 コリアスが動じてなかったんじゃなく、サーデルたちの順応度が高かっただけか。

 すっかり魔人に溶け込んでるし。


「初めまして。サーデルと申します」


「お、おう。こりゃご丁寧に」


 どぎまぎしながらコリアスも挨拶している。

 それを横目で見ながら、俺も準備運動を始めた。

 準備運動したあとは何しようかな。

 剣の練習か回避の練習か、別の武器の練習か……。

 それとも先にサーデルたち三人と手合わせ?

 うーん。どれもいいな。

 でもサーデルとは絶対戦いたい。

 手合わせは殺し合いじゃないからな。

 今の勇者ってどのくらいの強さなんだろう。


「セレメは実力知りたいからサーデルと戦いてぇよな。ずっと悪夢を倒すんだって言っていたし、出来れば勇者と仲良くなりたいとも言ってただろ? セレメはちょっとずつ夢を達成していってるから、もしかしたら本当に悪夢を倒せるかも知れねぇぜ?」


 コリアスの言葉に眉を顰(ひそ)める。

 勇者であるサーデルが目の前にいるのにそれをいうのか?

 まるで下心があって近づいたみたいじゃないか。

 俺は偶然勇者と酒を飲んだだけなのに。

 そうだな。

 先にコリアスと戦おう。

 コリアスに向かって拳を突き出す。

 コリアスは慌てて避けるけど、俺は続けて蹴りを放った。


「待て待て! まだ体も温めてねぇから!」


「コリアスなら問題ない。強いからな」


「そういってくれるのは嬉しいんだが、セレメもかなり強いからな!? 俺でも負けることあるし!」


 そういいながらもコリアスは反撃を仕掛けてくる。

 俺も避けるけども。

 魔法なしで戦い続けたので、やっぱり俺が負けた。

 悔しい。

 でも次は絶対勝つ!


「コリアス殿! 次は私とお願いしたい!」


 満面の笑みを浮かべたベリンダがコリアスと対峙して剣を構えた。

 コリアスは苦笑いしながらも受けて立つみたいだな。

 レイダとメーナも魔法の鍛練でお互いに魔法だけで戦い始めているようだし、それをチェルシーがキラキラした目で見つめている。

 ロキはアキと剣と魔法を使って手合わせしているようだ。

 残るは勇者だな。

 コリアスが俺は勇者と戦いたいみたいなこと言っていたから、サーデルの相手は俺に譲ってくれたのだろう。

 俺は勇者の前で剣を構える。

 真剣だ。

 でも殺しはしない。

 それはサーデルも同じだろう。


「ほ、本当にやるの?」


「もちろん」


「本当に大丈夫?」


「大丈夫だ。剣も魔法もありでやろう。準備はいいな?」


「……うん。いいよ」


 サーデルが剣を抜いて構える。

 そう来なくちゃ。


 剣と剣がぶつかり合い、白と黒が入り混じる。

 勇者の剣捌きは一年前に剣を初めて持った人のそれではない。

 やはり勇者特典があるのだろう。

 俺の身体能力に悪夢特典は全くないが。

 それでもサーデルの剣は何故か躱せるし、次にどういう攻撃をしてくるかもなんとなくわかる。

 この感覚は相手をよく知っていて、コイツなら次はこうするだろうという予想と似たようなものだった。

 でも俺はサーデルと戦うのは初めてだ。

 どうしてわかるのだろう。

 サーデルも俺の行動を先読みしている節があるし。

 サーデル以外にこんな体験したのは初めてだ。

 悪夢と勇者という関係だからなのか?

 よくわからん。

 サーデルもこの謎の現象に驚いているようだ。


 そうだな。これ以上は俺が特別な存在。つまり悪夢だとばれてしまうかも知れないな。

 もう少し使う魔力の量を増やしてしまおう。

 俺の持つ魔力は膨大だ。

 貧血にもならないから危険は少ない。

 サーデルは俺の攻撃で少し危険に晒されるけど問題ないだろう。

 魔法に込める魔力の量を増やす。

 それと並行して魔法の威力も高める。

 サーデルの放つ剣を躱してから、手のひらに集めた魔力を魔法に変換した。

 そしてサーデルの腹に向けて放つ。

 といっても攻撃力はない。

 拘束力を上げただけだ。

 勇者は大量の黒いリボンに巻かれて、胴は大きなボールと化した。

 もう身動きできまい!

 下手に動いたらきつくしまって最悪窒息するけど。

 サーデルは降参したのか動く様子がないから大丈夫だろう。


「こんなのズルいよ! セレメ!」


「戦いにズルもなにもない。俺の勝ちだ」


 胸を張ってそう言い切った。

 それに魔人なら拘束系、妨害系の魔法を中心に使えないと、人間を間違って殺してしまうかもしれないからな。

 ……サーデルに巻き付けているリボンは動けば死ぬかも知れないけど。

 直ぐに拘束を解いて安全を確保する。


「セレメくんはぁ負けず嫌いだねぇ」


 チェルシーが呆れ気味に言った。

 でもこんな感じで卑怯に見えるような勝ち方をしないと俺が悪夢だとばれる可能性があったからな。

 他にも謎の現象とかでも。


 ……俺は普通に戦っても今のサーデルには勝てると思う。

 モルゼットも勇者に勝ったから今も島で生きているわけだ。

 でも勇者になんて勝ってみろ。

 悪夢に対抗できるのは勇者だが、勇者に対抗出来るのも悪夢なんだ。

 自然と俺の正体がわかってしまう。

 悪夢に詳しいらしいサーデルなんてすぐわかることだろう。

 不本意ではあるがこういう勝ち方にした。

 わざと負けることはしない。

 俺は勝ちたいからな。

 強い相手にはどうやっても負けると思うけど、それでもいつかは勝って見せる。

 俺はそうやって生きてきた。


「でも綺麗だったねぇ。闇の魔法も捨てたもんじゃないよぉ」


 チェルシーはうっとりした顔で白と黒の魔法が入り混じる様子を力説し始めた。

 途中から何を言っているのかよくわからなくなって聞き流すことにしてしまったけど。

 チェルシーは魔法が大好きということがわかっただけでもいいだろう。

 それに人間の国では闇の魔法なんて絶対に見ないから余計嬉しいのかもしれない。


 それから勇者組とコリアスチーム。俺たち同年代四人組とアキチームでチーム戦もやったりした。

 俺たちのほうが人数は多いけど五回戦って三回も負けた。

 俺が力を抑えているとはいえ悔しい。

 本気出しちゃ駄目だろうか?

 駄目だ! 危ない。

 俺が本気出したら勇者たちとコリアスをまとめて吹っ飛ばしてしまう。

 強くなってるはずの俺が一度も魔法で勝てたことのないモルゼットの恐ろしさがより際立つな。

 それでもいつかは超えて見せる!


「一度休憩にしよう。私は剣士なので体力には自信があるがチェルシーは違うのでな」


 ベリンダがチェルシーの背中をさすって言っている。

 チェルシーは逃げるために走り回りながら魔法を使っていたもんな。

 普段はこんな近くに敵がいるところで魔法は使わないそうだ。

 だから魔法と矢の防御だけでよかったんだけど今回は皆で魔法使いのチェルシーを狙って戦ったので大変だったんだろう。


 皆で座って休憩しながら、今回の戦いの反省点を話し合う。

 俺は魔法の威力以外のことを反省した。

 例えば魔法の命中率。

 これはやっぱりメーナには及ばないがもっと当てられるようにならなければいけないだろう。

 間違って仲間に当たるなんてことになったら最悪だ。

 他には剣や槍の技術。

 これももっと鍛練が必要だ。

 コリアスにもアキにもレイダにもサーデルにも勝てないなんて悔しすぎる。

 次はベリンダと戦う約束だが勝てるだろうか?

 いや勝つ! 勝って見せる!

 弱気になったら勝てる戦いも勝てなくなる!

 自信を持とう。


 休憩中に軽い怪我の手当てもしておく。

 転んだりして擦りむいたりしているからな。


「あの、コリアスさんって人間なんですか?」


 サーデルが躊躇しながらもコリアスの傷から流れる血を見て聞いた。


「あ? ああ、俺は人間だな。つっても魔人と魔人の間に生まれたから魔人っていってもいいけどよ。魔人って呼ばれ方してるけど普通に人間だから黒い血から黒い血が生まれるわけじゃねぇ。人間の国でも同じだろ?」


「なるほど。確かにそうですね。でも魔人の村に人間がいるとは思いませんでした」


「魔人の村で生まれた人間は人間の国に潜入して、人間の国で生まれた魔人を探してるから、村にいることは少ねぇよ。でも俺は最初の任務でヘマをしちまったから潜入は出来ねぇ。魔人と繋がってるって人間の国にバレちまったからな。でも短期間だけ人間の国に行くくれぇなら俺にも出来るってわけよ。それが救出班な」


 へぇ。コリアスにそんな過去があったのか。

 知らなかった。

 救出班でも黒い血以外の人間はいるから疑問にも思わなかったよ。


「そのかわり救出班のヘマは死と直結だけどな」


 コリアスが珍しく真面目な顔をしている。

 人間の国で攻撃を浴びせられた記憶が蘇った。

 あの攻撃がもし当たっていたらどんな形であれ死んでいただろうな。

 即死か、追撃されるか、捕まって処刑されるか。

 恐ろしいね。

 それも覚悟の上だけどさ。

 それ以外のヘマって言うと救出対象の死か。

 どっちにしろ誰かが死ぬじゃん。

 やっぱり失敗は出来ないな。

 その為に日々の鍛練を続けるべきだろう。


「僕も何かお手伝い出来ないでしょうか」


「サーデルは勇者だろ。魔人に手を貸してるって知られたらかなりヤベェんじゃねぇの?」


「そうですが、魔人を目の前で処刑されるところなんて見たくないので」


 サーデルが嬉しいことを言ってくれる。

 ちょっとだけサーデルが勇者でよかったと思ってしまった。


「でも手を貸してるってバレないように何か手伝うなんて無理だろ? 勇者が魔人を逃がしたとか言われだしたら勇者が処刑されるぜ。過去にそんな勇者もいただろうが」


「……魔王から百年後の勇者として現れたジェイコブですね」


「た、多分そうだと思う。俺はそんなに悪夢や勇者については知らねぇからな。そういうのはセレメと話すといい。すっげぇ詳しいからよ」


「知ってます。その話で意気投合したので。それはいいとして、やっぱり僕も魔人救出のお手伝いをさせてください。実は教会の情報網で魔人を生んだにも関わらず、教会に報告してなかったご夫婦がいらっしゃるそうです。現在調査中ですが、情報が本当なら最低でも二週間後には処刑されてしまうでしょう」


「……なにその情報。マジか。勇者半端ねぇな」


「確定情報ではありません。ですが他にもこのような情報を僕は持っています。それを魔人に流すだけでも少しは役立てるのではないかと思いまして」


「こういう問題は全部、族長に任せときゃなんとかなるぜ」


 コリアスとサーデルは休憩の後、族長の家に行くそうだ。

 ……俺もベリンダとの手合わせが終わったら鍛練をやめてちょっとやることやるか。

 サーデルがいつまでここにいるかわからないし、それまでにやっておきたいことがあるんだ。






 ベリンダと手合わせして負けたあと俺は一度、家に戻ってきた。

 皆、強すぎるだろう。

 今日はサーデルにしか勝ててないぞ。

 何がいけなかったのかと鍛練の問題点を思い出しながら魔法道具を作っていく。

 作っているのは連絡が出来る魔法道具だ。

 分裂する変な魔法道具でもいいんだけど誤作動でアキたちにもサーデルと繋がったりしたら嫌だから別の魔法道具を作っているんだ。

 もしサーデルが女神に何か言われて俺が悪夢だと知ったとき魔人の誰かに伝えたりされたら困る。

 だから俺とサーデルだけの魔法道具を作る。

 周りに探索の魔法もかけて誰かが来ても大丈夫なようにしておけば家で作業しても大丈夫だろう。




 作業に没頭してしまい、気が付けば太陽が真上より少し過ぎていた。

 皆はどこかでもう昼食は食べてしまっただろうか。

 皆のところへ戻るべきだな。

 でももう少しで完成するんだよな。

 もうちょっと頑張ってから皆のところに行こう。



 魔法道具が完成して後かたずけをしているころ、探索の魔法で人がこの家に向かってきているのがわかった。

 慌ててかたずけをし終えて悪夢に関する本をテーブルに置いて開いておく。

 これで何をしていたのか誤魔化せるよな?


「セレメ。いるか?」


 ノックのあとにそうロキの声が聞こえた。

 俺は玄関のドアを開けてロキを招き入れる。


「飯は食ったのか? 全然帰ってこないから心配したぞ」


 ロキはテーブルの本を手に取りながら俺に言う。

 夢中になってしまったんだ。

 仕方ないだろう。

 適当なパンを口に突っ込んで昼飯にしておく。

 午後からも鍛練の予定だからちゃんと食っとかないとな。


「……悪夢と勇者、ね」


 ロキが小さく呟く。

 今まで聞いたことがないくらい感情のこもらない声だった。

 どうしたんだ?

 俺がいない間になにかあったのだろうか。

 いつも明るいロキが悪夢と勇者の本を見て暗い顔をしている。

 そんな顔されるとこっちが不安になるんだが。


「ロキ?」


「……」


「どうしたんだ? お前らしくないぞ」


「……そうだね。うん。そうだ。セレメはセレメだ」


 いきなり何を言っているのか。

 パンを食べながらも首を傾げてしまう。

 誰かになんか言われたのか?


「何でもないよ。それよりさっさと飯を食って鍛練しよう! 魔法でもセレメと互角以上に戦えるようにならないと!」


「俺は剣を頑張らないとな」


 いつも通りの明るさに戻ったロキの様子にほっとする。

 でもなにかあったのなら俺に教えてほしいな。

 ロキならすぐに言ってきそうな気がするけどそうじゃないなら俺に話したくないか、誰かに相談するほどの悩みじゃないのだろう。

 でもあの暗い顔は凄く深刻そうだったんだが。

 もう一度あの顔をみることがあったらその時に聞いてみるか。

今日で毎日投稿二週間ですね。

明日も投稿しますがそのあとは毎日投稿前に戻りそうです。

投稿予定日は明日からいつものように書き込みます。


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