↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
血色の世界  作者: 蛹
30/44

27話 訪問者

 初任務から帰って来て一か月。

 何故かアキには何も言われず普通に過ごしてきてしまった。

 心配されないというのもなんか変な感じだ。

 嬉しいけどちょっと寂しいような……。

 一か月も経てばいつもの鍛練の日常に戻ったけどな。



 今日はいつものように鍛錬だ。

 俺はレイダたちに追いつく為に剣を頑張っている。

 剣だけじゃなく槍や弓、他の武器もついでに練習した。

 やっぱり鍛錬は楽しいな。

 この前は隠れんぼとかもしたけど、それとはまた違った楽しさがあっていい。

 村は今日も平和だ。

 村の中だけでものんびり出来るのはいいよな。

 ここは村の外の丘の上だけども。


 空の色がオレンジ色に変わったころ。

 いつものように家に帰ろう。

 途中から参加したアキと一緒に食材を買ってから家に帰る。

 その途中で水筒を丘の上に置いて来てしまったことに気がついたけど。


「ちょっと水筒を忘れて来たからとってくる」


「わかった。夕飯を作って待っているぞ」


 夕飯はゆっくり食べたいので俺も料理を作りたい。

 なので急ぐために走って村の門まで行く。

 もう暗くて周りがよく見えない。

 暗視の魔法も使おう。

 丘の上まで来て水筒を見つけて持った。

 さて、帰ろう。

 そう思って来た道を帰ろうと振り向いた。


 ……なんか村の外に人がいなかったか?

 こんな夜に人が外に?

 ゾンビかスケルトンと見間違えたか?

 一瞬しか見えなかったから間違えても仕方ない。

 この辺にアンデット系は出ないはずなんだけどな。


 ゆっくりと村の外の原っぱに視線を移す。

 やっぱりいる!

 身を屈めて見つからないように村に向かって来ているぞ……。

 夜だから見つからないとでも思っているのか?

 普通の人間ならいざ知らず、魔人相手では身を屈めても意味がない。

 暗視の魔法を使えば見え方は、夜の暗さも昼間の明るさに劣らなくなる。

 むしろ見つからないよう身を屈めて走る様子が滑稽だ。

 あの人たちはいたって真剣になんだろうけど。

 そんな風に観察していると彼らの顔が見える位置にやって来ていた。

 ……あの人たち見たことないか?

 見たことある。

 勇者サーデルと俺と人間の街での観光中にサーデルをつけてきていた女二人だ。

 勇者が近くにいるなんて村の人に知れたらヤバい。

 というか、なんでこの村の場所がわかったんだ?


 いろいろ聞きたいこともあるので影移動でサーデルの前まで移動した。

 驚くサーデルたちの口を闇のテープで塞いでから、三人とともにまた影移動。

 今度は森の中までだ。

 森の中なら村から距離が離れているし木々で見つかりづらいだろう。


 三人からテープを剥がして距離を置く。

 ありえないと思うがもしかしたら魔人を滅ぼそうとしにやってきた可能性もある。

 腰に差していた剣を抜き、勇者たちに向けた。


「セレメ! 僕だ。サーデルだ! 覚えているか?」


「覚えてるさ。だが何しに来たんだ?」


 魔法もいつでも使えるように集中する。

 村を背にサーデルたちに敵意を向けた。


「遊びに来たんだよ」


 サーデルがそんなアホなことを言っている。

 遊びにってそれマジで言ってんの?

 馬鹿じゃねぇの?

 サーデルの性格からすると本気でそういってそうだけど。

 はあ、と大きくため息を吐く。


「サーデル。お前は勇者だ。だから魔人にも顔を知られている。村に入れることは出来ない。それと夜に身を屈ませて村に近付づけば気づかれないと思ったか? 魔人は闇の魔法を使う。つまり夜の闇は魔人にとってとても有利な環境だ。俺は今暗視の魔法を使っているから、夜でも昼のように明るく見えている。俺以外に見つかっていたら捕まってたな」


 剣を下ろしてもう一度ため息を吐く。

 魔法で周りを確認したがサーデルたちのほかに人間の姿はないから三人だけで来たんだろう。

 本当にどうかしてるよ。


「今すぐ帰ってくれ」


「どうしても入ることは無理なの?」


「わかんねぇ。出来れば入れたくないけど」


「どんな風に魔人が暮らしているのか知りたいんだ」


 あーもう。仕方ねぇな。

 同じ守護者で英雄のせいか、サーデルが本当のことを言っているとなんとなくわかるし、その願いを叶えたいと思ってしまう。

 それとは別に、サーデルには人を引き付ける力があるのかも知れないけど。


「……族長に相談してくる。だから森から出るな。いいな?」


「わかった! ありがとう」


「まだ入れるかわかんねぇからな。駄目だったら諦めろよ」


 そういってから影移動をして急いで族長の家に向かう。

 で、相談した結果、村に入れて良いそうだ。

 コリアスからの報告で勇者が俺の友達というのを知っていたらしい。

 それに悪夢の俺がいるから、もしもの時は俺がどうにかしてくれるだろうともいっていた。

 族長がそれでいいならいいんだけど……大丈夫だろうか?

 誰かになんか言われたら族長のところに行かせよう。

 そうしよう。


 サーデルたちとともに村に戻って来た。

 村にサーデルたちを入れるとサーデルたちは珍しそうにきょろきょろと周りを見まわしていた。

 ここは一応魔族の国だから人間の国とは少し違うんだろう。

 それに結構田舎だし。

 魔族も普通に暮らしているけど数はすくない。

 ほとんどが魔人か魔人の間に生まれた人間だ。


「なんか思ったより普通だねぇ」


 杖を持った女が酒場のなかの騒ぎを聞いて目を細めている。

 酒場はここでも人間の国でも似たような感じだからな。

 それに魔人も人間だ。

 血が黒いってだけで人間なんだから、人間と違うところがある訳じゃない。


「セレメ。どこに向かってるの?」


 サーデルが聞いてくる。


「俺の住む家だ」


「一人で暮らしてるのか?」


「一緒にアキと暮らしてる」


「アキ?」


「俺を育ててくれた人だ。殺されかけた赤子の魔人は、魔人に育てられるんだ。魔人には親がいないからな」


「そっか。一人じゃないんだね」



 明りの点く家に帰ってきた。

 アキにただいまと声をかける。

 美味しそうなスープの匂いがした。

 これはトウモロコシのスープかな?


「おかえり、セレメ。遅かったな。水筒を探すのに手間取った、の……か」


 アキが俺の後ろにいるサーデルを見て顔を強張らせた。

 突然、敵であるはずの勇者を連れてきたらそういう反応になるよな。


「せ、セレメ。何故、勇者がここに?」


「遊びに来たんだってさ。族長の許可は貰ってるから問題ないぞ」


「そうなのか。族長がいいのならいいんだろう。勇者をここに泊めるんだな? ご飯の品をもう少し増やそう」


「手伝うよ」


「セレメは勇者たちの世話をしろ。セレメが作るとご飯が変になる」


 ちっ。サーデルたちのせいでゆっくりご飯が作れなかった。

 今日はご飯を作るのは諦めて、三人を椅子に座らせる。

 お茶も出しておこう。


「あっ。ありがとう。セレメ」


 サーデルが爽やかに笑ってお茶を飲んでいる。

 なんていうか警戒心薄いな。

 毒が入ってるとか考えないんだろうか。

 毒なんてはいってないけどさ。


「セレメって料理とか苦手なの? セレメが作るとご飯が変になるって言われてたけど」


「苦手ではないけど食べにくい料理を作るんだ。スープに丸ごとパンを入れて食べるよりも食べにくいようにな」


 サーデルはシチューに丸ごとパンを入れたことを思い出したのか苦笑いしている。

 それよりも俺としては女二人のことが気になるんだが。

 サーデルは信用出来るとしても、この二人はどうかわからない。


「それよりお前ら誰?」


「むっ。申し遅れた。私はベリンダといって勇者の剣の指導をしている」


「私はぁサーデルくんに魔法のコツとか教えてるチェルシーだよぉ」


 へえ。そういう関係ね。

 俺も人間の国の剣と魔法を習ってみたい。

 俺のおかげで村には入れたんだ。

 明日は鍛練に付き合ってもらおう。

 おっと、俺も改めて自己紹介するべきだな。


「俺は魔人の救出を仕事にしているセレメだ」


 お互いによろしくと挨拶しあう。

 それから飯が出来るまで適当に話すことにする。


「魔人は人を憎んだりしてないの?」


 サーデルの質問は難しい。

 俺は恨んでないけど身近な人が人間に殺されたりしていないから思えることだろう。

 救出班や潜入班は仲間を殺されて人間を恨んでる人もいるかもしれない。


「俺は今のところ憎んではいない。でも仲間を人間に殺されたりして憎んでいるやつもいるだろうな」


「復讐とかしないのか?」


「するわけないだろう。復讐で人間を殺してでもみろ。ここ、魔族の国にさえお前たちはやっぱり悪夢の使いなんだと言われて住めなくなる。最悪、皆殺しだ。俺たちはどれだけ人間が憎くても人間を殺さない。悪夢と同じにされたくないから人間を殺さないことが魔人の掟だ。破った者は魔族と魔人の手で処刑する。そうでもしないと魔人は生きていけない」


「……そうなんだ」


「それでも幸せなんだよ。人間さえ殺さなければ魔族は土地を貸してくれるし、生活にも特に困ったりはしない。魔人は人間に殺されないためにほとんどの人が戦う術を身に着けているし、そのおかげで近くの森で狩りが出来る。近くに川も海もあるから魚も食べられるしな。海はちょっと遠いからたまにしか行かないんだけど」


「食べ物に困ることはないんだね」


「そう」


「質問いーい?」


 杖持ちのチェルシーが手を上げている。

 俺が頷くと俺を見てニヤニヤと笑いだした。


「好きな人とかぁいるぅ?」


「沢山いるぞ」


「……えぇ? 魔人って一夫多妻制なのぉ?」


「は?」


 いっぷたさいせい?

 ……ああ。好きって恋とかそういうのか。

 そんな話全くしないから全然わかんなかった。


「すまんすまん。捉え方を間違えていた。好きな人は今のところいない」


「沢山って誰のことだったのぉ?」


「家族とか友人とかそういう人たち」


「そっかぁ。気になる子もいないのぉ?」


「いない」


「なーんだぁ。面白くなぁい」


 チェルシーがぷくっと頬を膨らませて不機嫌そうにしている。

 そんな反応して子供かよ。


「魔人は殺されかけた魔人の子供を育てる義務があるから、子育てや仕事で忙しくて恋愛をしている暇がないんだ。だからと言って絶対しないというわけでもないんだが」


 アキが作った料理を運んできて机に置きながら口をはさんでくる。

 俺も席を立って料理を運ぶ手伝いをしよう。


「アキさん……ですよね? アキさんも結婚とかはしていないんですか?」


 料理を運びながらサーデルたちの話を聞いてみる。


「結婚も恋愛もしていないな。私にはセレメがいるからそれで満足だ。ただ可愛いセレメが恋人を連れてきた日には号泣するだろう。嬉しさと悲しさが入り混じってな」


 アキの号泣している姿が簡単に想像できてしまった。

 なんというかアキらしい。

 料理をテーブルに置くとアキに頭を撫でられたので、アキの手の届かない場所まで避難する。

 親として愛してくれているのがわかって嬉しいんだけど鬱陶しいんだよな。

 何もされないのも寂しいという矛盾があるけど。


「ふふふ。セレメは可愛いな。照れなくもいいんだぞ? そうだ! 勇者くんたちにセレメの幼い頃の話をしてあげよう。まずはセレメが私の真似をして女の子みたいな恰好をしようとした話をしようか!」


 アキがいきなり生き生きとし始めた。

 俺の記憶にはないんだけど俺のことを話されると恥ずかしいのでアキの口を手で塞ごうと近づく。

 アキは俺の手を避けながら俺の頭を撫でまわし始めた。

 俺はアキに魔法では勝るものの、身のこなしではこの一年で差が開いてしまった。

 一年前はやっと追いつけたってところだったのにアキも成長してまた差が開いたんだ。

 鍛練してまたアキに近付いてやる!


「他にもセレメが小さな虫を踏みつぶしてしまってゴメンナサイと言って一晩中泣いていたりしたな! セレメはとっても優しい子なんだ。今では魔物も狩れるようになっているから人は変わるものだな」


 そんなこと全く覚えてないんだが!

 知らない自分の話に驚きながらもアキの話の妨害に努める。

 全然だめだ。

 妨害も妨害になっていない。

 魔法も使おう。

 俺の足元からリボンが数本伸びてくる。

 アキがそれをみて会話をやめて椅子に座った。

 俺もリボンを消してから椅子に座る。


「ちょっと調子に乗って喋りすぎたな。でもセレメがどれだけ優しくて可愛い子かわかったと思う」


「うるせぇ。可愛いって言うんじゃねぇ」


「私にとってはとっても可愛い我が子なんだ。仕方ないだろう?」


 俺はぷいっとそっぽを向く。

 アキはそれでも楽しそうに笑っていた。

 アキが笑っている姿を見るとなんとなくこっちまで嬉しくなる。

 さっきまでのことも許せてしまって、アキに見えないようそっぽを向いたまま俺も笑った。


 それを見ていたサーデルたちがニヤニヤしていたので、すぐに無表情になって睨みつけたけど。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。