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血色の世界  作者: 蛹
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26話 帰還

 魔法で仲間を探しながら森の中を走っていたら、もう夜になっていた。

 適当に狩った魔物を焼いて食い、皆を探しているとやっと見つけることができた。

 俺は南側に行き過ぎていたようだ。

 皆は今、俺より北側で魔物と戦っている。

 走って向かうが途中に川があったり、魔物に襲われたりしてなかなか合流できない。

 ああ、皆が歩き出してしまった。

 いや、この速度だと走っているのか。

 俺も急がないと。


「シャァアア!」


 足元に蛇の魔物がいたことに気が付かず、俺は躓いてコケてしまった。

 休みもせず走り続けているから、自分でも気が付かないうちに注意が散漫になっていたようだ。

 蛇の魔物に毒を貰わないように剣で輪切りにして、また走り出す。

 足元にも探索の魔法を使っておこう。

 そのほうが足元になにがあるかわかりやすい。



 戦いの音が聞こえ始めた。

 近くに皆がいるんだ。

 そう思うだけで体の疲れが消えていくような錯覚に陥る。

 皆の姿が見えた。

 少し走るスピードを落とそう。

 それから皆と合流する。

 皆は丁度魔物を狩り終わったところのようだ。

 肩で呼吸をしながら近くにいたロキの腕をちょんちょんと指で突く。

 ロキは慌てて俺のほうを向いて剣を構えた。


「あれ? セレメ? セレメじゃないか!」


 聞きなれた声を聞いたせいで安心してしまって、俺は木に寄りかかり座り込む。

 俺は思ったより疲れているようだ。

 そりゃ昼すぎくらいから人間とサーデルから逃げて、森の中では皆を探すためと魔物への警戒で集中しっぱなしだったもんな。

 毎日の鍛練でも少しは休憩をとるのに、今日は全く休憩せずにここまで来たんだ。

 ちょっと無理しすぎたかな。


「休憩にしよう。皆は交代で見張りをしていてくれ。セレメ。水は持ってるか? もう空か?」


 コリアスが俺の前に座り込む。

 水筒は空になったから魔法で作って飲んでいたけど、仲間の前で水を出すわけにはいかない。

 喋ることは苦しくて出来ないので、空の水筒をコリアスに渡した。


「空か。俺の水筒の水を飲んどけ」


 そういって水をくれるコリアス。

 遠慮なく飲ませて貰おう。



「よく生きて帰って来たな。勇者相手に戦ったんだろう?」


 俺が落ち着いたころでコリアスが聞くが俺は首を横に振った。


「勇者とは友達になった」


「セレメ。頭でも打ったのか? 勇者に記憶をいじられたか?」


 変なことをコリアスがいうのでつい噴き出してしまう。

 でも敵のはずの勇者と友達になったとか言い出したら、頭がおかしくなったと思うかもしれない。

 コリアスは俺が笑ったせいで少しムッとした顔をしていたが。


「笑ってないで答えろよ。心配したんだぞ?」


「すまんすまん。順を追って説明する。まず人間の国での最初の夜。俺は酒場に行っただろう? そこで勇者とは知らずに勇者と一緒に話をして友人となった。次の日に俺は勇者と人間の国で観光した。で、今日だが勇者が勇者と知って女性潜入班を森の入り口で先に逃がした後、フードを取って俺が魔人だと知らせた。そのあと少し会話してから普通に帰えして貰えたんだ」


「……まさか勇者が一年前に発見されていたとかの情報って」


「そう。勇者本人からの情報だった」


「セレメの行動は予想外過ぎんぞ……」


「魔人の住み家まで追跡されるかも知れないと思って、険しい森を休憩なしで全力で走ってきたから疲れたよ」


「そりゃ疲れるわな。勇者とは他に何を話したんだ?」


「勇者が魔人は悪夢の事どう思ってるんだって聞いてきたから憎んでるって答えといた」


「おっ。魔人の味方になってくれそうか?」


「まだわかんないな。でも可能性はありそう」


「わかった。でもとりあえずセレメは休憩だ。警戒は俺たちがしとくから休んでくれ。休憩せずにとか無茶したんだからな」


 コリアスは俺の傷の手当てをし始めて、その痛みに顔を顰(しか)める。

 傷といっても勇者に俺の血を見せるために血を流した腕と、蛇に躓いて出来た膝の擦り傷程度だけど。

 今は手当てされているから動かない。

 でも俺もなにか仕事をしたいな。

 体は疲れているけど魔法くらいは使える。


「魔法で支援するよ」


 そう提案してみたが、コリアスが呆れたような顔をしてから大きくため息を吐いた。


「駄目に決まってんだろうが。何も見ずに目を瞑って休め。寝てもいい。お前のことは運んでやるから」


 それは嫌だ。

 自分の足で歩くぞ。


「セレメ。今運ばれるのは嫌だとか思っただろう」


 周りを警戒しながらも近くにいるロキが半目で俺を睨んでくる。

 何故わかったんだ。

 ロキから目を逸らして感情を読み取られないようにする。

 ……これでも読み取られてしまいそうな気がするけど。


「運ばれんのが嫌なら肩を貸すくらいにしとくから大人しくしててくれ」


 コリアスが言っている。

 仕方ないか。

 でも危なくなったらいつでも動けるようにしておこう。

 アキの姿も見えたけど、今ここは森のなかで危険だから真面目な顔して周りを警戒している。

 帰ったらまたなにか言われそうだな。




 休憩が終わりまた移動することになった。

 馬車でも六日かかったのに徒歩で夜も進むのだろうか。

 リーダーのコリアスにもなにか考えがあるのかもしれない。


 皆が俺に配慮してなのか、走ってではなく早歩きで進んでくれている。

 それは今はとてもありがたい。

 体が凄く重くて、こんな状態で走ったらすぐにコケそうだ。


「セレメ。肩を貸してもらえば? 見ていて不安になるのよ」


 レイダが俺の横に来て困ったように眉を下げている。

 でも俺は一人で歩くぞ。

 どうしても無理そうになったときは肩を貸してもらうけど。


「そうだよ。セレメくんがふらふらしてるところ初めて見たし」


 メーナがレイダとは反対側から現れた。

 相変わらず影が薄いな。

 近くにいるってわからなかった。


「走ってないからすぐに回復する。だからこのままでいいんだ」


「歩いてても疲れるよ?」


 メーナが当たり前のことを言っている。

 俺が非常識なんだろうな。

 木の根元の植物に目を向けながら思う。

 あっ。この植物モルゼットのいる島に生えていたのと同じのだ。

 やっぱりこの森にもあったんだな。

 柔らかくて丸っこい葉を摘み取ってモグモグと食べる。

 疲労回復にいい植物なんだ。

 ポーションの材料にもされているし。

 全部モルゼットが教えてくれたことだけどな。


「お腹が減ってるなら私の保存食あげるわよ?」


 レイダが勘違いしてる。

 でも食事をしている姿を見せていなかったので保存食も尽きてしまっているんだと二人に思われてしまった。

 確かに保存食は体力が必要だから全部食べてしまったけど、魔物を狩ってそれも食べてきたから結構お腹いっぱいだ。


「いらねぇよ。この植物はポーションの材料として有名だから、食べればポーションほどじゃないにしても疲労が早く回復するとか傷が早く治るとか、そういう効果があるから食べたんだ」


「そうなのね。ご飯はちゃんと食べたわけ?」


「ああ。保存食がなくなったから魔物倒して焼いて食った。走りながらな」


「セレメくんってワイルドだね」


「……どうやって走りながら焼いたのよ」


 メーナの感想はともかく、レイダの疑問はもっともだ。

 どうやって走りながら火をつけて肉を焼くんだろう。

 俺は火の魔法使ったけど、それを言うわけにはいかないし。

 これは無視でいいか。

 レイダの想像に任せよう。




 日が登ったころ、今まで沢山襲ってきた魔物の数が減ってきた。

 この森には夜行性の魔物が多いのだろう。

 コリアスはそれを知っていたようで、夜は皆で戦って昼は少人数で見張りを交代しながら睡眠をとることになったているらしい。

 俺が合流する前に皆に伝えてあったそうだ。


「見張りは俺とロキでやるから皆は寝てくれ」


 コリアスが言っている。

 俺ももう眠かったので、あとは任せて寝てしまおう。

 見張りの順番を皆で決めてから寝た。







 三週間くらいかかってやっと村に帰ってきた。

 皆で無事に帰ってこれてよかった。

 なんだか村が懐かしく感じるよ。


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