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血色の世界  作者: 蛹
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25話 勇者

 サーデルに連れられて懺悔室に二人で入る。

 普通懺悔室って誰にも聞かれないように密談するような場所じゃないはずだけど、何故か使わせてくれた教会の人。

 サーデルって勇者に関わる仕事をしているって言っていたし、結構偉い人なのかも知れない。


「なあ、ヘルマン。悪夢は英雄なんだってさ。勇者がそういって悩んでいるんだ」


 突然話し出すサーデル。

 いやいや、なんで俺に話すんだよ。

 昨日会ったばかりなのに。


「そんな話していいわけ? 俺が何者かわかんねぇだろ」


「一般の人に知っていてほしいんだ。誰かに話してもいいし、話さなくてもいい」


 サーデルの考えていることがよくわからない。

 少なくともサーデルは俺を普通の人間と思っているようだが……困った。

 俺は普通じゃない。

 一般人じゃないんだ。

 ……それでも聞くしかないんだろうな。

 ばれたら死ぬし。


「悪夢は世界の英雄で、勇者は人の英雄らしい。悪夢はどうして世界の英雄なんだろう」


 俺は答えない。

 答えるわけにはいかない。

 答えたら俺が悪夢という証拠になってしまう。

 俺は黙り続けた。


「魔人なら何か知ってるのかな。悪夢の使いって言われているし。知っているなら会って話したいな」


 サーデルの言葉に俺は驚く。

 だって魔人に会って話がしたいなんて、普通は言わない。

 これは何かの罠か?

 俺が魔人かもしれないと疑われているのか?

 そう思ったもののサーデルはそんな素振りを見せず本当に知りたがっているだけのようで……。


「本当に悪夢を殺すべきなんだろうか」


 これ以上聞くのはやめておこう。


「話はそれだけか? 誰にも言わねぇからその話は他にはすんな。死ぬぞ」


 ここは懺悔室とはいえ誰かに聞かれているかも知れない。

 それにこれ以上話を聞いていたら俺がミスをしてしまいそうだ。

 悪夢しか知らないはずの情報を漏らしてしまいそうだ。


「でもヘルマンが知っていてくれるだけでいいんだ。僕みたいに疑問を持ってくれれば、少しは何かが変わりそうな気がしてさ」


 俺に話しても何も変わんないんだけどな。


 懺悔室を出て教会の外。

 空の色が変わり始めたからもう帰んないとな。


「サーデル。もう門限だから俺は帰る」


「そっか。変な話に付き合ってくれてありがとう」


「いいって。ああいう話は結構好きなほうだ」


「そっか」


「じゃあまたな。サーデル」


「……うん。また、ね。へルマン」


 サーデルの元気がないのが心配だ。

 大丈夫だろうか。

 心配ではあるけどもう夕方なので急いで帰らないといけない。

 サーデルに手を振って別れると宿屋まで走った。







 翌日、勇者のお披露目パレードが行われる少し前の時間に昨日打ち合わせた持ち場にやってきた。

 今の俺は魔法使いがよく着ているような黒いローブに身を包みフードを目深に被っている。

 村でこの格好は怪しさ満点だけど、人間の国ではこんな格好のやつがそこら中にいるんだ。

 派手派手な赤とかのローブもあるから黒よりそっちが目立つくらいだし。

 あと荷物は全部持っていて、緊急事態が起きればすぐ逃げられるようになっている。

 勇者の顔を拝むだけだから、何も起きないと思うけど。


 しばらく屋台で食べ物を買って食べたり、飲み物を飲んだりと時間を潰していると楽しげな音楽が聞こえてきた。

 パレードが始まったかな。

 道をみると音楽が楽器を手に城のから歩いてきているのが見えた。

 その後ろには屋根のない馬車がゆっくりと進んできている。

 馬車の上に勇者がいるはずなんだけどまだ遠くでよく見えないな。

 観客の歓声がうるさい。

 勇者は人間たちの希望だから仕方のないことなんだろうけど。

 徐々に勇者の乗る馬車が近づいてくる。

 顔が見えそうな近さまで来たのに、勇者がこちらとは反対側を向いて手を振っているから顔が見えない。

 向こうにいる仲間が見ているだろうけど俺も見ておきたいな。

 勇者の馬車が俺の前まで来る。

 勇者がこちらを向いた。

 ……つくづく女神は俺に嫌がらせをするんだな。


 俺は勇者の顔を知っていた。

 昨日まで楽しく話していた。

 その相手が勇者とは……。

 そうか。お前が勇者だったんだな。

 サーデル。


 つい苦笑いを零す。

 サーデルは笑顔を貼り付けたまま、疲れたように手を振っている。

 勇者の関係者じゃなく勇者本人とか俺も運が悪い。

 初めての人間の友人が勇者とか、悲しみを通り越してもはや笑えてくる。

 悪夢と勇者が仲良し。

 過去にもそういう悪夢と勇者がいた。

 仲でも有名なのは義賊の二人だろう。

 ……俺はこれからどうやってサーデルと関わろうか。

 殺し合いはしたくないから、このまま仲良くっていうのが理想かな。

 サーデルは悪夢を殺すべきか悩んでいたし、上手くいけば魔人の味方になってくれるかもね。

 そう簡単にはいかないだろうけど。


 そんなふうに考えていると、俺の後ろのほうがざわつき始めた。

 次には女性の悲鳴や子供の泣き叫ぶ声も聞こえてくる。

 な、なんだ?

 何が起きた?

 人ごみの中をすり抜けて慌てて声のするほうへ行ってみると、そこには顔色を悪くした潜入班の隊員の姿があった。

 地面にはガラスが散らばっていて潜入班の手からは黒い血が流れ出している。

 基本的に潜入班は黒い血以外がなることが多いけど、たまに黒い血の魔人もやることがある。

 ……もう運が悪かったと思うしかないな。

 何がどうなってこうなったのかはわからないが、勇者の顔も見れたわけだし緊急脱出を試みよう。

 空に向かって闇の魔法を放った。

 パンという音とともに黒い闇が花火のように飛び散る。

 緊急事態。人間の国からの脱出の合図だ。

 あちこちから俺と同じように黒い花火が打ちあがる。

 了解ってことなのだろう。

 固まって何もできていない潜入班を担いで、俺は影の中に潜る。

 サーデルが近寄ってきていたから咄嗟に潜ったけど、ここに明りを照らされたら影がなくなり地上に出てしまうんだがどうしようか。


「す、すみません。私のせいで」


 潜入班の女性がそういっている。


「謝るのはあとでいい。それより逃げる方法を探してくれ。生憎俺は今回が初任務だ。こういう状況に慣れていない。今は昼で影が近くにないし、影移動が難しいんだが、そばには人間と勇者がいるようだ。こういう時どうするべきなんだ?」


 俺には戦って足止めする方法しか思いつかない。

 でも勇者と互角に戦ってしまったら、俺が悪夢とばれる可能性もある。

 この一年で強くなったのは皆も知っているだろうが、勇者を下手に負かしたりしたら大変なことになるからな。

 他にも人間が周りに沢山いすぎて戦いずらいっていうのもある。

 魔人は人を殺さないのが掟なんだ。

 さて。どうするよ?


「や、屋根の上に登れますか? 屋根の上なら人はいませんし、仲間にも見つけてもらいやすいでしょう。ただ人間の攻撃の的にされる可能性はありますが」


「わかった。それでいく。攻撃が来たら俺が防ぐ。お前は走れるか?」


「はい。冷静さは取り戻しましたので問題ありません」


 地上を見上げて確認する。

 勇者は近くにいるようだが、俺たちを見失って困惑しているようだ。

 人間たちはお互いを押し合い、逃げまどっている。

 じっと勇者を見つめる。

 勇者の背中が見えた瞬間、俺たちは影を抜けだして闇の魔法で階段を作り屋根の上まで駆け上がった。

 すぐに階段は消して屋根の上を走り出す。

 石や魔法が飛んでくるが全て防いでみせた。


 他の皆はどこだ?

 この街の門へ向かいながら黒いローブの集団を探す。

 高いところから見ているからすぐに見つけることが出来た。

 二つのグループにわかれて逃げているようで闇の魔法を使って目くらまし、進路妨害をしながらなんとか逃げてくれている。

 サーデルはどこだ?

 探してみると、いつのまにか後ろにいた。

 勇者だしそりゃあ屋根くらい登れるよな!

 しかも足速いし……なんとか逃げ切らなければ。


「これ以上早く走れるか?」


 女性潜入班隊員に聞いてみると頷くのでスピードを上げる。

 それでも勇者との距離は縮まるばかりだ。

 勇者半端ねぇ。

 どうにか妨害しながら攻撃を防いで街の外まで強行突破したが、勇者がまだついてくる。

 そういや魔人に会って話をしたいとか抜かしてたな。

 ……仕方ない。


 森の入り口に入ると俺は立ち止まった。

 それに気が付いた女性潜入班も立ち止まる。


「何してるの! 走って!」


 焦ったように言っているな。


「このままだと追いつかれる。先に行っててくれ」


「駄目よ!」


「いいから行ってくれ。でないと村までぶん投げる」


「し、死んでも知らないわよ!」


「死なないから」


 女性はなんか泣いて走り出したけどそんな感動的なやつじゃない。

 命を張ってとかそういうことではないんだ。

 まあ逃げてくれたからいいんだけど。


「や、やっと追いついた」


 サーデルが肩で息をしながら俺と対峙する。

 呼吸が落ち着くとサーデルは俺に話しかけてきた。


「魔人さんですよね? お伺いしたいことがあるんです。答えていただけたらもう追いませんし、逃げて下さって構いません」


 サーデルは大真面目でそんな変なことを言っている。

 昨日俺に言ったことは本当のことだったんだな。

 だったら俺も本当のことを言ってみようか。

 コリアスには容易に正体を明かすなって言われてるけどいいでしょう。

 悪夢ってことは隠すけど。


 俺はフードを取ってから剣で軽く腕を切って血を流す。

 それをサーデルに見せつけた。


「昨日ぶりだな。サーデル。まさか勇者だったとは思わなかったよ」


「……ヘルマン? ヘルマンなのか? えっ? でもヘルマンは青い血だって」


「それは嘘だ。俺の血は黒い。つまり魔人だ。会えてよかったな、サーデル。魔人に会いたかったんだろ?」


 サーデルの反応を伺うと、深呼吸して冷静さを保とうとしているようだ。

 

「……最初に言った通り聞きたいことがあるんだ。答えてくれるか?」


「答えられることなら構わない」


「魔人は悪夢をどう思ってるの?」


「そんなの決まっているだろう。魔人をただの人間じゃなく悪夢の使いという化け物にした悪夢を憎んでいるさ」


「……悪夢を憎んでいる?」


「そうだ。悪夢となんら関係もない、ただ血の色が同じってだけで殺される。そんなの憎むなっていうほうが無理がある。だからな、魔人にとっても勇者は希望の星なんだぞ。サーデル」


 でも俺は殺される側なんだよな。

 あー、嫌だな。

 殺されないためにもどうにか悪夢ってことは知られないようにしないと。

 サーデルは考え込むように俯いだが、すぐに顔を上げてまた質問してくる。


「悪夢を憎んでいるなら、悪夢の情報は人間より持っているんじゃない? 悪夢の血って特別だったりするの?」


 悪夢の血は特殊だな。

 でもこれは答えるわけにはいかないだろう。

 答えようとしたがサーデルの言葉には続きがあった。


「女神様から勇者の血は悪夢の血だと言われたんだ」


 悪夢と同じ……。

 前言撤回。悪夢の特殊性を教えよう。


「誰にも言わないほうがいいんだけど、サーデルは勇者だから教えてやるよ。悪夢の血は黒じゃない。そして悪夢と同じ血の勇者の血も白じゃないんだろう。もちろん灰色でもないぞ」


「えっ?」


 サーデルは信じられないというような顔をして自分の手を見つめている。

 俺も最初はこんな感じだったんだろうか。

 サーデルほど表情は豊かじゃなかっただろうけど。

 

「悪夢はレジェンドドラゴンのようにあらゆる属性の魔法を扱える。悪夢と同じ血なら勇者にもそれが可能なんだろう。つまり黒い血だけじゃなく別の色の血も混ざってるということだ」


「なるほど。だから僕の血は白じゃなく灰色なんだね」


 そろそろ村に向かい始めないと皆が心配しそうだな。

 後ろをちらりと見る。

 アキなんかは俺を探しにここまで来てしまいそうだ。


「もういいか? ここでこうしていると人間に見つかるだろうし、そしたら俺は殺されるんだが」


「そうだね。まだ聞きたいことはあるけどヘルマンには死んでほしくない。行っていいよ」


 ああ、そうか。

 俺は偽名を使っていたな。

 また会った時にヘルマンとか呼ばれても誰それ? ってなりそうだ。

 本当の名前を教えておこう。


「サーデル。俺の本当の名前はセレメだ。次に会う機会があるかもしれないし、憶えとけよ」


「あ、うん。わかった。セレメだね。憶えとく」


「おう。じゃあ行くわ」


「ああ。またね。セレメ」


 また会うかはわからないから、またねとは返さない。

 でも手を振り返すくらいならいいだろう。

 サーデルには妙な親近感があるけど、これはレジェンドドラゴンのガブロドラに会った時みたいな同じ血の同類に対する感情だろうか。

 ああ、だからサーデルは俺に話しかけてきたのかもしれないな。

 同類だから、親近感があったから、話しかけやすかったんだろう。


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