24話 友人
朝になったので、起きて身支度をする。
最初眠れなかったのが嘘のようによく眠れたな。
皆はまだ起きる様子がないので、壁際でこっそりと空間収納の魔法を使って中から道具を出していく。
最近、魔法道具の作り方の本を丸暗記したので実践してみることにする。
魔法道具の作り方の基本は魔法陣だ。
まずは道具にする素材。
今回はモルゼットの島で手に入れた石で実験だ。
ただの石を磁石にしてみよう。
魔法での磁石の作り方は土の魔法陣と雷の魔法陣の二つで出来ている。
普通の人が作るには土の魔法使いが土の魔法陣を、雷の魔法使いが雷の魔法陣を作らなければならない。
つまり最低でも二人の人間が必要になる。
俺の場合は俺一人だけでも問題ないけど。
しばらく集中して魔力を石に込めながら、魔法陣を描く専用のペンで石に魔法陣を描いていると、ドアの外、つまり宿屋の廊下から複数人の足音が聞こえてきた。
こちらに向かってきているな。
まだ帰って来ていないコリアスたちだろう。
慌てて魔法道具を作る素材や道具を空間収納の中に投げ入れる。
代わりに本を出して今まで読んでいたように見せかけた。
そーっとドアが開く。
やっぱりコリアスたちだ。
コリアスが何故か真っ先に俺のところに来た。
どうしたんだろう?
「……セレメ。ちゃんと寝たか?」
ああ、そりゃ心配になるよな。
昨日寝られないって言ったし、そのまま寝られなくて本を読んで時間を潰していたと思われても仕方ない。
でも寝たから心配させないようにちゃんと言おうか。
「ちゃんと寝たさ」
「本当かよ? セレメなら二、三日寝なくてもピンピンしてそうだが、頭の働きが鈍くなるからちゃんと寝ろよ?」
「だから寝たってば。寝て早く起きたから本を読んでいるだけだ」
「大丈夫かよ。初任務だし疲れてるだろ。もう少し寝たらどうだ?」
「目が覚めてしまって寝る気分じゃない」
「仕方ねぇな。一応酒場でのことも聞いとくか。なんか情報聞けたか? 些細なことでもいいんだけどよ」
コリアスが俺の隣に座って壁にもたれかかって聞いてきた。
なので昨日聞いた情報を話していく。
「……お前なんでそんな情報拾ってこれたんだ? 勇者が一年前に発見されてたとか潜入班も全く掴んでない情報じゃねぇか」
「偶然勇者に関係ある仕事についているらしい男が話してくれたんだ。本当の情報かどうかはわからないけど」
「その辺は潜入班に調べて貰おう。その情報が正しければ特訓や訓練も一年やっていたってことになる。想像以上に強くなってるかもしれねぇな。セレメでも一年でかなり強くなったんだ。勇者ならそれ以上だってあり得るぜ」
コリアスが言うがそれはないと思う。
俺はモルゼットが師匠だった。
勇者もモルゼットくらい強い人を師匠にしたら強くなるかもしれないがそんな人、人間の国にはいないだろう。
いたら勇者いらないし。
……いや、待て。
悪夢は百歳生きても中年のおっさんくらいしか年をとらないけど勇者はどうなんだ?
勇者も同じだったらどうしよう。
八代目勇者のメスディナはモルゼットに殺されたけどその前の七代目が生きている可能性はないか?
あとで教会に行って女神に質問でもしようか?
うん。そうしよう。
女神も人と話したそうにしていたし答えてくれることだろう。
「今日は基本的に自由に情報を収集していいからな。セレメ。観光気分でいてくれていい。魔人ってことを隠しながらだが」
「わかった」
「血だけは出すなよ? 俺は赤い血だから問題ねぇけどお前たちは違うんだからさ」
コリアスはアキにでも影響されたのだろうか。
心配してくれるのは嬉しいけど、されすぎると信用してくれてないみたいで悲しいんだが。
俺は初任務だし心配されて当然なのかもしれないけど。
しばらくコリアスと会話していると皆が起きだした。
俺も布団を畳んで部屋の隅に置いておく。
本もカバンの中にしまったと見せかけて空間収納にしまった。
あとはやることはないかな?
ないな。
窓の外でも見てみるか。
窓を開けて外を見る。
もう人がいっぱいいる。
村では道にこんなに沢山の人がいることがほとんどないから新鮮だ。
ボケっと見ていると知っている顔が見えて目を疑ってしまった。
あれってサーデルか?
昨日宿屋の場所を教えたけどもう来たのかよ。
体を乗り出してサーデルを目で追うと宿屋の前で止まって誰かを待っているようだった。
絶対俺のこと待ってるよな。
うん。ちょっと行ってこよう。
一応このチームのリーダーであるコリアスに一言いってから外に出た。
「あっ。ヘルマン! 昨夜ぶりだね」
爽やかに笑ってそういうサーデル。
「サーデル。窓から姿が見えたから来たぞ」
そういうと嬉しそうに笑っている。
「今日って暇かな? 暇なら一緒にどこか行かない?」
期待に満ちた笑顔を向けてくるサーデル。
困った。
コリアスには観光みたいな感じで情報収集すればいいって言われてるけど、人間と一緒にっていいのか?
人間と一緒のほうが周りに馴染みそうだけど、サーデルは目立つ容姿をしているしな。
これはちょっと相談かな。
「ちょっと待っててくれ。師匠に聞いてくるから」
「わかった」
宿屋に戻ってコリアスに相談する。
「昨日一緒に飲んだやつが俺と一緒にどこか行こうって誘って来てるんだけど」
そういうとコリアスは驚いたように俺をじっと見つめてくる。
言いたいことはなんとなくわかった。
「えっ? お前人間とそんなに仲良くなったのか?」
「んー。まあ、うん。仲良くなったかな」
「友達を作るのも大変だったお前が? 酒の力はスゲェな……」
俺はそんなに酔ってなかったぞ。
サーデルのコミュニケーション能力が異常なんだ。
「よかったじゃねぇか。おう、行ってこい! 仲良くなれば魔人ってのも受け入れてくれるかも知れねぇ。……ほとんどが受け入れてはくれないから安易に明かすなよ?」
「わかった」
「いつ行くんだ? もう行くか? 行くなら行っていい。夕方には帰って来いよ? 明日の勇者のお披露目のときの話し合いがあるからな」
「ああ。行って来るよ」
カバンを持って外に出る。
待っていたサーデルが俺に駆け寄ってきた。
「どうだった?」
「行って来いって言われた」
「よかった! じゃあどこに行こうか? 朝ご飯は食べた?」
「まだ食べてない」
「じゃあお店に案内するよ。僕の友達だった人が料理人に弟子入りしている店なんだけどね」
そういってサーデルは楽しそうに話し出す。
でもその顔には影が差していて、とても寂しそうに見えた。
これは気のせいだろうか?
サーデルおすすめの店に入っておすすめのものを注文する。
サーデルも一緒に食べるようだ。
運ばれてきたのはシチューとパン。
この組み合わせをみるとパンをそのままシチューに入れたくなってしまう。
今は朝だけどいいだろうか。
昨日はゆっくりできなかったからいいよね?
二つあるパンをシチューの皿の中に丸ごと入れる。
ああ、幸せ。
ゆっくり食べられる。
「……パンって普通は千切らない? なんで丸ごと?」
サーデルが俺の食べているシチューを凝視している。
ここは仲間に引きずり込もうか。
「こうして食べるのが好きなんだ。サーデルもやってみると良い」
「なんか昨日と喋り方変わってない?」
「……」
しまった!
サーデル、コリアスと交互に話していたせいで素のまま話してしまっていた!
い、今からでも直せ!
「なんの話かな? ずっとこの口調だよ? 耳がおかしいんじゃないのかい?」
「いやいやいや! 無理しなくていいから」
「……」
ミスったな。
そうだな。
こういう設定にしなおそう。うん。そうしよう。
「……俺さ、商人になりてぇから口調をもっと柔らかくしたいわけよ。でも朝とか気ぃ抜いてるときは素が出ちまってな。直そうと思うんだがずっとこんなだったせいでなれなくてなぁ」
「そ、そうなんだ。なんか最初のイメージと全然違うね」
そうそう。
そういう設定で。
「そういう口調だとなんか怖いね」
「そうか? でも昔からこうだぞ」
「びっくりだね。でも夢に向かって頑張って口調まで変えようとしてるんだ。凄い。僕には出来そうにないよ」
サーデルは眩しそうに目を細めている。
ほとんどが嘘なのでそんな目で見られると胸が痛む。
でも夢に向かって口調まで変えていたのは本当だ。
そう考えておこう。
俺の素を見たおかげか、サーデルがパンを俺と同じように丸ごとシチューに入れてくれた。
少し心を開いてくれたから真似もしてくれたんだろう。
ちょっと嬉しい。
「……なあ、ヘルマン。パンがすっごく食べにくくなったんだけど」
サーデルが頬を引きつらせて言っている。
俺はついにやりと笑った。
「食べにくいだろうな。そういう風に仕向けたんだ。ゆっくりしたいからな」
「えー。ご飯が冷めるじゃないか」
「冷めてもいい。人との食事なら冷めていても俺は食べてしまうし」
「……そうなんだ。ヘルマンは子供のころとかに家族とご飯が食べられなかったりしたの?」
「そういうわけじゃない。でも仕事で長期間家を空けてたりしたから一人で飯を食うことも多かったけど」
「ん? 両親は共働きなのか?」
「……俺には父親がいねぇんだ。いや違うな。父親も母親もいない。でも俺を引き取ってくれた今の義母が俺の唯一の家族だ」
「そっか。僕も両親はいないよ。いないというかほぼ捨てられたも同然だけど」
俺は捨てられた上に殺されかけた。
でもそうしてくれたことに今は感謝しているよ。
アキや皆に会えたし今のほうが幸せだ。
でも人間の国の普通の人間でも捨てられるのか。
可哀そうに。
「世間一般では女神様の使徒ってことになって教会で育てられたけど、普通の家庭で育ちたかったよ」
サーデルが変なこと言った。
教会で育てられるってそれ白い血の話だよな?
「……サーデルって白い血だったのか」
「あー。言ってなかったね。そう。白い血なんだ。僕の血は皆と比べて灰色なんだけどね」
ふーん。
白い血も白い血で大変なんだな。
白い血と黒い血は世界で特別扱いされているし。
絶対黒い血のほうが不憫だけど。
「ヘルマンは何色の血なんだ?」
そう聞いてくるけど一瞬答えに困ってしまった。
慌てて針の魔法道具で見せていた血の色をいうことにする。
「血の色は青だ」
「へぇ。青か。じゃあ水の魔法を使えるんだね。僕もそういう色がよかったよ」
「俺は自分の血に誇りを持っているけど、サーデルは違うのか?」
「……どうだろう。ずっと灰色の血がコンプレックスだったから誇りっていうのはないかも」
「そういうもんか」
「うん。そういうもの。僕以外の白い血の人は誇りを持っているのかもしれないけど」
灰色の血っていうのでいじめられたりしたんだろうか?
食事を終えると店の外にでて、サーデルと次に行く場所を話し合う。
俺は特に何が見たいってわけではないけど、強いて言うなら勇者のお披露目のパレードでの勇者の居場所が知りたい。
パレードっていうくらいだし動くんだろうけど、どの道を通るかっていうのも確認しておきたいな。
そういってみるとサーデルは苦笑いしていた。
「やっぱりヘルマンも勇者が見たい?」
「当然だな。俺が悪夢や勇者の話が好きなのは昨日話したろ? 生の勇者が見られるとかラッキーだ」
「確かにそう考えればラッキーだね。悪夢には会いたくないけど」
サーデル。お前はもう悪夢に会っている。
残念だったな。
勇者のパレードルートを回ったり、市場をみたりといろいろした。
人間の街は楽しいな。
建物は高いし賑やかだし、どれもこれも珍しいものばかりだ。
そんな楽しい気分が乱されることが一つあるけど。
誰かにつけられてる。
「サーデル。後ろの二人って知り合いか?」
「えっ? あー。知り合いだね。気にしなくていいよ。僕を心配しているだけだと思うから」
女二人につけられるってサーデルはモテるのだろうか。
この顔だしモテるだろうな。
性格もいいし。
「それより次はどこに行く?」
もう行きたい場所はない。
サーデルのお勧めの場所に連れて行ってもらおう。
そういうとサーデルは少し考えた後に場所を決めてくれた。
「教会に行こう」
……教会ね。
真っ白で美しくも禍々しい教会の前にやってきた。
窓がステンドグラスになっていて黒以外の様々な色が散りばめられている。
昔アキから聞かされた人間の教会の特徴と一致しているな。
もっとも特徴的な勇者ハイツの像が教会の横にあるし。
……ここは俺が赤子のとき、殺されかけた場所だ。
アキたちが助けに来なかったらこの教会の前で俺は火あぶりにされていた。
「ここが僕の育った教会なんだ」
……へぇ。そう。
ここがそうなのか。
ふーん。
「ヘルマン? どうした?」
「……いや、なんでもねぇよ。綺麗な教会だな。俺のいた村の教会はこんなに大きくなかった」
本当に綺麗で憎たらしい教会だよ。
サーデルは俺をここに連れてきて何がしたいのか。
出来るだけ不快感を表に出さないよう意識しながらサーデルを見ると、サーデルは何故か悲しそうな顔をしていた。
ど、どうしたんだ?
「教会の懺悔室で話をしない? 誰にも言えない話を」




