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血色の世界  作者: 蛹
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22話 帝国

 訓練を始めて一週間後に訓練生を卒業し、勇者の調査チーム入ることになった。

 今日はその調査チームが村から旅立つ日だ。

 人間の国へ初めて行くからちょっと緊張するな。

 アキとコリアス、レイダもロキもメーナも一緒のチームだから連帯もなかなかだし、初めての任務としては少し安心できる。

 レイダの体調が心配だが、すっかり元気になった様子で凄く張り切っているから大丈夫だろう。

 準備された馬車の御者席に乗る。

 俺たちの設定は商人夫婦とその弟子。それらを護衛する人たちだ。

 俺はなぜか商人の弟子役になっているけど。

 商人の夫婦、つまり妻役のアキが商人役のコリアスの隣に座って馬を見ている。

 他は護衛役だ。


「なんでセレメは私たちの子供という設定じゃないんだ?」


 アキが未だにぷんすか怒っている。

 アキが親なのは違和感ないけど、コリアスが親って嫌だなあ。

 コリアスは仲間って感じだし。

 任務ならやるけど出来ればやめていただきたい。


「十五歳で子供産んだことになるんだぞ?」


「十五は成人だ。普通に産むだろう」


「人間の国では二十歳前後に子供を生むらしいぜ」


「十五も二十歳前後に入るだろうが」


「でも顔が似てねぇよな。髪の色も違うし」


「うっ。それは先祖に似たってことに」


「流石に無理があるだろ」


「養子ってことにして」


「それアキとセレメでは事実になっちまうな」


「事実も織り交ぜたほうが嘘はばれにくいだろう!」


「そうだが、もう決まったことだからグチグチいうな」


「うぐぐぐ」


 アキも諦めが悪いな。

 仕方ない。

 ちょっと声をかけて上機嫌になってもらおう。

 そうすれば気持ちもおさまるだろう。


「アキ。どんな任務のどんな設定でもアキは俺の家族だ。偽物の設定にこだわらなくても、心はいつも繋がってるだろ」


「せ、セレメ!」


 感極まった様子で抱きついてくるアキ。

 ぎゃああ!!

 抱きついてくんな!

 俺はもう十六歳だぞ?

 子供じゃないからな?

 腕で押しかえすものの全く離れる様子がない。

 アキを隣に座らせたのは間違いだったか。


「そうだな! 偽物じゃなく私たちは本物だものな!」


「やーめーろー! はーなーれーろー!」


「いいじゃないか! 家族なんだから!」


「家族だから嫌なんだが!」


 恥ずかしいったらありゃしない。

 しかも仲間に見られてるなかされてるし。

 アキが機嫌を直したのはいいけど、こんなに機嫌がよくなるとは思わなかった。

 それもそうか、くらいで済むと思ってたのに……。


 アキの隣でクスクス笑っているコリアスが恨めしい。

 アキも俺が本気で嫌がっていないことを知っているせいでニッコニコしてるし。

 あーもう! 頬が熱い!

 思いっきりアキから顔を逸らしてアキの頭を遠くへやる。

 それでも抱き着くことをやめないアキは頑固だ。


「なんだー? 照れているのか? セレメ」


 俺の手から逃げ出し、俺の顔を見ようとしてくるアキ。


「うるせぇ! 見んな! 離れろ!」


「思春期だなあ。昔はぎゅってしてもされるがままでいてくれただろう?」


 そうだけど! そうだけども、今は恥ずかしいからマジでやめてくれ!

 救出班の皆が凄く見てるから!

 ほら、あんなアキ見たことないとか言ってるの聞こえてくるから!


「セレメはアキさんに愛されてるわね。そんな照れなくてもいいのに」


 レイダが面白がっている。

 皆で笑いやがって。

 ……でも楽しいんだよな。 

 はあ。こんな嫌な思いしてるのにそれを楽しいとか俺もどうかしてるな。

 こんな時間がいつまでも続いてくれればいいんだけど。




 馬車を走らせて六日。

 人間の国まで一直線でいければ、多分二日くらいでつくんだけど山があるから遠回りだ。

 しかも村から人間の使う道までの道をを隠しているし魔物も出るから余計時間がかかる。

 やっとのことで人間の国の門までやってきたわけだけど……。

 長い馬車の列がある。

 これ最後尾から並ばないといけないのか。

 大変だな。

 この六日で馬車の動かし方をコリアスとアキに学んだりして飽きなかったけど並ぶのは飽きそうだ。

 しかも人間のふりをしなければならないからボロがでたら大変だ。

 気を引き締めていこう。



 暇なので早めの夕飯を食べて空がオレンジ色になったころ、街に入ることに成功した。

 犯罪歴がないかのチェックと、血の色の確認と、お金で通れる。

 犯罪歴は人間が作った魔法道具だから人間のものしか入っていない。

 だから引っかかることはないだろう。

 犯罪はしていないけど。

 血の色は魔法道具で採取した魔物の血をまるで今出た血のようにして見せたんだ。

 針のように見える魔法道具を指に刺したと思わせて実は針から魔物の血を出している……なんて人間は誰も考えないだろう。

 コリアスとかもともと黒い血じゃない人は、普通の針で刺してたけど。

 痛そうだった。





「まずは宿屋探しですね」


 商人になりきっているコリアスが言っている。

 き、気持ち悪い喋り方だが、これが人間の国での振る舞いだ。

 慣れろ。

 コリアスはどこをどう見ても商人だ。

 いつもの野蛮な感じが消え去って全く怖くない。

 凄いな。

 俺も商人の弟子として頑張ろう。


 潜入班が経営しているらしい宿屋にやってきた。


「また来てくださったんですね。お部屋の準備は済んでおりますよ」


 お店の人が別の人に何か言ってから俺たちを部屋へと案内してくれるようだ。

 馬車は別のお店の人に任せることになっている。

 部屋に案内されて中に入るとそこは広く大部屋ということがわかる。

 でも目的の場所はここではないようだ。

 大部屋の床をリズムよく叩くと床が煙のように消えて、そこには階段が現れた。

 隠し部屋があったりするんだろうか。


 誰も何も喋らないまま階段を下りていく。

 階段の先は魔法陣になっていた。

 全員がそこに乗るとお店の人が呪文のようなものを唱える。

 魔法陣が青白く輝きだしてその光が収まるときには景色が変っていた。

 そこは殺風景な石作りの部屋。

 壁のほうに木で出来たぼろい椅子が沢山積み上げられ、部屋の中心には大きな机とその上に地図らしきものが張り付けてある。

 さっきの光は……転移魔法陣ってやつか。

 俺も転移は出来るけど怖くてあんまりやってない。

 転移したら岩の中。壁のなか。人と重なって転移なんてことになりかねない。

 だから使わないようにしているんだ。


 その転移したこの部屋には先客がいる。

 どこにでもいそうな普通の人たち。

 そういう雰囲気があるってことは、潜入班の人たちなんだろう。


「救出班。現在は勇者調査チームを任されたコリアスだ」


 このチームのリーダーはコリアスなので、コリアスが代表してそういっている。


「こちらは潜入班。現在はそちらと同じように勇者調査チームとしても動いている。そして僕は指揮をしているフォルスだ」


 優しそうな顔をした男が言っている。

 花屋とかしてそうな見た目だな。


「現在こちらが把握している勇者の情報はこちらにまとめた」


 そういってコリアスに紙を渡している。

 コリアスが俺たちにも見えるように机に紙を広げてくれた。

 ……ほとんど白紙に近いけど。


「勇者の情報は全く公開されておらず、裏から探ってみたものの情報はほとんど手に入れられなかった。現在わかっているのは、勇者は強くなるために魔法と剣を練習中ってことくらいだ」


 フォルスは眉を顰(ひそ)めてながらそう教えてくれる。


「勇者の名前や性別もわからないのか?」


「わからない。男だっていう噂はあるけど確証はない」


 なんでそこまでして隠しているんだろう。

 勇者が見つかったっていうのは街中に知れ渡っているみたいなのに。

 やっぱり勇者が不信感を抱いているらしいってのがいけないのかもしれない。

 女神のいうことが嘘の可能性もあるから、本当に勇者が不信感を抱いているのかも怪しいけど。


「でも丁度明後日に勇者のお披露目パレードがあるからそこで情報は手に入りやすくなるだろう」


「わかった。明後日までは出来る限りの情報収集、だな」


「そうなる。こちら潜入班に道案内させてもいいから何か困ったことがあったら言ってくれ」


 不自然にならないように勇者について調べるのか。

 頑張ろう。

 でも今日はもう遅いので調べるのは明日からにするって。

 最初の大部屋まで帰っていてそこに布団を引いていく。

 この国は過去に魔王が支配していた国だから独特の文化がいまだに根強く残っている。

 ここ以外の国はベッドとかが当たり前なんだと本で読んだ。

 昔読んだ本だから今もそうとは言えないかも知れないけど。


「明日は各自、自由に情報を集めてきてくれ。どんな些細なことでもいい。もし魔人についての情報があったらすぐに知らせてくれ。その魔人は殺されるかも知れないからな」


 それぞれが返事をして就寝となる。

 皆の寝息が聞こえるけど俺は全く眠くなかった。

 まだ緊張しているのかな。

 まあ寝なくても疲労回復の魔法で何とかなるんだけどさ。

 しばらく仰向けのまま暗視の魔法を使って見慣れない木の天井をポーっと見ていると、そーっと動く人の気配がした。

 しかも複数。

 動いているやつらを見ると、男たちが女の人を気にしながら細心の注意を払って部屋の扉まで進んで行ってる。

 外に出るのかな。

 その中にはコリアスもいたのでひょいと足を掴んでやった。

 転びそうになっていたけど転ばなかった。

 流石鍛えてることだけはある。


 そのコリアスだが額に汗を浮かべて頬を引きつらせて俺を見ている。

 俺は起き上がって胡坐を掻きコリアスを見上げると、コリアスはポリポリと頭をかいてしゃがんでくれた。


「なんでセレメが起きてんだよ」


 囁き声でコリアスがいう。


「なんか寝られなくてさ」


 俺も同じような声で答えた。



「それよりコリアスたちはどこ行くんだよ」


「あー。花街ってわかるか?」


 コリアスが言うが……花街? 花が咲いている街か?

 こんな夜に?

 首を傾げてコリアスを見ると苦笑いしていた。


「鍛練ばっかのセレメだもんな。そりゃ知らんわな」


 わしゃわしゃと俺の髪の毛を乱してくるコリアス。

 子供扱いされているみたいで不愉快だな。


「セレメはなんか興味なさそうだが、性欲を満たす場所っていえばわかるか?」


 あー。なんとなくわかった。

 頷く俺をみて何故だかほっとしているコリアス。

 なんでそんな顔してんの?


「セレメが知っていてよかった。知らなかったら根掘り葉掘り聞かれそうだからな……。それは流石にキツイ」


「これでも成人したんだ。そのくらい知っている」


「ああ、そうだよな。でもあのセレメだからな。……セレメも花街に一緒に行くか?」


「行かない」


「だろうな。行くとか言ったらビックリだ」


 興味がないわけじゃないけど、それよりやりたいこととかがあるしな。

 今は眠れないから行ってもいいかも知れないけど……なんか怖いしヤダ。

 本読んでいたり、魔法の練習でもしていたほうが俺には合っている。

 というか任務中にいいのか?

 それともそういう場所の方が意外と勇者の情報って仕入れやすかったりするのか?

 初任務なのでその辺のことがよくわからない。

 コリアスたちの様子からして初めてじゃなさそうだから別にいいか。


「でも寝られねぇんだよな? 酒場とか行ってみるか? セレメなら任務とかのほうが性に合うだろうし、酒場なら飲んで聞き耳を立てているだけでも情報が手に入りやすい。どうだ?」


 コリアスがそう提案してくれた。

 そうだな。

 このまま寝ずに無意味な時間を過ごすくらいなら任務を受けよう。



 というわけでコリアスに連れられて酒場まで来たわけだ。

 コリアスたちはもうここにはいないけど。

 コリアスがくれたお金と自分で持ってきたお金を見る。

 うん。コリアスからのをさきに使おう。


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