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血色の世界  作者: 蛹
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21話 女神

 洞窟を出て、森の中のキマイラを探していた。

 もう見つけて今は目の前にいるんだけども。


 キマイラはお食事中のようで黄色い血が口の周りにべっとりとついていた、

 自前の情報が正しければキマイラの体にも黄色い血が流れているのだろう。

 黄色といえば雷か土である可能性が高い。

 茶色い血も土だけど金属を変形させたりするのは茶色い血しか出来ないことらしい。

 見たことないから事実かどうかは知らんが。

 とりあえずキメラから退治しておこう。

 キマイラがヤギを食べ終わって体をゴキゴキいわせながら変形している隙にちゃっちゃと終わらせる。

 キマイラって気持ち悪いな。

 食べた相手の体の一部を使えるっていうけど確かにそうなんだろう。

 頭はキメラと同じライオン。身体は熊。

 右手が人のような手をしていて、左手は何故か骨。

 アンデットでも食らったのか?

 右足は鋭い爪が生えた鳥のようで、左足は変形していていつかヤギの足になることだろう。

 探索の魔法でキメラがもういないことを確認してからキマイラに剣を突き刺す。

 首のところの急所を突いたから死ぬだろうと思ったけど何故か死なずに大暴れしていた、

 闇の盾で防いだりするものの木々をなぎ倒しているからかなりの力だ。

 ……キマイラは普通の魔物と違って体のつくりが変だから、急所と思っているところも急所じゃないのか。

 面白い。

 でも流石のキマイラでも細切れにされたらたまらないよな?

 風の刃を網目状に放つ。

 風だけじゃ攻撃力が足らない気がしたから闇と光も使ったけど。

 これで息絶えてくれた。

 このくらい簡単に倒せないとモルゼットの弟子として恥ずかしい。

 キマイラは倒した証明として目玉だけ取って、残りは適当に土の中に埋めておいた。

 右目だけは細切れにしないように気を付けていたけど、ちゃんと残っていたとは俺の魔法の精度も上がったな。

 にやにやしそうになりながら村の方向に戻っていく。



 村に戻るとアキ、それと三人の親が門の入り口に集まっていた。

 その中心にはレイダとロキとメーナが正座をして俯いている。

 怒られてるんだろうな。

 あそこに行きたくないなあ。

 俺も怒られそうだし。

 でも行かないと。


「ただいま」


 そういってアキに近付く。

 アキは俺が持つ目玉を見て驚いていた。

 この目玉はロキにでも上げよう、

 黄色い瞳をロキに見えるように膝の上に置いてやる。

 するとぎょっとしたように顔を上げて俺と目玉を見比べていた。


「森の主を狩ってきたぞ。目玉以外はバラバラになったから土に埋めてきたけど」


「バラバラって……なにしたんだよ」


「魔力の暴力でちょっとな」


 ちらりとロキの横にいるレイダを見てみる。

 血が流れたからかなり消耗していたはずだけど、だいぶ回復したようだ。

 もう少し休めばいつもの元気なレイダにまで回復するだろう。


「セレメ! なんて危ない真似しているんだ! 森の主ってキマイラだろう!」


 アキが俺の肩を揺らして言ってきた。

 ゆらすな!

 目が回りそうだ!

 慌てて離れてアキをみる。

 なんか最近、泣きそうなアキをよく見る気がする。


「何故そんな危ない真似ばかりするんだ!」


 別に危なくないのにな。

 一番危ないのは村で暮らす事だったりする。

 森の中は人間がいないから安心できるし。

 人を殺す危険もしないしバレる危険性もない。

 人間に悪夢ってバレたら世界中が敵に回る。

 アキは俺が悪夢と知ったらどうするのだろう。

 敵に回るのだろうか。

 アキが敵って想像がつかないんだけどな。

 ……危ない真似をしてほしくないアキにこう言ったら意地悪だろうか?


「じゃあアキ。俺は危なくない師匠のもとで暮らすよ」


「そ、それはっ」


「危険なことはしないでって言われてもそれは無理な話だ。アキが危険と判断しても俺にとっては危険でもなんでもないことだってあるし、アキが安全と判断しても俺にとっては危険なことだったりもする。キマイラは俺にとってはコボルトくらい弱い魔物なんだよ。それが危険だっていうなら俺に戦わないでといっているようなものなんだ」


「……そんなに強くなっていたのか?」


「そうだ。魔法だけならアキの想像以上だと思う」


「……そうか」


 また、気まずい空気だな。

 アキが心配する気持ちはなんとなくわかるけど。

 俺もアキが危険な目にあったら嫌だし。

 でも危険な目に合う救出班の仕事をやめてとは言わない。

 アキの黒い血を助けたいという気持ちは昔から知っているから。

 だからってわけじゃないけどアキも俺の目的を応援してくれたら嬉しいな、なんて。

 まあ無理だろうけどな。


「……次からは私も一緒について行く。それで本当にセレメが危なくないってこの目で見たら、過激に心配はしないように気を付ける。いいか?」


 アキがそう聞いたので俺は頷いた。

 キマイラくらいの魔物だったら誰かを守りながらでも大丈夫だろう。

 闇の魔法だけでもいけるはずだ。

 そうそうキマイラになんか会わないだろうけど。


 もう夜だし夕飯を食べることになったので、レイダたちへの説教もここまでとなった。

 皆に挨拶をして家に帰る。

 今日は俺が飯を作ろうかな。

 アキに心配させたし、最近ずっとギスギスしてるから、食べにくい料理作って長く一緒にいよう。

 アキが敵に回ったら。

 そう考えると今この瞬間、楽しくアキと過ごしたいと思ってしまう。

 それはアキだけじゃなく他の皆にも当てはまるけど。


「アキが悪夢でも俺はアキのそばにいたいかな」


 暗い道をゆっくりと歩きながらそういってみると、アキは驚いたように俺の顔を見る。

 一年前はアキより背が低かったけど今は同じ目線だ。

 見上げることもなく見下げることもなく。

 昔は見上げていてとても強く見えたアキ。

 そんなアキに憧れて、いつか超えようと思った。

 今はなんか弱そうでこんなだったっけ? と感じる。

 でも昔からアキはこうだった気もする。


「悪夢を倒すんじゃなかったのか?」


「悪夢が人を殺したら倒すよ。アキは人を殺さないと思うけど、もしアキが悪夢だったら人を殺す前に止めて見せる」


 俺が悪夢なのにそんな風に言ってみる。

 今頃俺を見ている女神は笑い転げていそうだな。


「だったら私もセレメが悪夢だったら、人を殺す前に止めて見せよう。セレメが悪夢ってちょっと考えられないがな」


 アキがそういって微笑んでくれる。

 その微笑みに少し胸が痛んだ。

 俺が悪夢なんだよ。アキ。

 でも言うわけにはいかない。

 これは飽くまでたとえ話なんだから。


「悪夢じゃないけど、もし俺が悪夢だったらちゃんと止めろよ?」


「もちろん。セレメを悪夢にはさせない。セレメも私を悪夢にするなよ?」


「ああ、誓うよ」


 アキの為にも俺は悪夢にはならない。

 そうだな。

 絶対に悪夢にならずに生きてやろう。


 目の端に見えた白い教会。

 明日、行ってみようか。

 俺は悪夢だ。

 それを受け入れる。

 でも悪夢の使命の人殺しはしない。

 そう誓う。

 一度、けじめをつけるためにあの憎たらしい女神にもう一度祈ろう。

 お前が決めた俺の運命ってやつに抗ってやる。






 朝、といっても空は明るくとも太陽の姿は見えない。そんな時間だ。

 肌寒さに腕を軽くさすり、教会の前までやって来た。

 女神はなにか俺に伝えてくるだろうか。

 もう開いている教会に入る。

 誰もおらず静まり返っている神秘的で不愉快なこの場所。

 そこにある椅子に座って目を閉じる。

 何も聞こえない。

 誰もいない。

 そこで俺は強く誓う。

 俺は人を殺さない。


『汝は英雄なり。故に世界を救う義務あり。輪廻の巡り、世界の公平を守護せよ。汝は世界の英雄、輪廻の守護者と名乗ることを許さん』


 女神の声が聞こえた。

 やっぱり話しかけてきたよコイツ。

 なあ女神サマ。

 そんな変な言葉使いやめないか?

 女神サマなら俺たちと同じ言葉くらい簡単に扱えるだろう?


『……そうね。そうしましょうか』


 ゴホンと咳ばらいをして女神が話を始める。


『私はルーダ・ラシディーリン。女神よ。貴方には増えすぎた人間を殺す義務があるの。だから殺して』


 増えすぎたってなんだし。

 人を殺すなんて絶対嫌だね。


『この世界の魂の数は決まっているのよ。人間が増えすぎると魔物も植物も魂が宿ることが出来なくて減ってしまうし、そのうち全ての種族の子供が生まれなくなってしまう。最終的に人間だけになって人間が共食いを始めるのよ。だからそうならないために殺してちょうだい』


 そんなこと言われても俺はやらない。

 人間だって魔物に殺されたり病気になったりして死んでいるだろう。

 俺がわざわざ殺さなくてもいいじゃないか。


『そうね。魔物はもともとそういう目的で作られたのよ。でも人間が想像以上に頭が良くなって強くなったから死ぬ数が減った。だから悪夢を作ったのよ』


 それでも俺はやらない。

 人を殺すのは魔人として失格だ。

 絶対やらないからな。


『頑固ね。一代目悪夢を思い出すわ。まあどうしようもなくなったらどこかの神殿にでも来なさい。助けてあげるから』


 お前に助けなんか求めねぇよ。


『そう? 貴方は私に聞きたいことはある? 答えられることは答えるわよ?』


 聞きたいこと……ね。

 なんで俺が悪夢なんだ?


『そんなの適当よ。ぱって手に掴んだのが貴方の魂だったってだけ。他に質問は?』


 そんな簡単に決めるのかよ。

 勇者も同じ方法で決めてそうだな。

 その勇者に俺の情報を与えたりしてないのか?


『してないわ。ちょっとミスって不信感を抱かせてしまったの。悪夢は英雄。なんで英雄なんだ? どうして人を殺す? 悪夢の目的は? って考えまくってるのよ。今のところ悪夢を殺す気でいてくれてるけど』


 なんで勇者がいるんだ?

 人間を増やしたくないなら全滅させたらどうだ?


『貴方って意外と過激ね。でも人間は消したくないのよ。だから対抗できる勇者を作るの。使い物にならなかった勇者もいるけどね』


 五代目のよくわからない悪夢。謎の悪夢と言われたマドゥーと八代目の悪夢モルゼットが勇者に倒されていない悪夢だよな。

 その二人の悪夢と戦った五代目勇者はマドゥーに全く勝てず、八代目勇者はモルゼットと戦うまでもなく力の差で殺されたらしいし。


『流石、悪夢を倒そうとしていただけのことがある知識量だわ』


 女神が言っている。

 このままだともっと馬鹿にされそうなので目を開けて立ち上がり教会の外へ向かう。


『待って待って! もうちょっと話しましょうよ! 百年ぶりの人間との会話なのに――』


 教会の外に出ると太陽が顔を見せていて、その眩しさに目を細める。

 うるさい声が聞こえなくなって気分爽快だ。

 悪夢にならないと誓ったし、勇者のこともちょっと知れたから今日はいい日だな。

 家に帰ったらとびっきり美味しい料理をアキに振る舞ってあげよう。


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