灰色の血/2話 仲間
一人称はセレメくんのものではありません。
読まなくても問題はないので読み飛ばし可です。
「悪夢を倒すには悪夢を知らなければ倒せません」
この国の皇帝陛下にそう言ったら、国立図書館や禁書なども読ませてくれることになった。
勇者となって周りの変化に戸惑うばかりだが、それが勇者の定めなのだろう。
図書館で悪夢に関する文書の文字を指でなぞりながら思う。
悪夢を倒すかどうかはともかく、悪夢を知ってみようと思い読んでいるものの、知りたい情報はなかなか見つからない。
悪夢は世界の英雄。
そう女神ラシディーリン様はおっしゃった。
他にも輪廻の守護者らしいから、それ関連でも調べているけど全くわからない。
哲学的な死後はどうなるのかという本に書かれていることも、あっているとは思えない。
何故悪夢は人を殺すのか。
それで世界が救われ、輪廻が守られるというのか?
わからない。わからないことだらけ。
ラシディーリン様に祈っても答えて下さらないし。
悪夢のことはいろいろわかったのに、悪夢の目的については全然わからないなあ。
悪夢の一人ずつを見ていけば法則とかがわかるのだろうか。
八人の悪夢の本をそれぞれ並べて考えてみる。
やっぱり法則のようななものは見つからない。
唯一の手掛かりはやはり黒い血。
……一度魔人に会ってみたいな。
彼らが悪夢をどんなふうに思っているのか。
神と崇めていたりするのだろうか。
国のなかで魔人が生まれたら殺されてしまうけど、それは果たして正しいことなのだろうか。
……勇者になってからそんなことばかり考えてしまう。
ラシディーリン様が悪夢が英雄なんだと僕にお教えしなければ、考えずに済んだのに。
「勇者サーデル様。只今よろしいでしょうか」
ノックのあと神父様の声が聞こえる。
僕の成人の儀に立ち会ってくださった神父様だ。
「どうぞお入りください」
「失礼いたします」
今まではこんな堅苦しい話し方じゃなかった。
勇者となって立場が一気に違くなって、僕が偉くなったせいだ。
勇者は灰色の血。
……どこかの禁書にこのこと書いておこうかな。
「勉強熱心で私め感服いたします」
「そういうのいいですから普通に話してください」
「勇者様にそんな恐れ多い」
いつもこうだ。
勇者になってから損してばかりの気がする。
今までの友達だって、この神父様みたいになっちゃって。
今までの友情や愛は嘘だったのか。
そう感じてしまうほどの変わりっぷり。
もううんざりするよ。
「で、用件はなんですか」
苛立ちを抑えるため、不愛想にそう聞いた。
「皇帝陛下がお呼びでございます」
陛下のもとへ行くのは少し嫌だけど、断るわけにもいかない。
仕方ない。
これも勇者としての務めだ。
今まで乗ることも出来なかった高価な馬車に揺られて城までやってきた。
城に務めているメイドさんに玉座の間まで連れて行ってもらう。
王は玉座にどっしりと座って僕を待っていた。
王がよくぞ参った、みたいな恒例の挨拶を済ませてから本題へと入る。
「前々から言っていた戦いの技術を教える教師を揃えたぞ。強い魔物を倒しながら戦いに慣れるとよい」
王様が視線を向ける先には壁際にいる二人の女性。
一人は腰に剣を差し、もう一人は長い杖を持っている。
剣の教師と魔法の教師といったところか。
……勇者は戦わなければならないんだよな。
嫌だなあ。
でもなったからにはどう足掻いても頑張らなければならない。
別室に移動して教師二人に自己紹介する。
「僕はサーデルと申します。ラシディーリン様のお声を聞かせていただきましたが、まだまだ未熟ですので、よろしくお願いします」
「私はベリンダと申す者です。剣を教えさせていただきますゆえ、少々厳しくなると思いますが何卒ご了承ください」
「私はぁチェルシーといいますぅ。魔法をぉ教えますのでぇ頑張りましょうねぇ」
ベリンダさんとチェルシーさんか。
ベリンダさんがチェルシーさんを睨んでいる。
勇者に向かってなんだその口調は、って言いたいのがビシビシ伝わってくるよ。
はあ。個人的にはベリンダさんは堅苦しくて苦手だ。
「はい。チェルシーさん。正直僕は素人ですので大変だと思いますがどうかよろしくお願します」
好印象のチェルシーさんにそういっておく。
「勇者さまは真面目ですねぇ」
「そうですかね? あっ、ベリンダさんももう少し肩の力を抜いてくださって構いません。教わる立場なのは僕ですのでいっそ命令口調でもよいのです」
「えっ。で、でも勇者さまなのに」
イラっと来る。
今まで張り付けていた笑みが保てなくなり、必死に感情を表に出さないように無表情になる。
ベリンダさんは何故か息を飲んでいた。
何故だろう?
「勇者さまぁ。もしかして勇者さまはぁ勇者って言われるの嫌いですかぁ?」
チェルシーさんが聞いてくる。
正直に言ってもいいだろうか。
でも僕は皆の希望だ。
我慢しないといけないこともあるだろう。
「そんなことないですよ。勇者という名に誇りを持っていますから」
「そーおー? 私にはぁそうは見えないんですがねぇ」
「おい。チェルシー!」
ベリンダさんがチェルシーさんを怒鳴りつけている。
チェルシーさんはぷいっとそっぽを向いてニヤニヤしていた。
チェルシーさんは不思議な人だな。
まるで心を見透かすみたい。
そうだな。
うん。言ってみるか。
僕の話す僕の言葉で。
「そうだね。僕は勇者になんかなりたくなかった。勇者になって損ばかりだよ。友達も神父様も僕に敬語を使うんだよ? 今まで通りに話してくれないし遊んでくれない。皆は僕ではなく勇者を見てしまってて、僕の事なんて全く気にしてくれなくなったんだ。出来ることならこの体に流れる血を誰かと交換したい。例えそれが魔人の血でもいいとすら思える。そのくらい嫌かな」
ちょっとだけ心がスッとする。
今まで誰にも言っていなかったことを言って気持ちが軽くなった。
こんなこと国民に知れたらかなりヤバいけどね。
「やっぱりそうだよねぇ。よしよし、よく頑張ったよぉ。何かあったらまたお姉さんにいっていいからねぇ」
僕が敬語をやめたことでチェルシーさんもやめてくれる。
ベリンダさんが凄く戸惑ってるけど。
でも二人ともなんとなくいい人の気がする。
悪い人で僕が今言ったことを国中に広めてしまったとしたら僕は逃げるしかないかな。
逃げられるかわからないけど。
まあそんなことにはならないと思う。
なんとなくわかる。
これもラシディーリン様のお導きだろうか。




