20話 森の主
訓練が終わり、暗くなった道を重い足取りで歩いて家へと帰ってきた。
でもおかしい。
アキがいるなら魔法道具の明りがついているはずだ。
でもついていない。
一応家のなかに入ってアキの姿を探すがどこにもいない。
どこに行ったのか?
この時間なら買い物も終わって夕飯を作っている最中のはずなのに……村の中を探してみよう。
急ぎ足で村の中を歩いて回る。
村にある数少ない店はほとんどがしまってしまっている。
しまっていない店を探したもののアキの姿はなかった。
俺がいなくなった時のアキはこんな気持ちだったんだろうな、なんて考えていると暗いなか走ってきた通行人とぶつかってしまう。
「ごめんなさい!」
この声……アキ?
暗いせいで顔が良く見えない。
ん? ……俺は馬鹿か?
暗視の魔法を使えばいいだろう。
アキがいなくなったことに動揺して使っていなかった。
闇魔法を使ってからぶつかった相手を見る。
やっぱりアキだ。
「アキ。どうしたんだ?」
「セレメ! 丁度良かった! レイダとロキとメーナを見なかったか? 親御さんたちと一緒に探し回ってるんだが見つからないんだ!」
「昼に見かけたぞ。誰かと待ち合わせしてるみたいだった」
「そうなのか?」
ロキが待っていたのはレイダとメーナなんだろうか?
だとしてもいったいどこへ行ったんだろう?
「行き場所に心当たりはあるか?」
「丘の上くらいしか思いつかないな」
「そうだよな。でもいなかった。いったいどこに……。まさか村の外じゃないだろうな?」
……さて、どうしたもんかな。
村の外を探すなら人手が足りそうにないだろう。
魔物も襲って来るし、もし森になんて行っていたら探すのは大変だ。
俺一人なら問題ない。
闇以外の魔法も使えば森の中であろうと探し出せる自信はある。
あとは初めの疾走祭で貰った魔法道具で連絡を取ってみるか。
でもアキにも魔法道具を渡したし連絡を取らないなんてことしないと思うけど。
一応聞いてみよう。
「魔法道具で連絡は取れないのか?」
「取れなかったな」
やっぱりな。
「じゃあ手分けして村の外を探そう。何かあったら魔法道具で連絡してくれ」
「わかった」
アキと一緒に村の外まで言って二手にわかれる。
アキが消えなくなったところで闇と風の魔法を合わせた探索魔法を使う。
昼間なら光と風だけど今は夜だ。
夜は昼に比べて暗いから闇の魔法は扱いやすい。
煙みたいに薄い黒色をした風が俺を中心に飛んでいく。
まずは原っぱを探した。
……いないな。
やっぱり森も調べるべきか。
もし森に行ったとしてもいったい何故森に?
なんか引っかかる。
俺はその理由を知っている気がしてならないんだが。
忘れっぽいせいで全然思い出せない。
思い出さなくても直接聞けばいいや。
影移動をして森に入るともう一度魔法を使う。
森の入り口付近には見つけられなかった。
もっと奥のほうか?
奥へ進んで探していると三人の人間の姿を探索の風が捉えてくれた。
なんとなく感覚でわかってしまうんだよな。
教えてくれたモルゼットには感謝しないと。
三人のいる場所の情報を風で探ると洞窟のような場所にいるようだ。
影移動で素早く移動していく。
洞窟を見つけた。
洞窟の入り口は這わないと入れないほど小さいけど。
その入り口は鉄の匂いのする黒に染められている。
ここを生き物が通ったのは間違いなさそうだ。
……入ろう。
洞窟は入って直ぐ、行き止まりになっていた。
深い洞窟じゃなかったようだ。
そこにぐったりした様子の三人がいる。
……酷い血の匂いだけど。
よく魔物が入ってこなかったものだ。
入り口が狭かったとはいえ小さい魔物は入り込みそうだけど。
「セレメか?」
ロキの声がする。
剣を構えているからもしかしたら入ってきた魔物は倒されていたのかもな。
「ロキ。皆は無事なのか?」
そう聞くとロキは安堵のため息を吐いた後、口籠もってしまう。
この血の匂いだから無傷ってのはありえないけど。
ロキの後ろでぐったりしているレイダに近寄る。
腕が酷いことになっていた。
何をどうなってこうなったのかは知らないが腕の肉ははがれて折れている骨がくっきりと見えている。
さて。どうしたもんかな。
これを治すには上級のポーションを数個か。
もしくは最上級のポーション数滴か。
あとは……俺の悪夢の力で治すか。
布で腕を縛って血が出来るだけでないようにされてはいるけどこのままだと危険だ。
ばい菌が入ってしまったり腕が壊死してしまうかもしれない。
レイダの隣で目元を腫らして寝ているメーナを見る。
ここは……迷うべきではないな。
「ロキ。今からすることは他言無用だ。もし誰かになにか聞かれたら通りすがりの人がとか妖精がやったってことにしてくれ」
「よ、よくわかんないけど……わかった」
ロキは口が堅いからな。
安心できるだろう。
深呼吸してからレイダの腕にそっと両手を翳す。
俺の手が淡い優しい色に光りだした。
再生や回復の魔法は光の魔法の力だ。
黒い血の俺が使うのは可笑しい。
ロキもそれは思うだろう。
でもきっと何も言わないでくれるはず。
それだけ今は信頼しているから。
光が収まる。
レイダの腕は何事もなかったかのように綺麗に治っていた。
これでひとまずは安心していいだろう。
「……なんでセレメが光の魔法を使えるんだ?」
ロキが警戒している。
そうだよな。
なんていえばいいのか。
「まさかセレメの偽物とかじゃないだろうな?」
そ、そこまで疑うか……。
とりあえず証明として剣で軽く自らの腕を傷つける。
黒い血が良く見えることだろう。
「俺はセレメ。それ以外の何者でもない。なあロキ。レジェンドドラゴンって知ってるか?」
「突然なんだよ? そんなこと子供でも知ってる。何故か村の近くに来ていたって聞いてるし。全ての属性が使える龍の英雄ってやつだろう?」
「そう。その龍の英雄の血は何色だと思う?」
「え? に、虹色とか?」
虹色、ね。
それだったら黒い血も悪夢の使いとされなかっただろうに。
まあそれはいいや。
「残念ながら虹色ではないな。正解は黒。俺たちと同じ……いや、俺と同じ黒い血だ」
「なっ!?」
「俺は奇跡的に龍の英雄と同じ血として生まれた。そのせいで村にレジェンドドラゴンが来て俺に会おうとしたわけだけど。俺も全ての属性が扱える」
「そ、そうなのか。へえ。そうなのか。……ちょっと叫んでくる」
「今は夜だから叫ぶと魔物が来るぞ」
ロキをなんとか止めて落ち着かせる。
出来るだけ嘘は言わないように隠しながら話したけど誤魔化せただろうか。
「でもセレメ。なんでそのこと隠してたんだ? 話せば魔人の助けになるじゃないか」
「それは言えない理由があるとしか言えないな」
「どうしても?」
「どうしても。……これ以上は全て嘘を話すことになるぞ。ロキ。俺に嘘を吐かせないでくれ」
「……わかった。聞かないことにする。セレメのその力も誰にも言わない。約束するよ」
「そうか。ありがとう」
「こっちが感謝しなくちゃならないんだ! セレメ、ありがとう」
緊急事態はとりあえず解決した。
なのでここからは聞かせてもらう。
何故ここにいるのかを。
「全く。三人だけでなんとか出来ると思っていたのか?」
「うぅ。すみません……」
まさか森の主の怒りを買ってしまったから沈めに行こうとしていたとは……。
村を魔物が襲ってきたのもその怒りのせいだったみたいだが、謝って静まるもんじゃねえと思うんだが?
「俺は止めたんだ。でも俺のせいで主を怒らせたからあんまり二人に強く言えなくて」
起きてしまったことは仕方ない。
森の主は怒り狂ってまた村を襲うかもというから倒そう。
「この森の主って確かキマイラだったよな」
「ああ」
キマイラはいろんな動物を食べてその動物の体の一部を使えるという魔物だったはず。
自らと同じ血の色の魔物を好んで襲うんだったか。
キマイラは同じ血の色以外はその死体をそれぞれくっつけて配下のキメラにする。
この前の青と白の魔物もキメラだったのかも?
見たことない魔物だったしありえるか。
ただ同じような見た目だったことだけが気になる。
キメラっていろんな姿してるってイメージなんだけど。
それをロキに聞いてみる。
「あのキマイラはかなり頭がいいみたいで、ここらでかなり強い魔物のスノーライオンとカースベアを使って強いキメラを作りまくってるんだ」
そう答えてくれた。
このまま作られ続けたら大変なことになりそうだな。
また村にきて俺がいなかったらどうなることか。
「ロキはここにいてくれ。キマイラを倒しに行くから」
「いくらセレメが強くても危険だ!」
「そんなことはない。俺の師匠は世界で最凶と謳われた人だ。師匠に届かなくとも俺も十分強くなっているだろう。ドラゴンくらいなら問題ない。流石にレジェンドドラゴンは無理だけど」
「最強の人って誰だよ」
「秘密。でも俺と同じようにいろんな属性を扱えるんだ。闇以外の属性も教えて貰った。それらを使えば対処は可能だ。仮に危なくなったとしても空でも飛んで逃げるさ」
「……わかった」
「あとこの魔法道具でアキと連絡とってくれ。助けに来てくれる」
そういって分裂したネックレス型の魔法道具を渡す。
「じゃあまた村で会おう」
俺はそういって洞窟を出る。
あとは探索の魔法を使ってキマイラとキメラを倒せばいい。
さて。どこにいるかな?




