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血色の世界  作者:
21/44

19話 訓練

 食事を終えて訓練の再開のために村の門に五人と俺で向かう。

 食事中の族長と俺のやり取りを見ていた五人は俺が人と関わるのが苦手なだけなんだとわかってくれたようで、今度はいっぱい話しかけてくれた。

 話しかけてくれたおかげで俺も話しやすくなり、結構お互いのことを知れたと思う。


「午後からは潜入班との合同ですね。セレメくんは戦闘は得意なほうですか? それとも苦手ですか?」


 五人の中でずっと敬語のエジットが聞いてくる。

 

「得意なほうだと思う」


「凄いですね。僕は苦手なんですよ。戦略とか考えるのは好きなんですけど」


 苦笑いしながらいうエジット。

 エジットは見た目からして頭がよさそうだ。

 俺は戦略とか考えるのは苦手。

 頭を使うのは出来れば避けたい。

 こんなだから戦略とか練っても敵にすぐ負けるだろう。

 だから考えることが得意なのは純粋に凄いな、と思う。


「ボクも近距離の戦いは怖くて無理だね。それにボク、非力だし。魔力の量には自信あるけどね!」


「俺は結構得意だ。そのほうが女子にモテる!」


「俺も得意だと思う。バトリオみたいに下心はないけど」


「俺、戦闘、まあまあ」


 順にシャーニナ、バトリオ、ギヌ、ヤーディンだ。

 エジットとシャーニナを鍛練に誘うのは酷だろうか。

 でもメーナは最初苦手だったよな。

 鍛えれば……。

 いやいや、あまりやりすぎると絶交とかされそう。

 やめとこうか。

 誘われればやるけど。


「よう!」


 村の門に着くと何故かロキが立っていた。

 まさかロキも参加するのだろうか。


「ロキ先輩!」


 バトリオが目をキラキラさせてロキを呼んでいる。

 ロキは昔から人に好かれるというか慕われているからな。

 こういう後輩も出来るんだろう。


「バトリオ。セレメに意地悪してないか? あー見えて人と話すのとか苦手っぽいから」


「えっと、ロキ先輩とセレメって知り合いですか?」


「知り合いっていうか幼馴染なんだよ。僕と同い年だけど一回もセレメに勝てたことないくらい強い奴なんだぞ」


「マジっすか!?」


 バトリオが俺をじろじろ見てくる。

 そんな見んな。

 照れるだろう。

 照れ隠しでロキにパンチしよう。


「おわぁ! セレメ、なんで殴ってくんの!?」


「ロキが避けるからまだ殴れてねぇぞ」


「そういう問題じゃっ、ぎゃああ!? 今掠ったあああ!」


 そうやって遊んでるとグラン教官がやってきた。

 俺は教わる側なのでロキと遊ぶのをやめる。

 ロキは汗を拭ってニコニコ笑っていた。

 傍からみると喧嘩してるみたいだと思うけど、これが俺たちのコミニュケーションなんだよな。

 鍛練ばっかしていたせいだ。


「優秀なロキが押されていたね。セレメは何者かな?」


 グラン教官が言っている。

 一年でこの村の俺の知名度はこんなにも減少したのだろうか。

 疾走祭で連続優勝したりして結構有名だったのに。


「グランはちょうどセレメが消えた時にこの村に来たんだったね」


 ロキが苦笑いしながら説明してくれた。

 なるほどな。

 だったらこの五人組もこの村出身じゃないのかも知れない。


「アキとコリアスって知ってるか?」


「そりゃもちろん。救出班のトップクラスの実力者じゃないか」


「その二人を師匠に持つのがセレメ。ついでにセレメの義母がアキ。そして今では二人が手も足も出ないほどの実力者になっている。ヤバいだろ?」


「「「「「「ヤバい」」」」」」


 なんでそんな息ぴったりなわけ?

 練習でもしてたのだろうか。

 でもモルゼットに教わったんだ。

 強くなって当然。


「そんなヤバくねぇだろう」


「セレメ。自覚しろ。君はヤバいからね? もっと強くなりたいのはわかるけど、もうヤバいからね?」


「確かに魔法の方はお前がヤバいとかいう意味はわかる」


 なにせ最凶の悪夢と呼ばれたモルゼット直伝の魔法だ。


「でも他はもっと鍛練しないと駄目だ。レイダに負けたし」


「君が思っているほどレイダって弱くないからね? 魔人の中でもかなり強いほうなんだから」


「へぇ。知らなかった。でも俺はもっと上を目指す」


「はあ。なんていうか……君らしいよ。これでこそセレメって感じ。鍛練しか頭になくて、脳みそも筋肉なんじゃないか疑うほど頑張る変態」


「おい。俺はそんなじゃねぇぞ。料理とかするし、本も読むし、掃除も洗濯もちゃんとやるぞ」


「セレメって完璧主義者だよね。なんでも(こな)そうとして」


「違うからな? 証拠に夕飯がおかしいだろ?」


「あれも徹底的に食べづらくしてる感があるよ。しかも美味しいから食べちゃうし。自分でこう! って決めるとそれを続ける。完璧を追い求める! これがセレメだね」


「……もうそれでいいや」


 ロキが俺のことをそんな風に思っていたとは……。

 別に完璧を追い求めているわけじゃない。

 今はどうすればいいのかもよくわからなくなっているから今まで通りを装っている。

 それだけ。

 これからどうするべきか。

 とりあえずは勇者のことを調べればいいけど、そのあとは?

 悪夢を倒す目的はなくなったと言っていい。

 悪夢は俺だ。

 俺は悪夢にはならない。

 悪夢を倒さない方法で、人間と仲良くなる方法。

 人間の国で演説でもする?

 即処刑の運命しか見えない。

 頑張って逃げながらとか?

 ……悪夢の力使わねぇと無理だ!

 悪夢の力使ったら悪夢ってバレるだろう。

 勇者がいるんだ。

 女神に悪夢の力のことを教えていたらアウト。

 そういう情報も出来れば手に入れたい。

 そうすれば少しは心配事も減るだろう。




「セレメ? どうした? もう皆、村の外に向かったぞ」


 ロキの声に我に返った。

 無駄に考え込んでしまったようだ。

 最近こういうことが多いな。

 あまり考えないようにしないと。

 皆の背中を追って歩きだす。


「大丈夫か? ぼーっとしてたみたいだけど」


「ちょっと考えごとしてたいただけだ」


「考えごと?」


考え事の中身を話すわけにはいかないから話題を変えよう。


「それよりロキはなんでここにいるんだ? 一緒に訓練するとか?」


 それこそ疑問だろう。

 ロキはもう訓練は去年受け終わっているのに。

 別の人と待ち合わせとかそういうののほうが納得できる。


「あっ。そそそ、それはセレメには関係ないから気にしないでくれ! じゃあ頑張れよ!」


 ロキは村の門のところに戻っていった。

 ロキの様子が変だけど。

 やっぱり誰かを待っているんだろう。

 誰だろう。

 ロキは友達多いからわからん。



 村の外。東にあるいつも使う丘の反対側に俺たちは集まっていた。

 アキと俺が住んでいる林の近くで訓練するらしい。

 林の中に柵があるから村の中には門からしか入れないけど。


「潜入班は魔人に手を貸しているとばれてはなりません。それを守りながら手を貸す。これが基本です」


 赤い髪を後ろで団子状に丸めた女の人が言っている。

 彼女が潜入班の教官なんだろう。


「救出班は逆に魔人とばれてもいい。ただし救出決行日まではばれてはいけない。救出が出来なくなるからな。わかったか?」


 グラン教官の言葉に潜入班も救出班も返事をしている。

 俺もしたけどいつもの如く皆の声にかき消された。


「では今日の作戦を話す」


 作戦の内容は教官二人に見つからないように赤子の人形を救出するというものだ。

 救出班は魔人とばれていいけど、ばれないことに越したことはない。

 出来るだけ隠れるという癖をつけておけとのことだった。

 あとは誰がどこの位置を担当するか。

 これは教官以外の人で決めることになった。


「一番重要なのはやはり救出する対象の護衛でしょう」


 エジットがそういって皆に目を向ける。


「救出班の方で腕に自信のある方いらっしゃいますか? 体力もそうですが救出対象が赤子なので抱きかかえての救出となります。魔法も使えるのであればなお良いでしょう」


 ……俺がやってもよさそうだけど一つ問題がある。

 赤子の抱き方ってどうするんだ?

 今日は訓練だから人形だけど実戦でも人形のように扱うなんて駄目だろう。

 訓練でも心が痛む。

 こ、これは困ったな。


「……どなたも名乗り出てくれませんのでセレメにお願いしてもよろしいでしょうか?」


 エジットが言うが、俺は重々しい感じで首を横に振った。

 エジットはまさか断られると思わなかったようで目を見開いて驚いている。


「セレメならロキ先輩がべた褒めしていた実力があるでしょう?」


 これは正直に言うべきだな。


「実力はあると思う。だが出来ない。赤子の抱き方がわからない。下手に持って落としたりなんかしてみろ。恐ろしいじゃないか」


「そ、それはそうですけど訓練ですよ?」


「訓練だからこそ実践同様にやるべきだろう。訓練で出来なかったら実戦でも出来ないに決まっている」


「……言っていることはわかりますけどね。じゃあ赤子の抱き方を教われば問題ないんですか?」


「もちろん」


「……ロキ先輩が完璧主義者っていった意味がなんとなくわかりました。では赤子の人形を使って練習しましょう。今まで人形だったため気にしていませんでしたが確かに赤子を落としたら大変ですし皆で練習するいい機会でしょう」


 五人の時以外だとエジットがまとめ役みたいになっているな。

 こうやって皆を引っ張っていくリーダーってすごいと思う。

 俺には出来ない。

 人と関わるのが苦手だっていうこともあるけど俺は一人でいろいろすることに慣れすぎた。

 レイダやロキ、メーダと鍛練はしてきたけどレイダたちと俺という三対一の模擬戦とかよくあったし。


 教官二人に許可をもらって人形を借り経験者にこんな感じと赤子の抱き方を教えて貰う。

 ぎこちなくも俺も抱き方を覚えた。

 あとは慣れるだけだ。


「ではもう一度お聞きしますね。救出班の方で救出対象の護衛をしてくださる方はいらっしゃいますか?」


 俺は手を挙げたけど他五人は誰も名乗り出ない。

 俺が加わる前はどうしていたんだろう。


「ではセレメ。お願いできますか?」


「いいけどなんで誰も名乗り出ないんだ?」


「教官たちがかなり本気で見つけに来たり、戦いに来るので怖いんですよ。今まではじゃんけんをして役割を決めていましたし」


 そうなのか。

 それで怖いって実戦で大丈夫だろうか?

 人間の国では教官たちより怖い人たちが沢山いると思うんだけど。

 黒い血を見れば、魔人とわかれば本気で殺しにくる人達だし。

 まあいいか。

 俺も本気で隠れて本気で助ければいい。

 他の人の配置も確認してどこがスタートでどこがゴールかも確認する。

 潜入班には一般人を装いながら教官の位置を確認してから戻って報告してくれる。

 準備は整ったかな?


「行くぞ」


 小声でギヌがいう。

 さっき聞いたけどエジットは練りにねった考え、作戦とかそういうのが優れていて、ギヌは戦場での判断力に優れているそうだ。

 だから体を動かしながらのときはギヌがリーダーをしているらしい。


 俺と五人は三組にわかれて赤子のもとへ向かう。

 たまに一般人のふりをしている潜入班に教官の居場所を聞きながら。

 俺と行動をしているバトリオが立ち止まった。

 俺も立ち止まる。


「教官だ。もうこっちまで来てるみたいだな」


 バトリオの囁き声にちらりと木の陰から様子を見てみた。

 赤髪の教官がきょろきょろとしている。

 気配を出来るだけ感じ取られないようにしよう。


「セレメ?」


 慌てて教官から目を逸らして振り向くバトリオ。

 どうした?

 なんか慌てているけど。


「……気配消しただけかよ。いなくなったかと思った」


 そうか?

 俺はメーナほど気配の消し方は上手くないんだが。


 それよりどうしようか?

 教官がいる場所を通らないとしてもこの木の陰から出たら見つかってしまいそうなんだが。

 見つからないように動かないでいるか?

 あっ。教官こっち来てる。

 このまま動かなくても見つかりそうなんだが。


「セレメは救出に向かってくれ。俺は足止めしとくよ」


 バトリオがいった。

 じゃあよろしく。

 バトリオが教官に向かっていくのを見届けてから俺は静かに移動を開始する。

 どうやら教官は俺に気が付かなかったようだ。

 良かった。

 無事赤子の人形のもとへたどり着き抱きかかえると、作戦の通りの場所に待機していた赤子の護衛役の護衛を任されているギヌとシャーニナを連れてゴールへと向かう。

 無事見つからずにゴールできた。

 魔法も使うことなくゴールしてしまったんだがいいのか?

 まあいいか。


 しばらくすると救出班全員がそろった。

 作戦は成功だ。


 潜入班の人が教官を呼び戻している。



「驚いた。本当に成功していたのか」


 二人の教官が驚いている。

 成功していないことのほうが多いのだろうか?

 首を傾げているとギヌが理由を教えてくれた。


「普段は教官に見つからないで作戦成功にはならないんだ。必ず救出班全員が見つかってしまうから。でも今回は違っただろう?」


 へえ。運が良かったのか作戦が良かったのか。

 もっと上手く出来たところもあるから反省もしておこう。

 なんどか赤子救出をしてチームで成し遂げるということに慣れていく。

 教官に見つかって追い駆けられたりしたけどなんとか逃げ延びている。

 実践でも上手く出来ればいいな。

 まずは勇者の調査だけど。

 


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