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血色の世界  作者: 蛹
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18話 新人

 アキは悪夢を倒すことに反対でしばらく機嫌が悪かった。

 逆にレイダとメーナは大賛成して自分たちも協力するって張り切ってるけど。

 ちょっと複雑な気分だ。

 もし俺が悪夢になったら皆が俺を倒してくれるけど、きっとそれはとても辛い思いをすることになるだろう。

 俺が頑張れば問題ないか。

 俺は誰も殺さない。それだけで皆も嫌な思いをしなくて済む。

 大丈夫。

 監視とか悪夢を倒す準備とかは、保険でしかない。





 アキとギクシャクしながらも一週間が経った。

 今日から俺は新人救出班の一員としての指導を受ける。

 基本は学び舎で習ったけど学び舎に通っていない人とかもいるし、実際に魔物を倒すことも指導としてやるから救出班に入る人は全員やる。

 俺は本当は去年やってるはずなんだけど勝手に村を出て行ったので今からだ。

 実践と同じような緊張感でやるから、やって損はない。

 でも心配なのは俺が途中参加ってことだろう。

 もう新人たちは一月ほど訓練を受けている。

 半年指導、訓練を受けてから実践に参加するんだ。

 俺は勇者の調査チームに加わるので一週間くらいしか受けないけど。


 ……チームワークとか大丈夫だろうか。

 かなり心配だけどやらないといけない。



 族長に連れられて村の門にやってきた。

 そこには五人の男女が集まっていた。

 今年はこの五人が新人らしい。

 去年はレイダとロキとメーナだけだったと言っていたな。

 ロキの友達に同じ年の子はいなかったらしい。

 皆、年上か年下だったんだな。

 知らなかったよ。


「しばらくすれば指導者が来るからそれまで自己紹介でもしておれ。儂は指導者と少し確認することがあるでの」


 族長がそういうとどこかに早歩きで行ってしまった。

 さて。どうしたものか。

 とりあえず集まって話をしている五人に近寄って声をかけてみよう。


「おはようございます」


 まずは挨拶をしてみる。

 五人が俺に注目した。

 どうしよう。

 俺って人と関わるの結構苦手なんだが。

 メーナほどではないけど、レイダやロキに比べたらダメダメだ。

 じ、自己紹介だ。そう! 自己紹介しよう。

 落ち着け。

 この一年モルゼット以外の人と関わってないせいでかなり緊張してしまっている。

 ててて、丁寧な言葉で頑張ろう!

 落ち着いて、そう、落ち着いて。


「今日から訓練に参加することになっているセレメです。よろしくお願いします」


 なんからしくない言葉を使っている気がするけど問題ないはずだ。

 落ち着け、落ち着け。大丈夫。

 軽く頭を下げてから五人を見ると、こそこそと何か話している。

 気になって風の魔法で声を拾ってみた。


「なあ。誰か新しい参加者来るとか聞いてたか?」


「ボクは聞いてないね」


「俺、聞いてない」


「僕も聞いていないですね」


「俺も聞いてない。グラン教官が伝え忘れたんじゃね?」


 そう口では言っている五人だが俺を不審者のような目で見ている。

 うん。ちょっと精神的にきついかな。

 ここはいったん離れて様子を見ようか。


「おはよう。今日も訓練していくよ」


 そっと離れようとしたところで男の声が聞こえた。

 現れたのは二十代後半くらいの軽装の男。

 族長宅のあるほうから歩いてきた。

 この人が指導者なんだろう。

 なんか強そうに見えない。

 細いし武器も持ってないし、商人みたい。

 でも実力者なんだろうな。

 頑張ってついて行こう。


「そうそう。今日から新しい仲間が加わるんだ。訳あって去年訓練に参加できなかった新人のセレメくんだ。仲良くしよう!」


 ……仲良くなれるだろうか。

 凄く不安だ。

 でも頑張るしかない。



 今日の訓練内容は、人間の街での演技の練習だった。

 魔人とばれないように振る舞う。

 最も大切なことでこれが出来なければ救出班にも潜入班にもなることは叶わない。

 俺は学び舎では優秀な演技の成績を収めていたけど、実践に近いところではどうか。

 俺の人と関わることが苦手という性格がどう引っ張るのだろう。

 これは訓練だ。

 今のうちにいろいろ試してみよう。

 今くらいしか失敗出来ないのだから。



「ギヌ。もっと肩の力を抜くんだ。一度深呼吸しよう」


 五人のうちの一人。ギヌという男に教官であるグランが言っている。

 ギヌは五人のまとめ役のような立場で性格は真面目だ。

 少ししか関わってない俺でもわかるくらい真面目だ。

 だから一生懸命に演じているけどなんというか……。

 ちゃんとやろうとし過ぎて表情が硬い。

 軽い男を演じよう、という課題なんだが全然出来ていない。

 俺も出来ているか怪しいけども。


「バトリオを真似して頑張ると良い。バトリオは軽い感じの男だからな」


「ちょっと待ってくださいよ! 俺のどこが軽いんですか!?」


 なるほど。

 バトリオは自然体に見えて凄い演技力だと思っていたけど素に近いからやりやすかっただけなのか。

 バトリオ以外に凄い演技力って言ったら……シャーニナだな。

 シャーニナは髪も短く一人称もボクで声も低めだから男に見えるけど、女の子だ。

 五人のなかで唯一の女の子。

 だけど軽い男の演技は誰よりも上手かった。

 胸が大きくなかったら男と見間違えることだろう。

 ……胸から目を逸らそう。うん。

 レイダもメーナもそんなに目立たないから気にしてなかったよ。


 ……考えるのも、もうやめよう。

 なんだか俺が変態みたいだ。

 うん。何も考えない。


「それにしてもセレメは多才だな。戦闘も演技も本番で通用するんじゃないか?」


 嬉しいことを言ってくれるグラン教官。

 ただ俺は多才なわけじゃない。

 残念ながら演技ではロキに負けるし、剣の腕も一年やらなかっただけでレイダに負けてしまっている。

 弓矢もメーナみたいに正確に当たらないし。

 俺の才能は魔法だけだろう。

 それも女神に押し付けられた悪夢としての力だけども。



「課題を変えよう。今度は優しい青年だ。あっ、シャーニナは優しい女性にしよう。大丈夫か?」


 皆が頷く。

 俺も頷いたけど優しい青年って難しくないか?

 軽い男も難しかったけど。

 俺とは異なる性格だし。

 性格も変えて嘘もついてって大変だ。

 嘘は出来れば吐きたくないけど、そうしなければ俺たちは人間の国で即座に処刑される。

 黒い血の魔人は今はそういう扱いだ。

 我慢しなければならない。


 そうこうしているうちに午前中の訓練は終わった。

 午後は潜入班の新人とともに黒い血の人を助ける訓練だ。

 この訓練はとても大切だろう。

 魔人を殺さずに助け出す。

 人間は俺たちを本気で殺そうとしてくるなか、誰も殺すことなく魔人を助け出すのは大変だ。

 もしかしたら仲間が殺されるかも知れない。

 だから失敗できる訓練で出来ることはやっておいて損はないだろう。


 さて。昼食はどうしようかな。

 家にはアキがいるから気まずくなるし、だからといってお金もないし。

 ……村の外で狩りするか。

 火は魔法があるから問題ない。

 森なら食材の宝庫だろう。

 成人したから勝手に外に出ても何もいわれない。

 よし。行こう。


「なあ。どこ行くんだ?」


 真面目なギヌが俺に声をかけてきた。

 何か用だろうか?

 俺は立ち止まるとギヌを見て首を傾げた。


「今から族長の家で飯を食うんだけど、あんたは行かないのか? 訓練中はタダだぞ」


 そうなんだ。

 知らなかった。

 族長も言ってくれればいいのに。

 危うくモルゼットとの生活と同じ事をしようとしてしまったじゃないか。

 族長の家へ向かう。


「どこに行くんだ? 族長の家か?」


 慌てたようにギヌが俺の肩を掴む。

 ああ、俺の悪い癖だ。

 何も言わずに行動してしまう。


「そう。族長の家に行く」


 今度はちゃんと伝えた。


「そ、そうか」


 でもギヌは何故か戸惑ったように俺の肩から手を離す。

 どうしたんだろう?

 よくわからないけど腹が減ったし族長の家に行こう。


 歩いている間、皆は楽しそうに会話していた。

 俺と無口のヤーディンは会話に参加してなかったけど。

 皆と仲良くしたいけど、どうすれば仲良くできるんだか。

 レイダは鍛練、ロキも鍛練、メーナも鍛練で仲良くなったな。

 やっぱり鍛練に誘うべきか……?

 悩んでいるうちに族長の家までやってきた。

 族長は歓迎してくれて飯を出してくれる。


「セレメくん。皆と仲良く出来ているかね?」


 族長が一緒に食事しながら聞いてくる。

 つい押し黙ってしまった。


「ふぉふぉふぉ。昔からセレメくんは人見知りするからのう。ギヌくんたちもセレメくんに話しかけてやってはくれんか。ヤーディンくんのときのように」


「えっ。セレメくんって人見知りなだけなの? てっきりボクは他者と関わりたくない一匹狼かと思っていたよ」


 シャーニナの言葉に驚く俺。

 あー、でもロキに冷たいとか怖いって言われたしそう見えても仕方ないのか。

 感情を表に出すのが苦手だからもっと出せるようにしないとな。


「ヤーディンくんは雰囲気が何故かわかりやすいから、楽しそうじゃとか寂しそうじゃとかわかるが、セレメくんにはないからのう」


「最初、俺らに敬語で話しかけてきたんだけど敬語じゃなくなったのは何でなん?」


 軽い男疑惑のあるバトリオが聞いてくる。

 そういえば最初丁寧に話してた!

 すっかり忘れてたよ。

 五人の事を少し知れたせいで気が緩んだんだ。

 緊張しすぎるといいことねぇな。

 やっぱり自然体が一番。


「お前たち五人に慣れたんだ。最初、緊張しすぎて変に気を使ってたし。まあ気にすんな」


「あれ緊張してたのかよ……。自然体に見えた」


「セレメくんも感情が表に出ないことを気にしておるんじゃぞ。何度か井戸の水に映った自らを見ながら笑顔の練習しておったしのう」


「なっ!? 族長!」


 なんで知ってんの!?

 あれ見られてたのか!?

 見られてたのか!?

 うわあああ!

 恥ずかしいっ!

 机に額をゴツリと叩きつけて恥ずかしさに悶える。


「落ち着くんじゃ。セレメくん。何も恥ずかしいことじゃなかろう。努力は素晴らしいものじゃぞ」


「うるせぇ」


 思ったよりドスの利いた声が出た。


「すまんっ! 謝るから怒らんでくれ! セレメくんの怒ったところ見たことないから調子に乗ったわい!」


 別に怒ってないんだけどな。

 俺が恥ずかしさに泣きそうになっているってだけで。

 俺は強い男だから泣かないけど。

 深呼吸してから顔を上げる。

 族長が嘘っぽい怯え方してるな。

 証拠に口端が笑いそうになっている。

 はあ、と俺はため息を吐いた。


「今回は許すけど次俺にこんな思いさせたら泣くぞ」


「ふぉふぉふぉ。あのセレメくんが泣くとな? ありえんじゃろう」


 またあの恥ずかしい思いをすることになるんだろうか?

 泣きそうになったので泣かないように笑って見せる。

 すると族長は反省したように肩を落とした。


「……すまん。もうやらんから無理して笑うのはやめい」


 無理して笑ってないし。

 でも目の調子が戻るまでは笑っていよう。

 表面だけの笑みは簡単に作れる。

 心からの笑みも簡単に作れたらいいんだけどな。

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