15話 遊び
モルゼットに会って半年、すっかり食料調達などに慣れ、それらが日常になってきたある日の夜。
食べずらい料理を作って二人で食べているとモルゼットが何を思ったのか昔話を始めた。
初めてのことだったので黙って聞くことにする。
「私は神託を受けた日、歓喜したんだ。女神は世界の英雄だとしか言わなかったからな。私は私が悪夢だと知らずにいたんだ。ラシディーリン教の信者だったし、女神の言葉が絶対だと信じて疑わなかった」
モルゼットは俺が食べずらいように魚の骨を刺しまくった四角いイノシシの肉を食べながら話を続ける。
「それに私は黒い血だったせいで帝国の宮殿に監禁されていて、悪夢の存在もよく知らずに育った。私の生まれたころも黒い血は悪夢の使いとされていたから、私が皇帝の子供として生まれたとき殺すか迷ったらしい。まあ殺されていないからここにいるのだが。何も知らない私が唯一持っていたのがラシディーリン教の聖書。だから女神の言葉に従ってしまったんだ。セレメは女神の言葉に惑わされるな」
……モルゼットなりの忠告、ということにしておこうか。
聞きたいことはある。
どうして今はクソ女神とか罵ることが出来るほど女神を信じなくなったのかとか。
でもそれは俺には関係ない事だろう。
俺も神託の日から女神のことは信じていない。
神託を受ける前もそんなに信じていたわけではないのだけど。
これから俺が女神を信じようとすることがないように、モルゼットの話は心に刻んでおけばいい。
「ところでこの肉になにをした?」
「魚の骨刺した」
「……セレメはここに来る前もこうだったのか?」
「ああ、そうだ。安心して過ごせる夜だけはふざけたいんだよ」
「本当か? なんか嘘っぽいな」
「嘘じゃねぇって」
ふざけたいのは本当だ。
一番の目的が出来るだけ長く、人とこうやって過ごしていたいってだけで。
そんなことを考えると村のことを思い出してしまう。
ああ、今頃アキたちはどうしてるのかな。
悪夢は俺の手では殺せなかったから、いつか村に帰ることになると思う。
心配しているだろうし。
でももう少しここにいて、モルゼットにいろいろ教えてもらって、他の属性の魔法にもっと慣れてから帰ろう。
まあ闇以外は他の人の前では使わない予定だけどな。
でも万が一のときは使うさ。
~~~~~~~
「おーい。セレメ」
ある日の昼過ぎ。
俺はモルゼットに遊びを教えてもらっていた。
今はかくれんぼという遊びだ。
俺は気配を押し殺して隠れていて、モルゼットが探す役だ。
魔法はなしで遊んでいる。
見つからないかドキドキしながら、でもちょっと見つけてほしい気もする。
なんか楽しいかも。
鍛錬以外の楽しみはあんまり知らないから新鮮に感じた。
「おっ。セレメ見つけたぞ」
「見つかったか」
「今度はセレメが鬼だ」
「おう」
数を数えてモルゼットが隠れるのを待つ。
絶対見つけてやるさ。
しばらくして飽きたら別の遊びをした。
鬼ごっこというただ追い駆けて捕まえる遊びだ。
モルゼットが疲れて休むまで続けた。
他にも木登りとか縄跳びとかいろいろと遊ぶ。
全部知らなかったからとても新鮮で楽しかった。
「セレメはどんな育ち方をしてるんだ? 遊びを知らないとは……」
「悪夢を倒したくて、強くなろうって鍛練ばっかしてたんだ」
「子供らしくないな。遊びたい盛りだろう。私だって監禁生活の中で遊びはした」
「鍛練が俺の中で遊びみたいなもんだったんだ。目標は遊びとかじゃなかったけど。だから辛くてもやれたしそれ以上に楽しかった」
「セレメはやはり変な奴だな」
人のいないこの場所に住んでいる変な人に、変って言われてしまった。
俺には普通の生活だったから変って言われるとは思わなかったんだが。
変なのか……。
「今後はもっと気楽に生きたらいい。目的の人物がどこにいるかはもうわかっているんだからな。目標に突っ走っていくのもいいが、寄り道したっていいだろう」
確かに。
鍛練もしたいけどそれ以外の楽しみも見つけよう。
村に帰ったら皆で遊ぶっていうのもいいかもな。
~~~~~~~
「じゃあまたな。モルゼット」
モルゼットに別れの言葉を告げる。
モルゼットに会ってから一年。
空を飛ぶことも危なげなく出来るようになったので、村に帰ることにした。
またここに帰って来ることもあるかも知れない。
「ああ、またな。何かあったら連絡してくれればいい。いつでも飛んでいくさ」
頼もしいことで。
でも何かあっても連絡はしないだろう。
会いにいくときくらいは連絡するかもしれないが。
まあモルゼットも心配なんだろう。
俺が人に悪夢と呼ばれないか、ってことが心配なんだ。
悪夢と呼ばれるようになったらそれは、俺が人を殺したってことだし。
俺は悪夢にはならない。
未来が見えるわけじゃないけど、それでもなりたくはない。
だから大丈夫だ。
空を飛ぶ魔法を使い地面から足を離す。
モルゼットが手を振って見送ってくれた。
俺も手を振りながら進む。
遠くになってわかったけど、この一年間暮らしていた場所は小さな島だった。
島とは聞いていたけど、俺が生まれた大陸と比べると本当に小さい。
ここにモルゼットがいる。
しっかりと記憶に焼き付けてから前を向き、俺の育った村へと向かった。
次話は7月28日投稿予定です
次話予告、村の前に青い動物が……なんかやばそうじゃね?




