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血色の世界  作者:
13/44

12話 神託

 ドラゴンがやってきたあの日から大分時間がたった。

 今年で俺は十五歳になり今日が成人式だ。

 明日から救出班に入るための正式な訓練が始まるから楽しみではある。

 でもその前に教会での成人式に参加しなければならない。

 面倒なことだ。

 服も特別なものを着なければならないから、いつも来ているボロい服ってわけにもいかない。


「アキ。俺を飾るのはもうやめねぇか?」


 特別な服ってことでアキがどの服がいいかと悩んでいる。

 今日のためだけに何着買ったのだろう。

 普段は着ないだろうから金の無駄なんじゃないか?


「一生に一度の成人式だ。思い出に残るものにしなければ!」


 アキはそう張り切っていた。

 昨日の夜からこの調子で俺は何度も服を脱ぎ着させてられている。

 アキはこういうお祝いごとが大好きだからな。

 俺もお祝いごとは好きだけど、自分が祝わわれるのはあんまり好きじゃない。

 こそばゆい感じがして調子が狂うのが嫌なんだ。

 祝われたら祝われたで嬉しいけど、どんな反応すれば良いのかわからない。

 学び舎で演技の練習とかしたから嘘は得意になったけど、未だに心の中の声や感情を人に伝えることは難しい。

 偽物の感情なら簡単なんだけどな。


 アキに髪の毛を弄られ、服を何度も脱ぎ着させられながらそんなことを考えていると、玄関のドアが強くノックされた。


「アキ。セレメ。もうすぐ時間だぜ!」


 コリアスの声がした。

 アキはまだ俺の容姿を整えておきたいようだが、時間が迫っているので、結局魔王が残したと言われるハオリハカマという服を着た。

 魔王の残した文化は人類を支配したことを除けば素晴らしいと評価されている。

 もう六百年も前の文化ではあるけどそれがきっかけで様々なものが作り出された。

 人間の国の話だけども。

 魔族の国も人間の作った物を買ったり、それらを研究したりしているらしい。


 って、そんなこと考えている場合じゃなかった!

 急いで家から出てアキとコリアスとともにレイダと出会った教会へ向かう。

 今年この村で成人するのは六名。

 そのうちの四人が俺、レイダ、ロキ、メーナだ。

 俺たちと同い年である魔人は少ない。

 生まれた数が少なかったのか、それとも沢山殺されたのか……。

 殺されたんだろうな。

 丁度九百年になったころだから悪夢がまたやってくるって恐れて警戒が強まったんだろう。

 やっぱり悪夢を許してはいけない。




「セレメ! 遅いわよ!」


 レイダがポニーテールにしても腰まで届く長い銀髪を揺らしながら、腰に手を当てて怒鳴った。

 その髪型はアキと同じだ。

 レイダの憧れるものの真似するところも俺に似ているよな。

 俺の口調もコリアスに似せているから。

 レイダの両隣りにはロキとメーナが立っていた。

 三人の服は俺とは違いドレスとタキシードを着ている。

 俺もそっちがよかったな。


「さあ行こう! 成人式が終わったらいつも通り鍛錬だ!」


 ロキが爽やかに笑って教会の入り口に向かって駆けて行く。

 五年も一緒にいたせいで、俺の鍛錬好きがうつったのはロキだけではない。

 レイダもメーナも鍛錬が大好きになってくれた。

 いや、レイダは元からだったかな。


 だから今日の式のあとも鍛錬をする予定になっている。

 俺はまだコリアスとアキを圧倒するほど強くはなれてないけど、互角くらいにはなったと思う。

 互角は言い過ぎか。

 コリアスとアキよりほんの少し弱いくらいにはなったはず。


「セレメくん! 早くおいで!」


 淡い青色のドレスを着たメーナが桃色の髪を耳にかけながら俺を呼ぶ。

 皆は教会の入り口にいて俺が行くのを待ってくれいる。

 今から俺も教会に入らなければならない。

 そう、この女神ルーダ様の教会に、入らなければならない。

 でも俺の第六感がそれを拒否していた。


「ほらセレメ。行こう」


 アキが俺の背中を押す。

 とてもめでたい日のはずだ。

 けれど何故俺はこんなにも気分が悪いのだろう。

 楽しみだったはずなのに、今日を過ごしたくないと思っている。

 何故。何故。何故なのか?

 神々しい教会が、今は禍々しく思えてしまうのだ。




 成人式が始まった。

 俺たちは祭壇の前に並んで膝をつき、目を瞑って司祭様の言葉に耳を傾けている。

 有難い言葉なのだろうけど、今は聞きたくないと感じる。

 早く終わってくれないだろうか。

 気分が悪いから体を動かして気を紛らしたい。

 じっとしていることが辛くて、今すぐにでも鍛錬がしたくて俺はそわそわしていた。


 そんな時。

 女性の声が聞こえてきた。

 いや、頭の中に響いたと言うべきか。

 その声はか細くも存在感のあるとても不思議で綺麗な声だった。

 それと同時に叫び出したくなるほど不気味で大嫌いな声だ。

 この声を俺は知らない。

 けど知っている。

 そんな矛盾した感覚が俺を襲う。


『汝は英雄なり。故に世界を救う義務あり。輪廻の巡り、世界の公平を守護せよ。汝は世界の英雄、輪廻の守護者と名乗ることを許さん』


 何を言っているのかさっぱりだな。

 昔の言葉使いだろうか。

 でも聞いたことのある言葉もある。

 特に世界の英雄とか輪廻の守護者とか。

 誰かに昔、そう呼ばれた気がする。

 あれは確か……ドラゴンに言われんだったか。

 そんなこよりこの声はなんなんだろうか。


『我はルーダ・ラシディーリン。地上にて女神と呼ばれたり』


 ルーダ様……?

 こ、これ神託なのか?

 黒い血でも勇者に選ばれるのか?

 それだったら最高なんだけど。

 でもまあ違うわけで。


『分かりやすく言うに、汝は悪夢なり』


「……」


『汝、世界の英雄、輪廻の守護者、故にまさりうち過ぎし人間を殺せ。それ、汝の定めなり』


 考えたことがなかったわけじゃない。

 俺の血も黒いから悪夢であるという可能性が完全にないとは言い切れなかった。

 もし俺が悪夢だったら?

 そう考えることが怖かった。

 でも悪夢が悪夢を倒すなんてバカなことを考えるはずがないだろう。

 そう思っていた。

 思っていたかった。

 今日の気分の悪さはこれか。

 これが原因か。

 俺は知らないうちに、俺が悪夢なんだとわかっていたのかも知れない。

 だから教会に入ることを躊躇った。

 入らなければ知らないままで済んだから。

 でも今、知ってしまった。

 悪夢を倒す?

 悪夢の俺が?

 女神が見ていた俺はピエロのように可笑しいことを考えていたんだろう。

 それでも、それでも俺は、





 悪夢()を殺すさ。






 世界は残酷なものだ。

 俺は目を開いて立ち上がりながら思う。

 俺は許さないぞ。

 女神ルーダ。

 色々と聞きたいことはあるけど今はそれどころじゃない。

 司祭様に背を向けて、俺は教会の外へ向かう。


「せ、セレメ」


 小声でアキが俺を呼ぶ。

 俺はその声を無視して堂々と歩いた。

 さあ。

 悪夢を殺しに行こう。

 今の俺の実力でも可能だ。

 最後に手紙でも書こうか。

 心配しないように「旅に出ます。探さないで下さい」って。

 家に戻り服を着替え、コリアスの剣を腰に下げる。

 手紙を書き終えれば、あとは誰にも見つからない場所で悪夢を倒せ。


「あはは。手なんて震わせて。怖いか?」


 柄にもなく独り言を呟く。

 その声さえ震えているけれど。

 怖くなんてないさ。

 大丈夫。

 海に身を投げれば誰にも見つからない。


 家を出て村の外まで走る。

 途中でアキとコリアスが俺を探している声が聞こえたから見つからないよう魔法も使いながら走った。

 村から南に行けば海に出る。

 影移動の魔法を使えば早く着くだろう。

 影移動はその名の通り影を使って移動をする。

 何かの影から目に見える範囲の影まで移動出来るんだ。

 その際影の中に潜ることになるからアキたちにも見つかりづらくなることだろう。


 でもまずは原っぱを抜けないとどうしようもない。

 原っぱには影が少ないからな。

 原っぱにちょこちょこと生えている木の影まで行けばあとは森の中まで影移動する。

 森は影が多いから。


 進もう。

 俺は誓ったんだ。

 悪夢をこの手で倒す、と。

次話は6月30日投稿予定です。

次話予告、めっちゃ重要な新キャラ登場!?

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