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血色の世界  作者: 蛹
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10話 道具

 ロキは俺の目的を言いふらすでもなく、馬鹿にするでもなく受け入れてくれた。

 これはとてもありがたい。

 少し安心した。




 その後、疾走祭が始まる前の二日間はいつもの皆で鍛錬をする。

 魔法と足を主に鍛えた。

 魔法も走るのもほどほどに出来る、俺とロキで一組。

 魔法か走るのが少しだけ苦手なレイダとメーナで一組。

 たまに皆で鍛錬って感じでやっている。






 そして疾走祭当日。

 町の門の入り口に学び舎の特殊科の生徒が並んだ。

 普通の学科の生徒も応募すれば疾走祭に出れるけど特殊科は強制らしい。

 走るのを嫌がったり、魔物相手に戦うことを恐れていていたりするくらいなら、特殊科ではなく普通科に移動したほうがいいと先生は真剣に言っていた。

 それだけ救出班や潜入班などの仕事は危険ってことだろう。

 俺は危険を覚悟しているからむしろ魔物と戦ってみたい。

 俺の今の実力で魔物とどの程度戦えるのかが知りたいな。

 その前に疾走祭で上位三位に入らないと、次に魔物と戦えるのは十五歳の成人の日の後のちょっとした訓練の時だ。

 ここで負けたりしたら悪夢に勝つなんて出来ない。

 だから勝つ。

 勝って魔物を倒してみせる。


「位置について!」


 先生の声で皆が木の枝で書かれたスタートラインに着いた。

 この二日間の特訓の成果を発揮するために俺は集中を高める。


「よーい……スタート!」


 先生が持つ白い旗が振り上げられ疾走祭がスタートした。

 皆が走り出す。

 俺も皆に遅れることなく続き、追い抜いて行った。

 でも追い抜くことも一苦労だ。

 何せ魔法あり。

 追い抜こうとしても魔法で止められそうになる。

 でも問題ない。

 俺も魔法を使って止められないようにすればいい。

 拘束系の魔法。

 例えば俺の使うリボンみたいな魔法や地面から腕が生えてくるような魔法。

 そういうのは俺の使うリボンやちょっと頑丈な鎖の魔法でぐるぐる巻きにしてしまえば絡まって上手く魔法が操れなくなる。

 妨害系の魔法はいろいろな対策が必要だ。

 視界を闇で覆うのなら夜目が効くようになる魔法。

 向かい風を起こすならそれをものともしない体力。

 炎の熱さには根性で乗り越える!

 ……対策っていうのか? これ。

 言わねぇな。

 でも心の準備は大切だ。

 突然の事態に瞬時に対応する力も必要だけど、想定してその通りに動けるようにもしておかないと。

 作戦通りに動けないと黒い血の救出に失敗する。

 勿論作戦通り過ぎて取り返しのつかないことにもなるかもしれないから両方の力を身につける。

 難しいことだが俺はやってみせるさ。


「セレメ! 容赦はしない!」


 後ろがロキが走ってきた。

 勿論闇魔法を使って俺の走る速度を落とそうとしながら。

 俺も魔法を使って速度を落とさないで走るとも。

 さらに後ろからオーガのような形相のレイダが、ほとんどの魔法に引っかかりながらも追いかけてくる。

 練習のとき最下位だったのが余程悔しいのだろう。

 覚えたばかりの拘束、妨害系の魔法も使っていた。

 魔力切れで倒れなければいいけど。

 メーナは魔法で足の遅さをカバーしながら走っているのが見える。

 二日で足の速さや体力を大幅に上げることは流石に無理だ。

 頑張って毎日続ければ足も速くなるし体力もつくだろう。

 俺は応援するしかないが。


 人のことは今はいい。

 俺は疾走祭で一位にならなければならないんだ。

 手加減なしで魔法を使いまくり圧倒的な勝利をこの手で掴む。

 絶対だ。


「ロキ。先頭に来い! それからが勝負だ!」


「先頭に来いとか簡単に言わないでくれ!」


 そう言いつつもロキは先頭を目指して速度をあげた。

 俺も負けないように全力で走った。

 走りながら魔法を複数発動して競争相手の動きを観察する。

 同時にいろんなことをやらなければならないから大変だけど、何度もロキとの練習でやってきた。

 同じようにやれば上手くいくさ。


 ロキを置いてきて先頭まできた。

 練習のとき上位三位に入った三人が魔法を交わらせながら順位を変動させている。

 そこに俺もいれてくれ。


「頑張れ!」


「師匠である俺の顔に泥を塗るんじゃねぇぞ!」


 丁度、アキとコリアスの応援が聞こえた。

 応援されると漲るな。

 親と師の名誉を傷つけるわけにもいかない。

 俺は思い切り魔法を使おう。

 普段は使わない盛大な魔法だ。

 ただの巨大な闇の沼なんだけどな。

 腰までの深さがあるから抜け出すのは大変だろう。

 その隙に俺は一位になりそのまま突っ走る。

 沼から抜け出した人たちは俺に向けて魔法飛ばしてくるけど全て同時に魔法で対応した。

 化け物とかまた言われた気がするけど嬉しくなってしまうからやめてくれ。

 集中が途切れそうで怖い。

 ……今度俺に褒め言葉を投げて貰いながら鍛錬しようか。

 うん。それで集中が途切れないようになればいいからそうしよう。


 結局ロキは俺に追いつかずそのまま俺は一位でゴールした。

 勿論余裕の勝利だ。

 目的を達成した。

 小さい目的を達成させ続ければ悪夢も倒せるさ!


「セレメ。体は大丈夫か?」


 ゴールに先回りしていたアキが俺の体を触って心配している。

 やっぱり沢山の魔法を使うと心配になるのかな。

 俺は何故かなんともないんだが。


「問題ない。むしろ皆が心配だ」


 まだゴールしていない友達三人を思い後ろを見た。

 そのときロキがゴールのラインを跨いでいるところだったので駆け寄ってようすを伺う。

 相当疲れたのか村の道の端で座り込んでしまった。


「ロキ。お疲れさん」


「お、おう。セレメと勝負も出来なかったよ……」


 凄く残念そうなロキだが、今後も疾走祭に似たようなことをすれば勝負にもなるし鍛錬にもなる。

 残念がることはないだろう。

 でもロキも魔物を倒してみたかったのかもしれない。


「やっぱりセレメは凄いな。君と並んで戦いたいけど僕はセレメにとって守る相手になっちゃっているのかな?」


 ロキが可笑しなことを言っている。


「お前、俺と並んで戦うとか勇者くらい強くなんねぇと無理だぞ? 正気か?」


「君に比べたら正気だと思うよ?」


「俺と違ってお前には友達も沢山いんだろ。俺とじゃなくてもいいんじゃねぇの?」


「強いやつについて行きたくなるんだ。まあそれだけじゃないけどそれは秘密ってことで」


「はあ?」


 よくわからないロキの言葉に困っていると、そんな俺をみたロキが声を出して笑いだす。

 全然意味わからん。

 でも俺もなんだか可笑しくなって笑ってしまった。


「あんたたち何笑ってんのよ?」


 ゴールしたレイダに言われる。

 その後ろからひゅうひゅうと変な呼吸をしたメーナが走って来て膝に手をついて止まった。


「お疲れさま。特にメーナは凄く頑張ったよね。お水飲んで」


 ロキが気を効かせてメーナに水を渡している。

 メーナは勢いよく水を飲み干して大きく息をついた。

 レイダは体力が有り余ってるようで屈伸運動を始めている。

 レイダの順位があまり高くないのは、やっぱり魔法が苦手な所為なんだな。

 

「セレメは何位だったのよ」


 屈伸運動を続けるレイダが俺を睨みながら聞いてきた。

 睨む理由がわからない。

 正直に言わないと蹴るぞってことか?


「一位だ」


「……セィヤァアア!」


 いきなり殴りかかってくる。

 嘘ついたほうが良かったのか?

 レイダの拳を避けながら思う。

 でも不意打ちは鍛練になるしこれはこれでよかったのかもしれない。


 殴り合いを続けているとアキに止められてしまった。

 どうやら参加した皆がゴールできたから表彰式みたいなことをやるらしい。

 俺は知らなかったが魔物と戦えること以外にも景品があるそうだ。

 何を貰えんのかな。

 少し楽しみだ。




 学長の長々とした話が終わる。

 楽しみだった気持ちが薄らいで体を動かしたい衝動に駆られる俺。

 こういうところが俺とレイダは似ているので二人してそわそわしてしまう。


「では上位三位の者には景品を授けようぞ」


 学長が上位三位のそれぞれの名前を呼び何かを渡している。

 俺も呼ばれると前に出て学長におめでとうと声をかけられながら景品を貰う。

 礼を言いさっきまで立っていた場所に戻って景品と紙の説明書を見た。

 側にいるレイダも気になるのか俺の手元を覗き込んでくる。

 んーと。これなんだろうな?

 魔力決定通信魔法道具?

 無駄に長い名前だ。

 覚えられそうにない。

 使い方も読もうか。


 魔法道具に登録した人物の魔力量で遠距離通信の際の距離の決定、音声の鮮明度の決定、魔法道具の分裂個数の決定、魔法道具の形状の変化具合の決定がされる。

 登録の仕方は魔法道具に血液を一滴垂らすことで可能。

 登録者が死亡すると登録は取り消される。

 使い方は使おうという意思と伝える内容を念じること。伝える相手の持つ魔法道具と繋がりを感じるこ——


 ……もう読みたくない。

 なにが書いてあるのかわからない。

 いや書いてある意味はなんとなくわかるけど、こういう説明文って読むと頭が痛くなってくる。

 とりあえず血を垂らせば俺が登録されて使えるようになるんじゃねぇの?

 闇の魔法で針を作り出し指に刺して血を出す。

 そして五センチくらいの四角い箱のような金色の魔法道具に血液を擦り付けてみた。

 ……これで登録出来たのか?

 何も変わらねぇ。

 もう誰かが登録してあったりすんのかな?

 そんなことを考えていると魔法道具が突然グニャグニャと形を変え始めた。

 時間差か。

 しかもなんか生きているみたいで気持ちが悪い。

 分裂もしていて指輪になったり腕輪になっなり首輪、ピアス、イヤリングなどなど形も様々に変わっていく。

 何個に分裂するんだ、これ。

 手のひらから零れ落ちていく魔法道具。

 とりあえず分裂を止めて一つの魔法道具に戻したい。

 生きているみたいな魔法道具だから言葉にすれば言うことを聞いてくれたりしないかな?


「止まれ」


 そういうとちゃんと止まってくれた。

 こんな簡単に使えていいのか?


「くっつけ」


 今度は沢山分裂したものが元の四角い箱に戻って行く。

 ふう。焦った。

 あんなに沢山分裂するとかなんなんだ。

 こんな凄い魔法道具をまだ子供の俺に渡していいのかよ。

 遠距離通信とか凄い便利なものなら普通に救出班の任務で連絡を取り合えるようになるだろう。


 表彰式が終わりアキにこの決定魔力、いや遠距離通信、じゃなくてえーっと……。

 なんとか通信魔法道具のことについて聞いてみることにした。


「この魔法道具を貰ったのか? それ使えない魔法道具だぞ。魔力量で色々と決まる所為で分裂しなかったり分裂しても最高三つしか出てこない上に上手く聞き取れないほど雑音が入る」


 へえ。そうなのか。

 でも沢山分裂したよな?

 アキに見せてみよう。


「分裂しろ」


 魔法道具にそう声をかけるとぽこぽこと分裂を開始する。

 もう二十個超えてそうだな。

 まだまだ出てきているけど。


「なんじゃこりゃあ!?」


「俺さ、魔力切れになったことねぇんだわ。だからこんだけ魔力あっても可笑しくないと思う」


「それは初耳だ……。セレメは凄いな。魔法は同時発動をしたことがあるのか?」


「ある。それでも貧血っぽくはならなかったぞ」


「セレメの戦闘の才能がヤバイな。救出班に入ったら頼りにするぞ」


「ああ。頑張る」


「それにしてもどれだけ分裂するんだ?」


 アキが眉間に皺を寄せて俺の手元を見ている。

 これ通信して雑音がなかったらかなりヤバイものになるよな。

 遠くから知り合いと話が出来る質も良い沢山の魔法道具。

 黒い血にとっても良いものだけど、それが間違って人間に渡ったりしたら俺たち魔人は最悪殲滅させられるんじゃ……。

 俺が死ぬまで登録されてるならも魔法道具が大量に分裂するってこと。

 人間の手に渡ったなら俺は黒い血のために死なねばならない。


「セレメ。信頼できる相手に分裂した魔法道具を渡しなさい。信頼できる相手だけだ。いいな?」


 アキが少し低い真剣な声音で俺にいう。

 俺はアキと同じように真剣な気持ちでゆっくりと深く頷いた。


 俺はとりあえずアキとコリアスと友達のレイダ、ロキ、メーナに魔法道具を渡した。

 試しに通信機能を使ってみたけどかなり鮮明に聞こえてしまっている。

 まるで側にいるんじゃないかってくらいだ。

 距離が近いからっていう理由とかもあるだろうけど雑音なんて聞こえない。

 このことは出来るだけ秘密にしよう。


 世界樹を守る者であり龍の中でもトップクラスの強さを誇り危害を加える者に容赦はしない龍の英雄。

 レジェンドドラゴン

 どうしてこんなところにいるのか。

 どうして俺と目が合っているのか。

 次回6月16日投稿、「守護者」

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