9話 魔法
アキとコリアスが戻ってきたので団体戦をしてみた。
コツや動き方は二人から聞いていたけど難しい。
皆と声をかけあって動いても、お互いを邪魔しあってしまう。
剣使いが三人もいるからいけないんだと考え、俺は槍に変更してやってみたりもした。
剣使い三人のときよりはマシになっていると思う。
そうやって一緒に戦う存在を意識しながら鍛錬を進めた。
夕方、皆がヘトヘトになって地面に座り込んでいる。
今日も疲れた。
でも楽しかったな。
「セレメとアキさんとコリアスさんの体力が可笑しい」
今にも眠ってしまいそうなロキが言っている。
何も言わなかったら昼飯を食うとき以外は鍛錬だからな。
レイダたちの誰かが倒れるか休憩を申し込まないとずっとやり続けてしまう。
体力があるからそれが出来てしまうんだよな。
かなり小さいころから朝から夕方まで鍛錬を続けていたんだ。
俺はもう慣れてしまった。
アキたちもそんな俺が基準だから休憩を忘れてしまう。
今回の鍛錬で一番キツかったのはメーナだろう。
大人しい女の子だし、俺やレイダやロキのように積極的に戦おうとはしない。
学び舎で教わった鍛錬方法は知っているし、真面目にやっているだろうけど、俺たちみたいに個人での鍛錬はあまりしないと言っていた。
そりゃあそうだ。
戦い大好きとか鍛錬大好きとか夢があるとかじゃないとやりたくないだろう。
怪我して痛いし、事故が起こるかもで怖いし。
だからメーナは一番体力がなかった。
泣きそうになりながら、それでも涙は流さず鍛錬を耐え抜いたからメーナは凄い。
休憩させてとも言わなかったから何度か倒れたけど。
メーナの精神力は誰よりも強いんじゃないかな。
でも俺たちと出会って鍛錬するようになってしまったんだよな。
嫌じゃないだろうか。
「あはは。皆、体力可笑しいよ! でも楽しかった!」
メーナの様子をみてみたら丁度メーナがそういっているところだった。
あの鍛錬を楽しめるとはやっぱり心が強い。
普通なら心が折れる。
でも楽しめるなら俺の友達としては嬉しいな。
趣味が同じって感じで。
「また皆でやりたいな」
俺がポツリと呟けばメーナは目を輝かせてくれる。
レイダとロキは……強くなりたいけどこれは嫌だなあって思ってそうな顔をしていた。
でも二人は無理矢理付き合わせても問題ないだろう。
嫌なら嫌だと言うと思うし。
「またやるときは言ってくれ。私とコリアスが揃っているときならいつでも歓迎するさ」
アキが嬉しいそうしながら言ってくれる。
お泊まり会じゃなくても、朝はここに集合って感じにしてもいいかもしれない。
「さて。もうすぐ夜がくる。荷物を持って皆は自分の家に帰ろうか」
アキがいうと皆が立ち上がる。
メーナがかわいそうなくらい膝を笑わせているからアキが抱っこして歩き始めた。
一旦俺とアキの家に戻り、荷物を持って皆を家まで送る。
俺はメーナの荷物を持って、アキはメーナを抱っこして。
レイダとロキ、コリアスと別れメーナを家に連れて行った。
「すみません。ちょっと運動をさせ過ぎまして……」
アキがメーナの父親に言っている。
メーナの父親は鍛冶屋だと言っていたから筋肉が凄いのかと思ったのにとても細く気弱そうだった。
そしてとても心配そうにメーナを見ていた。
でもメーナはその心配をよそにお泊まり会のことを楽しそうに話し始める。
「皆すごいんだよ! 私と同い年なのに鍛錬いっぱいしててね、私ついていけなかった! もっと頑張らないと!」
「そ、そうなの? あんまり無理しないでね……お父さんは心配だよ」
「大丈夫だよ! 皆、厳しいけど優しいもん!」
「楽しかったんだね」
「うん! セレメくんなんてコリアスさんに一回勝ってたの!」
「ふぁ!?」
これ以上邪魔しないようにアキと一緒に挨拶してから帰った。
あいつらがいなくなると急に静かになる。
俺もアキもあんまり喋らないからいつもこんな感じだ。
でもなんだか寂しく感じるな。
「セレメの友達は賑やかなだな。楽しかったか?」
「楽しかった」
「そうか。いい友達が出来て良かったな」
アキに頭をわしゃわしゃと撫でられる。
また明日、学び舎で皆に会えるだろう。
友達っていいもんだ。
お泊まり会から十一日後、疾走祭まであと二日に迫った今日。
疾走祭の本番に近い状態の練習が行われることになっている。
今は使っていい魔法などを確認しているところだ。
「闇魔法を使う生徒は影移動、影潜りは禁止。風魔法を使う生徒は追い風を吹かせるくらいなら許しますが、ガッツリとした速度強化魔法は禁止。水魔法を使う生徒は――」
先生が属性ごとに説明を行っている。
攻撃系の魔法は全て禁止らしい。
他の説明も受けた。
疾走祭では上位三位の生徒に魔物と戦う権利が与えられるとかいろいろ。
疾走祭をやるのは妨害が得意で足が速ければ万が一のとき逃げられるからその練習ってことらしい。
俺はいつも走っているし魔法も剣の次に得意な武器でもある。
なんとか上位三位に入りたいからまだ本番じゃないけど本気で行く。
ただ全力ではない。
今日の練習では魔法をあまり使わないと自分で決めた。
魔法は出来るだけ避けて、避けられないなら魔法を使い相殺。
魔法を使わなければ俺の習得している魔法の数がわからなくて何を使ってくるかと警戒するだろう。
情報は与えないほうが戦いにおいては優位に繋がる。
勿論本番では魔法も使って上位三位を狙うさ。
長かった説明も終わり練習が開始。
村の外に出て結界の中を走る。
そしてゴールした。
結果は四位。
……なんか悔しい。
上位のやつらはバンバン魔法を使ってたけどそれでも悔しい。
本番は絶対勝つ!
「セレメは惜しかったね。でも四位とかでも凄いぞ!」
ロキが近寄ってきた。
コイツも巻き込んで鍛練しよう。
村の外を放課後に走って魔法を使い進行妨害の練習だ。
「セレメ? どうした?」
「ロキ。一緒に放課後走ろう。魔法も使ってな」
「えっと、それは遠慮したいなぁ。僕は十位だったし君の鍛練相手にはならないんじゃないかなぁ」
「十位以上になれるよう鍛練しよう。俺は一位を目指す。絶対一位だ!」
「負けず嫌いだね。コリアスさんの影響受けてるんじゃないかな?」
そうかもしれない。
でも悔しいもんは悔しい!
全力で魔法を使って、圧倒的な差でゴールするくらいじゃないと気が済まない!
「わ、私も入れてほしい!」
メーダが言った。
相変わらず俺たちに気づかれずにそばにくる。
話しかけられなかったらわからなかった。
「じゃあメーダも放課後いつもの丘に来い。そこから村の周りを走るぞ」
「私、下から三番目だったからもっと速くなるよ!」
メーダの目の奥に炎が見える気がする。
相当悔しかったんだな。
一緒に走って俺たちについてこれるようになれば、メーダは一番になっても可笑しくはない。
足が遅いだけで、魔法だけで戦えば俺でも負けてしまいそうなんだ。
そう。問題はメーダの体力のなさと足の遅さ。
直ぐには無理でも疾走祭で順位を上げることが出来れば自信がつくしもっと頑張れるだろう。
「……メーダ。私に魔法を教えなさいっ!」
レイダが涙をその目に溜めて、メーダに縋るように手を組んで祈りのポーズをとった。
いつも自信満々で足もそれなりに速いレイダがどうしたんだろうか。
「レイダは何位だった?」
ロキが小声でレイダに聞いている。
レイダはキッとロキを睨みつけた。
教えられない順位なのだろうか。
それとも禁止された魔法を使って失格になったとか?
「最下位よ! なんか文句ある!? 攻撃と防御以外の魔法を知らない私を馬鹿にしたいわけ!?」
「おおお落ち着け! 僕は順位を聞いただけだから! 別に馬鹿にしようってわけじゃないって!」
「魔法が避けられないから、馬鹿みたいに拘束されたの見て見下してるんでしょ!」
「そんなレイダを僕は見てないよ!」
ロキが逃げまわりながらレイダの拳や蹴りを躱している。
レイダは最下位だった悲しみをロキを的に吐き出していた。
レイダとロキは接近戦ならレイダが勝る。
だからボコボコにされないように鍛練だな。
現在の走り終わった休憩時間にも鍛練とはロキもレイダも頑張り屋だ。
俺も鍛練するか。
メーダにはレイダの指導をして貰おう。
二人は真逆な性格をしているが仲はいいようだし任せたほうがいいだろう。
俺は見て真似て試して覚えたから教えるのは苦手だ。
魔法を見せて真似しろって言っても出来ないと思う。
特に魔法はそうだろう。
……俺は七歳の時にアキに魔法を使えるようにする基礎が書かれた本を読んで頑張った。
基礎はそれでよかったけどそれ以上はアキが使う魔法をなんとか真似て使える魔法を増やした。
ほとんどが一から魔法を作るような大変さだったから俺が使う魔法は皆の使う魔法と少し違ったりもしている。
でも魔法を新しく作ることが俺には出来るからこれでよかったのかもしれない。
……こんな俺が誰かに何かを教えるとか出来るわけないな。
自分で見て頑張れってくらいのアドバイスしか出来ない。
やっぱりレイダに魔法を教えるならメーダが適任だ。
その代わりレイダにはメーナの速く走る練習を手伝えばお互いに高め合えるからもっと良い。
手伝えることがあれば俺も手伝いたいけど。
放課後、約束通り俺はロキと、レイダはメーナと鍛練だ。
一通りの魔法を使ってみるか。
レイダたちの傍でまずは魔法の練習をする。
黒い霧を作り出して視界を奪ったり、リボンを作ったり、闇の沼を作ったり、壁を作ったり、地面から無害な針を出したり、鎖を作ったり……。
キリがないけど使い続ける。
血液中にある魔力を一か所に集めてその魔力を外に放出するときに魔法の効果を想像し、成功すれば魔法という現象になる。
だからあまり魔法を使うと貧血のような症状が出て倒れるから十分注意しないとならない。
俺はまだそういう症状が出たことはない。
魔法を一日使いまくっても大丈夫だったから魔力がちょっと多いのだろう。
でも一度だけ何故か闇の魔法が使えなくなったことがある。
貧血にはならなかったけど魔力が底をついたような感じだった。
何故それで貧血にならなかったのか……?
謎だ。
戦闘中に倒れたりしないだろうから安心ではある。
困ることは多分ないだろう。
だからロキよ。
そんな慌てて俺の体を支えようとしなくていいんだ。
「そんな連続して魔法を使うのはダメだ! 常識だぞ! セレメ! しかも同時に何個も!」
元気なのを証明するにはやっぱり鍛錬だな。
ロキに当たらないように拳を突き出す。
勿論魔法は別の方向へ沢山使いながらだ。
「次は当てるからちゃんと避けろよ?」
こっそり練習した笑顔でそう言ってみせる。
ロキは顔を引き攣らせながら俺から離れ、回避の姿勢をとってくれた。
では無手と魔法を別々に且つ同時進行で鍛錬するとしよう。
どちらかに集中しすぎるとどちらかが疎かになる。
こういうのもいいな。
ロキに蹴りを放ち、ロキのカウンターを避け、魔法を十個同時連続発動。
難しいが出来なくはない。
「セレメは天才だと思っていたけど違った! 化け物だ!」
「それは褒め言葉だぞ。ロキ」
化け物にでもならないと悪夢なんて倒せるわけがないだろう?
「魔法を同時発動してコリアスさんと戦えば勝てるんじゃないか?」
「でもコリアスは同時には魔法を使わないぞ」
「普通一度に沢山の魔法を使えば意識失うから!」
そういうもんなのか。
だったら今度魔法を沢山使って戦ってみるか。
コリアスは一度に何個も魔法を使えば意識を失うかも知れないけど、俺はどれだけ使っても問題ない。
魔法が使えなくなる謎現象にだけ気をつけておけばいいんだ。
それからしばらく使える魔法を使いまくり、ロキと鍛錬していた。
途中からロキも別の方向へ魔法を使い始めてたけどすぐに座り込んでしまったが。
三十くらいの魔法を連続して発動しただけでこれか……。
「セレメの体はどうなってんだよ」
眩暈がするようなので鍛錬は中止。
俺も魔法を使うのをやめロキを休ませる。
「なあセレメ。君って一体何を目指しているんだい」
ロキが聞く。
うーん。教えてもいいか。
俺がこんなに頑張る理由を聞けば、もっと頑張らないといけないことがわかるだろう。
お泊まり会でなんとなく前より心を許せた所為かそんなことを思う。
「俺は悪夢を倒す。出来れば勇者に協力して欲しいけど無理なら一人で戦って勝つ」
「……」
「馬鹿だと思うだろう。出来るわけがないと思うだろう。でも俺は止められたってやるさ」
言われる前にそう言っておく。
それでも言われるかも知れないけど。
「……目標が悪夢以上の力なら今でも足りないのか」
「そう。だから鍛錬は頑張らなきゃいけない。悪夢や勇者と同じかそれ以上の強さを手に入れなきゃならない」
「勇者に任せてはダメなのか?」
「それは悪夢の使いになるってことだ。勇者に黒い血の者が悪夢の居場所とか教えて、一緒に戦おうとか言わないと、魔人は永遠に悪夢の使いにされる」
「……」
「せめて魔人が悪夢の使いではないってことを世界の常識にしないと」
「……セレメは凄いね。僕は生まれた魔人を僕らが助かったみたいに助けたいって思うだけだ」
「俺も同じだぞ。ただ突き詰めていったら魔人の子が殺されるのは悪夢の所為だ。だから根本から断つ。悪夢とは血の色が同じなだけの他人だってな」
俺が大袈裟なだけだ。
大袈裟なだけで俺とロキの目的は似ているんだろう。
助けたいとか守りたいとかそういう感じ。
だからといって同じ目的にする必要はない。
俺は悪夢を倒すために力をつける。
ロキは生まれた魔人を守るために力をつける。
それでいい。
次話は6月8日投稿予定です
次話予告、
セレメ)分裂しろ
分裂していき手から溢れ出す何か
アキ)なんじゃこりゃあ!?
アキもびっくりです




