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精霊冒険抄 〜頼もしい仲間とともに世界の過去と未来をひらく旅〜  作者: 霞染 睦
第2章 ヴァルハイト

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第65話 リリア様の訓練

【フィーネ視点】



「リリア様、さっそく、体内魔素の循環に取り組みますよ」


 ベッドの側でヤノスとリコルがロザリア様の治療の準備を始める中、私は少し離れたスペースへとリリア様を案内した。


「ですがその前に、リリア様の練習中に万が一にも漏れ出た魔素が、治療中のロザリア様へと悪影響を与えないように、私たちの周りを別の特製の《結界》で二重に取り囲みますね。……はい、これでリリア様も何の心配もなく、全開で訓練に集中できますよ」


「ありがとうございますわ、フィーネさん。何から何まで……。よろしくお願いいたします」


「ふふ、私たちも、先ほどのロザリア様のお言葉通り、これからはお互いに言葉遣いにそこまで気を配らなくても良いのではないかしら?」


 私が茶目っ気たっぷりにそう提案すると、リリア様の顔に、パッと華やかな笑みが浮かんだ。


 張り詰めていた緊張が少しほぐれたようで何よりだった。


「まずは、私たちが毎朝行っている体内魔素操作を通して、”魔力の鍛錬”がどういうものなのかを実際にお見せしますね」


 私が隣のリーノを見つめると、彼女は小さく頷き、いつもの朝の訓練を開始した。


 私の手のひらの上に現れた魔素が、意思一つで形を変え、大きさを変え、濃淡を自由自在に変幻させていく。


 次はリーノが、それぞれの手の指先に、米粒ほどの極小の魔素の塊を寸分の狂いもなく出現させてみた。


 その不思議で精密な現象を、リリア様はまるで心を完全に奪い去られたかのように、瞳を輝かせて興味深そうに眺めていた。


「す、すごいですわ……! 私も、政都から来た高名な魔法使いの方から何度か魔法を習いましたけれど、無詠唱で……!? しかも、魔法陣すら描かずに現れるなんて! すごい、とっても凄いですわ!」


 こぼれんばかりの満面の笑み。全身から純粋な感動と驚きがダイレクトに伝わってくる。


「……ありがとう」


 リーノが少しだけ誇らしげに呟く。


 私は微笑みを崩さないまま、リリア様に問いかけた。


「リリア様はどうして詠唱や魔法陣が必要なのか、その理由をご存じかしら?」


「え? それは……魔法を使うために……絶対に、必要なものだから、では? ……でも、今は、詠唱も魔法陣もありませんでした。ええ? どうしてなんですの?」


 本当に困り果てたような顔で、リリア様が小首をかしげて私を凝視する。


 その純粋な疑問に、私は優しく語りかけた。


「実はね、体内の魔素を操作する力――すなわち”魔力”そのものを鍛えると、自分の思いが体内魔素に直接変化を与え、それだけで魔法を具現化できるようになるの。このようにね」


 私が合図を送ると、私とリーノのそれぞれの指先に、小さな火の粉や、清らかな水の球、丸い土の塊が同時に現れ、次の瞬間には跡形もなく溶けて消え去った。


「ええっ!? 魔力を鍛えれば、そのように無詠唱で魔法が使えるようになりますの!?」


「それはね……本来の魔法とは、魔力によって体内の魔素を操作して発現させるものなの。詠唱や魔法陣はね、周囲の空間に漂っている自我を持たない”下級精霊”たちへの単なる命令なの。その命令を受けた”下級精霊”が、機械的に魔法使いの体内魔素を使って魔法を具現化させているだけなのよ」


「”下級精霊”が、ですか……? では、では私がこれまでどんなに熱心に魔法を習っても魔法が使えなかったのはなぜでしょう。下級精霊たちが、私の命令を受け付けてくれなかったからですか?」


「それはね、リリア様の体内の魔素の動きが極端に悪く、体の外へ全く漏れ出ていなかったからよ。魔法の源となる魔素が得られなかったから、精霊たちも命令を受けても実行できなかった……ええ、そのようなことなのだと思うわ」



「――ということは! 理由がそれだけなら、私も皆様から体内魔素を操作する力を正しく学び、魔力を鍛えれば、魔法が使えるようになるのでしょうか!?」


「もちろんよ。リリア様の体内魔素はね、非常に美しい”緑”と”金色”に光り輝いているわ。これは、森の属性と光の属性の魔法への相性が、抜群だという証拠。治癒や浄化といった、人々の命を救う魔法の使い手になれるわ。一緒に頑張って訓練をしていきましょうね」


「本当ですか……! 私が、この私が! 本当に魔法を使えるようになる……。それも、それもですよ!? 治癒……と、浄化の魔法だなんて! なんて素晴らしいことでしょう!」


 今までお淑やかに椅子に座って話を聞いていたリリア様だったが、自分には一生無理だと思っていた魔法が使えるようになる喜びに、体全体を歓喜に震わせていた。


「お母様であるロザリア様も、基本のメカニズムは全く同じですよ。リリア様が先行してこの訓練に取り組み、コツを掴めば、今度はリリア様の手でお母様へ正しい魔素の動かし方を教えて差し上げられますよ」


 私が優しく小声で囁くと、リリア様の顔に、これ以上ないほどの幸福に満ちた満面の笑みがパッと咲き誇るのだった。


読んでいただきありがとうございます。


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