↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
精霊冒険抄 〜頼もしい仲間とともに世界の過去と未来をひらく旅〜  作者: 霞染 睦
第1章 大樹の森

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
6/84

第6話 訓練という名の地獄

 投稿を始めた頃は読んでもらえるか不安でしたが、ひとつひとつのPVが、作品を読んでくださっている皆様からの応援のように感じられ、本当に執筆の大きな励みになっています。


 いつもお付き合いいただき、本当にありがとうございます!

 時々まぶしい光がまぶたを照らすのを感じ、うっすらと目を開けてみた。


 全身がまるで鉛のように重く、指一本動かすのにも恐ろしいほどのエネルギーが必要だった。これが、初めて魔法を限界まで使った反動なのだろうか。


 ぼやける視界の先には、太い木の枝と、青々と茂ったたくさんの葉が見える。葉の隙間からこぼれる優しい木漏れ日が目を打つと同時に、様々な花の香りが心地よく鼻をくすぐった。


 はっと我に返り、痛む頭を抑えながら周りを見回す。

 するとそこには、先ほどの鷲が二羽、狼が二頭、そして彼らを静かに見守るフィーネとリーノがいた。みんな、何か諦めを含んだような、どこか苦笑い混じりの微笑みを浮かべて僕を見つめていた。


『体内魔素の枯渇ね』と、フィーネの呆れたような念話が響く。

『魔素。使い過ぎ』と、リーノも短く続けた。


すると、僕が目を覚ましたことに気づいたのか、巨大な親の聖獣と聖鳥が歩み寄ってきた。


『『心配ない(わ)』』


 二つの重厚な念話が重なる。


『もう心配ないわよ。安心して戻ってね。もうあんな無茶な怪我するよう真似はしないでね』


 フィーネがそう諭すと、いままで僕を心配そうに覗き込んでいた子狼と親狼、子鷲と親鷲は、少ししょぼくれた顔をして頭を下げた。


 彼らは親たちに首根っこを咥えられるようにして、子狼の二匹はとぼとぼと歩き、子鷲の二羽は元気なさげに羽ばたいて、緑豊かな森の奥へと消えていった。


遠ざかっていく彼らの後ろ姿を見送りながら、「ひとまず、みんな無事でよかった……」と、胸をなでおろした。


『でもあなたすごいわね』


 フィーネが、今度は感心したように僕の顔を覗き込んできた。


『ちゃんと治療魔法できたじゃない。教えもしてないのにすごいわよ。あ、そうそう、えっとね。あなたは治療魔法を施すために、体内の魔素をほとんど使い果たしてしまい、気を失ったのよ。でも安心して、魔素を補充しておいたから、もう体は大丈夫なはずよ』


 フィーネの優しい解説を聞いて、自分の内側に意識を向けてみる。確かに、さっきまでの空っぽで冷たい感覚はなくなり、温かい何かで再び満ちている感覚があった。


『ねていない。おきる。訓練する』


(はあ! く、くんれん!?)


”くんれん”という言葉が何を指すのか、まだ幼い僕の脳が上手く意味を結んでくれない。 前世の記憶はあるはずなのに、肉体が子どもになったせいか、言葉の認識がワンテンポ遅れる感覚だった。


 意味がわからずに戸惑っている僕を見かねたフィーネが、助け舟を出してくれる。


『今日はやめておいたら。明日からでも良いじゃない』


『時間ない! やる』


 リーノの断固とした念話を聞いて、僕の頭の中でようやく”訓練”という言葉の意味がはっきりとしたものになる。


(さっき、魔素の枯渇とかいう命がけの気絶から目覚めたばかりの病人(?)に向かって、なんというスパルタだ! フィーネ頑張れ!)


 フィーネへのエールを送る。


『仕方が無いわね。ヤノスごめんなさいね。時間が惜しいのも事実なの。訓練付き合ってね。リーノ! 今日は手加減してあげるのよ』


『うん』


 かすかな望みが一瞬のうちに砕かれた。


「訓練って、何の……」


 恐る恐る質問をしているそばから、鋭い金属音が響き、一本の剣が僕の足元へと容赦なく投げ捨てられた。


 訓練と聞こえたが、足下に投げられた剣は木製ではなく金属製、正真正銘の本物の金属製だ。木漏れ日を受けキラキラと光っているが、それだけに凶悪な刃の輝きが恐ろしい。


「あの~。訓練だよね。普通、せめて最初は木の剣とかじゃないの……?」


 引きつった笑みを浮かべながら尋ねると、リーノから淡々とした念話が返ってきた。


『木の剣使う いない それ切れない』


 正直、何を言っているのか、僕の常識では理解が追いつかない。


 困惑している僕を見かねて、フィーネが通訳してくれる。


『あのね。<木の剣を使って攻撃してくる者はいない。だから、最初から金属の剣を使って訓練する。刃引きされているから、その剣で切られることはない>……ってリーノは言っているの』


 申し訳なさそうにフィーネが説明した。


「ええ! でも、刃がなくてもその剣が体に当たれば、普通に骨が砕けるでしょう!?  そ、そんなので練習なんて怖くてできないよ!」


『『大丈夫(よ)。(骨が折れたぐらい、治療すれば)治る』』


「いや、治る治らないの問題じゃないから! 痛いから!!」

という僕の必死の苦情は、無情にも一言のもとに却下された。


『剣 振る ビュン』


 次の瞬間、爆音とともにリーノの剣が目の前で振り下ろされた。

 本当に一瞬、銀色の光の筋が見えただけで、剣の軌道すら目でおえない。凄まじい風圧が僕の頬を叩き、髪を激しくなびかせた。


『腰を入れて! 体の軸を意識して! 剣を振り下ろす! ――ビュン!』


 またもやすごい風切り音とともに、今度は一瞬のうちにフィーネの剣が振り下ろされていた。こちらも常人離れした速度だ。


(……やるしかない、のか。死ぬ気でやらないと本当に骨を折られる!)


 僕は覚悟を決め、ずっしりと重い鉄の剣を両手で必死に掴み、持ち上げた。


 そして、二人の真似をして思い切り振り下ろしてみる。

 だが、彼らのように小気味よい音なんて何も出ない。


 それどころか、派手に体勢を崩した瞬間、僕のお尻に凄まじい激痛が走った。

『腰 いれる 尻 にげない もう一度』


 ビーユ 必死に剣を振る。

 バシン! と小気味よい音が響き、腕が叩かれる。

『脇 閉める』


 バシン!

『胸 はる』

「いっ、痛いっ!」


 バシ!

『顎 ひく』

「あ、あご痛い!」


バシ!

『背筋 のばす』

「ぐわっ」


 バシ! バシン! バシバシ!


 剣を振るたびに、体のどこかに激痛が走る。


『ヒール』


 フィーネの優しい声が聞こえ、僕の体を温かい光が包み込む。バシバシと叩かれて悲鳴をあげていた全身の痛みが、嘘のように引いていった。


 地面に倒れ込んだ僕を、リーノがじっと見下ろしている。すると、彼女は僕の小さな手を取って、立ち上がるのを無言で助けてくれた。


『食べる』


 差し出されたリーノの手のひらには、小さな丸いドングリが乗っていた。それを僕の手へと手渡される。


(俺はリスさんじゃない!)


 と、喉まで出かかった抗議をどうにか思いとどまり、促されるまま歯でパキッと割って中身を食べる。


 ナッツのような香ばしさと共に、まるで乾いた砂に水が染み込むように、空っぽだった体の奥底から、みるみるうちに力と魔力が湧き上がってきたのだ。


(あれ? ニーノって、優しいとこあるじゃん)


 ほんの一瞬、僕の心にそんな温かい感動が芽生えた、その時だった。 


『剣 振る』


(……はい?)


『鬼! 本当に鬼だ!!』


 一瞬の感動は無残にもかき消された。心の中で罵声を浴びせ、涙目で小さな抵抗を試みてみるが、ニーノの無慈悲な瞳にあっけなく退けられる。


 バシーン! 頭に激痛が走る。

『剣 とる』


 バシ!

『遅い 早く 振る』


 バシ!

『腰』


 容赦なく肌を打つのは、剣の腹とはいえ本物の金属だ。叩かれるたびに、骨まで響くような衝撃が走る。


『今日は手加減するんじゃなかったのか!』


 絶対に二人には聞き遂げられることのない悲鳴だと知りつつも、僕は全力で念話を飛ばし続けるのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。