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精霊冒険抄 〜頼もしい仲間とともに世界の過去と未来をひらく旅〜  作者: 霞染 睦
第1章 大樹の森

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第5話 治療魔法

 時間のたつのも忘れて動物たちの対応をしていたら、どうにか新しく列の後方に加わる動物が減ってきた


 そろそろ終わりが見えてきた頃、最後尾から少し離れたところに一頭の大型の犬と、鷲のようなそれにしては大きい一羽の鳥がいた。


 気になって近づいてみて、息をのんでしまう。

 犬もと鷲も、全身が血まみれでだったのだ。明らかに骨折している箇所があるにもかかわらず、自力で必死に体を支えて立っていた。


『怪我がひどいから、すぐに診てもらえるように僕が前まで運んであげるよ』


 慌てて怪我をしている犬に声をかけると、突然、頭の中に強い念話が飛び込んできた。


『ふん。我のことは良い。他の者を先に診よ。……言っておくがわしは犬ではない。狼に近い、聖獣である』


 犬ではない聖獣から念話が返ってきた。


『怪我がひどいから、すぐに診てもらえるよう僕が先頭まで運んであげますよ』


 続いて鷲の方に声をかける。


『私(わたくし)は大丈夫。後回しでかまわないわ。他の子たちを先に診てあげて。私は今、鷲のような姿をしているけど、正確には聖鳥よ』


 聖獣と聖鳥は、一瞬目だけ目を合わせたがすぐに目を背けた。限界をとうに超えているはずなのに、必死に倒れそうな体を痛みに耐えながらどうにか支えていた。


(また、声が聞こえてきた。これって間違いなく念話だよね。聖獣さんと聖鳥さんが、直接話しかけてきているんだ)


『ねぇ! フィーネにリーノ! ここに聖獣さんと聖鳥さんが……』


 間に多くの動物を挟んでいるので、遠くにいるフィーネが、顔を上げこちらを見ている。


『あら、 またその子たちね。仕方が無いわね。……そうだ、ヤノスが治してあげて』


『はぁ。僕が治す? こんな大怪我、僕にはどうにもできないよ!』


『ヤノス。あなたが激痛で苦しんでいたとき、私が治療を施していたの感じていたでしょう? 体のどこかに、何か暖かいものが流れ込むような。体に力が入ってくるような、あの感覚よ』


『痛みに苦しんでいて、そんなのはっきりと覚えていないよ』


『いいから――! あの時に、体に入ってきた感覚を、今度は逆に、その子たちに分けてあげるイメージを持つの。それを体の外に出す感じで「怪我が治ってくれるように」という強い願いを乗せるの。じゃあ、任せたね!』


『え? ええっ! フィーネ。それ全然わからないんだけど。ねえ! おーい! フィーネ! おぉーい! リーノ!』


 必死の呼びかけも虚しく、フィーネが黙々と目の前の動物の治療に専念している姿勢が見える。

 あとに残されたのは、今にも力尽きそうな聖獣と聖鳥、そして、生まれて初めて魔法を使わされることになった、小さな子供の体の僕だけだった――


(あぁ、これは何を言っても良い返事は返ってこないか。仕方が無い。といってもできるわけがないけど、何かやっていれば、そのうちこの子たちの番になるだろう)


 フィーネやリーノを当てにできないのであれば、当面はやるしかない。


『ねぇ。聖獣さんに聖鳥さん。今の聞こえてた? フィーネが僕に治せってさ。たぶん、いや、絶対と言っていいほど治せないと思うけど、フィーネがああ言っているから、とりあえず治療をやってみるね』


 無言でじっとこっちを見ている聖獣と聖鳥。このままでは離れていては一頭と一羽を同時に診ることができない。


(あぁ、面倒くさい、二人が言い争う前に!)


 意を決して、大きな鷲(聖鳥)を優しく抱え上げ、狼(聖獣)のすぐそばへと運んだ。


『な! 何をしている! お、おい! そのものをそばに連れて来るな!』

『な! 何をしてるの! そ! そんな奴の側に連れて行かないで!』


 狼と鷲が同時に、いやそうに顔をしかめて念話を飛ばしてくる。


『はい、はい。治らないとは思うけど、やるだけはやってみるからね。そこでお互いに黙っていてね』


 一瞬、お互いに顔を見合わせた一頭と一羽は、ふんとそっぽを向きお互いに離れようとした。しかし、全身の激痛のせいで動くことができず。顔を大きくしかめる。


『はい、二人とも離れないでね』


 目の前の二匹を眺めていた、そのときだった。

 頭の中に、先ほどよりも遙かに重厚で、どこか恐縮したような二つの念話が直接響いてきた。


『我が息子を頼む……』

『私の娘を頼みます……』


 驚いて周りを見回すと、うっそうと生い茂る森の縁の暗がりに、目の前の二匹よりもさらに一回りも二回りも大きな、巨大な狼と鷲が佇んでいた。

 お互いに申し訳なさそうな、いたたまれないような表情でこちらを見つめている。


(……あ。もしかしてこの二匹の家族、父親と母親だろうか?)


 彼らの様子を見てすべてを察した。

 この狼の少年と鷲の少女は、いつもこうして派手な喧嘩をしては、お互いに大怪我を負っているのだ。親たちにとっては、これが日常茶飯事の悩みの種なのだろう。


 私は親たちに向けて、安心させるようににっこりと笑顔を向けた。そして、目の前の二匹の治療に全神経を集中させることにした。


(う~んと、体に流れ込んできたもの……? 温かい感触……?)


 五日前に、確かに感じていた体中を走る激痛。その中に、何か温かいものがじんわりと流れ込んできた記憶を必死に手繰り寄せる。

 その感覚を思い出しながら自分の体の中に集中すると、微かだが、熱のような何かが内側を巡る感覚が生まれ始めた。


(間違っていたら、きっと後でフィーネたちがヒントをくれるはずだ)


 そう自分に言い聞かせ、意識を内側へ向けながらイメージを固めていく。


(これかな? これを体の外に出すように……!)


 小さな片手を聖獣の狼に、もう片方の手を聖鳥の鷲にそっと当てた。そして、身体の中に宿り始めた温かいエネルギーを、二匹の傷口へと注ぎ込むように、一心に祈りを込めた――。


『傷が治ってくれますように』

『傷が治ってくれますように』


 何度も何度も目を閉じ、両手から溢れ出る温かいものに思いを込め、聖獣と聖鳥の身体全体へと行き届くように祈りを注ぎ続けた。


『う~ん』

『は~』


 何かが動くような気配を感じ閉じていた目を開けると、毛や羽毛に血の跡が染みついてはいるものの、先ほどまでのように血が滴り落ちることは無くなっていた。

 骨折のため変な向きへと曲がっていた翼や足もきれいに治っており、元気な姿の二人(二匹)がそこにいた。


『おー! 元気が戻ったぞ、体も万全だ。よし! あと一試合、いや二試合やろう』


 ドゴーン!

『ごめ、フギュ!?』


 背後に佇んでいた父親の聖獣(巨大な狼)が、いつの間にか息子の側に移動し、強烈な拳(脚)で息子を叩き飛ばしていた。


『バカ息子が申し訳ない』


『はぁー! なんとすがすがしい身体。いつもより軽い感じですわ。ふふ! この体なら何時間でも戦って差し上げます』


 ガッコーン!

『わ、グギャー!?』


 音もなく忍び寄った、母親の聖鳥(巨大な鷲)が、娘の聖鳥のいた場所に般若のような怒り顔で降臨していた。


『娘がすみませんね』


 何か聞こえてはいけないような鈍い音が聞こえたと思ったら、僕に謝ってくる親たちの声が響く。それと同時に、先ほど殴り飛ばされた子供の聖獣と聖鳥の姿が目の前から消え去っており、遠くから凄まじい悲鳴が聞こえてきた。


 何かあったのかと、悲鳴が聞こえた方を見ると、二匹は遠くの大木に激突しており、慌ててその場へ駆けつける。


 それからがまたひと騒動だった。


 二匹は体の中にまともな箇所を探すのが大変な状態(元の木阿弥)であり、僕が優しく優しく抱え上げ運ぼうとするが、一歩ごとに悲鳴を上げる始末。

 二匹を一カ所に集め、先ほどの治療を思い出しながら、何度も何度も『治ってくれ』と思いを込めて治療を施した。


『相済まぬことをした』

『ま、誠に申し訳ございません』


 思わず軽く手を出したつもりが、そのあまりの惨状に、今度こそ完全に青ざめた親たちの、消え入りそうな念話が頭をかすめる。その横で、僕は必死になって二回目の治療を施し続けた。


 ようやく二匹の傷が塞がった頃、治療を終えたフィーネがこちらにやってきた。そして、僕の手から放たれる光を見て、今までの苦労も知らずに目を丸くする。


『え、あ、あなたヤノス! あなた治療できているじゃない。素晴らしいわ』


(くそっ、治療しろって命じたのアンタだろう……!)


 理不尽な褒め言葉に、心の中で全力のツッコミをいれる。


 それが限界だった。直後、僕の全身から一気に力が抜け落ち、またもや暗闇へと倒れ込んでいた――。


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