↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
精霊冒険抄 〜頼もしい仲間とともに世界の過去と未来をひらく旅〜  作者: 霞染 睦
第2章 ヴァルハイト

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
55/84

第54話 地下施設

 街道の脇にある木の枝に跳び乗り、そこから枝から枝へと飛び移りながら、《サーチ》で捉えている盗賊の残党を追う。


『ファル、上空から逃げている奴に見つからないように追ってくれるかい?』


『分かった』


 僕のすぐ後ろを正確についてくるリーノと、上空から鋭く監視しているファル。


 二人の心強い味方と共に、必死に逃げている男を《サーチ》の網に掛けたまま追跡していく。


『……このまま、あいつの隠れ家まで逃げてくれればいいんだけどな』


 しばらく追っていると、逃げていた男の足がぴたりと止まった。


 音を出さないよう細心の注意を払って、その姿が見えるポイントへと移動する。

 間を置かずにすぐ横の枝に、リーノが音もなく飛び移ってきた。


 森の中をがむしゃらに走ってきたためか、男は十メートルほどの崖の前で激しく息を整えていた。


 先ほど街道で見た盗賊と似たような格好をしているので、奴らの仲間で間違いない。


 男はまだ荒い呼吸のまま今来た方向を注意深く振り返り、周囲に誰もいないことを確かめると、崖から不自然に突き出している一本の石を取り除いた。


 そして、取り出したときとは違う向きに変えて、その穴に石を再び突き刺した。


 すると、ただの崖だと思われた岩肌の一部が滑らかに動き出し、崖を掘って作られたようなトンネルの入り口が現れた。


 男がそのトンネルの中に入ると、すぐに入り口が閉まり、再び元の頑丈な崖へと戻る。


 それと同時に、今まで僕の《サーチ》がはっきりと捉えていた男の気配が、まるで最初から存在しなかったかのように完全に掻き消えてしまった。


『ファル、降りてきて。――リーノ、今の見たかい?』


 鷲ほどの大きさに縮小したファルが、僕の肩に音もなく止まる。


『わからない。サーチ、効かない』


『とにかく、崖の近くまで行ってみよう』


 真っ直ぐ崖に向かうと森が途切れて姿を晒してしまう。

 僕たちは森の境界線に沿って遠回りをしながら、崖の直下へと移動した。


 ともすれば先ほど男が入っていった場所を見失いがちになるが、あの妙に突き出た石が目印となり迷わずに済む。


 その突き出た石までは、残り十メートルほどの距離だ。


 ここはちょうど森の木々と崖がぶつかり合っている場所で、僕たちが身を隠すには十分な遮蔽物がある。


 崖の岩肌に直接触れて異常がないか確かめてみるが、指先から伝わる感覚は普通の岩そのものだった。


 先ほど男が入っていった、突き出た石の所まで移動するとなると、完全に姿を晒さなければならない。


『リーノ、何をしているの?』


『《サーチ》と違う魔法。――土魔法』


 リーノは目を閉じ、崖に手を当てては、何かしらの土魔法を行使しているようだ。


 何をしているのか興味深く眺めていると、リーノから僕の脳内へと直接伝わって来るものがあった。


 先ほど男が入っていったトンネルがどのような道筋で掘られているのかが、鮮明な三次元の映像として伝わってきた。


『……あのトンネルの表面、何か未知の物質で強く固められている。中に人がいるのがわかる。ここと、ここ。――二人だけのようだね』


 トンネルの一番奥の一角に二つの光が浮かび上がり、二人の人間が非常に近い位置にいることが分かった。


 入り口からはかなり奥に入った場所であり、他に別の出入り口が存在しないことも確認できた。


 どうやら、土魔法でこの崖の中の構造を解析し、土の中に含まれる僅かな魔素を頼りに、中にいる人の気配を感じ取ったようだ。


『出入り口からかなり離れた場所にいるみたいだね。あいつが油断しているうちに、僕たちもあの入り口から入っていこう』


『賛成。……ファル、近づくもの、見張ってて』


 リーノも僕の意見に賛成のようで、肩の上のファルに見張りの役目を指示した。

 ファルが小さく鳴いて上空へと飛び立つ。


 僕たちは崖に沿って素早く移動し、あの変に突き出ている石を引っこ抜いた。

 さらに石の向きを変えて奥へと差し込むと、岩肌が音もなくスライドして先ほどのトンネルが現れた。


 僕とリーノがトンネルの中に素早く滑り込むと、自動的に背後の入り口が閉まり、完全な闇が僕たちを包み込んだ。


 すかさずリーノが指先を小さく鳴らすと、淡い光を放つ魔法の明かりが現れ、周囲を静かに照らし出す。


『……これ、ただ掘り進めただけの荒削りな壁じゃないよね?』


 トンネルの滑らかな壁面を手で探りながら、リーノに念話を送る。


『何かで固められてる』


『コンクリートというわけでもないようだし、僕が前に地球で見てきた技術とも違う。何か未知の物質で固められているみたいだ』


『魔法じゃない。……魔法! こんなことできない』


(昨日、オークの集落で感じたあの人工的な違和感……やはり、この森には何かが眠っているんだ)


 胸の中の微かな疑念が、確信へと変わり始める。


『……ドアが自動で開閉する原理もよく分からないけれど、まずはあの野盗たちを捕まえよう』


 リーノが可愛らしく微笑んで了解の意を伝える。


 真っ直ぐ続くトンネルの途中には、左右に伸びるいくつかの脇道があった。


 どれも奥で行き止まりになっていたが、その先はそれぞれテニスコートが丸ごと一つ収まるほどの広い空間になっていた。


 入り口に近い方の部屋には、先ほどの盗賊たちが寝泊まりしているのだろう、近くの木材を切り出して作ったと思われるベッドがいくつも並べられていた。


 何も使われていない空き部屋もあったが、中には武器庫になっていたり、街道で奪ってきたと思われる貴重品が集められている隠し部屋もあった。


 僕はそれらを片っ端から《アイテムボックス》へと手際よく収納し、元の一本道を奥へと進んでいった。


「奥にある金目の物はすべて集めたな?」


「へい! 間違いなくここにありやす」


 盗賊たちの声が聞こえてくる。


「もしもの場合はこの拠点を放棄してすぐに逃げ出せるよう、他の場所に保管してある隠し財産もすべて一つにまとめるぞ」


「わかりやした!」


《サーチ》が捉えている通り、この先の部屋に二人の男がいる。


 僕たちはその手前の曲がり角で息を潜め、様子を窺った。

 どうやら完全に形勢不利と見て、逃亡の準備の真っ最中らしい。


 魔法の明かりを消すと、星の明かり一つ無い真っ暗闇が僕とリーノを包み込む。


《サーチ》を発動しているお陰か、周りの様子が魔素を通しておぼろげながら伝わってくる。


 暗闇に紛れて左右に分かれて待ち構えていると、焦った様子で僕とリーノの横を通り過ぎようとする二人の男の影。

 ――一瞬。


 すれ違いざまに太刀の峰をそれぞれの首筋へと正確に叩き込み、一言の悲鳴も上げさせることなく気絶させた。


 明かりを灯し、二人の盗賊が今しがたまで作業していた奥の部屋へと、何事もなかったかのように足を踏み入れる。


 あたりを手早く探ってみると、荷物をまとめるためのものか、頑丈なロープが転がっていた。

 これ幸いと、それを使って二人をこれでもかと強固に縛り上げた。


 また、さっきの会話に聞こえていた金目の物が入っているらしい、パンパンに膨らんだ大きな袋が二つ、足元に転がっていた。


 リーノに縛り上げた男たちの監視を頼み、僕はさらに奥の部屋をくまなく調べて回ったが、これといった遺留品はもう残されていなかった。


 縛り上げた二人の盗賊の顔に、僕は魔法で作り出した水をかけて強引に意識を浮上させた。


 目を覚ました盗賊たちが恐怖に青ざめるのをよそに、僕は淡々と尋問を始める。


「この施設の入り口、あれはどういう仕組みだ?」


「ひ、ひぃぃ……! ど、どんな仕組みかなんて俺は知らねえ。偶然開いたんだ」


「偶然開いた!? 嘘をつくんじゃないぞ!」


「嘘なんかついてねえ。あの崖の前に拠点を作ろうとしてたんだ。ところが、仲間の一人が崖の表面を触ってて、偶然あの石がポロッと落ちたんだ。石が落ちた後の穴が面白くて、その石を押し込んだら扉が開いたんだ!」


 男は震えながら、地下施設を見つけた経緯を話し出した。


 そして自分たちはあくまでも、偶然見つけた地下施設を拠点として利用していただけだと言う。


 彼らもまた、この施設の正体については何も知らないようだ。


(どういう仕組みで、あの扉が開閉したのか調べてみたい気もするが、今は、そんな時間はとれない。今後の謎として取っておこう)


「……これ以上、聞くことない。無能」


 リーノが冷ややかな視線を向け、男たちの首筋を再び軽く叩いて気絶させる。


「そうだな。じゃあ、こいつらは麻袋にでも詰めて連れて行こうか」


 僕たちは部屋の隅にあった丈夫な麻袋を二つ引きずり出し、そこに気絶した盗賊を放り込んだ。


 袋の口をロープで手早く縛り上げると、リーノが不思議そうな目で袋を突っついている。


「これ、運ぶの?」


「ああ。公爵家の騎士に引き渡す証拠品だ」


 僕は麻袋を一つ担ぎ、もう一つをリーノに任せようとしたが、彼女は「……持ちたくない」と強く拒否する。


 仕方なく、僕が二人分を引きずりながら、トンネルの入り口へと向かう。


 閉ざされていた崖の扉にたどり着き、あちこち触っていると偶然に扉が開く。


 今触っているところに仕掛けがあるのだと思い、ゆっくりと手を離すと、石の形をした突起が静かに押し戻されてくる。


 そのまましばらく待っていると、またもや扉が閉じ、先ほどの石の突起を指先で押すと扉が開いた。


「……何してる!?」


 扉の開閉機構を楽しんでいたら、リーノからのお叱りの声が届く。


 扉の外に出るとファルが、先ほどとは打って変わって少し呆れたような顔で僕たちを待っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。