第53話 街道の待ち伏せ
一日目でオークの集落を壊滅させたことで、”オーク二体以上の討伐”という試験の依頼はお釣りどころではない成果で達成された。
懸念していた野営も問題なく終わり、僕たちはヴァルハイトの街に向けて帰路に就いていた。
まずは北に向かって森を横切っている街道に出て馬車を探そうという話になり、最短ルートである北西に向かって移動を開始する。
いつも通り《サーチ》を展開して進んでいると、街道を走っている一台の馬車と、その周囲を護衛する四頭の騎馬の一行が引っかかった。周囲に魔物の気配はない。
今はフェンとファルも一緒に森を移動している。
【聖光の慈雨】のメンバーから、「パーティーの所属獣として登録するのなら、依頼中に同行させていても問題ないだろう」とギルさんの助言があったからだ。。
前方をフェン、後方をファルが警戒しながら僕たちの歩調に合わせてくれている。
ただ、後方から観察している試験官の目があるため、木々の間を飛び移るような移動はあえて控えて地上を歩いていた。
「ねえ。人間のグループが変な動きをしているよね。何だと思う?」
「不審な動き……」
「精霊たちも殺気を感じ取っているみたい」
リーノとフィーネが、それぞれの気づきを口にする。
「馬車に向かって、最終的に取り囲むように動いてない?」
「盗賊の可能性が高いわね」
「後ろを付いてきている【聖光の慈雨】のメンバーに知らせに行ってくる。みんなは急いで、盗賊が馬車と遭遇するあたりへ移動を開始してくれ。僕も状況を知らせたらすぐに後を追うから。ファルは三人たちと行動を共にするんだよ。フェン、一緒に行くよ」
ここからはもう歩いていく必要はない。
頭上の木々へと跳び上がると、枝から枝へと音もなく飛び移りながら後方へと引き返した。
すぐに気配を殺して尾行していたギルさんたちの近くへと着地する。
急に目の前に現れた僕に、一瞬驚いた【聖光に慈雨】のみんなだったが、僕に気づくと諦めたような顔で、僕を見つめてくる。
「ここから二十分ほど先で、馬車を狙っている盗賊がいるようです。僕たちは先に行ってますので、フェンと一緒に僕たちの後を追ってきてください」
「なにっ……!? わかった。お前たちを信用して任せる。すぐに追う! もし俺たちの到着が間に合わなかった場合は、ヤノスたちの判断で行動に移ってくれ」
一瞬のうちに事態を察したギルさんが、力強く対応してくれる。
「はい。では僕は一足先に移動します」
僕は再び木々を飛び移り、リーノたちが潜む街道脇へと急行した。
『ヤノス、敵の配置よ』
三人が潜んでいる木の近くの枝に、音もなく降り立つ。
『街道の前方に六人。左右側面の木の上に弓使いが二人ずつ、その地上に三人ずつ。馬車が通った後に退路を塞ぐ役として後方に六人。合計二十二人と、少し距離を置いて様子を窺っている者が二人いるわ』
近くの木の枝で、身を潜めながら警戒を放っているフィーネが念話で伝えてくる。
その念話を受け、僕は瞬時に作戦を組み立てた。
『弓使いが厄介だから、まずはそこから潰す。リコルとファルはこちら側(右側)の弓使い二人を。道路向こう(左側)の弓使い二人は、僕とリーノだ。野盗であることが確定した瞬間に武装を解除させる。その後、リコル、ファル、リーノは側面の野盗への対応。フィーネは前方の六人、僕は後方の六人をやる。フェンは到着次第、敵の増援があった場合に備えてくれ』
『『『了解!』』』
全員が音一つ立てずにそれぞれの持ち場へと向かった。
街道沿いで息を潜め、馬車が待ち伏せのポイントに差し掛かったその瞬間――。
「止まれ! 止まるんだ!」
乱暴な怒号が響き、馬車が急停車する。
直後、剣と剣が激しくぶつかり合う音が炸裂した。
その戦闘音を合図に、僕たちの弓が一斉に放たれた。
放たれた矢が木の上の弓使いを正確に射抜く。
弓使いが木から真っ逆さまに落ちていくが、僕とリーノは地面に激突する前にその真下へと移動し、音を立てずに彼らを受け止めて無力化した。
『リーノ。僕は予定通り、後方へ行く。後は頼んだよ』
『了解』
僕は《身体強化》を脚部に集中させ、一瞬で街道の後方へと跳んだ。
馬車の後方に回り込むと、すでに一人の騎士が馬から下り、六人の盗賊と対峙して孤軍奮闘している戦闘シーンが目に入った。
僕は即座に矢を連続で放ち、二人の盗賊の太ももを射貫いて戦闘力を奪う。
「助太刀します!」
声をかけながら森を出て、呆然と立ち尽くしている盗賊の横を通り過ぎざま、僕は太刀の峰をその腹部へと強烈に叩き込んだ。
ドゴッ、と男の体が”く”の字に折れ曲がって数メートルも吹き飛んでいく。
一刀両断にするよりはマシだろう。
正気を取り戻した別の盗賊が激昂して斧を振り下ろしてくるが、その軌道を相手の力を利用してそらし、体勢を崩したところに太刀の峰を首筋に叩きつけた。
見れば、騎士の方も手傷を負いながらも二人を切り捨てていた。これで後方は完全に沈黙した。
「Fランク冒険者で、現在ランクアップ試験を受けている、【万絆の恩光】のヤノスと言います」
僕はギルド証を提示して自己紹介をした。
「……はぁ、はぁ。俺はヴァルハイト領主ギルバート・ヴァレスタ・ヴァルハイト公爵様に仕える騎士のバルトだ。助太刀、感謝するぜ。命拾いした」
右手にバトルアックス、左手にカイトシールドを持った騎士が荒い息を吐きながら挨拶を返してくれた。
「僕が打ち据えた者たちはまだ息がありますので、後日のために縛ってもらっても良いでしょうか?」
「おうよ。後で”奴隷商”にでも売り渡せば、いい犯罪奴隷になって大金になるからな!」
バルトさんが手際よく気絶した盗賊たちを拘束し始める。
周囲にはいつの間にか静寂が戻っていた。他のみんなも一瞬で片付けたようだ。
『みんな大丈夫だよね』
『『『もちろん(よ)』』』
脳内に頼もしい念話が返ってくる。
ちょうどその時、森の奥から【聖光の慈雨】のメンバーたちが駆け込んできた。
バルトさんが武器を構えようとしたため、僕は慌てて声をかける。
「バルトさん、その方たちは味方です。Aランクパーティーの【聖光の慈雨】のみなさんです!」
「おう、そうか。すまんかったな。俺はヴァルハイト家の騎士バルトだ。助太刀に感謝する」
「【聖光の慈雨】のみなさん、まだ息のある盗賊の拘束や、怪我をした騎士の方への対応を頼んでも良いですか? 一人、この場から遠ざかっている者がいるんです。そちらを追います」
「おう、こっちは任せておけ」
ガイスさんが気持ちよく応えてくれる。
『リーノ、ファル、僕と一緒に来てくれないかい? ここから逃げていく奴を追いかける。フィーネ、リコル、フェンはここを頼むね。何かあったら念話を送るから』
『『『分かった』』』
僕とリーノ、そしてファルは、自分たちが不利だと悟って一目散に森の奥へと逃げ延びようとしている男の背中を追って、風のような速度で地を蹴った。




