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精霊冒険抄 〜頼もしい仲間とともに世界の過去と未来をひらく旅〜  作者: 霞染 睦
第2章 ヴァルハイト

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第50話 野営地

 オークの死体、特に肉は高値で売れるという。


 この集落で倒したオークだけでなく、ここへ来る前に倒したオークの血抜きもすべて終わらせ、一体残らず《アイテムボックス》へと収納した。


 一段落ついてから、オークの集落となっていた平地をぐるりと見渡す。……だが、何かがおかしい。


(この平地、周りの地形と見比べると、自然のものとは違う、どこか不自然な違和感を感じる)


 さらにオークたちが遮蔽物にしていた部分を観察してみる。


 それは長年風雨に晒されて朽ち果てたもののように感じる。


 その朽ちた残骸に土砂が積み重なったもののようだったが、どこか人工的な建造物の跡のような、妙な雰囲気を漂わせていた。


 頭の中に、先日図書館で歴史書を読んで抱いた疑問が蘇る。


 けれど、確証は何もない。

 僕は胸の中に生じた微かな疑念をひとまず心の奥へと仕舞い込んだ。


 さすがにこの不気味な場所で夜を過ごすのははばかられる。


 僕たちは【聖光の慈雨】のメンバーと話して、別の野営地を探すことにした。


 するとフィーネが、北側にある小さな谷を抜けた先に、狭いながらもここによく似た平地があると教えてくれた。


「ランクアップ試験の途中ではあるが、そこまでは行動を共にしよう。そこを野営地とした後は、また改めてランクアップ試験に戻るということでどうだ?」


【聖光の慈雨】のリーダーであるギルさんの提案に、僕は頷いた。


「それでお願いします」


「それが良いよ。じゃあ、ヤノス! 一緒に行こう」


 そう言うなり、いつの間にか元気を取り戻したアンナさんが僕の腕をがっしりと掴んで歩き出す。


 後ろを振り返ると、リーノが凄まじいジト目で僕を睨みつけており、その隣でフィーネが生温かい笑みを浮かべてこちらを見ていた。


 僕は今日一番と言って良いほど、背中に冷や汗を流しながらアンナさんに引きづられる様に移動する。


 それほど時間を取られることもなく、フィーネの言った通り野営にうってつけの隠れた場所にたどり着いた。


「よし、ここからランクアップ試験に戻るぞ。俺たちは俺たちで野営の準備をするし、これからは一切干渉もしない」


 ギルさんの言葉を受け、僕たちも準備に取り掛かる。


 まずはあらかじめ組み立てた状態で《アイテムボックス》に格納していたテントを取り出した。


 しっかりとした作りだが、購入費用を安く済ませるために、外見上はごく一般的な小型のテントだ。

 続けて、調理のためのテーブルや、くつろぐための椅子などを次々と並べていく。


「ねえ、ねえ。このテント、四人で寝るにはちょっと小さすぎない? ヤノス君!?」


 そう言って、興味津々で設置したばかりのテントの入り口を覗き込むアンナさん。


 その直後だった。


「え、ええええええええ……っ!?」


 静かな森の中に、アンナさんの凄まじい叫び声が響き渡った。


「な、何なのよこの中……っ!? いえ、家が丸ごと入ってるじゃないの!」


 テントから飛び退き、顔を真っ赤にして僕に詰め寄ってくるアンナさん。

 そのまま僕の体をがっくんがっくんと激しく揺さぶる。

 頭が何度も何度も揺られ、むち打ち症にならないかと本気で心配になる。


「ア、アンナさん、落ち着いて……」


「ア・ン・ナ!」


 僕の呼びかけにも、ギルさんの呼びかけにも反応せず、アンナさんは半ば放心状態で何度もテントの中を覗き込んでいる。


「どうしたのよアンナ、大声を上げて。……何かあったの?」


 不審に思ったセルフィーさんが近づいてきて、アンナさんの横から同じようにテントの中を覗き込んだ。


「な、何なのよこれ……! う、嘘でしょう!?」


 中の光景を目にした瞬間、セルフィーさんも完全に絶句し、今度は彼女が僕に詰め寄ってきた。


 その隙に、アンナさんは「お邪魔するわよ!」と言ってさっさとテントの中へ入っていく。


「ねえヤノス、あれは何なの!? どうやったらテントの中がこんな風になるのよ!」


 僕を揺さぶって問い詰めるセルフィーさん。

 リーノもフィーネもリコルも、そんな二人の猛攻にあっけにとられている。


「どうしたんだ、騒がしいぞ」


「何かトラブルですか?」


 ガイスさんとギルさんまでやってきて、テントの中を覗き込んだ。

 ……さび付いたロボットのギーギーという音が聞こえそうな動きで、僕へと顔を向けた二人は揃って、あごが外れそうなほど愕然とした表情で凍り付いていた。


「ま、待ってください! テントの中は外へ音が漏れないように防音加工してありますから! とりあえず中で話しましょう!」


「リーノ、フィーネ、リコルも入ろう」


 そう言ってみんなを促しつつ、僕は《エデンテーラ》の出入り口を開き、中にいたフェンとファルを外へと呼び出した。


「二人とも、周りの警戒をお願いね。一旦みんなでテントに入るけど、しばらくしたら外に出てきて、思いっきり一緒に遊ぼう」


『『絶対に約束だよ!』』


 脳内に弾んだ念話が返ってくる。

 楽しそうにはしゃぎ回る一頭と一羽をその場に残し、僕もテントに入ろうとしたが、


「……当然、今の”可愛い子たち”のことも、中でみっちり説明してもらうわよ?」


 セルフィーさんから逃げ場のないジト目を向けられた。


読んでいただきありがとうございます。

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