第47話 初陣の森
【聖光の慈雨】のメンバーと共に、会議室を出て目的の場所へと向かう。
「おう。そんなに緊張しなくていいぞ」
部屋を出てすぐにガイスさんが声をかけてくれた。
「そうです。少なくともこの街の領域を出るまでは、のんびりと行きましょう」
ギルさんの言葉に少しずつ緊張も和らいでくる。
「そうですわ。ヤノスくん、あなた、アナエル様に何を進言したの? 先日グリアードの街に行ったら、アナエル様に<ヤノス君に会ったらお礼の気持ちを伝えてくれ>と何度も何度も頼まれたのよ。詳しくは聞かないけれど、あんな短期間に、本当にあきれるわ」
「いえ、大したことはしていないですよ……」
僕が照れくさそうに頭をかいていると、セルフィーさんはクスリと笑った。
「そういえば、なんでも<実証実験にこぎつけることができそうだ>、って。これも伝えてくれって言われてたわ」
「そうなんですね。だとすれば、それがなんなのか、それほど長く待たないで分かると思いますよ」
東門へ向かう馬車の中でセルフィーさんから聞いたグリアードの街の嬉しい便りに、自然と頬が緩む。
馬車は東門を出た後、農地を横切り、この街へ入るときの第一の関門である防護柵の所までやってきた。
「さあ、【万絆の恩光】の活動だ。リコル、リーノ、フィーネ、いくよ!」
みんなに声をかけて出発する。全員の顔が喜びに満ちていた。
今まで一緒にここまで来た【聖光の慈雨】のメンバーだが、ここからは試験官になる。
北と南には山脈が連なり、その間の谷を抜けるように進む道がある。まずはその道を進む。
最初の休憩所を超えた先でオークが目撃されている。
まずはその休憩所へ向けて、移動を開始した。
今までは出していなかった武器も、しっかりと装備している。
【聖光の慈雨】のメンバーも、いつの間にか軽装になっていた。
彼らも《アイテムボックス》が使えるようになって、身軽になっていた。
僕とリーノが前を歩き、その後ろにリコル、フィーネと続く。リコルは弓と短剣。僕とリーノは太刀を腰に下げ、フィーネは槍を抱えている。
ここからは真剣勝負だ。しっかりと《サーチ》の魔法を張り巡らし、情報を得ながら進んでいく。
森に入るとフィーネの影響なのか、精霊の手助けがあり、《サーチ》の精度が格段に上がるのを感じた。
まだ森に入ったばかりであり、《サーチ》に反応するのは動物たち、それも小型のものばかりだ。
『フィーネ、後方の【聖光の慈雨】のメンバーの安全もお願いね』
『大丈夫! 抜かりなくやっているわよ。安心して』
ベテランの冒険者だけど何が起きるか分からない。僕たちは《サーチ》が使えるのだから、使えるものは使って安全確保するのは当たり前だ。
「……この先。休憩所、ある」
リーノが《サーチ》にかかった情報を教えてくれる。
僕とフィーネが生き物の情報、リーノとリコルが地形や罠などの情報を探っている。
罠はないかもしれないが、用心に越したことはない。
しばらく進んでいくと、リーノの情報通り、道路の左右が防護柵に囲まれた少し開けた場所に出くわした。
「緊張を続けていたら精神が持たない。少し休憩しよう」
座れる場所を探し、おのおのが水筒を出して水を飲む。
リコルは軽く携帯食を食べているようだ。
視認はできないが、離れたところで【聖光の慈雨】のメンバーも一休みしている。
冒険者ギルドに設置してある資料館で、この道の右側(南側)に魔物が多いことを調べておいた。
僕はあたりを見て回り、これからのルートをみんなに指示する。
「ここに獣道があるから、ここから森の中へと入っていこう」
今回は【聖光の慈雨】のメンバーが後ろに控えているので、木々を伝って飛んで移動することはしないようにと、あらかじめ話し合っている。
『フェンとファルを出してあげたら、大喜びしそうだけどね』
『今出すのは早いと思うわ。夜の見張りで出してあげたらどうかしら』
『おにぃ。それが良いと思うわ』
一時間ほど歩いただろうか。
少し休めるような場所があったので、そこで一休みすることにする。
《サーチ》には、今のところ小型の動物しかかからない。
「魔物は《サーチ》にかからないね。《サーチ》の範囲を狭くしているからかもしれないけど。それよりも、森の中を歩くのがこんなに疲れるとは思わなかったよ」
「地上、歩く。大変 訓練の理由、わかった?」
「リーノ様、ありがとうございます」
僕が大げさにリーノに頭を下げる。
「よかろう」
一斉に笑い出すみんなだった。
「フィーネ。これって……」
「間違いないわ。オークよ」
リコルとリーノも《サーチ》のターゲットを変更し、オークの存在を確認する。
「二体いるわね。今までのペースで進んで一時間ほどの所かしら」
フィーネの分析にみんなが頷く。
「僕とリーノが物理攻撃。リコルが後方から弓。フィーネはそのリコルの護衛と回復。今まで話し合ってきた通りで良いね」
みんなが力強く頷く。
ここからは狩りの体制に入る。
足音を忍ばせ、オークに向かって近づいていく。
途中からリーノが分かれ、オークの後方へと回る。
木々の間にオークの巨体が見えるところまで近づくことができた。
まだ、こちらに気づいていないようだ。
風がやんだような気がした。自分の心臓の音が、やけに大きく聞こえる。
『リコル、お願い』
『了解』
一瞬の念話。
リコルが静かに、滑らかな動作で弓を引き絞る。
シュッと一瞬で音が遠ざかると、狙い違わずオークの眉間へ突き刺さる。
突然倒れ込む隣のオークを見て、もう一方が前方へと警戒を集中させた。
その瞬間、後ろから音もなく近づいたリーノの剣が一閃され、オークの首へ命取りとなる一撃が加えられた。
《アイテムボックス》に入れておけば解体はいつでも良い。
僕たちは用意しておいたロープをオークの足に巻きつけ、木に逆さ吊りにした。
そして魔法で作った穴に向かって血が落ちるようにして血抜きをする。
血抜きのために開けた穴を塞いでも、戦闘で流れた血のにおいは辺りに立ち込めてしまう。
動物や魔物が集まってくる前に、早急にその場を離れることにする。
『ねぇ。まだ、魔物討伐は続けるよね? 宿代の確保もあるし』
『『『もちろん!』』』
また《サーチ》のターゲットを分担して、あたりを探りながら森の中を進んでいく。
『その先、気をつけて。川が流れているわ。急坂になっている』
音を出さないように、念話で連絡を取り合って進んでいく。
【聖光の慈雨】のメンバーが僕たちの後を付いてきているのは《サーチ》で把握しているが、彼らからは全く音がしない。
さすが上級冒険者である。
いつもは木の枝から木の枝へと飛び移って移動しているので、地上を歩くとどうしても音を立てそうになり、気が引き締まる。
しばらく進んでいると、今度は三体のオークが《サーチ》にかかった。
『奥をリコルの弓。手前の左手をリーノ、右手を僕。フィーネはリコルの護衛。いいね?』
『『『了解』』』
それぞれが自分の位置を確保するために、分かれて進む。
細心の注意を払っているため、音は全く出さない。
ゆっくりとオークへ近づき、一撃で倒せる間合いに入ったところで念話を送る。
『ヤノス、準備OK』
『リコル、フィーネともに準備OKだよ』
『リーノ、準備OK』
森のざわめきがふと途切れる。
木の葉が地面に落ちる音さえ、今は聞き取れそうな気がする。
全員が位置に付いたことが確認され、リコルにより戦闘が開始される。
先ほどと同じく無音の内に、奥にいるオークが倒れる。
そのオークの異変に気付いた手前の二体が、僕たちに対して背を向けた。
身体強化の魔法をかけた足で一瞬のうちにオークに攻め寄り、剣を一閃させる。
同時に、左にいたオークもリーノの剣の一閃で致命傷を与えられていた。
今回はその場で血抜きをせず、一旦オークをそのまま《アイテムボックス》にしまい、すぐさまその場を離れた。
このときも、周囲への細心の注意は怠らなかった。
一連の動きの全てにおいて、僕たちは徹底的に、一瞬の無駄もなく、余計な音も立てずにやり遂げたのだった。




