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精霊冒険抄 〜頼もしい仲間とともに世界の過去と未来をひらく旅〜  作者: 霞染 睦
第2章 ヴァルハイト

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第40話 冒険者活動開始

 六時に食堂で朝食を取り、いまは冒険者ギルドに来ている。朝早い時間なのに、もうかなりの冒険者がいて、依頼を受けるためなのか受付に向かうための列ができていた。


 どの列に並ぼうかと悩んでいたら、


「ヤノス君、リコルちゃん、この列に並んで」


 声がした方を見ると、ミリアさんが必死に僕たちに向けて手を振っている。

 ミリアさんが担当する列に並んでしばらく待っていると、僕たちの番になった。


「早速、依頼を受けに来たのね。何の依頼を受けるのか決めた?」


「どの依頼が良いのかわからなくて」


「そうね。街の中の依頼もあるけど、あなたたちにはあれだけの剣の腕があるのだから、これなんてどう? この街に入るときに広い農作地を通ってきたでしょう。そこで農作業をする人々を魔物の襲撃から守る仕事よ。襲ってくる魔物もほとんどがゴブリンとかコボルトだから、大丈夫でしょう」


「おにぃ。それやろう」


 リコルがやる気満々のようで、その依頼を受けることにした。


「今日は、南門での集合だから。この冒険者ギルドの正面をまっすぐに進む道を行った所にあるのが南門ね。門の近くに農作業をする人と護衛が一旦集まって、今日の作業の場所まで移動することになるわ。南門までは、正面を出て左側に南門行きの馬車乗り場があるから、その馬車に乗っていくと良いわ。料金は銅貨5枚、二人で大銅貨1枚だから、歩くより良いでしょう。間違って東門行きに乗らないようにね」


「南門行きですね。わかりました」


 早速、冒険者ギルドを出て馬車乗り場へ向かおうとしていたら、ミリアさんから声がかかる。


「ちょっと待ってね。忘れ物よ。これが、依頼書よ。依頼を達成したら、現地で責任者からサインをもらってきてね。そのサインが入った依頼書をギルドに提出することによって、依頼の達成が完了し、依頼料がもらえるわ」


「「ありがとうございます」」


 依頼書を受け取った僕とリコルは頭を下げて、まずは南門行きの馬車の乗り場へ向かった。



◇ ◇ ◇



 南門の横にある広場には多くの人が集まっており、二つのグループに分けられていた。おそらく冒険者だろうと思う屈強な人たちの列に加わろうとしていると、「君たちはこっち、こっち」と言って、小さい子供や女の人が多く並ぶ、列へと連れて行かれてしまった。


(……あちゃ。やっぱり子供の体だと、冒険者には見られないか)


「この列ってやっぱり違うよね……」


 と少しだけ頬を膨らませ不平を漏らす。なんだかだんだんと感情が子供のものへと変化しているように感じる。そんなことを考えていたが、リコルの一言によってあっさりと黙らされることになる。


「おにぃ。冒険者証をだして、依頼書を出せば済んだことだよ」


 何の反論もできない。


 近くにいた係員に冒険者証と依頼書を提示すると、驚いたような顔をされながら、ようやく冒険者が並んでいる列へと加わることができた。


 依頼内容は、冒険者ギルドで聞いたとおり、農作業に当たる人達を魔物から守ること。


 十五歳未満が受ける特例のGランク依頼と聞いていたので、同世代の子供ばかりが集まっているのかと思ったが、意外にもそうでもなかった。


 近くにいる、明らかに上のランクの冒険者らしき人に尋ねてみる。


「この街の冒険者ギルドでは、EやFランクの人でも二ヶ月に一回はこの護衛依頼を受けないとだめなんだ。まあ……大切な食糧の確保のためだからな」


 という答えが返ってきた。


(……徹底しているな。冒険者にノルマを課してまで、この街は農耕地の維持に力を入れている。水路まで引いて防衛線を張っていることといい、この街の食料確保への徹底ぶりはどこか普通じゃない気がする。まるで、今すぐにも強大な敵の大軍に包囲されることを、最初から前提としているかのような……)


 そんな軍事国家に近い街のあり方への違和感を、僕は心の奥底にそっと留め置いた。


 その後、広場に集まった全員が用意された馬車に乗り込み、農地へと移動する。


 馬車を降りると、僕とリコルは指定された担当区域の警戒に当たる。


「おい、ゴブリンが出たぞ、南西一の区域だ」

「コボルトだ、南東三の方角だ」


 どの方角に魔獣が来たのか、防衛戦の方角を冒険者同士で大声で確認し合いながら討伐に当たっている。


 声がする方角と、方向を表す言葉、《サーチ》かかる魔物の気配から、その決まりもだんだんと見えてくる。


 僕とリコルの場合、息をするかのように《サーチ》を常に働かせている。


 害意を有するものの動きを広範囲で把握しているので、声をかけられる前にどの方角から魔物が来ているのかを事前に把握している。


 全体の状況が掴めた今は、僕たちが担当する農地に近い防衛用の柵の外側を、細心の注意を払って《サーチ》で探っている。


 魔物が《サーチ》にかかる。


 恐怖や怒りという負の感情が生じないように、急な状況変化に対応できるように、平常心を保つことに集中する。


「リコル。行こう」

「うん、おにぃ」

『『任せた(わ)。しっかり(やりなさい)』』


 僕たちの防衛エリアに侵入しようとする三体のゴブリンの気配を捉え、討伐に向かう。


 これくらいの低ランクの魔物相手だと、姿を消しているリーノとフィーネも、特に手出しする気は起きないらしい。


 一日の農作業が終わる頃には、十五体のゴブリンとコボルトを退治し、討伐部位である左耳と魔石を確保していた。


 もちろん、お金にならない部位などは、その場で炎の魔法を使って綺麗に焼き尽くし、土へと還している。



◇ ◇ ◇



 このような毎日を五日ほど続け、冒険者ギルドに戻った時のことだ。


 受付のカウンターで魔石の換金を済ませていると、ミリアさんに呼び止められた。


「ヤノスくん、リコルちゃん。あなたたちはいつ休むの」


 呆れ混じりに尋ねるミリアさんに、僕たちは顔を見合わせた。


「二人とも、この街に来てから毎日休まずギルドに来て依頼を受けているでしょう? 他の冒険者は、一週間の中で最低でも二日は休みを取っているのよ」


 今まで僕は二年、リコルは一年、”休む”という概念がないまま過ごしてきた。そこに、地球で耳にした心地よい響きが、僕達の心を温かく包んでくれた。


 僕は、”すぐ近くにいても姿を見せず、口だけを出す精霊の二人に聞かせるために”あえてミリアさんに問い返した。すると同じ気持ちだったのか、リコルと全く同時に声が出た。


「「休みって何(ですか)?」」


 知っていてわざと聞いていることを察知したリーノとフィーネから、頭の中で『うぅ……』という低いうなり声が聞こえる。


 姿を消したまま、不器用に身を縮こまらせている様子が容易に想像できて、心の中でニヤリと笑う。


「あのね。冒険者は常に命をかけて活動しているの。ヤノスくんもリコルちゃんもこの五日間で、たくさんの魔物を討伐したでしょう? 強い相手ではなかったかもしれないけど、それでも常に死と背中合わせの戦いだった訳よね」


 ミリアさんの厳しい視線に、リーノとフィーネに見せつけるように僕たちは何度も頷く。


「だから、冒険者は意識的に休みを作って、体と、なにより心の負担を軽くしているの。週に四日依頼を受けたら二日を休むとか、二日活動したら一日休むとか。わかった? ちゃんと休みの日を入れて、しっかりと体と心を休ませてから活動するのよ」


 僕はミリアさんに大きく頷く。

 さらに近くにいる精霊たちに届くように、大きな声で返事をする。


「「わかった。ちゃんと休みを入れる」」


 頭の中で、フィーネの『面目ないわ……』という小さなため息が聞こえた。


「あ、それと。冒険者証を出してもらえる?」


 言われるままに冒険者証を差し出すと、ミリアさんはそれを持って一度奥の事務室へと下がっていった。しばらくして戻ってきた彼女の手には、新しく更新された、光沢を放つ冒険者証が握られていた。


「はい、おめでとう! これからヤノスくんも、リコルちゃんも、正式な”Fランク冒険者”ね。これで特例の子供用の枠を抜けて、本格的な冒険者としてのスタートよ」


 ミリアさんは、僕たちの頭を優しく撫でながら、満面の笑みでそう説明してくれた。


「普通はね。年齢特例のGランクからFランクへの昇格には、昇格ポイントをクリアするのに、多くの冒険者が最低でも一ヶ月以上の期間がかかるのだけど」


 ミリアさんはいたずらっぽく小首を傾げると、声を潜めて教えてくれた。


「でもね、あなたたちがこの五日間で討伐した魔獣の数を覚えてる? 本来なら数人で組むパーティーが何日も何日もかけて稼ぐはずの”昇格ポイント”を、二人だけであっという間に満たしちゃったのよね」


『え……? 僕たちって、そんなに強いのかな?』


『当たり前でしょう。私とリーノの無茶振りをどんどん乗り越えてきたんだから』


『無茶振り! 知っててやってたのかよ!』


 隣で、何度も何度もリコルが頷いていた。


読んでいただきありがとうございます!


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