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精霊冒険抄 〜頼もしい仲間とともに世界の過去と未来をひらく旅〜  作者: 霞染 睦
第2章 ヴァルハイト

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第35話 リコルの対戦

(一体これから、どんなことになるんだろう)


 考えても答えの出ない疑問を胸に抱きつつ、僕たちはミリアさんの後ろをついて歩き出した。


「あのいけ好かないギルドマスターに、一泡吹かせてやって頂戴!」

「これであいつの鼻をへし折ってやれるな!」

「楽しみですねぇ。マスターの悔しがる真、拝ませてもらいましょう」

「お二人なら大丈夫ですわ。とことんやっておやりなさい!」


 アンナさん、ガイスさん、ギルさん、それにセルフィーさんからの、なんとも無責任な応援(?)だ。

 全員が口々に思いの丈を言葉にしながら、僕たちの後をついてくる。


 彼らを半ば無視しつつ、僕たちは念話でお互いに声を掛け合う。


『リコル、平常心だ。落ち着いていこう』

『うん、おにぃ。大丈夫だよ』


 励まし合っているうちに、僕たちは地下にある広大な練習場へとたどり着いた。


「ここが地下練習場です。決して難しい試験ではありませんから、落ち着いて臨んでくださいね。刃を潰してある訓練用の武器がそちらにありますから、好きなものを選んでください」


 ミリアさんの優しい微笑みと励ましが、これから始まる試験への緊張をいくらか和らげてくれた。


 僕たちが武器を選んでいると、突如、練習場の周囲にいた他の冒険者たちから、ざわざわと大きなどよめきが沸き起こった。 


「おい、見ろよ……ギルドマスター直々かよ!?」

「マジかよ、あのヴァルグドが自ら立ち合うのか!?」


 小声で囁かれる周囲の噂話が、なぜか僕の耳にしっかりと届く。


 その時、――ブンッ! ブンッ! ――と、空気を鋭く引き裂く、重苦しい風切り音が練習場に響き渡った。


 音の方を目で追うと、そこには片手で巨大な大剣を軽々と振り回してウォーミングアップをしている、ギルドマスター・ヴァルグドさんの姿があった。


(あんな大男と戦うのか……?)


 本能的な恐怖が背筋を駆け抜ける。


 ゴクリと息を呑み、<平常心、平常心>と心の中で呪文のように繰り返しながら、僕が一歩前に出ようとした、その時。


「おにぃ。――私が最初に行く」


 リコルの、冷静で冷たくも鋭い声が僕を止めた。


「リコル? ダメだ、僕が先に――」


『おにぃ、私が先に戦うから、私の動きをしっかりと見てて。そして、おにぃの戦いに生かしてほしいの』


 脳内に直接響く、リコルからの真剣な念話。

 妹に先陣を切らせるわけにはいかない。僕は慌てて背後の二人に助けを求めた。


『ねえ、リーノ、フィーネ! なんとか言ってよ!』


『『大丈夫(よ)。たっぷり鍛えてあげた(でしょう)?』』


 二人の精霊からは、恐ろしく自信に満ちた、力強い返答が同時に返ってきた。


 ヴァルグドさんの前に、リコルが静かに、そして涼しい顔で歩み出る。


 狼人族の戦士として、立派な体を誇る大男の前に立つリコルは、あまりにも小さく、華奢に見えた。


「おぉ! 嬢ちゃんが先か。いい度胸だ!」


「よろしくお願いします」


 リコルが訓練用の剣を構える。


 二人が構えた剣の大きさだけを比べても、一・五倍以上の圧倒的な体格差があった。

 

「いくぜ、お嬢ちゃん。――先にいかせてもらう!」


 言い放つと同時に、ヴァルグドさんがその巨体に似合わぬ凄まじい俊敏さで踏み込み、リコルに向かって大剣を打ち下ろした。


 激しい金属音が響き、リコルの小さな体が吹き飛ばされる――そんな最悪の光景を想像し、僕は目を細めてしまう。


 だが、訓練場に響いたのは――キィィン! ――という、高く澄んだ、予想外の接触音だった。


 リコルは力で受け止めることなく、ヴァルグドさんの大剣の腹を、自らの剣で滑らせるようにして弾(はじ)いたのだ。


 完璧にいなされた大剣は、軌道を外されて虚しく空を切り、床へと叩きつけられる。


「っ……!?」


 わずかに体勢を崩したヴァルグドさんの顔が、一瞬だけ驚愕に染まるのが見えた。


 ただ単に驚いているのではない。彼はカッと目を見開いたまま、まるで幽霊でも見たかのように動きを止め、リコルの姿を凝視している。


 その巨体が、信じられないものでも目撃したかのように微かに戦慄(わなな)いているのが、離れて見守る僕の目からもはっきりと分かった。


 何か強烈な違和感か、あるいは僕たちの知らない衝撃を受け止めているかのような、ただならぬ動揺。


 だが、彼はすぐにフッと頭を振ると、それを強引に振り払うように不敵な笑みを浮かべて剣を握り直した。


「ほう……! 面白い。本当にやるじゃないか、嬢ちゃん!」


 喉の奥から絞り出すように告げるヴァルグドさんの目の奥には、先ほどまでの余裕はなく、激しい動揺を覆い隠すような熱い光が灯っていた。


 今度はさらに鋭い踏み込みから、横薙ぎの鋭い一撃が放たれる。


 しかし、リコルはその力をも利用し、自らの体を独楽のように回転させながら、大剣の軌道を受け流した。またしても空を切る大剣。


「いいぜ! 今度はそっちからかかってきな!」


 ヴァルグドさんの言葉が終わるか終わらないかの瞬間、リコルは低く地を這うような姿勢から、一気にその懐へと潜り込んだ。


 下からの鋭い斬り上げ。


 だが、ヴァルグドさんは無駄のない最小限の動きで、それを紙一重で回避する。


 かわされたと悟った瞬間、リコルはすでに彼の剣の間合いの外へと素早く飛び退いていた。


 次の瞬間リコルは、彼の正面を避けるように横へ数歩移動すると、死角から再び鋭い一撃を見舞った。


 ――しかし。

 リコルの渾身の剣は、ギルドマスターの大剣の側面で難なくいなされてしまう。


 いなされた勢いで、ほんのわずかにリコルの体勢が崩れた。


 その刹那、ヴァルグドさんの剣の切っ先が、リコルの首元から数センチ横の位置で、ピタリと静止していた。


「――そこまで!」


ミリアさんの、鋭く澄んだ声が訓練場に響き渡った。


読んでいただきありがとうございます!


 次回は、ヤノスの剣の腕前が衆目の中で発揮されるはずです。

 ご期待ください。


もし好みに合いそうでしたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しい

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