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精霊冒険抄 〜頼もしい仲間とともに世界の過去と未来をひらく旅〜  作者: 霞染 睦
第2章 ヴァルハイト

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第34話 ギルドマスター

 ミリアさんが、無駄のない流れるような動きで入ってきたドアを閉め、一度室外へと退室した。


「おう、ご苦労だったな。グリアードでの活躍はヴァルカナから連絡を受けている。最高の結果になったことは、何よりだ」


 デスクの向こうから、低く響く声でギルドマスターが労う。


「はぁ、それだけかよ。もっとこう、具体的な報奨の話とかないのか?」


 不満を露骨にかに出すガイスさん。そんな彼を横目に、ギルさんが真剣な表情で口を開いた。


「我々の力が及ばなかったことは事実ですが……最善とは言わずとも、合格点の対応はできたと思っております」


 ギルさんの厳かな言葉が、静かな圧力となって部屋の空気を支配する。


 それを感じたのかギルドマスターは、ふっと表情を和らげた。


「今日は疲れているだろう。詳しい報告は明日にしてくれ。――それで、そこの坊やたち二人が、例の漁村から来た子供たちだな?」


「そうなのよ。ヴァルハイトへ来る道すがらいろいろ話したんだけど、この子たち、孤児院に入るより、冒険者として生きていきたいそうよ」


 セルフィーさんが、僕たちの気持ちを代弁するようにそう告げた。


 ギルドマスターの鋭い眼光が、じっと僕とリコルに注がれる。


「今セルフィーから聴いたが……、冒険者の道は厳しい。常に死と背中合わせの生活を覚悟しなくちゃならねぇ。それでもいいのか?」


 ドスのきいたギルドマスターの言葉に、僕とリコルは思わす息をのんだ。そのときだった。


「ちょっと、自己紹介もなしでその脅し文句なの? 相変わらずギルドマスターとしてのデリカシーがなってないわね、ヴァルグド」


 セルフィーさんが呆れたように強烈なツッコミを入れた。

 言われたギルドマスターは、ガリガリと頭を掻いて不敵に笑う。


「おう、そうだったな。俺がこのヴァルハイト冒険者ギルドの長、ヴァルグドだ。見ての通りの狼人族(おおかみびとぞく)だ。……お前さんたちも気づいているだろうが、グリアードの町のギルドマスター、ヴァルカナは俺の妹だ」


 あのヴァルカナさんのお兄さんだったのか。そういえば、豪快でどこか抜け目のない雰囲気がそっくりだ。


「僕はヤノスで、それで、隣にいるのが妹の――」

「妹のリコルです」


 ヴァルグドさんの圧倒的な威圧感に気圧されつつも、僕たちはたじろぎながら応えた。


「おう、ヤノスとリコルよ。さっきも言ったが、もう一度聞くぞ。冒険者は常に死と隣り合わせだ。それでも、それでもいいんだな?」


「はい」

「大丈夫です」


「よし。……二人の年齢を教えてくれ」

「僕が十四歳で、妹が十三歳です」


「見た目もそのくらいだな。その年齢で受け付けよう。だが、本来冒険者登録ができるのは十五歳からだ。それは知っているか?」


 初めて聞く規則だった。


 僕は心の中で、背後に控えているリーノとフィーネへ『そんなの聞いてないよ!』と猛烈な抗議の念話を送りつつ、知らなかったという意思を示すために激しく首を横に振った。


「ところが、このヴァルハイトの街には特別ルールがある。十五歳に満たない者でも、一定以上の”戦闘力”を有していると確認できれば、特別に冒険者証を発行するってな」


 僕とリコルは、思わず「ほっ」と安堵のため息を漏らした。


「通常の冒険者はFランクからAランクだが、この街では、十五歳未満の特例者用に”Gランク”が設けられている。貧しい家庭の子供たちが、悪の道に走ることなく生活資金を稼げるようにするためだ。――そこでだ」


 ヴァルグドさんは獰猛に口角を上げた。その目は、どこか僕たちの「奥」にある何かを見透かそうとするかのように、じっと据え置かれている。


「さっきも言った通り、一定以上の戦闘力があるかどうか、ギルド職員によって確認させてもらう。俺自らがな」


「「大丈夫です」」


 覚悟を決め、リコルと声を揃えて力強く頷く。


「失礼いたします。皆様、冷たいお飲み物をお持ちしました」


 タイミングよく、全員分の飲み物と、軽くつまめるクッキーの載った皿を持ったミリアさんが部屋に入ってきた。


「おう、ミリア、すまん。実は、これからこの子たちの戦闘能力を測る。悪いが、地下の訓練場へ案内してやってくれ」


「えっ? 今からですか?」


「おう、俺が直々に対戦し、強さを測っててやる」


 ミリアさんは一瞬だけ呆れたような表情を浮かべたが、すぐに完璧な受付嬢の笑顔に戻り、僕たちに向き直った。


「ヤノス様、リコル様。それでは、私がご案内いたしますね」


 いつの間に僕たちの名前を覚えたのだろう。やっぱり優秀な受付嬢だ。


 ……それにしても、”能力を測る”と言っていたのに、いつの間にかギルドマスターとの”対戦”という言葉に変わっているような気がする。

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