第30話 新たなる旅立ち
いつも『精霊冒険抄 〜頼もしい仲間とともに世界の過去と未来をひらく旅〜』をお読みいただき、本当にありがとうございます!
皆様の温かい応援や評価が、日々の執筆の大きな原動力になっています。
本日は投稿スケジュール変更のお知らせがあります。
より良い作品をしっかりと完結までお届けし、長く連載を続けていくために、
明日(8月16日)より「1日1話(毎朝7時投稿)」へ変更させていただきます。
これまで更新していた18時の投稿は無くなり、毎朝7時の1回のみとなりますのでご注意ください。
ですので、次回の更新は【明日・8月16日の朝7時】となります!
これからも楽しんでいただけるよう執筆に励んでまいりますので、引き続きお付き合いいただけると嬉しいです!
昨日のアナエルさんの話が頭から離れなかった。
僕は、メイドさんに頼んで筆記用具を用意してもらい、リーノとフィーネに調べてもらい、リコルと一緒に、優しくしていただいたこの町への”プレゼント”を作った。
翌朝。グリアードの町門には、朝早いというのに【聖光の慈雨】と僕達を見送るために、多くの町の人々が集まっていた。
「また来いよ」
「いつでも戻っておいで。みんな待ってるからね!」
口々に別れを惜しむ声が響く中、代行官のグリアム様、執行官のアナエル様はもとより、グライム君やアイリスも見送りに来てくれていた。
「本当はこの町に引き留めたいのは山々なのだけど、ここは今のヤノスとリコルが暮らすには、少し不自由が多すぎるわ」
アナエル様が、僕の目線に合わせてそっと屈み込む。
「ヴァルハイトはこの領内最大の街。二人の力が存分に発揮できる場所よ。もし何か困ったことがあったら、いつでもこのグリアードへ戻っておいでね」
そう言って、アナエル様は僕を愛おしそうに強く抱きしめてくれた。その温もりに胸が熱くなる。
「アナエル様、この町で過ごした時間は短かったけど、絶対に忘れません。必ず戻ってきます」
僕は抱擁から離れ、用意していたものを彼女に手渡した。
「それと……これは僕とリコルからの、ささやかなプレゼントです。後で、お一人になった時にでも読んでみてください。多分、間違いは無いと思うのですが、何か気になることがあればヴァルハルトにいる僕に連絡をください」
手渡したのは、昨夜遅くまでかかって書き上げた、ひと束の厚い紙だった。
「あら、何かしら、楽しみに読ませてもらうわね」
アナエル様は不思議そうにしながらも、それをとても大切な宝物のように、愛おしそうに胸に抱いた。
「君がいてくれなかったら、この町はもう消えてなくなっていたかもしれない。なんと礼を言って良いか分からないよ」
今度はグリアム様が、僕の前に進み出て大きな手を差し出した。
「今はまだ、十分な恩返しもできない。だが、必ずこの恩に報いることを誓おう。ヴァルハイトの街でも、君たちの活躍を祈っている」
「はい。ありがとうございます、グリアム様」
その力強い握手に、僕はしっかりと応えた。
その後、寂しそうに僕らを見るグライム君やアイリスとも別れを惜しみ、僕たちは町のみんなが用意してくれた馬車へと乗り込んだ。
動き出す馬車。遠ざかっていくグリアードの町並みを、僕とリコルはいつまでも見つめていた。
◇ ◇ ◇
ヴァルハルトへ向かう街道はきれいに整備されており、馬車の旅は驚くほど快適で、ゆったりとしたものだった。
だが、街道とはいえ魔物が出ない訳ではない。時折、ゴブリンやコボルトの群れが馬車を襲ってきた。
「ガイスさん、ここは僕たちに任せてください! ヴァルハルトでは冒険者としてやっていくので、実践を積んでおきたいんです」
僕がそう提案すると、【聖光の慈雨】のメンバーは驚きながらも、僕とリコルの実力を見るために快諾してくれた。
だが、それが彼らにとっての「驚愕の始まり」だった。
「ねえ、ヤノス君! その剣、一体どこから出したの!?」
「今、魔法の詠唱していなかったわよね……!?」
「その剣さばき、本当に子供の技術なのか!?」
僕が空間から剣を取り出すたび、無詠唱で魔法を放つたび、アンナさんやギルさんが目を丸くして叫んだ。魔法使いであるセルフィーさんに至っては、「なぜ無詠唱で発動できるのか」と、目を血走らせて僕に詰め寄ってくる始末だった。
その日の夕方、野営の準備が整うと、彼らの質問攻めはさらにヒートアップした。
「ヤノス君、頼むからあの収納魔法の仕組みを教えてくれないか!?」
「あの剣の身のこなし、ぜひ手合わせして、説明してくれ!」
「無詠唱よ! 無詠唱の秘密を早く吐きなさい!」
焚き火の明かりに照らされながら、僕はタジタジになりつつも、剣を片手に実演してみせる。
「剣は……その、収納魔法を使って、こうやって空間から取り出しているんです」
「いや、だからその収納魔法自体が伝説級の稀少魔法でしょうが!?」
「今、どうやって重心を移動させた!? 体がブレていないぞ!」
僕が軽くガイスさんの木剣を受け流すたび、アンナさんの踏み込みをかわすたび、大人である彼らの方が、まるで子供のように大声を上げて驚いていた。




