第17話 再開された訓練
【更新スケジュール変更のお知らせ】
いつもお読みいただきありがとうございます!
今後の更新ペースですが、
8月15日までは【1日2話】 ⇒ 16日以降は【1日1話(7時更新)】
とさせていただきます。
毎日楽しみにしてくださっている皆様、引き続きヤノスたちの物語をお楽しみいただけると幸いです!
(……どうも、僕が死んでこの世界に来たとき、僕の死ぬ瞬間を見ていた少女がショック死して、同じように転生してきたらしい。
(そういえば、確か、【叡智と魂の泉】を名乗るあのお方が言っていたな。サーチを試みて気絶した時、精神世界の中で、僕をこの世界に送る際に予想外の手違いが生じた……とか。最後に「あの子を頼む」と言っていたのは、彼女のことだったんだ)
案の定、名前を思い出せなかった少女には、フィーネが「リコル」という名前を贈った。この世界の古い言葉で”希望”という意味があるらしい。
(これで地球から来た僕の仲間が増えたぞ!)
と喜んだのもつかの間、僕はふと、今の自分の置かれた環境に気がついてしまった。
(……待てよ。よく考えたら、女子三人の中に男は僕一人じゃないか。前世のラノベ知識なら夢のハーレム状態のはずなのに……、周りにいるのがあのスパルタ大精霊たちのおかげで、ちっとも甘い空気にならないのは一体どういうわけだろう……)
◇ ◇ ◇
葉を粉にして作った薬を服用する頻度もだんだんと少なくなり、三日後にはリコルもベッドから立ち上がって動くことができるようになった。
毎日フィーネが彼女に付き添い、その間、僕は相変わらずリーノにしごかれ続けた。
だが、あの【叡智と魂の泉】を名乗るあのお方による魂の拡張が、意外なところで影響を及ぼし、僕の能力はとんでもない進化を遂げていた。
あれだけ苦労した不意打ちへの対処が、劇的に改善されていたのだ。何より、サーチが完璧に使いこなせるようになったことが大きかった。
今までの訓練で培われた、”僕に対する害意を感じ取れる感覚”が、その新しく覚醒したサーチと合わさり、僕に対する害意を抱いている者が何処にいるのかが、瞬時にわかるようになっていた。
ひっそりと近づいてくる動物も、どんなに草陰を利用していようが、サーチの魔法にかかればすべて丸見えだ。
たとえ近づく瞬間まで害意を隠していても、攻撃に移るまさにその刹那、僕の脳には「どの方向から、どのような角度で攻撃が来るのか」が完璧に解るようになったのだ。まさに、全方位死角なしの超感覚のレーダーである。
(リーノが不意打ちの練習を進めてきたこと、サーチの魔法を習得させたこと、まさかこれらは最初から意図されて組み立てられていた練習なんだろうか? どちらか一つだけだと、どうしても見落としがある。いや、まさかあのリーノがそこまで考えて……?)
僕は、頭をよぎったふとした考えを、大切な何かだとは思われるけれど、頭のすみに追いやることにした。
◇ ◇ ◇
四日目からリコルも朝の魔力の訓練に取り組むことになった。そして、なぜかリコルへ教える役目は、僕が担当することになったのだ。フィーネ曰く、「教えることは自分が習得したことを、もう一度見直すことであり、教える本人の理解も深まるから」というのが理由だという。
教える時間ができるというのは、僕のしごかれる訓練の時間が短くなるということにつながる。
その事実に気づき、僕は内心ガッツポーズをした。さっそく、優しく、そして丁寧に、自分が教わって来たことをリコルに伝えていった。
だが、訓練の時間が短くなるという僕のささやかな喜びは、心の奥底にあった嫌な予感通り、リーノの一言によって無残にも打ち消されることになったのだ。
「時間短い。厳しくやる。内容濃厚になる」
ボソリと告げられた地獄の宣告。
結局、トータルのしんどさは1ミリも減らないどころか、密度が何倍にも跳ね上がった愛の鞭を全身に浴びて、僕はまたしても涙目で白目を剥くことになるのだった。
◇ ◇ ◇
内容の濃い一年が過ぎた。前の一年よりなんだか短く感じる。
今日はなぜか早めに一日の日課が終わり、今はみんなが集まる部屋でおのおのが好きな姿勢で向かい合っている。
「集まってもらったのは、これからのことについて伝いたいことがあるからです」
ごろりと寝そべっていた僕は、少し体を起こしてフィーネの方を見る。
「この森でやれることは十分にやってきたと思います。そこで、明後日。この森を出ようと思います」
僕は完全に起き上がり、姿勢を正して座り治してフィーネを見つめる。
「明日はそのための準備の時間とします。いいですね」
うなずく僕とリコル。リーノはやっぱり最初から知っていたよね。
「それと、一つ提案があります。ヤノスにはリーノが、リコルには私が名前をつけましたね。精霊、それも最上位の精霊が名を与えるというのは、最上位の加護が与えられるということです。二人が魔法があまり苦労せずに使えること、また、その魔法の威力が高いことの理由の一つが、私とリーノの加護があるからです」
二人の顔を見つめ、納得していること確かめてフィーネは話を続けた。
「そこで提案です。私たち全員のつながりをより一層強め、魔法の威力を高めて、この森の外での生活に備えようと思うのです」
僕とリコルの顔を見たフィーネが、リーノがうなずくのを確認した後また、話を続ける。
「ヤノス、あなたにこの四人に共通する名前――ファミリーネームを考えてほしいのです」
「はぁ? なんでそうなるの?」
(前世の古いテレビの番組のギャグじゃないんだけど……と心の中で突っ込みつつも、僕は戸惑いを隠せなかった)
「精霊との間で共通のファミリーネームを持つことは、最上級の繋がりである【絆】を結ぶことを意味するの。普通、精霊が人間に与えるのは【下級の加護】と呼ばれるもので、人間が精霊に害を与えたり一方的に利用したりすれば、精霊の一存ですぐに取り消されてしまうわ」
「へぇ……加護って取り消されることもあるんだ」
僕が呟くと、フィーネは満足そうに頷いて言葉を続けた。
「ええ。でも、私たちが結ぼうとしている【絆】は、その者の命が失われるまで絶対に消えることがないの。人間の寿命が尽きるまで、永久に続く強い繋がりよ」
「命が尽きるまで続く、永久の繋がり……」
横に座るリコルも、ゴクリと生唾を飲み込んでフィーネの言葉に聞き入っている。
「それを理解してもらった上で、先ほどの提案に戻るわけだけど。これから人間社会に出て行くわけだから、私たちのリーダーとして活躍してもらいたいヤノスに、この四人の共通の名前、ファミリーネームを付けてもらいたいと言うわけ」
フィーネ、リーノも賛成しての提案に、僕が反対する理由もない。
「わかったよ。少しい考えさせてね」
僕は腕を組み、どんな前がいいかを真剣に考え始めた。
――みんなの間に紡がれる【絆】
絆、繋がり、輪、結びつき。その単語を頭の中で思い浮かべていたら、なぜか幼い僕の脳裏に、前世の地球の知識が、聞いたこともない神秘的な響きを伴ってフワリと浮かんできた。
「……【ネクサス】はどうかな」
「リコル・ネクサス……! うん、なんだかすごく素敵な響き!」
「リーノ・ネクサス。悪くない」
「フィーネ・ネクサス。ふふ、とっても格好いいわね」
それぞれが満足そうに微笑みながら、僕の方を振り返った。
「いいわね」
「いい」
「うん、いいわ」
「”絆”という単語を頭に浮かべていたら、聞いたこともない発音の言葉がフワッと浮かんできてさ。響きがいいからこれにしたんだけど……多分、前世の言葉で”絆”を意味する単語だと思うんだ」
僕が照れくさそうに頭をかきながら説明すると、隣のリーノがボソッと、慣れない声で茶化すように言った。
「たぶん?」
「……おい! そこは”多分”じゃなくて”絶対”だって信じてよ!!」
リーノの片言のツッコミに、口に出した僕も含めて、部屋にいたみんなが一斉に大爆笑した。
こうして僕たち四人は、大精霊の加護を超えた本当の家族――【ネクサス】となり、いよいよ明後日、この安全な大樹の森を飛び出して、まだ見ぬ未知の外の世界へと旅立つ準備を始めるのだった




