第7話 王太子殿下
なんだか面倒くさいことになってきた。
セドリック様の接触が増えたのだ。
毎朝、事務室に書類の確認という名目で現れる。
公爵家の嫡男とは言え、生徒が学院の事務書類を確認する理由は全くない。
昼になれば食堂で「隣いいですか」と聞いてくる。
もちろん断る。
毎回断る。
なのに毎回来る。
そしてさらに問題が発生した。
「事務員殿。」
声をかけられて顔を上げると、アルベルト殿下が側近も伴わず廊下に一人で立っていた。
「殿下、何か御用でしょうか。」
「以前、図書館でお会いしましたね。」
その言葉に心臓が跳ねた。
「司書席の下にいらっしゃった。」
「……それは、ゴミを探しておりました。」
「そうですか。ゴミを探しながら泣いていたんですね。」
何で、この学院の男たちはこう揃いも揃って聡明なのだろうか。
アルベルト殿下は勝手に私の横に並んで歩き始めた。
やはり、欲しいものを手に入れてきた人間の動きだ。
「貴方が隠れて何かをしている事には気がついています。私とローゼル嬢の間でね。」
「それは、気のせいでは。」
「気のせいにしておいてもいいですよ。でも、一つだけ聞かせてください。」
「はい。」
「ローゼル嬢は、今、幸せそうですか。」
その言葉に私が足を止めたら殿下も止まった。
その横顔は、ゲームで見た完璧な王族の顔とは少し違いどこか、不安そうに見えた。
「……笑っています。最近、よく笑っています。」
殿下はしばらく黙った後、小さく息を吐いた。
「そうですか……ありがとう、事務員殿。」
歩き去っていく背中を見ながら、私は思った。
ゲームに描かれていなかった部分に、こんなに顔があっただなんて。
そしてその夜、私はひっそりと泣いた。
この世界の人たちは、ちゃんと人間だった。
ゲームのキャラクターではなく、本物の人間だった。
だから、私もちゃんとやらなければ。




