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【完結】乙女ゲームの事務員に転生したら、麗しの公爵様に捕まりました  作者: 水瀬みずか


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6/10

第6話 モブの立場

 話を聞いてもらえないか、と言われたまま一週間が経った。


セドリック様とは、毎日どこかで顔を合わせる。

事務室の前、渡り廊下、食堂の入り口。

この人はもしかして私の行動ルートを把握しているのではないかとすら思えてくる。

それでも私は避けた。

理由は単純、私はモブだ。

この世界の物語には関係がない。

ヒロインたちのための舞台装置を整えることが私の役割で、それで十分だ。

名前を知られて、顔を覚えられて、それでこの世界の何かが変わるとしたら——それは物語の邪魔になる。

そう、思っていた。


「ヨウさん。」

今日は屋上だった。

例の雨イベント以来、私は時々ここに来る。

一人になれる場所があると知っているから。


振り返ると、セドリック様が扉のそばに立っていた。

「なぜいつもここに?」

「貴方がいつもここにいるからです。」

「それは……。」

「言っておきますが、ストーキングではありませんよ。マスターキーを持つ人間は学院に限れば私を含めて数名しかいない。屋上に来られる人間は限られる。ただの論理的帰結です。」

公爵家の嫡男が屋上に上がる理由はないでしょ、とは言えなかった。


「ヨウさん。貴方のことを聞いて回りました。」

「……何をでしょうか。」

「名前も、出身も、経歴も、誰も知らないんですね。事務員として雇われているのに、身元保証書が異常なほど曖昧な形で処理されている。まるで、最初から存在しなかったことにしようとしているみたいに。怪しいとは思っていません。ただ、気になっています。貴方のことが。」

「……私はモブです。物語には関係ない人間です。」

「モブとは?」

しまった。言いすぎた。


「目立たない、という意味で。」

「そうは思えませんが。少なくとも私には、貴方はずっと気になっています。最初から。」

屋上に風が吹き私の髪が揺れた。


「……なぜ私なんですか。貴方様は名門の公爵家の嫡男で、周りにはずっと素晴らしい女性がいるはずで——」

「そうですね。でも、誰も屋上でホースを振り回していなかった。」

「……それは。」

「誰も、廊下を封鎖していなかった。誰も、図書館で一人で泣いていなかった。誰も——誰も、私にこんなに目を逸らさなかった。」


その金色の瞳が近くて、私はしばらくの間、完全に言葉を失った。

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