第5話 誤解
近衛隊長補佐カインルートの山場が来た。
「夕暮れの中庭散歩」イベント。
カインが女性と連れ立って歩いているところを偶然、レイアちゃんが見かけて誤解をしてしまうが、実はその相手は姉だったと判明し和解する。
これが成立するには、カインの姉が学院を訪問している必要があり、カインとその姉が中庭を歩くタイミングにレイアちゃんが通りかかる必要がある。
院内の面会記録を確認すれば、カイン姉の訪問は来週に予定されているが、問題なのはタイミング。
私はレイアちゃんの週間スケジュールを手元に広げた。
彼女がいつどこを歩くか把握はしている。
そしてカインの姉だが、面会受付時刻に「少しお待ちいただく」「少し早めに通す」で、多少の訪問時刻のコントロール調整が可能だ。
「そうなると、午後4時30分がベストね。」
私は計算しレイアちゃんが寄宿舎に戻る道、カインが姉を見送る経路、二つが交差する場所を全部手帳に書き込んだ。
当日、私は受付カウンターでカインの姉
——エマ・フォン・ヴァルター様を出迎えた。
4時25分にカイン姉を通して、カインに繋ぐ。
そして、4時30分に廊下の端でレイアちゃんの足音を確認した瞬間、私は全力で中庭の方向に、わざとうっかり書類を落とした。
「あ、すみません。大切な書類を落としてしまいました。どなたかお手伝いを——」
レイアちゃんが振り返れば中庭が視界に入る。
カインと、姉のエマ様が静かに並んで歩いている光景を目にしたのかレイアちゃんが息を飲んだ。
顔色がなんだか悪い。
大丈夫か、レイアちゃんんんん。
「……あの方は。」
「ヴァルター様のお姉様です。仲がよろしいですよね、“ご姉弟”で。」
私の言葉で青褪めていたレイアちゃんの顔が、みるみる赤くなった。
よし、これで仕事完了。
私は落とした書類を一人で黙々と拾い集めた。
「……僕も手伝いましょうか。」
低い、聞き慣れた声がした。
膝をついて書類を拾っていた私の隣に、セドリック様がしゃがみ込んでいた。
書類を拾いながら、柔らかく笑っている。
「いえ、お気持ちだけで。」
「遠慮しないでください。それとも、誰かに見られると困る理由でも?」
「…………。」
「冗談ですよ。」
セドリック様は書類を揃えて私に手渡してきたその手が一瞬、私の手に触れた。
温かい。
「ヨウさん。」
「はい。」
「今度、少し話を聞いてもらえませんか。仕事の話ではないのですが。」
私は書類を受け取りながら、思わず彼の顔を見れば金色の瞳が、まっすぐこちらを見ていた。
「……私に、ですか。」
「そう、貴方にです。」
返事ができなかった。




