第4話 図書館
第3イベントは図書館だった。
アルベルト殿下が放課後の図書館でレイアちゃんと二人きりになり、完全無欠な殿下が初めて誰かに「教えてほしい」と口にするシーン。
ゲームで私が一番好きなシーンだった。
イベント発生条件は二つ。
一、他の生徒がいないこと。
二、雨が窓を叩いていること(今度は本物の雨だ。助かった)。
他の生徒がいないようにするのは、事務員の権限でどうとでもなる。
「本日の放課後、図書館は蔵書整理のため一般利用不可」という張り紙を一枚貼るだけでいい。
ただし、アルベルト殿下とレイアちゃんは例外として入れなければならない。
「……書き方が大事ね。」
張り紙の文面を工夫した。
「一般生徒の放課後利用を制限」とだけ書いて、「殿下と当該令嬢はそもそも一般生徒ではないから制限に該当しない」という強引な解釈の隙間を作った。
司書の先生には、緊急の蔵書整理が入ったと嘘をついて帰宅してもらった。
罪悪感はある。
だが、後悔はない。
そして二人は見事に図書館で出会い、雨音の中で低い声での会話が始まった。
私は司書席の下に潜り込んで、息を殺していた。
退出しそびれた。
正確には退出はしたが、廊下から様子を確認するつもりだったのにアルベルト殿下の登場が思いのほか早くて、慌てて中に戻ったら司書席しか隠れる場所がなかったのだ。
こうして私は今、歴史的な名シーンを床の上で聞いている。
「……ローゼル嬢、貴方はなぜ人に合わせることばかりするんですか。」
アルベルト殿下の声が低くて、少し戸惑っている。
「殿下には分からないことだと思います。欲しいものが全て手に入る方には。」
レイアちゃんの声がわずかに震えている。
「そうですね。私には確かに手に入らないものなど、これまでなかった。だから、貴方のことが分からない。」
この台詞はゲームをプレイしたとき、泣いた。
殿下が初めて「分からない」と言う。
望むもの全てを手に入れてきた人間が、初めて出会う手の届かないものがレイアちゃんだと気づいていく過程。
床の上で私は泣いていた。
司書席の下で、音を立てないように泣いた。
しばらくして、二人分の足音が遠ざかったタイミングで私は這い出てきて目を拭いたら、またもや図書館の扉にセドリック様が立っていた。
今度はもう驚かない。
この人はどこにでも現れるのだと学習していた。
「泣いてるんですか。」
「目にゴミが入りました。」
「そうですか。」
彼はしばらく私を見ていて何か言いたそうな目だったが、結局何も言わなかった。
ただ、扉を開けて先に出て行くとき——
「お疲れ様。ヨウさん。」
と、静かに言った。




