第3話 偶然はモブ事務員による必然の出会い
あれから3日が経った。
例の屋上での件は、どうやらセドリック様の中だけに収まっているらしく、学院内に妙な噂は広まっていないようだ。
色気だけの男かと思いきや、実は良い人なのかもしれない。
そして、今日は第2のイベント。
近衛隊長補佐カイン・フォン・ヴァルターとレイアちゃんの出会い。
ゲームのシナリオでは、レイアちゃんが書類を抱えて歩いていると、角でカインにぶつかって書類を散らばらせてしまう。
そこで、クールなカインが無言で書類を拾うのを手伝う——というぶっきらぼうな接触が、彼女の心に静かに刺さるというものだった。
問題は、今日のカインの行動ルートが変わっていること。
原因は先週の剣術訓練でのちょっとした怪我。
療養のため、いつもとは別の経路を使っているのを私は把握している。
つまり、普通に歩いていたら二人はすれ違わない。
「これは、迂回させるしかない!」
私は道具箱を持ち、いつものカインの迂回ルートの途中、西回廊の分岐点に向かった。
分岐点の片方の廊下に「清掃中・通行止め」の立て札を立ててバケツを置き、モップを立てかける。
完璧!
迂回させるためだけに廊下を封鎖した。
実際には清掃など一切しないが、雰囲気は完璧である。
時刻を確認すれば、あと5分。
私はそっと柱の影に退避した。
カインらしき足音が近づいてくる。
立て札を見て、少し眉を動かして——迂回を選んだ。
そして、その30秒後にレイアちゃん。
こちらも立て札を見て、首を傾げながら——迂回を選ぶ。
角の向こうで「あっ」という声と書類の落ちる音。
私は影の中で目を閉じ、そっと唇の端を持ち上げた。
「……随分と手が込んでますね。」
「ひっ!?」
今度は柱の反対側の影から声がした。
壁に凭れるようにして腕を組んでいるのは、またしてもセドリック様だ。
その表情はまた例の楽しそうな色で彩られている。
「なぜ、ここにいらっしゃるんですか!」
「散歩ですよ。ところでヨウさん、さっきの立て札、モップのバケツは空っぽでしたね。」
「……清掃前の確認です。」
「ほう。」
しばらく沈黙が続いた。
角の向こうでは、レイアちゃんとカインが書類を拾い合っている気配がする。
「……怪我はないか」というカインの声が聞こえた。
よしっ!!
「貴方は何をしているんですか、本当に。」
セドリック様の声には、今度は純粋な興味の色があった。
私は答えなかったが、多分この人には何となくバレている。
「事務員の、仕事です。」
「そうですか。」
彼は静かに笑った。
廊下に差し込む西日の中で、その笑顔が——どうしてか——息を呑むほど綺麗だった。




